世界は夏の夕暮れだった。
高く伸びた二つの影が並んで、時折一つに交わった。
吹く風はいつも暑い。
「ん? つかさ? どうしたの、体調悪いとか?」
「う、ううんっ! 平気だよ」
また二人の影が一つになる。
高く伸びた二つの影が並んで、時折一つに交わった。
吹く風はいつも暑い。
「ん? つかさ? どうしたの、体調悪いとか?」
「う、ううんっ! 平気だよ」
また二人の影が一つになる。
今日は朝から調子が悪かった。
何をしても、何を考えても、
浮かれてるのか落ち込んでるのか、懐かしんでるのか焦っているのか、
ふわふわして、いつだって浮いていて、凄く不安だった。
何をしても、何を考えても、
浮かれてるのか落ち込んでるのか、懐かしんでるのか焦っているのか、
ふわふわして、いつだって浮いていて、凄く不安だった。
きっと昨日見つけた思い出達の所為だ。
物置になってる部屋の押入。
そのずぅっと奥にしまい込んだ、子供らしい二つの道具箱。
箱に汚い字で書かれた私達の名前。
中身はたくさんの思い出、私達が生きてきた証達。
物置になってる部屋の押入。
そのずぅっと奥にしまい込んだ、子供らしい二つの道具箱。
箱に汚い字で書かれた私達の名前。
中身はたくさんの思い出、私達が生きてきた証達。
それは幾多の二人を写した写真であり、
誕生日に互いに交換しあった宝物であり、
初めて二人でお洒落をした時の記念だった。
誕生日に互いに交換しあった宝物であり、
初めて二人でお洒落をした時の記念だった。
きっとあれらの所為で、やっと忘れられそうになっていた私の本心が、
今頃になって目を覚ましているのかも知れない。
その証拠に、ほら。
「えへ、ちょっと熱中症なの、かな……」
お姉ちゃんに声をかけられただけで、言葉が震えて、まっすぐ前を向けない。
「あーもー、辛かったらちゃんと言うのよー?」
今頃になって目を覚ましているのかも知れない。
その証拠に、ほら。
「えへ、ちょっと熱中症なの、かな……」
お姉ちゃんに声をかけられただけで、言葉が震えて、まっすぐ前を向けない。
「あーもー、辛かったらちゃんと言うのよー?」
記憶を遡る。
思い出せる限界まで遡ってみて、それまでのどの時間にも私の隣にはお姉ちゃんがいた。
私が一人でいても、気付けばお姉ちゃんが手を握っていてくれた。
お母さんが言っていた。
私達は双子だから、仲良くしなさいと。
だからこれは家族としての仕事なんだと、思っていた。
思い出せる限界まで遡ってみて、それまでのどの時間にも私の隣にはお姉ちゃんがいた。
私が一人でいても、気付けばお姉ちゃんが手を握っていてくれた。
お母さんが言っていた。
私達は双子だから、仲良くしなさいと。
だからこれは家族としての仕事なんだと、思っていた。
私はどちらかと言うと家で遊ぶ子で。
お姉ちゃんは外で遊ぶ子だった。
小学生になってからは、私はお姉ちゃんに連れられて、
普段は行かないような色んなところに遊びに行った。
知らない公園。隠れるように開かれた駄菓子屋さん。隣町の噴水公園。
かき氷が美味しいお店。男の子達が遊んでる土手。見たことのない大きな駅。
二人で歩いて、周りの街並みを全て自分たちのものにしようと、隅々を歩いて回った。
帰り道にはいつも、二つの高く伸びた影。
お姉ちゃんは外で遊ぶ子だった。
小学生になってからは、私はお姉ちゃんに連れられて、
普段は行かないような色んなところに遊びに行った。
知らない公園。隠れるように開かれた駄菓子屋さん。隣町の噴水公園。
かき氷が美味しいお店。男の子達が遊んでる土手。見たことのない大きな駅。
二人で歩いて、周りの街並みを全て自分たちのものにしようと、隅々を歩いて回った。
帰り道にはいつも、二つの高く伸びた影。
私はちょっと走るとすぐ疲れちゃうけど、お姉ちゃんは男の子みたいに丈夫で。
どれだけ遠くに行っても、家に帰るまで笑顔でいられる強さが羨ましくて。
私が男の子だったらなと、あの頃は毎日のように考えていた。
どれだけ遠くに行っても、家に帰るまで笑顔でいられる強さが羨ましくて。
私が男の子だったらなと、あの頃は毎日のように考えていた。
二人でいる時間は言葉に出来ないくらい楽しくて、暖かくて、嬉しくて。
気付けば私達は中学生になっていた。
私達は知らないうちに少しずつ大人になっていて、
子供のように振る舞う事も少なくなった。
気付けば私達は中学生になっていた。
私達は知らないうちに少しずつ大人になっていて、
子供のように振る舞う事も少なくなった。
その頃のお姉ちゃんは、同年代で比べれば大人っぽくて、喋り方もしっかりしてて、でもたまに可愛くて。
だから人気が出るのも当たり前で、私にとっては自慢のお姉ちゃんだった。
そんなお姉ちゃんを、男の子が放っておくわけもなくて。
3年生の夏に、お姉ちゃんは隣のクラスの人に告白された。
だから人気が出るのも当たり前で、私にとっては自慢のお姉ちゃんだった。
そんなお姉ちゃんを、男の子が放っておくわけもなくて。
3年生の夏に、お姉ちゃんは隣のクラスの人に告白された。
その夜、私とお姉ちゃんは夜が更けるまで語り合った。
お姉ちゃんの相談を聞いているうちに、私はだんだんその男の子が羨ましくなって。
次の日、その人とぎこちなく向かい合うお姉ちゃんの間に割り込んで、
『あのねっ、お姉ちゃんは他に好きな人がいるの、だからその、ごめんねっ!』
と、これから始まるはずだった二人の仲を裂いてしまった。
お姉ちゃんの相談を聞いているうちに、私はだんだんその男の子が羨ましくなって。
次の日、その人とぎこちなく向かい合うお姉ちゃんの間に割り込んで、
『あのねっ、お姉ちゃんは他に好きな人がいるの、だからその、ごめんねっ!』
と、これから始まるはずだった二人の仲を裂いてしまった。
酷い事してごめんね、と泣きじゃくる私に。
お姉ちゃんは怒ることなく、呆れたような、子供をあやすような笑顔で、
そっと頭を撫でてくれた。
しょうがないわね、つかさは、って。
お姉ちゃんは怒ることなく、呆れたような、子供をあやすような笑顔で、
そっと頭を撫でてくれた。
しょうがないわね、つかさは、って。
その、お姉ちゃんの顔を見て、私は気付いた。
もう子供の頃みたいにはなれなくて、
私は負担になり始めてるんだって。
もう子供の頃みたいにはなれなくて、
私は負担になり始めてるんだって。
だから私は、その日から少しずつ、ほんの少しずつ、姉離れを始めていた。
高校生になってから、友達が出来て、お姉ちゃんといる時間が少しずつ減っていって。
たまに迷惑はかけるけど、それでも昔みたいに束縛する事はないって、
凄く順調だったのに。
もう、心配かけてないはずなのに……。
たまに迷惑はかけるけど、それでも昔みたいに束縛する事はないって、
凄く順調だったのに。
もう、心配かけてないはずなのに……。
「ほら」
私の足から伸びた影が、もう一つの影と繋がっていた
「つかさ……?」
ダメ、心配かけてる……。
私は応えるように、その手を握り返す。
「平気だよ、一緒に帰ろ」
そう言って、二人で歩き出す。
あの頃のように、長く伸びた、一つになった二つの影を従えて。
私の足から伸びた影が、もう一つの影と繋がっていた
「つかさ……?」
ダメ、心配かけてる……。
私は応えるように、その手を握り返す。
「平気だよ、一緒に帰ろ」
そう言って、二人で歩き出す。
あの頃のように、長く伸びた、一つになった二つの影を従えて。
家に帰ってからも、私は昔みたいにお姉ちゃんから離れないでいた。
離れたくなかった。
きっと昨日見つけた思い出達の所為?
違う、きっとこれが、私の本心なんだ。
離れたくなかった。
きっと昨日見つけた思い出達の所為?
違う、きっとこれが、私の本心なんだ。
ご飯を食べて、お風呂から出て、寝る時間になって。
私は結局、お姉ちゃんの部屋から出れない。
「つかさ、明日起きれなくなるわよ?」
友達と話す時と同じ声の出し方。
そんな些細な事実一つで、また胸が痛んで、涙腺が熱くなる。
「お姉ちゃん……私達、どうして双子なのかな……」
「は? つかさ何言って、ちょっ!」
言いかけたお姉ちゃんの言葉が揺れる。
私は自分の言葉を言い終わると、真っ直ぐにお姉ちゃんを抱きしめていた。
ぎゅぅっと、強く。
遠い夏、倒れた私を強く抱きしめてくれたあの時のお姉ちゃんのように。
二人の胸が押しつぶされて、鼓動が混じり合うくらい、強く。
「ちょっと……つかさ、痛い」
「私も……痛い……」
自分でも怖いくらい声が震えていた。
全身から伝わる体温が心地よかった。
酷く懐かしかった。
私は結局、お姉ちゃんの部屋から出れない。
「つかさ、明日起きれなくなるわよ?」
友達と話す時と同じ声の出し方。
そんな些細な事実一つで、また胸が痛んで、涙腺が熱くなる。
「お姉ちゃん……私達、どうして双子なのかな……」
「は? つかさ何言って、ちょっ!」
言いかけたお姉ちゃんの言葉が揺れる。
私は自分の言葉を言い終わると、真っ直ぐにお姉ちゃんを抱きしめていた。
ぎゅぅっと、強く。
遠い夏、倒れた私を強く抱きしめてくれたあの時のお姉ちゃんのように。
二人の胸が押しつぶされて、鼓動が混じり合うくらい、強く。
「ちょっと……つかさ、痛い」
「私も……痛い……」
自分でも怖いくらい声が震えていた。
全身から伝わる体温が心地よかった。
酷く懐かしかった。
「甘えんぼね」
髪を撫でられる。
私に応えるように、お姉ちゃんが抱き返して、頭を撫でてくれていた。
頬を重ねて、なんでも許された子供の頃のように。
「つかさ、どうしちゃったの?」
顔は見えないけど、耳にかかるその声は、友達に向けられるものじゃなくて。
あの頃と同じ、妹の私にだけ向けられる声だった。
「ごめんねっ……ごめ、ん……あれ、私、あれれ……」
もう限界だった。
数年ぶりに再会したあの頃のお姉ちゃんが、あまりにも懐かしくて、
私もあの頃のように、泣きじゃくっていた。
髪を撫でられる。
私に応えるように、お姉ちゃんが抱き返して、頭を撫でてくれていた。
頬を重ねて、なんでも許された子供の頃のように。
「つかさ、どうしちゃったの?」
顔は見えないけど、耳にかかるその声は、友達に向けられるものじゃなくて。
あの頃と同じ、妹の私にだけ向けられる声だった。
「ごめんねっ……ごめ、ん……あれ、私、あれれ……」
もう限界だった。
数年ぶりに再会したあの頃のお姉ちゃんが、あまりにも懐かしくて、
私もあの頃のように、泣きじゃくっていた。
お姉ちゃんの身体が傾いて、ベッドに吸い込まれた。
私もつられて倒れる。
倒れた先にはお姉ちゃんの顔。
「はは、酷い顔」
優しく笑って、私の涙を指でそっとすくう。
その仕草に、また胸が痛んで、私はお姉ちゃんに抱きついていた。
こつん、と額同士がぶつかる。
視界いっぱいにお姉ちゃんが広がる。
また胸が痛い。
「もうここで寝ましょ。今のつかさ、部屋に帰せないわよ」
目の前のお姉ちゃんが、あの頃と同じように、頭を撫でる。
どんどん、胸が痛くなる。
私もつられて倒れる。
倒れた先にはお姉ちゃんの顔。
「はは、酷い顔」
優しく笑って、私の涙を指でそっとすくう。
その仕草に、また胸が痛んで、私はお姉ちゃんに抱きついていた。
こつん、と額同士がぶつかる。
視界いっぱいにお姉ちゃんが広がる。
また胸が痛い。
「もうここで寝ましょ。今のつかさ、部屋に帰せないわよ」
目の前のお姉ちゃんが、あの頃と同じように、頭を撫でる。
どんどん、胸が痛くなる。
わかってた。
お姉ちゃんが好きだって事は。
小さい頃からずっと憧れて、憧れなのにいつも傍にいてくれて。
中学生の時、お姉ちゃんが告白されて、その時にはっきりとわかったんだ。
私は、ずっとずっと、うんと前から、お姉ちゃんが好きだった。
お姉ちゃんが好きだって事は。
小さい頃からずっと憧れて、憧れなのにいつも傍にいてくれて。
中学生の時、お姉ちゃんが告白されて、その時にはっきりとわかったんだ。
私は、ずっとずっと、うんと前から、お姉ちゃんが好きだった。
でも私とお姉ちゃんは、当たり前のように双子で、姉妹で、女同士で。
好きになったって、幸せになれないのも当たり前のように決まっていて。
でも、私が好きって伝えれば、お姉ちゃんはそれに応えてくれそうで。
だから余計に伝えられなくて。
好きになったって、幸せになれないのも当たり前のように決まっていて。
でも、私が好きって伝えれば、お姉ちゃんはそれに応えてくれそうで。
だから余計に伝えられなくて。
伝えたい、今すぐ伝えたいって、胸がキリキリ痛む。
本当は姉離れだってしたくなかった。
いつまでもずっと、お姉ちゃんの妹でいて、私のお姉ちゃんでいてほしかった。
いつかの歌も言っていた。
神様は何にも禁止なんかしてないって。
本当は姉離れだってしたくなかった。
いつまでもずっと、お姉ちゃんの妹でいて、私のお姉ちゃんでいてほしかった。
いつかの歌も言っていた。
神様は何にも禁止なんかしてないって。
きっと、私が愛していると言ってしまえば、お姉ちゃんは酷く困ってしまう。
優しくて、責任感が強くて、面倒見が良くて、
そんなお姉ちゃんだから、私の為にたくさん困ってくれる。
また、涙がこぼれた。
優しくて、責任感が強くて、面倒見が良くて、
そんなお姉ちゃんだから、私の為にたくさん困ってくれる。
また、涙がこぼれた。
「何があったか知らないけど、甘えていいんだからね」
「私、つかさのお姉ちゃんなんだから」
「私、つかさのお姉ちゃんなんだから」
ああ、そうだ。
やっと、わかった。
お姉ちゃんはあの頃から何も変わっていない。
いつでも私の傍にいて、私が困ってると手を貸してくれて、
私が甘えたい時はいつでも胸を貸してくれて。
本当は、あの頃から何も変わってないんだ。
やっと、わかった。
お姉ちゃんはあの頃から何も変わっていない。
いつでも私の傍にいて、私が困ってると手を貸してくれて、
私が甘えたい時はいつでも胸を貸してくれて。
本当は、あの頃から何も変わってないんだ。
変わってしまったのは、姉を姉として見れなくなった、私だ。
「それにしてもさ、つかさとかがみっていっつも一緒だよねー」
「いや、そんな事ないわよ。結構別々よね」
「うん、私ももうお姉ちゃんに迷惑かけちゃいけないかなって」
「そうそう、つかさもしっかりしてきたのよ。どっかのこなたとは大違いよね」
「うぐっ……今日のかがみんはツン要素が強いな」
「いや、そんな事ないわよ。結構別々よね」
「うん、私ももうお姉ちゃんに迷惑かけちゃいけないかなって」
「そうそう、つかさもしっかりしてきたのよ。どっかのこなたとは大違いよね」
「うぐっ……今日のかがみんはツン要素が強いな」
私達は、今日も双子だ。
ふたり分の影 ~ Lucky Star
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- ううーん...こんなに素晴らしい作品があったとは...GJです!! -- 名無しさん (2011-02-22 14:59:05)