kairakunoza @ ウィキ

穏やかな夜

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匿名ユーザー

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 日曜日の午後10時過ぎ。
 私は、いつもと同じ様にこなたお姉ちゃんの部屋のドアをノックした。
「入っていいよん」
 扉を開けると、お姉ちゃんはパソコンの画面とにらめっこしながら、時折、キーボードを叩いている。
「お姉ちゃん。何をしているの?」
「ちょいと美少女ゲームをね」
 お姉ちゃんは振り向かずに答えると、すぐに画面を閉じてしまう。

「消さなくてもいいのに」
「まだ18歳になっていないゆーちゃんには、見せられないからねえ」
 のんびりとした口調で、お姉ちゃんは首を横に振った。
「でも、私とこなたお姉ちゃんって、ゲームの女の子と同じようなことをしているよね」
 私が首を傾げてやんわりと反論すると、お姉ちゃんは苦笑未満の表情に変わっている。

「確かにそうかもしれないけれど、なんとなく気分の問題かな。それはそうと、こんな時間にどうしたの?」
 なんだか、はぐらされたような感じだったけれど、お姉ちゃんに言われた通り、部屋を訪れた目的をまだ告げていなかった。
 私は、こなたお姉ちゃんの瞳を見ながら、お願いをすることにする。

「今日、一緒に寝てもいいかな」
「うん。いいよ」
 お姉ちゃんは、あっさりと承諾してくれた。
「ありがとう。こなたお姉ちゃん」
「萌える女の子と一緒に寝るなんて、男子の夢だからね」
「こなたお姉ちゃんも女の子だよね」
「そこはそれ、気分の問題だよ」
 こなたお姉ちゃんは、あっけらかんとした顔つきで答えると、ベッドの端をぽんぽんと掌で叩いてから立ち上がり、
慇懃に頭を下げてみせた。
「いらっしゃいませ。お嬢様」


「お邪魔しまーす」
 毛布の端を掴んでから小さな身体を滑り込ませ、こなたお姉ちゃんと同時にベッドに潜り込む。
 お姉ちゃんの華奢な身体がぴったりとくっつくことにより、体温がダイレクトに伝わって、
初めてではないのにドキドキしてしまう。

 しばらくの間、足を絡めたり手を繋いだりしてじゃれ合ってから、こなたお姉ちゃんが口を開いた。
「ゆーちゃんさ。最近、学校どうかな?」
 お姉ちゃんは既に高校を卒業してしまっていたから、心配なのだろう。
「毎日とっても楽しいよ。みなみちゃんも、田村さんも、パティちゃんも一緒だし、委員長さんも親切にしてくれるから」
「委員長?」
「うん。若瀬いずみさんって名前なんだけれど、とっても優しいんだ」
「ほうほう」
 お姉ちゃんは興味を示したようで先を促してくる。もしかしたら『いずみ』という名前に反応したのかもしれない。
「私、昔から小さいって言われることが嫌だったの。でもね。新しいクラスになった同級生の女の子達が私のこと、
お人形さんみたいで、小さくて可愛いと言ってきたんだ」

「まあ、ゆーちゃんを見たら普通、そう言うだろうねえ」
「その人たちは悪気は無いって分かるんだけれど、ちょっと辛かったの」
 他人から向けられる言葉に敏感すぎて、すぐに傷ついてしまう。
 私の弱いところだと分かっていたのだけれど、なかなか克服することができないでいる。

「それでね。それとなく委員長さんが、その人たちに注意してくれたんだよ。悪気はなくても『小さい』と言わない方がいいって」
「そうなんだ」
「私ね。とっても嬉しかったんだ」
「ゆーちゃんはいい人に巡り合えたんだねえ」
 こなたお姉ちゃんは自分の事のように、嬉しそうな表情で頷いてくれる。

「それに体調がとても良くなっているから、学校に行くのがとても楽しいの」
 私は小さい頃から病弱で、学校を休むことが多かった。たとえ登校することができても、途中で体調を崩してしまい
保健室の住人になることが多くて、体育の授業は見学が殆どだったし、遠足や修学旅行等の学校行事に参加することも叶わなかった。
 だから中学の時までは周囲から浮いてしまい、仲の良い友達ができなかったし、時には意地の悪いことを言われて
めそめそと泣いたりしていた。
 しかし、高校に入ってからは仲の良い友達に恵まれたことで、学校に行くのがとても楽しくなって、それに比例するかのように
体調が良い日が増えていった。
 未だ保健室で休むことや、熱を出して欠席することはあるけれど、以前に比べれば問題にならないくらい、
身体の調子を崩す頻度は少なくなっていた。


「そっか。本当に良かったね」
 こなたお姉ちゃんが微笑みながら、よしよしと私の頭を撫でてくる。
「もう。子供扱いしないでよ」
 私は甘えた声を出して、ほっぺたを膨らませる。
「ふふ。一人で寝るのが寂しくて、私の部屋にくるところも可愛いかな」
「お姉ちゃんの莫迦」
 照れと恥ずかしさを隠すために、さらに頬を膨らませてから、背中を向ける。
「ごめん、ごめん。あんまりにもゆーちゃんが可愛かったから、ちょっとからかいたくなったんだ」
 お姉ちゃんの軽い謝罪を聞いてから、もう一度身体の向きを変えたけれど、まだ許してあげるわけにはいかない。

「こなたお姉ちゃんのいじわる」
「どうしたら、許してくれるのカナ。カナ」
 少し前のアニメのキャラクターの口調を真似ながら、お姉ちゃんはニマニマとした顔で、むくれる従姉妹を観察している。
というより、次の言葉を待っている。
 そろそろ良い頃合いなのだろう。
 私は、こなたお姉ちゃんの期待通りの返事をすることにした。

「キスしてほしいの」

 瞼を閉じてから、ほんの少しだけ顎を前にだす。
「お姫様の仰せには、逆らう訳にはいかないよね」
 ため息まじりの、少しあきれたような声をあげてから、お姉ちゃんの手が伸びて背中を絡め取る。
「好きだよ。ゆーちゃん」
 お姉ちゃんが更に近づいて、ゆっくりと唇が塞がれる。
 こなたお姉ちゃんのキスはとても優しい。触れるか触れないかという距離を保って少しずつずらされていく。
「ん……」
 私が小さく喘くと、お姉ちゃんはゆっくりと唇を離し、耳元で囁く。
「おやすみ。ゆーちゃん」

 こなたお姉ちゃんは特別な魔法を使ったのだろうか?
 おやすみという言葉とともに、睡魔が押し寄せてくる。

「おやすみなさい。こなた、お姉ちゃん…… 」
 急速に夢の世界へと引き込まれながらも、今日の私は、良い夢が見られることを確信していた。


(おしまい)


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