犯人のアジトに突入すべく、ドアや窓の脇の壁に背をつけ、時計を睨みながらタイミングを計る刑事が、その手にいつでも銃弾を発射できる状態にした拳銃を手にしているものならば、こなたの部屋に入るかがみは、「あんた、本当に病人か?」という言葉を喉に装填し、いつでも言えるようにいしていたつもりだった。元々風邪の症状は軽いという話だったし、高良家に出発するゆたかも「もうほとんど大丈夫みたいです」と言っていたし、てっきりテレビの前に胡坐をかいてゲームでもしているものだと思っていた。
……そのはずなのに。
「やあ、かがみん……」
電波状態の悪い無線機から漏れてくるようなガラガラ声のこなたが、ベッドの上で布団に包まったまま弱弱しく手を上げてかがみを向かえた。
「おーっす……」
なんとも期待ハズレである。予想通りかそれと近似値を取る状態のこなたが、「うおっ!? かがみ?? みゆきさんだと思ってたよ」とか何とか言って狼狽するのを狙っていたのだが、どうにも弱っているようにしか見えない。横倒しのアホ毛だって、枯れかけの朝顔のようにしなびている。
「私の最期を看取りに来てくれたんだね。うれしいよ……」
「な、何バカ言ってのよ。ネタか?」
かがみは窓の外を見たが、そこには残り葉の少ない木は見当たらなかった。ネタだとしても、古典的なものではなさそうである。
「ほら」
かがみは荷物から、本と紙束を取り出す。本の方は『とある宇宙飛行士への追憶』というタイトルで、泉家を辞するまでに読み終えたいと思って持ってきたラノベ。紙束の方は、みゆきがコピーしてくれた授業のノートである。
「宿題に関する注記もしてあるから、ちゃんとやってくのよ」
こなたの表情が相変わらず冴えないので、こう付け加える。
「手伝ってあげるからさ」
だが、反応さえない。こなたは歯を食いしばって、「クックック……」と苦しげな吐息を漏らすばかりである。そんなに悪いのだろうか? ゆたかの話では、ほとんど治ったようなことを言っていたはずなのに。そもそも、苦しがり方が変ではなかろうか。半信半疑でかがみは、濡れタオルをずらしてこなたの額に触れてみる。
「!!」
すごく熱かった。
「こなた!? ちょ、何なのこの熱!」
頬や首筋にも触れてみる。やはり熱い。勝った負けたではないが、少なくともこなたを狼狽させようという当初の意図は外れ、かがみの方が大いに狼狽していた。
「ゆたかちゃんの話じゃ、もう大丈夫だって……」
「急変したみたいだねえ」
のんびりとこなたは言う。というよりは、のんびりとしか言えない状態なのだろうか。
「みたいだねえじゃないわよ。とりあえず熱を測って……」
いや、病院にいかないと。
「救急車呼ぶわ」
こなたの携帯が枕元にあったが、手っ取り早く逆探知してもらえる固定電話の方がいいだろうと部屋の外へ向かいかけたかがみを、こなたの手が捕まえた。
「……行かないで」
ほとんど液状化した目で、かがみの腰にすがり付いてた。
「最後まで一緒にいて……」
泣き顔を見られたくないとでもいうように、かがみの背に顔を埋める。ベルトのように腹の前で結ばれた手は、普段のこなたならまず間違いなくかがみのダイエット状況の確認に使われるだろう。だが、今はそれはない。ただかがみを離さないだけに使われている。これはいよいよ……?
「そんなこと言ってたら、本当に最期になっちゃうわよ。病院にも一緒に行ってあげるから……ね」
自分でも驚くほど優しい声で言って、こなたの手を離させようとする。頭はすでに、救急車を呼んだ後のことを考えていた。まずこなたを落ち着かせて、グズるようなら……抱き締めたりしてやった方がいいのかな。それから着替えの用意に、そうじろうおじさんへの連絡、ゆたかちゃんも呼び戻した方が……。
油断したと言えなくもない。とはいえ、油断したことが批判されるような状況ではない。
かがみの体を離したこなたの手は、間髪を入れず腕を捉える。
「呼んじゃ、ダメ!!」
「メ」の音節でかがみは強く引っ張られ……体が宙に浮いた。なんと投げ飛ばされたのだ。
こなたの上空を通過しながら考える。
ああ、そういえばこなたって格闘技の心得があったっけ……。投げ飛ばすのもお手のものだわ……。
ベッドが迫る。不時着……今!
……そのはずなのに。
「やあ、かがみん……」
電波状態の悪い無線機から漏れてくるようなガラガラ声のこなたが、ベッドの上で布団に包まったまま弱弱しく手を上げてかがみを向かえた。
「おーっす……」
なんとも期待ハズレである。予想通りかそれと近似値を取る状態のこなたが、「うおっ!? かがみ?? みゆきさんだと思ってたよ」とか何とか言って狼狽するのを狙っていたのだが、どうにも弱っているようにしか見えない。横倒しのアホ毛だって、枯れかけの朝顔のようにしなびている。
「私の最期を看取りに来てくれたんだね。うれしいよ……」
「な、何バカ言ってのよ。ネタか?」
かがみは窓の外を見たが、そこには残り葉の少ない木は見当たらなかった。ネタだとしても、古典的なものではなさそうである。
「ほら」
かがみは荷物から、本と紙束を取り出す。本の方は『とある宇宙飛行士への追憶』というタイトルで、泉家を辞するまでに読み終えたいと思って持ってきたラノベ。紙束の方は、みゆきがコピーしてくれた授業のノートである。
「宿題に関する注記もしてあるから、ちゃんとやってくのよ」
こなたの表情が相変わらず冴えないので、こう付け加える。
「手伝ってあげるからさ」
だが、反応さえない。こなたは歯を食いしばって、「クックック……」と苦しげな吐息を漏らすばかりである。そんなに悪いのだろうか? ゆたかの話では、ほとんど治ったようなことを言っていたはずなのに。そもそも、苦しがり方が変ではなかろうか。半信半疑でかがみは、濡れタオルをずらしてこなたの額に触れてみる。
「!!」
すごく熱かった。
「こなた!? ちょ、何なのこの熱!」
頬や首筋にも触れてみる。やはり熱い。勝った負けたではないが、少なくともこなたを狼狽させようという当初の意図は外れ、かがみの方が大いに狼狽していた。
「ゆたかちゃんの話じゃ、もう大丈夫だって……」
「急変したみたいだねえ」
のんびりとこなたは言う。というよりは、のんびりとしか言えない状態なのだろうか。
「みたいだねえじゃないわよ。とりあえず熱を測って……」
いや、病院にいかないと。
「救急車呼ぶわ」
こなたの携帯が枕元にあったが、手っ取り早く逆探知してもらえる固定電話の方がいいだろうと部屋の外へ向かいかけたかがみを、こなたの手が捕まえた。
「……行かないで」
ほとんど液状化した目で、かがみの腰にすがり付いてた。
「最後まで一緒にいて……」
泣き顔を見られたくないとでもいうように、かがみの背に顔を埋める。ベルトのように腹の前で結ばれた手は、普段のこなたならまず間違いなくかがみのダイエット状況の確認に使われるだろう。だが、今はそれはない。ただかがみを離さないだけに使われている。これはいよいよ……?
「そんなこと言ってたら、本当に最期になっちゃうわよ。病院にも一緒に行ってあげるから……ね」
自分でも驚くほど優しい声で言って、こなたの手を離させようとする。頭はすでに、救急車を呼んだ後のことを考えていた。まずこなたを落ち着かせて、グズるようなら……抱き締めたりしてやった方がいいのかな。それから着替えの用意に、そうじろうおじさんへの連絡、ゆたかちゃんも呼び戻した方が……。
油断したと言えなくもない。とはいえ、油断したことが批判されるような状況ではない。
かがみの体を離したこなたの手は、間髪を入れず腕を捉える。
「呼んじゃ、ダメ!!」
「メ」の音節でかがみは強く引っ張られ……体が宙に浮いた。なんと投げ飛ばされたのだ。
こなたの上空を通過しながら考える。
ああ、そういえばこなたって格闘技の心得があったっけ……。投げ飛ばすのもお手のものだわ……。
ベッドが迫る。不時着……今!
どすん
背中からベッドに落ちる。脚からネジが飛んで、板が垂直に落ちなかったのはダイエットの成果と思いたい。天井が良く見えた。こなたはかがみに馬乗りになった後、胸に顔を埋めた。体はやはり熱い。かがみは布団を引き、自分と自分の上にこなたに掛けた。
「かがみ」
心臓の辺りから、こなたの声が響いてくる。
「今までありがとね」
これは別れの言葉?
「色々迷惑も掛けちゃった、かな。ごめんね……」
「……謝るくらいなら生きなさい」
肺腑を膨らませて萎めるのをたっぷり5回繰り返してから答える。かがみの思考は分裂していた。つまり、
「かがみ」
心臓の辺りから、こなたの声が響いてくる。
「今までありがとね」
これは別れの言葉?
「色々迷惑も掛けちゃった、かな。ごめんね……」
「……謝るくらいなら生きなさい」
肺腑を膨らませて萎めるのをたっぷり5回繰り返してから答える。かがみの思考は分裂していた。つまり、
こなたが死んじゃう? 動けなくなって、喋れなくなって、いなくなっちゃう?
と、こなたの死を真剣に受け止めようとする方向と、
風邪ってそんなに急に悪くなるものだっけ? そもそも、こなたって簡単に死ぬようなキャラ……というか、タマ? 人間て死ぬ間際に人ひとりを投げ飛ばしたりするもの?
と、こなたの死を疑う方向。
聖徳太子であれば17方向に分裂した思考をも統合できるかもしれないが、かがみには2方向だけでも手一杯だった。あるいはそれは、投げ飛ばされて(一般的には押し倒されるものだろうが)ベッドの中(布団掛けたの自分だけど)でのしかかられている事を意識してせいかもしれない。
「みんな、あんたのこと大好きなのよ」
上の空だからこそ、滅多なことでは言えない本音。でも上の空だから、それにこなたが大いにたじろいだことにも気付かない。
「私こそごめんね。こんな時に、何もしてあげられなくて」
心臓のすぐ上のこなたの頭を、そっと撫でる。
こんなに小さかったっけ……。
こなたの小ささを実感すると、目前に迫った彼女の死が急にリアリティを増す。
……やっぱり死んじゃうのかな。
小さくて弱いものから死ぬ。往々にして動物界の真理。
今までは、小さくても弱いだなどと思った事はなかったのに。
「じゃあ、キスしていい?」
こなたが弱弱しく言った。
肺腑の膨縮5回。
「かがみ、キスさせて」
さらに2回。やっと理解。
「ええっ!?」
こなたの表情は窺い知れないが、元気な時ならニヨニヨと、薄笑いでうろたえるかがみをからかうところだろう。元気なら……。
「嫌?」
「……」
答えなど持ち合わせているはずがない。
「かがみはしたことある?」
「したこと……」
文脈的には、キスをした事があるという意味だろう。一般的・年頃的には、殿方と深い仲になったことがあるかという意味で使われる質問だろう。どちらだとしても……。
「ないわよ」
「初めての人のことは忘れないっていうよね……」
「……いうわね」
それも初めてがあってこそだ。本当のところは分からない。
……そうか。
かがみはこなたの意図を察した。こなたは、自分のことを忘れてくれるなといいたいのだ。
「いいわよ」
自分だって忘れたくないと思った。忘れるべきでもないとも思った。加えて死に行く者の最後の願いであるならば……。
「キス、してもいいよ」
「じゃあ、目を瞑って……」
かがみは言われるまま、視界を闇に閉ざす。こなたが体を上げたようだ。やがて薄い胸と細い腕に、肩を抱きしめられる。かがみは心持ち顎を上げ、唇を突き出したが、そこに柔らかな感触が降って来る事はなく、代わりに抱きしめる体の重心が右にずれる感覚が伝わってきた。そしてそのまま動かないこなた。動けなくなるかがみ……。
「こな……た?」
目を開けるのが怖かった。多分顔は目の前にはなく、自分を見てもいない。
「こなた……キスしていいよ」
答えない。
「キス、しないの?」
動かない。
「キス、しなさいよ……」
言葉とともに細い筋が目から伝わり、こめかみの方へ流れた。
「……」
無言のまま体を起こし、そっとこなたをベッドに横たえる。
インドア派にしては色黒な肌にはまだ生気があり、体はまだ十分に温かかった。でも瞼は力なく閉じられ、口は半開き。
「ねえ……」
持ち上げて揺すってみる。両腕だらり、頭はガクガク、髪は空しく揺れるだけ。
「ねえってば……」
なおも揺する。なおも答えず、動かず、だらり、ガクガク、揺れるだけ……。
「……っ」
かがみは小さく嗚咽してこなたの体を離し、両手で顔を覆った。こなたの体は微妙に低くない位置からベッドに落ちた。生きていれば微妙に痛くなくないだろう。生きていれば……。
「こなた……こなた……こなたぁ~~」
嗚咽はやがて咆哮へ。慟哭へ。
涙は滝となり、手の平の滝つぼへ。
どれくらい名を呼んだことか。
どれくらい叫んだことか。
どれくらい時間が経ったことか……。
やがて悲しみの第一波が過ぎ去ると、かがみは涙に濡れた手でこなたを抱き上げて膝に乗せた。こなたの姿勢が微妙に変わっているような気もするが、きっと気のせいだろう。
こなたの体は、まだ温かった。
温かいうちに、こなたの最後の願いを叶えよう。
忘れないため、覚えているため、私の初めてをあげよう……。
こなたにそうされたように肩を抱きしめ、顔を近づける。二度としゃらくさい言葉を吐かなくなった唇に段々近付け、目を段々と閉じ……重ねた。
「……??」
あれ? 唇ってこんなに硬かったっけ? ていうかこなたの唇、骨がある??
先ほどとは別の意味で恐る恐る、かがみは瞼を開いた。
こなたの顔は、想定より微妙に離れた位置にあった。力なく閉じていた目は、今は力いっぱい笑っている。二人の唇の間にはこなたの右手があり、かがみはその手の甲に口付けていた。まるで騎士が、お姫様にでもするみたいに。
「え~と、よきに計らえ?」
猫口が不敵に笑った。
聖徳太子であれば17方向に分裂した思考をも統合できるかもしれないが、かがみには2方向だけでも手一杯だった。あるいはそれは、投げ飛ばされて(一般的には押し倒されるものだろうが)ベッドの中(布団掛けたの自分だけど)でのしかかられている事を意識してせいかもしれない。
「みんな、あんたのこと大好きなのよ」
上の空だからこそ、滅多なことでは言えない本音。でも上の空だから、それにこなたが大いにたじろいだことにも気付かない。
「私こそごめんね。こんな時に、何もしてあげられなくて」
心臓のすぐ上のこなたの頭を、そっと撫でる。
こんなに小さかったっけ……。
こなたの小ささを実感すると、目前に迫った彼女の死が急にリアリティを増す。
……やっぱり死んじゃうのかな。
小さくて弱いものから死ぬ。往々にして動物界の真理。
今までは、小さくても弱いだなどと思った事はなかったのに。
「じゃあ、キスしていい?」
こなたが弱弱しく言った。
肺腑の膨縮5回。
「かがみ、キスさせて」
さらに2回。やっと理解。
「ええっ!?」
こなたの表情は窺い知れないが、元気な時ならニヨニヨと、薄笑いでうろたえるかがみをからかうところだろう。元気なら……。
「嫌?」
「……」
答えなど持ち合わせているはずがない。
「かがみはしたことある?」
「したこと……」
文脈的には、キスをした事があるという意味だろう。一般的・年頃的には、殿方と深い仲になったことがあるかという意味で使われる質問だろう。どちらだとしても……。
「ないわよ」
「初めての人のことは忘れないっていうよね……」
「……いうわね」
それも初めてがあってこそだ。本当のところは分からない。
……そうか。
かがみはこなたの意図を察した。こなたは、自分のことを忘れてくれるなといいたいのだ。
「いいわよ」
自分だって忘れたくないと思った。忘れるべきでもないとも思った。加えて死に行く者の最後の願いであるならば……。
「キス、してもいいよ」
「じゃあ、目を瞑って……」
かがみは言われるまま、視界を闇に閉ざす。こなたが体を上げたようだ。やがて薄い胸と細い腕に、肩を抱きしめられる。かがみは心持ち顎を上げ、唇を突き出したが、そこに柔らかな感触が降って来る事はなく、代わりに抱きしめる体の重心が右にずれる感覚が伝わってきた。そしてそのまま動かないこなた。動けなくなるかがみ……。
「こな……た?」
目を開けるのが怖かった。多分顔は目の前にはなく、自分を見てもいない。
「こなた……キスしていいよ」
答えない。
「キス、しないの?」
動かない。
「キス、しなさいよ……」
言葉とともに細い筋が目から伝わり、こめかみの方へ流れた。
「……」
無言のまま体を起こし、そっとこなたをベッドに横たえる。
インドア派にしては色黒な肌にはまだ生気があり、体はまだ十分に温かかった。でも瞼は力なく閉じられ、口は半開き。
「ねえ……」
持ち上げて揺すってみる。両腕だらり、頭はガクガク、髪は空しく揺れるだけ。
「ねえってば……」
なおも揺する。なおも答えず、動かず、だらり、ガクガク、揺れるだけ……。
「……っ」
かがみは小さく嗚咽してこなたの体を離し、両手で顔を覆った。こなたの体は微妙に低くない位置からベッドに落ちた。生きていれば微妙に痛くなくないだろう。生きていれば……。
「こなた……こなた……こなたぁ~~」
嗚咽はやがて咆哮へ。慟哭へ。
涙は滝となり、手の平の滝つぼへ。
どれくらい名を呼んだことか。
どれくらい叫んだことか。
どれくらい時間が経ったことか……。
やがて悲しみの第一波が過ぎ去ると、かがみは涙に濡れた手でこなたを抱き上げて膝に乗せた。こなたの姿勢が微妙に変わっているような気もするが、きっと気のせいだろう。
こなたの体は、まだ温かった。
温かいうちに、こなたの最後の願いを叶えよう。
忘れないため、覚えているため、私の初めてをあげよう……。
こなたにそうされたように肩を抱きしめ、顔を近づける。二度としゃらくさい言葉を吐かなくなった唇に段々近付け、目を段々と閉じ……重ねた。
「……??」
あれ? 唇ってこんなに硬かったっけ? ていうかこなたの唇、骨がある??
先ほどとは別の意味で恐る恐る、かがみは瞼を開いた。
こなたの顔は、想定より微妙に離れた位置にあった。力なく閉じていた目は、今は力いっぱい笑っている。二人の唇の間にはこなたの右手があり、かがみはその手の甲に口付けていた。まるで騎士が、お姫様にでもするみたいに。
「え~と、よきに計らえ?」
猫口が不敵に笑った。
ベッドの上でへこたれたまま、戦火に焼け出された難民のような顔のかがみが尋ねる。
「つまり……?」
つまり、かがみの最初の想定が正しかったのである。
「お昼ごろまでに、すっかり熱も下がっちゃってね~」
こなたはベッドを降り、伸びをしながら言う。
「さあて、何して遊ぼっかな~って思ってたところにゆーちゃんから連絡があって、みゆきさんが来てくれるっていうじゃん」
「だからって、死ぬふりと死んだふりをして遊ぼうって思うか、普通?」
「ク●ヨンし●ちゃんに『死体ごっこ』ってのが出てきて」
「五歳児と同レベルか!?」
「頭のいいみゆきさんになら、すぐに見破られると思っててねー」
「……私が大バカだって言いたいのね。まあ……今だけは認めるけど……」
まるで熱でもあるみたいに赤面して、かがみは縮こまる。
「いやいやいや、愛だよ、愛。かがみに愛があったからこそ、引っ込みがつかなくなるほど真に受けたんだって。しょげないしょげない」
そう言いながら、こなたは頭をさする。かがみに微妙に高い場所から落とされて、微妙に痛くなくなかったため、かがみが顔を覆って嗚咽し咆哮し慟哭している間、痛みに耐えかねて悶えていたのである。姿勢が変わったように感じたのはそのためだ。
「今さらどうでもいいけど、熱はどういうトリック?」
「ああ、あれはね、布団の中でブリッヂしてた」
歯を食いしばって「クックック」の真相は、布団の中でブリッヂだったというわけで、そうやってエネルギーを燃焼させて高熱を装ったのである。
「いやー、かがみの愛を一身に受けて、我が人生に悔いなしって感じだよ」
「ほぉ、じゃあ今ここで私に殺されても悔いなしなんだ」
鬼か悪魔か邪神が憑依したかのような顔で、かがみは指をボキボキ鳴らしながら立ち上がりかけるが、立ちくらみのようにふらっとなり、結局ベッドに倒れて力なく布団に包まった。
「だ、大丈夫?」
こなたが恐る恐る近付いて聞く。
「疲れた。寝る」
こなたが近付くのを見ると背を向け、拗ねたように答える。危険はないと悟ったこなたは、後ろからそっと額に手を触れた。
「熱、あるみたいだね……」
さすがに罪悪感を感じるが、自分が看病する側になった事に気付くと、俄然やる気が出てきた。
「とりあえず濡れタオルかな」
「いい。喉渇いた」
「じゃあ何か持ってくるよ」
答えたこなたは、持ってきた飲み物を置くことになるであろう座卓に、かがみが持ってきた本を認めて言う。
「『とある宇宙飛行士への追憶』か……。朗読してあげよっか?」
「いい。それより宿題やっちゃいなさい。自力で」
「う……」
こなたがうろたえたように唸ると、後姿のかがみは肩を揺らした。
こなたが思ったよりは、ずっと元気なようだ。
「つまり……?」
つまり、かがみの最初の想定が正しかったのである。
「お昼ごろまでに、すっかり熱も下がっちゃってね~」
こなたはベッドを降り、伸びをしながら言う。
「さあて、何して遊ぼっかな~って思ってたところにゆーちゃんから連絡があって、みゆきさんが来てくれるっていうじゃん」
「だからって、死ぬふりと死んだふりをして遊ぼうって思うか、普通?」
「ク●ヨンし●ちゃんに『死体ごっこ』ってのが出てきて」
「五歳児と同レベルか!?」
「頭のいいみゆきさんになら、すぐに見破られると思っててねー」
「……私が大バカだって言いたいのね。まあ……今だけは認めるけど……」
まるで熱でもあるみたいに赤面して、かがみは縮こまる。
「いやいやいや、愛だよ、愛。かがみに愛があったからこそ、引っ込みがつかなくなるほど真に受けたんだって。しょげないしょげない」
そう言いながら、こなたは頭をさする。かがみに微妙に高い場所から落とされて、微妙に痛くなくなかったため、かがみが顔を覆って嗚咽し咆哮し慟哭している間、痛みに耐えかねて悶えていたのである。姿勢が変わったように感じたのはそのためだ。
「今さらどうでもいいけど、熱はどういうトリック?」
「ああ、あれはね、布団の中でブリッヂしてた」
歯を食いしばって「クックック」の真相は、布団の中でブリッヂだったというわけで、そうやってエネルギーを燃焼させて高熱を装ったのである。
「いやー、かがみの愛を一身に受けて、我が人生に悔いなしって感じだよ」
「ほぉ、じゃあ今ここで私に殺されても悔いなしなんだ」
鬼か悪魔か邪神が憑依したかのような顔で、かがみは指をボキボキ鳴らしながら立ち上がりかけるが、立ちくらみのようにふらっとなり、結局ベッドに倒れて力なく布団に包まった。
「だ、大丈夫?」
こなたが恐る恐る近付いて聞く。
「疲れた。寝る」
こなたが近付くのを見ると背を向け、拗ねたように答える。危険はないと悟ったこなたは、後ろからそっと額に手を触れた。
「熱、あるみたいだね……」
さすがに罪悪感を感じるが、自分が看病する側になった事に気付くと、俄然やる気が出てきた。
「とりあえず濡れタオルかな」
「いい。喉渇いた」
「じゃあ何か持ってくるよ」
答えたこなたは、持ってきた飲み物を置くことになるであろう座卓に、かがみが持ってきた本を認めて言う。
「『とある宇宙飛行士への追憶』か……。朗読してあげよっか?」
「いい。それより宿題やっちゃいなさい。自力で」
「う……」
こなたがうろたえたように唸ると、後姿のかがみは肩を揺らした。
こなたが思ったよりは、ずっと元気なようだ。
やれやれと肩をすくめ、廊下に出て、ドアを閉めるとこなたは壁に背をつけ、苦しい胸を押さえながらへたりこんだ。
「やばかったなあ……」
キスをするつもりはなく、されるつもりもなかった。そういう意味ではNGを出すことなく、一応シナリオ通りに進んだのである。
何が想定外といえば、みゆきに見破られることを前提としたシナリオを対かがみで強行し、自分の心性をシナリオに織り込み損ねたことであろうか。
つまり、こなたの「死ぬふり」を真に受けたり、「死んだふり」でマジ泣きするだけで可愛すぎだというのに、ベッドの上、布団の中で、他の人間(この場合自分だが)に抱かれてキスを許したかがみときたら……やば過ぎたのである。
美しかったかといえばイエスだし、きれいだったかといえばもちろんイエスだし、そういう言葉も概念も萌えツボも全部爆砕してたどり着いた先に圧倒的な存在感を意識した時、悪魔が、いや多分自分の中の「オトコ」が囁いた。囁き続けた。
キス、しちゃってもいいじゃないか? キス、されてもいいんじゃないか?
……結局その誘惑に抗し切ったということは、それだけ天使だったか「オンナ」だったか、シナリオに忠実な役者だったということにでもなるのだろう。
でも今にして思うと、もっと良いオチのつけ方があったように思う。
「あの顔をカメラでパチリ……でさっさとネタばらししちゃえば良かったんだ」
あれほどのレアはそうそうないだろう。実に惜しいことをした。
どちらにしても、後悔ばかりしている場合でもない。
「かくなる上は、看病シチュを満喫するとしますか」
バイト先からナースのコスを借りてこられればもっと盛り上がるのに……。
そんなことを考えながら、キッチンのある二階へと上がって行った。
「やばかったなあ……」
キスをするつもりはなく、されるつもりもなかった。そういう意味ではNGを出すことなく、一応シナリオ通りに進んだのである。
何が想定外といえば、みゆきに見破られることを前提としたシナリオを対かがみで強行し、自分の心性をシナリオに織り込み損ねたことであろうか。
つまり、こなたの「死ぬふり」を真に受けたり、「死んだふり」でマジ泣きするだけで可愛すぎだというのに、ベッドの上、布団の中で、他の人間(この場合自分だが)に抱かれてキスを許したかがみときたら……やば過ぎたのである。
美しかったかといえばイエスだし、きれいだったかといえばもちろんイエスだし、そういう言葉も概念も萌えツボも全部爆砕してたどり着いた先に圧倒的な存在感を意識した時、悪魔が、いや多分自分の中の「オトコ」が囁いた。囁き続けた。
キス、しちゃってもいいじゃないか? キス、されてもいいんじゃないか?
……結局その誘惑に抗し切ったということは、それだけ天使だったか「オンナ」だったか、シナリオに忠実な役者だったということにでもなるのだろう。
でも今にして思うと、もっと良いオチのつけ方があったように思う。
「あの顔をカメラでパチリ……でさっさとネタばらししちゃえば良かったんだ」
あれほどのレアはそうそうないだろう。実に惜しいことをした。
どちらにしても、後悔ばかりしている場合でもない。
「かくなる上は、看病シチュを満喫するとしますか」
バイト先からナースのコスを借りてこられればもっと盛り上がるのに……。
そんなことを考えながら、キッチンのある二階へと上がって行った。
おわり