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摂氏37度の日

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だれでも歓迎! 編集
今日……一体何度だろう?
携帯を開く。待ち受け画面に表示される天気予報が示すのは……摂氏、37度。
「あづい……」
埼玉を蒸し風呂状態にしている原因──太陽を見上げて本日何度目かもわからない言葉をつぶやく。
眩しい。目線を下に落とすと顔から一粒の汗が落ち、アスファルトに触れて、消えた。
「ほんと、暑いわねー……今年一番の猛暑かもね」
と隣で答えたのはかがみ。
「いやぁー、かがみはもっと汗かいた方がいいんじゃない?」
「何が言いたい……」
かがみが拳を握りしめて私の方を睨みつける。
おお、こわこわ。
「でも、体温超えるとかあり得ないでしょ……あーづーいーよー」
「あんまり暑い暑い連呼しないでよ……余計暑いから……」
ポーチから水を取り出して一気に煽る。……これは……
「……ぬるい……」
「こんだけ暑けりゃね……」

何で私たち二人がこの暑い中炎天下をさまよっているかと言うと。

今朝。私はかがみの家に勉強しに来ていた。
つかさとみゆきさんはみゆきさんの家でやるそうだ。
一緒にやればいいのに、とかがみに言ったら「二人にも色々とあるのよ」と言われた。
よくわからないけど、ケンカでもしたのかな?

「おーっす、きたよー。あっついねー」
「おー、いらっしゃーい。クーラーつけてるから部屋はいんな」
「やたーっ」

ガチャ。扉を開けた途端に冷気が流れだす。

「うっひゃー、涼しいーっ!」

ワンピースの裾をぱたぱた動かして涼む。

「あんたね……みえてるっての。ちょっとは恥じらいってもんを持ちなさいよ」
「いーじゃんいーじゃん、女の子同士じゃないかー。……あ、それともかがみんってそっちの趣味?」
「そういう問題じゃないわ!ってか違うし!」
「じょーだんだよぉ、冗談」
冗談じゃなかったらよかったのに。
なんて考えてもしょうがない事だけど。
「ったく……」。
「さぁさぁ、何してあそぼっか」
「……勉強しにきたんじゃないのかよ」
「おおっ、そうだった」
ぽん、と拳で掌を叩く。
「本気で忘れてたんかい!」
「アハハ、冗談だって。ちゃんと覚えてるよー」

静かな部屋に駆動音と風切り音が低く響いている。
それ以外には、シャーペンを走らせる音と紙がこすれる音だけ。
ゥゥゥゥゥ。さかさか。しゃ。ペラッ。ゴゴン。

……ゴゴン?


「ねぇかがみ、今変な音しなかった?」
「え?」
ゴゴゴン。
「ほら、また」
「ほんとね。何の音かしら?」
ガガガガガ。
「エアコンからね……」
「だ、大丈夫かな。止まったり……」
プスン。
「あ」
「あ」

不吉な音を響かせた後、エアコンは止まった。
今まで響いていた駆動音がなくなって、部屋が静かに感じる。

「……こ、壊れちゃったのかしら……」
リモコンのボタンをでたらめに押すかがみ。
「ぶっ叩いたら直ったりしないかな?」
「やめい。……あー、ダメね。うんともすんとも言わないわ」
「ど、どうするの?」
「……仕方ないから、直るまでエアコンはなしね」
「えー、でもエアコンなしで勉強なんて……」
「……確かに」

エアコンが止まった部屋の暑さは凄まじく、勉強なぞとてもできる状況ではなかった。
ファミレスでも行こう、ということになって、今炎天下の中歩いているワケだ。

「かがみ……気温が体温より高いなら抱き合った方が涼しいらしいよ」
「……こんなに汗だくで抱き合ったらぐちゃぐちゃになるわよ」
「それは……なんかエロいね」
「……あー。突っ込まなくていいか?」

ヒーヒー言いながら歩き続けて、ようやく目的地にたどり着く。
ひっぺがす勢いでガラス張りの扉を開く。
カランカラン。透き通った涼しげな音と共に心地良い冷気が体を包む。

「いらっしゃいませ!2名様ですね。喫煙席と禁煙席が──」

「では、ドリンクバーのグラスはあちらにございますので」
「あじゃじゅじゅしたー。……ふぃー、やっと落ち着いたねー」
「あー、ほんと。外とはえらい違いね。……うわ、外、陽炎でてるし」

注文を済ませ、外を眺める。
石焼きビビンバの釜みたいなアスファルトの上を歩くお兄さんの姿がゆらめいている。

「しかしアレだね。なんだか安全圏からこういう光景を見ると……なんかこう、優越感を覚えるよね」
「アンタだけよ……。飲み物取ってくるけど、アンタ何がいい?」
「あ、私ジンジャーエールー」
「はいはい」


かがみがいなくなると、手持ち無沙汰になる。何気なく店内を見渡してみた。
カランカラン。入り口からさっき外を歩いていたお兄さんが入ってきた。この席からはは入り口がよく見えるのだ。
……かがみやつかさ、それにみゆきさんとも何度も来た。勝手知ったるファミレス。
前に来たのはいつだっけな?……覚えてないや。
ぼんやりとお兄さんを眺めていると目が合ってしまった。微妙に気まずく思い、視線を外してポーチから学習道具を取り出す。
適当なノートを手にとって、ぺらぺらめくる。因数分解、微分積分。サイン、コサイン、タンジェント。暗号のような記号達が目に飛び込んでくる。
以前の私なら見ただけで投げ出していただろうけど……今は投げ出さない。

ぴた。首筋に冷たい感触。

「うひゃぁ!!」
「ふふふ。驚いた?」
「そ、そりゃ驚くよ……あ、ありがと」
「しかし、私がいなくてもノート開いてるなんて……頑張ってるのねー」
「ふふん。私には目的があるからね」
「どこの大学に行くつもり?教えてくれないし・……一体、何企んでるんだか」
「んっふっふー」

目的。それは、目の前にいる親友。
私はかがみと同じ大学に入りたいが為に猛勉強しているのだった。

……私は昔、いじめられてた。原因はわからないけど。
お父さんは毎日泣いて帰ってくる私に格闘技を習わせた。きっと、精神を強くしようとしたんだと思う。
もともと素質があったのかな?練習は楽しかったし、どんどん上達もした。

だけど、それが裏目に出た形になる。
6年生のある日、いじめっ子にキーホルダーを壊された。本当に大事にしていたキーホルダー。
お母さんがいつもカバンにつけてたっていう、キーホルダー。
私はカッとして……気づいたら、その子は鼻血を垂らして泣きながら床にうずくまってた。
すぐに先生が飛んできて、その子は保険室に連れていかれ、私は職員室に連れていかれた。
理由を聞いたら、納得してくれたのか。先生もその子の両親も、私に何か言う事はなかった。
でも、私を迎えに来たお父さんの悲しそうな表情を今でも覚えている。今思うと、人を傷つけてほしくなかったんだと思う。
お父さんの顔を見ていられなくて、俯いたまま私は「格闘技、やめる」って言ったんだ。お父さんは「そうか」としか言わなかった。

その後、いじめられる事はなくなった。……厳密には、避けられるようになった。
「泉こなたはすぐにキレて相手を半殺しにするヤバいヤツ」というレッテルが学校中に広まったようだ。
その噂は中学校になっても尾を引いていた。私と仲良くしてくれる人はほとんどいなかった。
将来の夢は「魔法使い」なんて言う変わり者の子だけが仲良くしてくれた。
……でも、2年生の終わりごろに私と関わっているせいで彼女がいじめられているらしい事を知った。
それ以来、彼女とは関わっていない。……オタ趣味に走るようになったのはこの辺りかな?
誰とも話さず、真面目に授業を受けていると、自然と学力も上がる。
それで、少し離れた陵桜を受けた。うちの学校からは受ける人がいなかったから。

高校は楽しかった。今までと全く違う生活。
いじめられたり、避けられたりしない学校生活なんて初めてのものだった。
なにより、かがみやつかさ、みゆきさん達と出会えた。
初めての親友といえる友達。何回も一緒に遊びに行ったし、旅行にも行った。
かがみとは、特に一緒にいた。つかさやみゆきさんがいなくても、かがみはいつも側にいた。


……何がきっかけだろう?かがみに「親友」以上の感情を抱き始めたのは。
いつの間にか、私はかがみの事を好きになっていた。
つかさやみゆきさんも好きだけど、かがみの「好き」とは違う。かがみに対しての感情は、Likeではなく、Love。
女の子同士なのに、変だよね。
でも、私はきっと想いを伝えられない。今の関係が壊れてしまうのが、恐ろしくて。
伝えて、受け入れられなかったら。……考えただけで血の気が引くよ。
だから、せめて……離れたくない。一緒の大学に行きたい。
学力には差があるけど……頑張れば追いつけるかも。
そう考えて、春からは勉学に励んでいるというワケだ。……本人には照れくさくて言えないけど。

カラン。ジンジャーエールに浮いた氷が崩れて音を立てた。
グラスを眺める。周りの環境に少しずつ溶かされる氷。まるで私とかがみ達みたい。
私は氷で、かがみ達は水。近い温度で確実に解かしてくれる、優しい水。
なんて事を考えてぼさっとしていると、かがみが声をかけてきた。

「ちょっと、こなた?何ぼさっとしてんのよ」
「ああ、うん。ちょっと……考え事を」
「全く。ちゃんとしなさいよね」
「わかってるよぉ。……あ、かがみ、この問題わかんない」
「どこよ?」
「これこれ」
「んー……あー、これ結構難しいわね。えっとね、このχは──」

真剣に教えてくれるかがみ。……やっぱりかがみは優しいな。
自分で言うのもなんだけど、こんなちゃらんぽらんな私に親身になってくれる。本当にいい人。
ツッコミは多少厳しいけどね。

「──で、ここにβを代入すると……ほら。わかった?」
「ああ、ごめん……ちょっとわかんなかった」
「ったく……いい?だからね──」

今はわからないけど……なんとか追いつきたいな。
頭が沸騰しそうになりながら再び羅列された記号を睨みつける。
カラン。少しずつ溶けていく氷が、また音を立てた。















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コメント:
  • 切ねえ… -- 名無しさん (2010-09-09 06:12:36)
  • 良い話ですね~。
    こなたを応援したくなりました。 -- kk (2010-08-25 21:02:01)

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