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至福の音 Extra1:オーディエンス

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最近、ゆたかの様子が変だ。

「……じゃあこの問題を……小早川……あれっ、小早川ー!?」
「…………えっ? あ、は、はい!」
「ここ、何が入るかわかるか?」
「あ、え、えーっと……すいません、ボーっとしていました……」
「そうか、授業中はちゃんと先生の話を聞くように。わかったな」
「はい……」

2学期になって、ゆたかは授業中にボーっとしていることが多くなった。

「じゃあ他の人に……岩崎」
「……はい」
「ここには何が入る?」
「……犬養毅、です」
「よし、正解っ。この事件によって犬養毅は――」

代わりに当てられた私は、答えを言った後、すぐにゆたかのほうに顔を向けた。
ゆたかは溜息をついているように見えた。
ゆたか自身も異変には気づいてるみたいだけど……


キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴って、昼放課の時間になった。
私はいつものようにゆたかの近くの席に移動して、
田村さんと一緒に机を動かして、3人で向かい合えるようにした。

「ねぇねぇ、岩崎さん」
昼ご飯を食べ始めてからしばらくして、田村さんが私の名前を呼んだ。
「今度の土曜日、岩崎さん家って空いてる?」
「……多分。どうして?」
「ほら、今週って結構宿題の数が多かったッスよね?
ですからみんなで集まったほうが、宿題がはかどるかと思って。
時間が余ったら、みんなで遊べばいいですし。小早川さんも、そう思いますよね?」
そう言って、田村さんはゆたかのほうに視線を向けた。
「…………」
「……小早川さん?」
ところがゆたかは田村さんの振りにまったく反応せず、
それどころか左手に持った箸もまったく動かさず、
ただ焦点のあってない目を、虚空に向けているだけだった。

「おーい、小早川さーん?」
田村さんは、ゆたかの目の前で手を上下に振りながらもう一度名前を呼んでみた。
それでも、ゆたかはボーっとしていて気づいている様子はない。
田村さんの行動を無視して、ゆたかは溜息をついた。

ゆたか……本当に、どうしたんだろう……

ゆたかのその異常な状態に私が心配していると、
「……小早川さん!」
「ひゃうっ!?」
業を煮やしたのか、田村さんがゆたかの耳元で、大きな声を出して名前を呼んだ。
そこでようやく、ゆたかはハッとして、ずっと呼ばれていたことに気づいたようだった。

「な、なに? 田村さん」
「……明日、岩崎さんの家に勉強がてら遊びに行こうって話なんだけど、小早川さんも来る?」
「あ、うん、いいよ」
ゆたかは本当に私と田村さんの会話が耳に入っていなかったらしく、
目をぱちくりさせて田村さんの説明を聞いていた。

……絶対、何か変だ。
私はそう思い、ゆたかに話を切り出してみることにした。



「……ゆたか、どうしたの?」
「えっ……?」
私が話を聞いてなかった小早川さんに説明をして、その返答を聞いた後、
岩崎さんが突然小早川さんに話を振りました。
「……2学期になってから、少し変。授業中でも、ボーっとしてることが多くなった」
岩崎さんは心配そうに小早川さんに尋ねます。

やっぱり、岩崎さんも小早川さんの異変に気づいてたみたいッスね。
私も、2学期からの小早川さんの様子は変だったと思っていました。
初めは夏休みの気分が抜けてないのかな、と思っていたんですが、
たまに私や岩崎さんと話しをしてるときにも上の空になったりして。
ただ、露骨に「どうしたの?」と聞くのはちょっと……と思って、
しばらくは気づいてないフリをしていたんですが……

「私もそう思うッス。おまけに私達と会話してるときでも、
たまに心ここにあらず、って状態になってることもありますよ。どうしたんスか?」
岩崎さんの問い掛けに便乗して、私も小早川さんに疑問をぶつけてみます。

小早川さんは岩崎さんからの問い掛けに目を見開いて、
私からの疑問を聞いて、さらに驚いた様子になりました。

「具合が悪いってわけじゃなさそうだし……」
何があったのか。
小早川さんの今までの様子や今日の反応と、私の今までの経験とを当てはめてみると、
すでに一つの仮説が浮かび上がっていました。
でも、私の経験っていっても、同人誌や、そういうのでしかないんですけど……
でも、今聞くチャンスを逃したら、今度はいつその話ができるかわからない。

「そう、まるで、誰かを思って、恋をしてるような……」
私は思い切って、その仮説を小早川さんにぶつけてみました。半分冗談のつもりで。
これが間違いでも、小早川さんはキョトンとするか、
「違うよー」と言って笑い話にしてくれる……と思う。

「え、ええっ!?」
「……なんていうのは冗談ですけど……って、小早川さん!?」
だから私は、小早川さんの反応にかかわらずジョーク気味にかわそうとしたんですけど、
大いに驚くという小早川さんの反応と、
「顔、真っ赤ッスよ! 大丈夫ッスか?」
突然ボッと燃えるような赤面顔になった小早川さんを見て、
思わず慌てふためいてしまったッス。

「ふえっ!? な、何でもないよ! あ、は、早くご飯食べないと、時間なくなっちゃうよ!」
私の指摘に、小早川さんも慌てながら何とか誤魔化そうと、
手につけてなかったお弁当を食べ始めました。
でも小早川さん、動揺してるのバレバレですよ?
本当は詳しい話を聞きたかったんですけど、
小早川さんは明らかに話したくないって感じだし、岩崎さんと顔をあわせたら、
聞いちゃいけない、という風に首を少し横に振ったので、
私は何もなかったように、食いさしの弁当を食べ始めました。



「……ということなんですけど……」
ひよりんからの話を聞いて、私は腕を組み、フームと唸ってみた。

ホームルームが終わって、かがみ達と一緒に帰ろうと準備をしていたら、
教室のドアの前にひよりんとみなみちゃんがいて。
私と3人で話がしたいというから、私はかがみ達を先に帰らせて、
教室内の人がいなくなるまでドアの前で2人を待たせていた。

誰もいなくなったところで2人を教室の中に入れて、何があったのか聞いてみた。
そうして、上の話を聞いていたんだけど……


「……間違いなく、恋だね、それは」
「先輩も、やっぱりそう思いますか?」
「うん、ゆーちゃんは純粋だからね。そこまでわかりやすい反応なら、確実だと思うよ」
私は自信を持って首を縦に振った。
いつの間にかゆーちゃんにも好きな人ができてたなんてねぇ、と感慨深く思っていると、

「……それならいったい、誰に……」
「そう、そこが問題ッスね。先輩、何か心当たりはありますか?」
「うーん……」
私はどっかの探偵みたく手をあごに乗せ唸ってみた。
特に意味はないけど、なんか急に答えが閃きそうじゃん。
みなみちゃん達にも相談したがらないってことは……まさか同性?
もし同性なら……

とりあえずネタとして、私はみなみちゃんに視線を向けてみた。
「……なんですか、泉先輩?」
「うんにゃ、なんにも」
そう言って、今度はひよりんに視線を向けてみる。
私と目を合わせたひよりんは、ぶんぶんと首と手を横に振っていた。
わかってるって、みなみちゃんとひよりんは関係ないってことくらい。
ゆーちゃんは二人の目の前でも上の空になってたみたいだから、絶対に他の人だよね。

でも、だったら誰なんだろうなぁ、ゆーちゃんの好きな人。
もし私の知っている人の中にいなかったら、お手上げなんだけど。
そういえば、ゆーちゃんって夏休みのころから何か変だったような……


「……あっ」
私は思わず声を出してしまい、それにひよりん達が反応した。
「ど、どうしました、先輩?」
「……なにか、わかったんですか?」
「……一人だけ、思い当たる人物がいる」
「えっ!? だ、誰ッスか?」
「……まだ確信が持てないから、今は言えない。今日、ゆーちゃんに聞いてみようと思う」
私はそう言うと、鞄を持って教室のドアを開けた。
来てくれた二人も、それを見て慌てて自分の鞄を持ち、教室を出ようとする。

私はその二人に向かって、
「……今日は、ゆーちゃんの相談に来てくれて、ありがとう」
と、頭を下げて感謝の言葉を述べ、そのまま教室から出て、帰宅の路についた。



「……じゃあそういうわけで、明後日はよろしくねー」
ゆーちゃんから話を聞いた後、私はみなみちゃん、ひよりんに
電話で勉強会の日時と場所の変更を連絡して、
次に柊家に電話をかけて、それに出たかがみんに勉強会の人数追加の連絡をした。
みんな案外すんなりと納得してくれて、ちょっと拍子抜けのような……

『わかったわ。じゃあ電話、切るわよ』
「あ、ちょっと待って」
私は電話を切る前に、かがみに一応聞いてみたかった質問を投げかけてみた。

「……最近、つかさの様子はどう?」
『はぁ? そんなの同じクラスのお前のほうがよく知ってるだろ?』
「いやいや、かがみん家での様子だよ。
あ、ちなみに私達のクラスではあまり変わった様子はないけどね」
『そんなんは聞いとらんわ』
そう、最近のつかさの様子は別段変わったところもなかった。
これでゆーちゃんとつかさが両思いなら、つかさも上の空になっててもおかしくないんだけど。
まぁこれはそういうゲームや漫画の見すぎかな。
だからかがみにも半分冗談で聞いてみたんだけど……

『……うーん、変わったことって言うほどじゃないんだけど』
かがみからは、予想外の答えが返ってきた。
『最近つかさのやつ、いつも以上にボーっとするときがあってね。
たまに料理中にも上の空になるし、いつも以上に危なっかしくて』
おっ?
『この前なんて、夕食の団欒中にそんな状態になってさ。
私が耳元で叫ぶまで、家族の会話まったく聞いてないわ、箸も全然動いてないわで』
ほほぅ?
『ホント、困っちゃうわ……で? これがあんたに何の関係があるのよ』
「ううん、特には。じゃあまた明後日ねー」
『あ、こら……』

ガチャン

……これは予想外な。もしかして、この二人……

「……明後日が楽しみだー」
私はゆーちゃんの部屋のほうを見ながら、そう呟いた。



……いつからだろう、こんな気持ちになったのは……
夏休みから? それとも、お見舞いに言った、あの日?
……ううん。
もしかしたら、4月の終わり。最初に一緒にお話をしながら帰った、あの日からかも。
初めは少し気になるくらいだったのに、何回も会っているうちに胸の高鳴りが大きくなって。
今じゃあ、いつでも頭の中は「あの子」ことでいっぱいで。
学校ではできるだけそのことは考えないようにしてるけど、
家に帰ると気が抜けちゃって、自分でもわかるくらいにぼんやりしちゃう。
好きなはずのお料理にも身が入らないし……

明後日、「あの子」は私の家に来て、こなちゃん達と一緒に勉強会をすることになってるの。
突然決まったみたいだけど……

……よし、決めた。
その日、「あの子」に私の気持ちを伝えよう。
どんな結果になってもいい。ただ、私の気持ちに、嘘をつきたくないから――











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  • 良いです!良いお話です! -- チャムチロ (2012-10-30 23:10:21)

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