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玄関で寝ちゃった2 親子どんぶり 姉妹どんぶり

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 「ギネス」と聞いてアイルランドの黒ビールを思い浮かべる人は、おそらくひねくれ者だろう。ひねくれ者検定の準3級くらいを自分で認定するといい。ひねくれ者でなければ、世界記録的な本を連想するはずなのだから。……もっとも、その本を出しているのはビールの関連会社なのだからいいではないか、と抗弁すればおめでとう。晴れて3級合格である。
 さて、では、その世界記録的な本にも載っているであろう「1088人」。
 これが何の人数かというと、一機の航空機に搭乗した人間の最多記録である。紛争地からの脱出機だったため、定員やら何やらを色々無視し、1086人を無理矢理詰め込んで離陸。それだけでもたいしたものなのだが、乗り合わせた妊婦が飛行中に双子を出産したため、着陸時には1088人になっていたのだという。……なお、その妊婦の名が「柊みき」だったかどうかは定かではない。
 さて、では、「4人」。
 世界記録的な本には載っていないこれが何の数字かというと、泉家の玄関で寝てしまった人の数である。
 そうじろう、こなた、ゆたか、そしてゆいは、玄関で寝ちゃったのである。




 えーと……。
 玄関に敷かれた布団を見下ろしつつ、ゆたかは思案に暮れ、途方にも暮れる。
 そこでは向かって左からそうじろう、こなた、ゆいの三人が寝ていた。こなたとゆいの間が若干大きめに空いているのは、つい先ほどまでそこにゆたかがいたためである。親子と姉妹で横並び。四連装の魚雷発射管のようになって寝ていたのだ。
 それにしてもおかしい。
 玄関で朝を迎えている時点でだいぶ日常から逸脱しているはずだが、今日に関してはいつもにも増して違和感がある。
 ゆたかは眠くてフラフラする頭を、翻訳機の調子が悪いかのようにコツコツと叩き、昨晩の出来事を思い出してみることにした。




 昨晩、そうじろうは泉家に不在だった。
 とある文学賞の選考委員になったとかで、その授賞式に出席するためである。
 「俺も選ぶ側に回っちゃったよ」
 なんて照れ笑いをしながら出かけていった。
 9時ごろになってそうじろうから電話が入った。曰く、久しぶりに会った作家や編集者と飲んで帰るから、先に寝てていいとのこと。
 電話を終えたこなたは、笑いながら言ったものである。
 「ゆーちゃんは先に寝てていいってさ。実の娘には一言もないなんて、冷たい父親だよ」
 「お姉ちゃんは? ……あ、そっか」
 こなたは受験生であるという事実が、ゆたかをして全てを納得させた。
 「私のもう一つに一日は、深夜から始まるのだよ」
 と言って、ことさらニヨニヨするこなた。……ひょっとすると、ゆたかは何か勘違いしているかもしれない。
 先に入浴し、そのまま床に就いたゆたかが目を覚ましたのは、こなたの「もう一つの一日」の最中だった。玄関の方がなにやら騒がしい……。
 「お姉ちゃん……?」
 目を擦りながら玄関まで行くと、そこでは、ドジな考古学者かビッ●バイパーが、うっかりモアイ像に潰されたらおよそこんな感じだろうという状態で、こなたがそうじろうの下敷きになっていた。
 「おぉ、ゆーちゃん……」
 こなたが助けを求めて手を伸ばす。
 「大変……。今助けるから」
 ゆたかはこなたの手を掴み、地引網の要領でこなたを引っ張り出した。内陸の埼玉ではめったに見られない光景である。
 「ふう……。ありがと、ゆーちゃん」
 こなたは壁に背をついて一息つく。
 「伯父さん、酔っ払っちゃったの?」
 「うん……。この具合だと朝まで目を覚まさないね」
 それに答えるかのように、そうじろうは「んごー」という鼾を吐いた。鼾ではなくイオンリングだったら、外に放り出したところである。
 「あー、ゆーちゃん。手伝ってもらえる? 起こしちゃった上悪いけど」
 「いいよ」
 二人がかりなら何とかなるかもしれない。
 「じゃあ脚の方を持って……せーの」
 二人はそうじろうの体を持ち上げたが、いくらも行かないうちに力尽きた。181cmのヨッパライは、二人には文字通り荷が重すぎた。
 「やっぱダメか」
 再び床にそうじろうを安置(!?)し、今度は二人で息をつく。
 「投げ飛ばすなら出来るけど、運ぶのがこんなに大変とはねー」
 格闘経験がこなたをそうぼやかせる。
 「そうだ! 投げ飛ばすのを繰り返して運ぼう」
 「ええっ。二階まで運べる?」
 こなたとゆたかは一階に自室があるが、そうじろうのは二階である。
 「この際、生死は問わない」
 「と、問おうよ!」
 「ゆーちゃんがそこまで言うなら仕方ないなあ……」
 ゆたかがそこまで言わなかったら、本気で実行するつもりだったようである。
 「じゃあしょうがない。おとーさんにはここで寝てもらう」
 「うん……」
 ゆたかは肩を落とす。彼女にとって、この敗北感はまだ記憶に新しい。肩と一緒に、瞼も落ちそうになる。この睡魔と脱力感も、また新しく手強い。
 「ならゆーちゃん、布団を持ってきてくれるかな。私はその間に、ポケットの中身とか抜いとくから」
 「うん……」
 ここでゆたかはミスを犯した。思考の停止しかけた眠い頭である種の条件反射に従い、自分のベッドから布団を持ってきてしまったのである。
 「ゆーちゃん……」
 ボールペンやら櫛やら、寝ているうちに刺さったら困るものを抜き取っていたこなたが、やけに愉快そうな顔でゆたかを見る。
 「それを持ってきちゃったら、ゆーちゃんはどこで寝るの?」
 「はう……」
 ゆたかは自分のベッドの布団をその場に置き、二階にそうじろうのお布団を取りに行く。みゆきさんと組んだらすごいことにって思ったけど、ドジッ娘属性が具わってきたかあ……なんて言葉が追い討ちをかけて、はずかしいったら仕方ない。うぅ、そんなんじゃないもん。
 そうじろうの布団を持ってくると、ゆたかはそれを投げ出すように広げてそうじろうの上にかけた。そして、自分の体もその上に投げ出す。
 「え?」
 「ごめんね、お姉ちゃん。私……もう……ダメみたい」
 びっくりするこなたの目の前でゆたかはイモムシのように体を蠢かせ、布団の中にもぐりこんだ。もはや自分の布団と一緒に自室に戻る気力は、残っていなかったのである。
 「ちょ、ゆーちゃん!?」
 うろたえる様なこなたの声を最後に、ゆたかの記憶はここで途絶えていた。
 ゆたかも、玄関で寝ちゃったのである。




 状況からして、こなたも玄関で一緒に寝てくれたようだ。持つべきものは、玄関で寝る従姉である。……こなたはそう思ってないかもしれないが。
 「……!」
 そこでゆたかはある決定的な異変に気付いた。
 「お姉ちゃん、どうしているの……?」
 ゆたかがお姉ちゃんと呼ぶ人物は二人で、その二人とも目の前にいたのだが、ゆたかの視線は血の繋がった姉に向けられていた。
 ゆいは何故玄関で寝ているのか?




 玄関に四連装寝床。その内一人は部外者とは言い切れないが、その家には暮らしていない上、いつやってきたか分からない。この非常識を「常識的に」解釈すれば、ゆたかが眠りに落ちた後にやって来たゆいをこなたが招き入れて、面白がって二人とも玄関で寝ちゃったということにでもなるはずである。……常識的なら。
 しかしこの世に生を享けてもうすぐ16年。ゆいの傍若無人さを身を以って知っているゆたかは、別の可能性も考慮した。お姉ちゃんは勝手に入り込んだのかも知れない。
 そこでゆたかは、一番手近な出入り口……玄関を調べた。サンダルをつっかけ、ドアノブをそのまま回してみる。
 「やっぱり……」
 玄関ドアは、解錠せずとも開いてしまった。寝ぼけ眼にはまぶしすぎる光が網膜に突き刺さり、光学的な目薬となって目に染みる。つまり、施錠自体されてなかったということである。酔って帰ったそうじろうに気を取られて、こなたが鍵をかけ忘れたようだ。招き入れたのであれば、こなたかゆいのどちらかが閉めるだろう。こなたは玄関の鍵を閉めることなく、ゆたかと同様すぐに玄関で寝てしまったようだ。そこへ「酔った」ゆいがやって来て、一緒に玄関で寝てしまったのであろう。鍵を閉めなかったのも、玄関で妹と従妹と伯父と一緒に寝てしまうという奇行もそれで説明がつく。いや、それでなければ説明がつかない。そして酔った事それ自体と、泉家へやって来た理由はきよたかが単身赴任で不在で寂しかったからということで説明がつく。
 でも……。
 と、ゆたかは思う。だからといって、何もゆいは玄関から入ったとは限らないではないか。指紋を採取できるとかならともかく、今は確かめようはない。
 「確かめなきゃ……」
 一階の、事によると二階かもしれない。さすがに壁に穴を開けるということはないだろうが、窓ガラスが割られていたりしたらみんなが起きる前に破片を片付け、一緒に謝ろう。
 とりあえず一階からだ。ゆたかはまず自室を調べる事にした。
 ドアを開けて中を見る。窓に異常はないようだった。施錠されたまま閉まっている。しかし、部屋の真ん中には見覚えのない紐が天井から垂れていた。
 ……なんだろう?
 天井を見上げながら中に入って行く。
 ―と、その時。
 歴史は動かなかったが、ゆたかの脚が何かに囚われた。
 「きゃあ!」
 前のめりに転倒しそうになり、その手は反射的に謎の紐を掴んでしまった。
 何か微妙に重量がある物を引っ張る感覚。
 何か落ちてくる!
 やはり反射的に上を見たゆたかの目に飛び込んできたのは、銅製のたらいの底だった……。

 ガン

 小気味の良い音と共にゆたかの視界が暗転し、瞼の中で星が舞った。
 「うぅ……」
 呻きながら半身を起こす。布団の様に体の上に乗ったいたのは、しかしやっぱり銅製のたらいだった。ドアのすぐ近くの足元には、天井から垂れていたのと同じ紐が張られていた。これに脚をとられたようである。たらいの方は、照明をぶら下げるフックを利用して仕掛けられていたようだ。
 「お姉ちゃん……なんでこんな事を?」
 酔っ払うという行為にもはや神秘性さえ覚えながら、ゆたかは当初の目的である自室の窓が侵入路に使われてないかを確かめた。
 窓には異常はなかった。
 泉家の庭が異常だった。
 「!?」
 そこにはあちこちに、小枝が散乱していた。まるで嵐の後である。目が覚めたら嵐のような姉と同床ではあったが、さすがに暴風を巻き起こすような人ではない。庭木を見上げると、冬枯れでは片付けられないほど寂しい枝付きになっていた。つまり、小枝の出所は庭木である。のこぎりか高枝切りバサミで切ったのだろう。でも、なぜ?
 ベッドにぺたんと座り込み、ゆたかはこれまでに分かった事を整理する。
 まず昨晩の深夜、ゆたかもこなたも寝静まった後、酔っ払ったゆいがやってきた。そして家に色々な仕掛けを施した。おそらく最初に庭の枝を切ったのだろう。のこぎりか高枝切りバサミを物置で見つけ、使った。そして底でたらいや紐なども見つけ、ゆたかの部屋の仕掛けに使ったのである。動機は不明。
 でも……。
 と、ゆたかは思う。
 現時点で調べたのは自室だけであり、従って仕掛けが他の部屋にもないとは限らない。侵入路に使われた可能性だってまだある。
 「確かめないと……」
 ゆたかはまだフラフラする頭で、隣のこなたの部屋へ赴くことにした。
 「お姉ちゃん、入るよ」
 まだ玄関で寝ている従姉に一応断ってからドアを開ける。
 そこにもやはり天井から紐が垂れていた。でもそれ以上に、目を引くものがあった。
 「お姉ちゃんのお人形が……」
 こなたのコレクションのフィギュアが、紐によってカーテンレールから窓辺にぶら下がっていたのである。さながら干し柿か、吸血鬼避けのにんにくのように。
 壊さないようにして外さなきゃ。でも、勝手に触る方が嫌がるかな……。
 そんなことを考えながら窓に近付こうとしたゆたかは、明らかに油断していた。窓辺の紐と、天井の紐。これらに気を取られ、自室にもあった足元の紐まで頭が回らなかったのである。
 「きゃあ」
 例によって足をとられ、例によって前のめりに転倒しそうになり、例によって天井の紐を掴んでしまう。例によらなかったのはゆたかが防御姿勢をとり、顔をガードした事である。そのせいで、ゆたかは見事に罠にかかってしまった。

 ガシャン

 金属的な音が、床に倒れたゆたかの全周で鳴った。顔を庇った手には、何やらざらざらしたものの感触がある。恐る恐る目を開けると、自分が囚われの身になっているのを発見した。
 「網??」
 詮索は後回しにして、障害物競走の走者のように床を這い、金属的な音の正体となった重しを上げて網から抜け出す。体の凹凸がほとんどないため、難なく抜け出せた。
 「網……」
 何度見ても、それはナイロン製の糸で編まれた漁獲器具であるところの網に相違なかった。紐を引くと広がった状態の網が天井から落ちて来る仕掛けだったようだ。のこぎりか高枝切りバサミと一緒に、物置で見つけたといったところだろうか。
 「……」
 こなたのフィギュアたちをカーテンレール吊りの刑から解放しながら、ゆたかは考える。ゆいがこのようなことをした動機が、おぼろげながら見えてきたのだ。
 「!」
 そこでゆたかは、大変な事に気付いた。ゆたかの部屋、こなたの部屋と罠が仕掛けられたのなら、泉家のもう一人の構成員にして当主であるそうじろうの部屋にも何か仕掛けられたと考える方が自然である。もしそうじろうの逆鱗に触れるような事があれば、下宿先としての泉家を追い出されてしまうかもしれない。
 「確かめなきゃ……」
 ゆたかは震える足で階段を上り、そうじろうの部屋の前まで来た。鬼が出るか蛇が出るか。金だらい、投網ときて、次に待ち受けるは……。
 「伯父さん、入りますよ……」
 玄関で寝ているそうじろうに一応断ってから、ドアを開ける。
 ゆたかは闇に迎えられた。カーテンは元より、雨戸まで締め切っていて真っ暗である。原稿に集中する際、雑音をシャットアウトする為の措置である。
 「灯り……」
 呟きながら壁際のスイッチを押してみる。が、点灯しない。そして罠も発動しない。この部屋に何か仕掛けがあるとして、それはスイッチに連動したものではなかったようだ。まだ闇に慣れぬ目で辺りを探り、やがて一本の紐を見つけた。これを引けば電気がつくはずである。そこでゆたかは、その紐を引っ張った。
 「きゃあああああああああああ」
 ゆたかの体が足を上にして浮き上がる。
 それはスネア。
 太鼓の一種ではなく、小動物を捕らえるためのリング状にしたロープの罠である。それが小動物的なゆたかの細い足首を捕らえ、彼女を吊るし上げたのである。
 「お姉ちゃ~ん、伯父さ~ん! 助けて~!」
 禍なるかな。この家にいる者は、ゆたか以外皆玄関で寝ていた。やがてその声が届き、こなたに救出されるまで20分。
 発見された時のゆたかは、頭に血が上った恍惚状態にも似た虚ろな表情と、逆さ吊りによって肌蹴たパジャマの上衣のせいで「無性にそそった」そうである。
 「ゆーちゃん、一人SM?」




 こなたの腕の中で、ゆたかは息も絶え絶えである。非性的な意味で。……別に息絶えようとしているわけではない。
 「お姉ちゃん、私もう疲れたよ……」
 救出されたゆたかが発した言葉は某有名アニメの最終回を髣髴とさせたため、こなたは思わず出鱈目な犬語で答えそうになってしまった。
 「ゆーちゃん、一体何が……」
 こなたとしても驚きを隠せない。何せ助けを呼ぶ声に目を覚ましたら、布団の中にはゆたかの代わりにゆいがいて、そうじろうの部屋でゆたかが逆さづりになっていたのだから。
 ゆたかはまず罠を除去していったくだりを簡単に話し、まだ他にも罠があるかもしれないからと注意を促した。まさに機雷原を啓開した掃海艇の働きである。
 「ゆーちゃん……。頑張った、感動した!」
 ということは、ゆたかを抱き締めるこなたの胸に沸き起こる母性は、掃海「母」艦のそれに相違ない。こなたは思わず敬礼しそうになった。
 「ゆい姉さんは何でこんな事を……」
 ゆたかは最後の体力を振り絞り、こなたに真相を託す事にした。
 「お姉ちゃんは……寂しかったんだと思う。それでこの家に来てみたら……玄関に鍵がかかってなくて……」
 不用心だなと思った事はこなたの想像にも難くない。そして事実、そう思ったのだろう。だから罠を仕掛けた。
 「酔っ払ったゆい姉さんとしては、外敵用の罠のつもりだったってわけだ」
 「うん……たぶん」
 ゆいがどうやって罠の作り方を知ったかについては、ゆたかは吊り上げる為の重しとして、そうじろうの書棚にあった百科事典が紐にいわかれているのを見てなんとなく想像はついた。
 「それじゃあね、お姉ちゃん……」
 「ゆーちゃん!?」
 「ちょっと早いけどおやすみなさい……」
 「ああ……うん……」
 疲れ果てて力尽きたゆたかを自分のベッドの布団を持ってきて包んでやり、こなたは玄関へと向かった。
 ゆたかをこのような目に遭わせた大人たちは、報いを受けなければならない。そこでこなたは、何もしなかった。目が覚めれば、自動的に報いを受けるようになっていたためだ。
 「う……ん……」
 やがてゆいが目を覚ました。眼鏡をかけるまでもなく周囲の状況がおかしいのに気付く。やがて、すぐ隣で寝ている男性がそうじろうである事に気付いた。
 「い、いやああああああああああああああああ!!」
 エドヴァルド・ムンクが見たら「叫び」というタイトルで絵筆を振るいそうな顔で、ゆいは悲鳴を上げた。

 酔って泉家に来たのは覚えている
 ↓
 よく分からないけど伯父と一緒に寝ていたらしい
 ↓
 きよたかがいない寂しさに負けて、伯父といけない仲になってしまった!?
 ↓
 がーん

と考えたためである。
 「んん……」
 あまりにやかましい悲鳴だったため、そうじろうも目を覚ますが、すぐに白目をむいて別の眠りの旅立ってしまった。彼を遠ざけようとしたゆいの足が顎に入ったためである。
 なおも悲鳴を上げ続けるゆい。お寝坊さんなそうじろう。
 こなたは少し離れたところで、その様子を冷ややかに見ていた。




 「ゆい姉さんを説教する役は、ゆーちゃんに譲るよ」
 我に帰って落ち着きを取り戻したゆいに、こなたはそう言っただけだった。実のところそれが痛いところを突く最良の方法だったため、ゆいは、
 「面目ない……」
と縮こまった。効果覿面である。それでもゆいはこう言い返した。
 「でも、鍵をかけてないのはどうかと思うよ」
 「それは……大丈夫!」
 こなたはない胸張って強気に言う。
 「玄関で三人も寝てれば、侵入者は恐れを為して退散しちゃうよ」
 「私は却って心配になったけどねえ」
 「それよりさ、姉さん……」
 より気がかりな事がこなたにはあった。
 「ゆーちゃんは他にも何か仕掛けがあるかもって言ってたけど、どうなの?」
 「えーと……クローゼットの中は見た?」
 「服に何かしたの?」
 「こなたたちの学校、セーラー服だよね」
 「制服に何かしたの!?」
 「いやー、フグの置物を添えてみた」
 「?」
 「セーラー服……セーラーフグ、って」
 「とりあえず、置物の出所は聞かないでおくよ」
 居酒屋あたりから被害届が出たら、懲戒免職を覚悟しなければならない。
 「ああいうのって高く売れるんでしょ」
 「確かにフグの置物があったら、盗むのを躊躇っちゃうよね!」
 「うん!」
 「いや、姉さん……。笑いながら肯くところじゃないから」
 「それとテレビ……」
 「テレビにも何かしたの!?」
 「ううん、アンテナの方……。鉤付きのロープでよじ登ったりするといけないから……」
 「はわわわ……」
 こなたの顔がずずーんと青ざめる。アニメの放送時間までに復旧できなければ見逃すことになってしまうからだ。
 「こうしちゃおられん!」
 こなたは復旧にかかるべく、玄関から飛び出して行った。
 さて、どうしたものか……。
 気絶したそうじろうと共に取り残された玄関で頭を掻いていると、ゆいの携帯電話が鳴り、掛けてきた人の名前が一瞬で時空をバラ色に変えた。
 「きよたかさ~ん♪」
 電話に出る。
 「ボンジュール♪ マイダーリン♪ マイスウィート♪ マイハニー♪ 愛してるわ、CHU♪ん? 今? こなたのとこ。してないしてない。してないよ~、絡み酒なんて。きよたかさんがいないのが寂しくて、一人で飲んだだけ♪ 迷惑なんてかけてないから。へーきへーき。ただちょっと、そうじろう伯父さんと一緒に」
 黙ってればいいものを……。
 「玄関で寝ちゃったわ~」


 おわり



























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  • さすがゆい姉さんwww -- 名無しさん (2010-04-12 19:08:33)
  • ゆい姉さん言っちゃダメじゃん!!何考えてんの!? -- 名無しさん (2009-01-13 22:52:02)
  • 名探偵ゆたかだ!
    それにしてもゆい姉さん酔っ払ってよくあれだけのトラップを・・・ -- 名有り (2009-01-12 23:02:31)
  • ドジッ子属性が具わってきたかあ
    誤字ありましたよ。 -- 名無しさん (2008-12-07 20:16:15)
  • いつも思うのだが作者氏のSSは書き出しが上手い。
    冒頭で悩む俺にはうらやましいです。 -- 名無しさん (2008-12-06 23:37:41)
  • 何このホームアローンw

    ていうか何故か海軍ネタに萌えている俺がいる。 -- 名無しさん (2008-12-06 23:25:27)

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