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Last Summer   ~かがみの場合~

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だれでも歓迎! 編集

 初夏。私は鳴き始めたセミの声を聴きながら、市の運動場に向かって歩いている。
 なぜ私がそこに向かっているのかと言うと・・・


「ひ~らぎ~。 今度の日曜ヒマか?」
「え?んーと・・・。 あ、空いてるわよ・・・」
「じゃあさ、その日陸上の大会があるんだけど来てくれないか?」
「は?何で?」
「いやー、最後の大会だしさ、応援してもらいてーんだ」
「峰岸は?」
「あやのはその日、ちょーっと用事があるみたいでさ。なっ?あやの?」
「もう、みさちゃんたら」
「ははーん。幸せそうで良いですなぁ」
「柊ちゃんまで」
「ま、そういうわけなんだ。だから来てくれよ」
「どういうわけだ!」
「ダメなのか?」
「え?あ、いや・・・。  ったく、しょうがないわねぇ」
「お?来てくれるのか?」
「わかったわよ。で、何時に何処に行けばいいのよ?」
「やったー!!これで優勝だー!!」
「って話を聞け!!」
「弁当はミートボールな」
「作るか!!」


 ・・・と言いつつも、結局早起きして作った弁当を持って、私は会場に向かっている。

 日下部とは、中学からクラスがずっと一緒だった。その頃から、誰に対しても同じテンションで接し、自由で楽しそうにしていた日下部が私は気になっていた。
 日下部ともっと仲良くなりたかったし、日下部もたまに話しかけてくれたけれど、どうしても私は近づくことが出来なかった。
 それは、日下部の周りには、いつも同じ陸上部の友達がいたし、放課後はすぐに部活だったから、というのもあるのだけれど、それよりも日下部の横にいつも峰岸がいたことが大きかった。

 峰岸は日下部の保護者みたいな感じで何かと面倒をみていたし、たまに、休みの日に遊びに行った話をしていることもあった。
 楽しそうに二人で話している所を見ると、もしかしたら日下部は峰岸と付き合っているんじゃないかって考えて、一人で落ち込んだこともあった。   それは私の勘違いだったみたいだけれど・・・
 でも、そんな風にいつも日下部といられる峰岸が羨ましかったし、いつかは峰岸の場所に私が立っていたいとも思っていた。

 高校に入ってからも相変わらず峰岸とくっついていたけれど、それでも何かと話すことも多くなってきて、今までわからなかったバカっぽくて、ガキっぽい日下部も見えてすごく嬉しかった。
 ま、呆れることの方が多いけどね・・・。

 日下部に「中学からずっと同じクラスだな」って言われたときは、本当は嬉しかったんだけど、それを認めちゃうことが何か照れくさくて、わざと気がつかないフリをして誤魔化した。
 はぁ、私って何で素直になれないのかな・・・。

 仲良くなってきたことで、日下部も私にじゃれてくることが増えてきたけれど、私はそんな日下部とどう接していいのかわからなくて、冷たくし過ぎたり、からかい過ぎちゃったりして日下部を泣かすこともあった。
 そんな時、決まって目を潤ませながら峰岸に助けを求める日下部を見ると、胸の奥を締めつけられるような苦しさを感じた。

 こんなことしていたら、いつか日下部が離れて行っちゃうんじゃないかって・・・。
 それに、やっぱり峰岸の場所には立てないんじゃないかって・・・。

 私がこなたたちとお昼を食べるようになったのは、その苦しさを感じたくなかったのもある。こなたと一緒にいると、腹立つことも多いけれど、その時間は苦しさを感じなくてすんだ。
 それに・・・ちょっとだけ・・・。本当にちょっとだけだけど、こなたと一緒にいると、どこか安心するところもあった。

 でも、教室に戻って、峰岸と日下部が仲良くしているのを見ると、何ともいえない焦燥感を感じて、やっぱり私は日下部と一緒にいたいって思った。でも、一緒にいると苦しくて・・・。
 そんなどっちつかずな気持ちのまま、毎日を過ごしていた。

 だから、日下部に大会を見に来て欲しいと言われた時はすごく驚いた。
 ホントはその日が日下部の最後の大会だっていうのは知っていたけれど、そういう時はいつも峰岸が一緒に行っていたし、私は日下部に冷たくすることが多かったから、正直声をかけてくれるとは思っていなかった。
 それに、自分でもちょっと嫌になるけど、峰岸が来ないことが・・・少しだけ嬉しかった。

 運動場に着くと、応援席には他校の生徒らしき団体が様々な色の応援旗を掲げていた。陵桜の生徒も何人かいて、その辺りを見ていると、少し離れたところでアップをしている日下部を見つけた。
 日下部はいつも教室で見せるにやけた表情じゃなくて、とても真剣な顔で集中しているみたいだった。普段は見慣れない顔だったからか、ドキドキしながら日下部を眺めていると、日下部が途中で私に気がついたみたいで、大きく手を振りながらいつもの笑顔でこっちにきた。

「おーい!ひーらぎー!  来てくれたんだな」
「ま、まあね。約束したし」
「ありがと。あれ?それなんだ?」
「え?あ、その、べ、弁当よ。お昼食べるにも、近くにお店ないじゃない。
 そ、それに・・・、最後の大会なんだし、せっかくだから・・・」

 あー!!やっぱり恥ずかしいっ!!
 って、あれ?日下部?何かポワーっとしてない?

「く、日下部? どうしたの?」
「へ? あ、いやいやいや!! ありがと! これで負けねぇぞー!!」
「か、勘違いしないでよ! わ、私の分のついでにあんたのも作っただけなんだからね!」
「ん? いいっていいって。作ってきてくれたことが嬉しいんだぜ」
「う・・・。そ、そう?」

 なーんか調子くるうのよね・・・。
 その時、出場選手を呼ぶアナウンスが流れた。

「おっ?予選が始まるみたいだな。んじゃ、ちょっと行ってくるよ」
「あ、うん。 がんばってきなさいよ」
「おう!まかせとけ!」

 私から離れ、監督らしき人の所に向かった日下部は、何か指示を受けているみたいで、真剣な顔でそれにうなずいて、他の選手が並んでいるスタート位置に向かっていった。
 全員がポジションに着き、しばしの沈黙の後、電子音が聞こえ、日下部たちは一斉に走り出した。

 日下部の走る姿を見るのはこの日が初めてだった。日下部は背筋を伸ばして正面を見据えたまま、前を行く選手を次々に追い抜いていった。その姿がとてもかっこよくて、私はさっきと同じように胸がドキドキしていた。

 結果日下部は1位でゴールをした。
 私は相変わらずドキドキしていたけれど、できるだけそれを悟られないように平静を装いながら、陸上部の仲間と話している日下部のところへ向かった。

「おつかれ。あんた結構やるのねー」
「そりゃあ、ずっと部活やってたんだぜ。簡単には負けないよ」
「その代わり勉強は全然だけどね」
「うっ・・・。それを言うなって」
「ふふふ。冗談よ。 でも、その、日下部のこと・・・ちょっと見直したわ」
「にゃはは。まぁな。    それに柊が見に来て・・・」
「え?な、何て言ったの?」
「な、なんでもねぇよ。 っと、次の予選か」
「へ?まだ走るの?」
「んー。そうだよ。あと2回走って、残ってたら決勝だ」
「ふーん。すぐに決まるわけじゃないんだ?」
「まあな。そいじゃあ、行ってくるよ」
「うん。がんばってね」

 その後も日下部は順調に勝ちあがり、決勝までくることができた。
 さすがに緊張したような顔はしていたけれど、スタート前の様子は落ち着いていて、どこか頼もしく見えた。

 スタートの音と同時に選手達は走り出した。 少し出遅れた日下部は、始め4番手辺りを走っていたけれど、最初の時と同じように前の選手を抜かしていき、そのまま1番前を走っていた選手との差を、徐々に詰めていった。
 ゴールまであと僅かという距離で日下部がその選手と並びそうになった時、思わず私は大声で叫んでいた。

「もう少し・・・。   がんばれー!!日下部ー!!」

 ゴールの瞬間、本当に僅差だったけれど、日下部の身体はわずかに届かなかった。
 走り終えた日下部は、中腰の姿勢で膝に手を置いたまま動こうとせず、そんな日下部のところにすぐにでも行きたかったけれど、私よりも先に陸上部のメンバーが近づいて行くのが見えたから、私はその様子をただ見ていることしかできなかった。

 首にタオルをかけられ、言葉を交わしている日下部の顔には、いつもの笑顔があったけれど、どこか寂しそうにも見えた。
 話を終えた日下部は、そんな寂しそうな笑顔のまま、ゆっくりと私の方へ歩いてきた。

「あーあ。負けちまった・・・」

 私はそんな日下部になんて声をかけたらいいのか、すぐには言葉が見つからず、結局、ありきたりな言葉しかかけられなかった。

「残念・・・だったわね・・・」
「ああ・・・。   ま、しゃーないよ。
 今までは表彰台に上がれなかったんだから、これだけでも充分だよ」
「日下部・・・」
「そんな顔すんなって。柊が応援してくれたからがんばれたんだ」
「う、うん・・・」
「・・・。 試合終わったらなんかトイレ行きたくなっちゃった」
「おまっ、この場面でそんなこと言うか普通?」
「しゃーねーじゃん。ずっと緊張しっぱなしだったんだぜ?ま、ちょっと行ってくるよ」
「ったく・・・」

 日下部はいつもと同じようにバカみたいな話をしていたけれど、でも、どこか無理をしているようにも感じた。
 それにトイレに向かっていく日下部の後姿が妙に寂しげで、私はそっと後をつけた。

「日下部は・・・。あっ、いた」

 しばらく探すと、トイレの前の水道で顔を洗っている日下部を見つけた。
 私は声をかけようとして近づいていったけれど、水道の縁に手をかけてうつむいたままの日下部を見て、すぐには声がでなかった。

「うう・・・ひっ・・な・・何でだよ・・・あと少しだったのに・・・・・。
 あやのにまでお願いして・・やっと柊のこと誘えたのに・・・。
 こんなときくらい・・・うぅぅ・・勝たせてくれよ・・・」

 うつむいたままの日下部の目から、大きな涙の粒が次々と落ちていた。
 それを見たら、胸の奥を締めつけられる苦しさを感じて、気がついたら声をかけていた。

「日下部・・・・」
「ん?   あっ!柊? わわわ! あ、あの、ちょ、ちょーっと顔洗ってたんだ。さっきの試合で汗かいちゃったからさー」

「日下部・・・」
    ―なんでごまかすの?

「いやー、やっぱ優勝すんのは厳しいな。上には上がいるもんだ」

「日下部・・」
    ―なんで正直に話してくれないの?

「ま、これで、あとは受験だけ―」

「日下部」
    ―なんで峰岸にするみたく私には泣きついてくれないの?

 色々言いたいことが胸の奥から飛び出しそうになっていたけれど、私はどうしても言葉にすることはできなかった。
 それがどうしようもないくらいもどかしくて、でも日下部には伝えたくて・・・。

「日下部!!」

 私は、ただ一方的に話すだけの日下部にも、そして気持ちを言えない自分にも段々腹が立ってきて、思わず大声で叫んだ。

「な、なんだよ・・・」

 驚いた日下部は不安げな表情を見せるとそのままうつむいてしまい、私も頭が真っ白になって何も言えなかった。

 重苦しい沈黙の後、なぜかはわからないけれど、自分でも驚くくらい自然に日下部を抱き寄せた。

「ひ、柊?」

 日下部は戸惑ったみたいで、少しだけ身体を強張らせたけれど、別に抵抗はしなかった。
 そのまま自分の胸に日下部の頭を持ってきて抱きしめると、さっきまで怒っていた気持ちがゆっくりと消えていった。

「日下部・・・・。あんた、すごくがんばったんだよね・・・。かっこよかったよ」

 色々不満とかむかつくことはあったけれど、日下部の頭を撫でているとそんな気持ちはなくなって、自然と優しい言葉が口からでてきた。

「・・・う、うん・・。わ・・たし・・が・・がんばったんだ・・・。
    柊・・・の・・ために・・・すご・・く・・が・・がんば・・・った・・。
    ・・・・う・・うわああああああああああ!!ひーらぎぃー!!!」

 日下部は私の胸の中で、まるで子どもみたいに大きな声を出して泣いた。
 私はそんな日下部がたまらなく愛おしかった。今までがんばって部活に打ち込んできた日下部が・・・。

 ―そして、私のためにがんばってくれた日下部が。

 そっと口の中でつぶやいた。

「ありがとう・・・。日下部・・・」

 泣いている日下部からは、汗と制汗スプレーの香りがした。
 その香りを嗅ぎながら日下部の頭を撫でているとすごく幸せな気持ちになって、その時、私は自分がずっと日下部にしたかったことを今しているんだってことに気がついた。


 しばらくして落ち着いた日下部を連れて、木陰のベンチに向かった。
 調度お昼時だったからか周りには誰もいなくて、セミの鳴き声がうるさいくらいに感じた。

「少し落ち着いた?」
「あ、う、うん。   ・・・泣いたりして悪かったな」
「いいのよ。中学校から陸上一本で来たんだもんね」
「それもあるけどな・・・」

 日下部は何かを含んだまま黙ってしまい、気まずい沈黙が流れたけど、私の中では心臓が大きな音で脈打っていた。
 さっき日下部が言っていたことの理由が聞きたくて・・・。

「ね、ねえ・・・。どうして・・・私のために・・がんばってくれたの?」

 思い切って聞いてみると、日下部は驚いた顔で私の方を向いて、みるみるうちに赤くなっていった。
 なんかその顔を見たら、どうにも恥ずかしくなっちゃって、わざと視線を逸らしてうつむいた。

 しばらくすると、横から日下部の真剣な声が聞こえてきた。

「あ、あのな、柊・・・。じ、実は、前から」

 え?え? く、日下部?ちょっ、ちょっと!待ー

「柊のことが・・・す」

 ぐ~~~~~~~~~~~~~~~

「き・・・。 へ?」

 は?お腹の音?だ、だれ? って私?!

「う、うわああああぁぁぁぁっ!!!!!! い、今のなしっ!!なしだから!!」
「は?腹、減ったの?」
「ちょっ!!そそそ、そんなことないって!!何でもないんだったら!!」
「い、いや、今のは腹の音だろ?」
「も、もー!!何でこんな時に鳴るのよー!!!」

 確かに日下部の弁当作ってて時間なくなっちゃったから朝ごはん食べてないけどさー!!
 何でこのタイミングなのよ!!!!思いっきりフラグへし折ってんじゃん!!

「あははははははは」
「ちょっと!! わ、笑うな! ね、ねぇ?さっきの続きは?」

 日下部は大笑いしてるし、私はなんとかさっきの雰囲気に戻したくてしどろもどろだし。
 もー!!!バカバカバカ!!!私のKY!!何でいざって時にこんなんなのよ!!!!!

「もう良いじゃんよ~。いい加減、腹減ったよ~」
「さっきまでのシリアスな雰囲気はどこ行ったのよ!!」
「え~?そうだっけ~?」
「あんたねー、久しぶりに真面目になったと思ったのにもうこれか・・・」
「まぁまぁ。それも柊の腹の音で終止符が打たれたと」
「くっ・・。ホントのことだから何も言えない・・・」
「なぁ、話は終わりにして一緒にご飯食べようぜ」
「うぅぅ・・・。わ、わかったわよ! でも、後でちゃんと続き聞かせなさいよ!」
「よーし!じゃあ、早速弁当食べようぜ。楽しみだな~。柊の弁当~」
「って、人の話を聞けー!!!!!」

 はぁ・・・。自分のせいだけど、なんだか日下部のペースにもろはまっちゃった。
 日下部はいつものにやけ顔に戻っちゃったからたぶんこれ以上言ってもダメだろうし、私もお腹が空いていてこれ以上無駄なエネルギーは使いたくなかった。

 でも・・・、はっきりとは言われなかったけど・・・日下部も私と同じ気持ちなのかな?でもこれって自惚れ?
 うーん・・・。でも日下部も部活は終わるし、これからもっと一緒にいられる時間は増えるよね?今度はちゃんと聞きたいな・・・。


 その後は、一旦弁当を取りに行ってから、さっきのベンチに戻ってお昼にした。

「おー!! ミートボールだー!!」
「あ、あんたがミートボール食べたいって言ってたから私も食べたくなっただけよ」
「へへー。うれしいなー。ひーらぎはやっぱり優しいよなー」
「そ、そんなに喜ぶとは思わなかったわ」
「ありがとな。ひーらぎ」
「う・・・。べ、べつにあんたのために作ったわけじゃないけどさ・・・」

 そうは言っても、まるでお母さんが作ったお弁当を見る幼稚園児みたいに満面の笑みを浮かべている日下部を見ると、がんばって作ってきて良かったなって思ったし、それに、
 私の作った弁当をご機嫌に食べている日下部を見ていると、なんだかとっても幸せな気分になった。

「あーん・・・もぐもぐ・・・ごっくん・・・。
 うん、うめぇなー。ひーらぎって料理苦手って言ってたけど
 なかなかやるじゃ―  あっ!!」

 日下部はいつもよりも話に熱中しすぎたのか、ふとしたはずみに箸からミートボールが落ちてしまった。

「あちゃー、落っこっちゃったわね。   ねぇ、3秒ルールは?」ニヤニヤ
「みゅぅ・・・。さすがに外は勘弁してくれよ。・・・ごめん」
「まぁ、仕方ないじゃない」
「・・・これさ、ひーらぎが作ってくれたんだよな・・・」
「ち、違うわよ!ミートボールはつかさが―」
「形がいびつだぞ」
「いっ!? いびつで悪かったわね!!!」
「・・・な?」
「うっ・・・」
「だからさ・・・。ホントは全部食べたかったんだ。・・・ごめん、柊・・・」

 日下部は目を潤ませて私を見上げながらそう言った。
 本当にすまなそうな、そして心細そうな、普段だったら絶対に見せない顔をしている日下部があまりに可愛くて、
 不覚にも私は思わず見惚れていた。

(ぐはっ!か、かわいい・・・。くそー!峰岸はいつもこんな顔見てたのか!!羨ましい・・・。)

「ひ、ひーらぎ?どうした?」
「は?え?い、いや。そ、そんなに気にしなくていいわよ!どうせまた作ればいいんだし」
「ホントか?また作ってくれるのか?」
「え、あ、まぁ、気が向いたらね」
「よかったー。もう食べられねぇなら、拾って食べちゃおうかと思ってたんだ」
「ちょっ!それはやめとけ。腹壊すから」
「だよなー」
「当たり前だろ」
「で、いつ作ってくれるんだ?明日?」
「調子に乗るな!!」

 機嫌の直った日下部は、その後は妙に慎重にミートボールをつまんで口に運んでいた。
 ちょっと極端だけど、そこまで大切に食べてくれるんだったら悪い気はしないわね。近いうちにまた作ろうかな・・・。

「ごちそうさまー。  はー。食ったら眠くなってきたな。・・・ちょっと膝貸して?」
「え?おいおい、ちょっと待―」

 弁当を食べ終わると日下部は大きく伸びをして、私が止めるのも聞かず太ももの上に頭を乗せた。
 いきなりだったからちょっとびっくりしたけど、でも、日下部が自然な感じで甘えてきてくれたのがすごく嬉しかった。

「うーん。ひーらぎの膝って気持ちいいなー」
「ったく。今日だけだからね」
「んー。 嫌だよ。またしてくれよ」
「峰岸にしてもらえばいいじゃない?」
「あやのはしてくれないよ。それにあたしはひーらぎにしてもらいたいんだ」

 日下部?何か今、結構重要なこと言ってなかった?

「へ?ちょ、そ、それってどういう意味なの?」
「ふふ。ひ・み・つ。 それに学校じゃこんなことしてくんねぇじゃん?」
「あ、当たり前じゃない!」
「そうだよなー。ちびっ子もいるもんなー」
「え?こ、こなたは関係ないでしょ。人前でそんなことできないってことよ」
「そう言って、ちびっ子にはしてるんじゃないのか?」
「そ、そんなことしたことないわよ!!」
「ふーん・・・。じゃあ、何で今してくれるんだ?」
「え?  そ、それは・・・」

 正直言葉に詰まった。まさか、『日下部が好きだからするのよ』なんてことは言えないし。
 あー、でも言っちゃった方がすっきりするのよね・・・。それだったら何も気にしなくていいし。
 それにこの距離ならいきなり日下部にチューしちゃうってのもアリよね・・・。  
 って何を考えてるんだ私は!!まだ明るいのに・・じゃなくて!それはいきなりすぎるだろ!!
 常識的に考えて!!

「そ、その・・ご・ご・・ご褒美よ!ご褒美!!  日下部ががんばったご褒美!」

 「ご褒美」という言葉が日下部には効果覿面だったらしい。思わず膝から頭をあげて、目をキラキラさせながら私の顔を覗き込んできた。  ったくガキなんだから・・・。

「じゃあ、また何かでがんばったらしてくれるのか?」
「そ、そうねぇ・・・。考えてみてもいいわよ・・」
「よし!!じゃあ、今度は勉強でがんばる!!」
「受験生なんだから勉強がんばるのは当たり前だろ!!」
「えー。いいじゃんいいじゃん。そういうこというなよー」
「はぁー。 ったく。なんであんたはいっつもそうなのかねぇ」
「じゃあさ、今度あやのも誘って3人で勉強しようぜ。
 ひーらぎとあやのに教えてもらえれば勉強もはかどるし、がんばれそうじゃん?」
「ま、まぁ、そうよね。わ、私は、べ、別にいいけど・・・」

 なんでここで峰岸もってくるかなー。ったくこっちの気持ち考えろって!!
 あ、でも自分ではぐらかしちゃったんだっけ。・・・はぁ・・・。

「ようし、決まりだな。じゃあ、そんときがんばったらまた膝枕してくれよな」
「バ、バカ言ってんじゃないわよ! 峰岸がいたらできるわけないでしょ!!」
「んー?  じゃあ、あやのがいなかったらいいのか?」
「そ、そういう意味じゃ・・・・」

 鋭いつっこみに思わず言葉が出ない私を見て、日下部は勝ち誇ったような顔をしていた。
 く~!!あっそう! それなら膝枕よりすごいご褒美あげようじゃないの!!日下部が泣いて叫ぶくらいのさ!!
 ・・・・って自重しろ、私・・・。

「ふふふ。ま、いっか。勉強がんばればご褒美くれるってことで」
「だから、一人で納得するな!!」
「いいじゃんかよー。だってひーらぎにご褒美もらいたいもんなー」
「ま、待ちなさいよ。誰も絶対あげるって言ってないじゃない」
「へへー。そうはいかないぜ。約束したからよー。ひーらぎは約束したら守ってくれるもんなー。優しいもんなー」

 そういって日下部は口元に八重歯をのぞかせ、いたずらっぽい笑顔で空の弁当箱を指でつまみ、目の前でブラブラさせていた。

「くっ・・・!」

 はぁ・・・、何でこんなの好きになっちゃったんだろ・・・。
 でも、こんな日下部が私は好きなんだよなぁー・・・。バカでガキっぽくて、それでいて気持ちに真っ直ぐで。笑ったときの八重歯がかわいくて・・・。
 こんなことになるんだったら、さっさと言っちゃえば良かったのかな・・・。なんか、色々自分の中で理由をつけてたけど、 結局は日下部のことを好きだっていうことが怖かったのかもしれないな。
 でも、日下部が勇気を出して今日の大会に私を誘ってくれたことはよくわかったし、私のためにがんばってくれたのもわかった。
 だから、次は私がそれをする番なのよね・・・。
 いつまでも気持ちは誤魔化していられないもんね・・・。

 そんなことをボーっと考えていると、日下部がなぜかモジモジして私の方を見ていた。
 さっき丸め込まれてむかついていたところもあったから、ちょっと意地悪をするつもりで、わざと不機嫌そうな声で返してやった。

「何よ?」
「えっと、その、怒った?」
「え?   ・・・べ、別に怒ってないわよ」
「そっか・・・」
「な、何よ。何か言いたいことでもあるわけ?」
「う、うーんと・・・。   もう少しだけ、膝枕してくれねぇ?」
「え?」
「いや、頭上げちゃったからさ・・・」

 日下部はそう言うと、照れくさそうに顔を真っ赤にして視線をそらした。
 そのしぐさがなんだか微笑ましくて、それでいてなんだかとっても嬉しくて・・・。

「ぷっ・・・あはははははは!!」
「なっ?なんで笑うんだよ!」
「あはははは・・・いやー、なんというか、日下部っぽいというかね」
「なんだよそれ! むー・・・」

 そう言うと、日下部は口をあひるみたいにしてむくれた。
 ふふ、照れたりむくれたり忙しいやつね。ま、レアな顔も見れたし、今日は許してあげようかな、
 なんて思いつつも、そんな顔見なくたって私もしてあげたいんだけどね。

「もう。今日は特別だからね」
「え?い、いいのか?」
「いいわよ」
「ほんとに?」
「しつこいなぁ。いいって言ってんでしょ!」

 私は向き合っていた日下部の頭を掴むと、そのまま自分の太ももに押し付けた。
 日下部はしばらくそのまま動かなかったけれど、照れたように少しずつ向きを変えて、私の方に顔を向けた。
 下から見上げる日下部の顔はさっきよりもずっと赤くなっていて、さっきまでの不安そうな顔が嘘みたいな、とびきり嬉しそうな笑顔を私にくれた。
 その満点の笑顔がすごく可愛くて、やっぱり私は日下部が大好きなんだなって思った。

 ・・・勉強会か・・・。途中で2人っきりになれればチャンスはあるかな・・・。
 でも、今の気持ちのまま日下部に告白したら、なんか歯止め利かなくなりそうなのよねぇ・・・。
 自重・・・できるかな・・私・・・。

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  • 欲しい コレの本が欲しい いいなこの二人 -- 名無しさん (2009-05-08 03:27:38)
  • 販売しないの?
    -- mkl (2009-04-25 07:23:35)
  • うん、いいよ!この作品 -- 15 (2009-01-26 22:45:33)

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