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続 ここにある彼方 その後(9)

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だれでも歓迎! 編集


「そうね……逢いたいと思ってた者にとっては、これ以上はない出来事だもんね。
普段はダメなくせに…兄さんもいいこと言えるのね、伊達に小説書いてないわね」
そんなゆきの言葉で重かった空気も平常運行へと変わっていく。
「……おまえは褒めてんのか貶してんのか……」
「あはは……細かいことは気にしない気にしない。姉さんも落ち着きを取り戻したみたいだし
良かった良かったと。くやしいけど、姉さんのことに関しては兄さんには勝てないからね」
ゆきが言うように、平常心を取り戻したかなたが少し恥ずかしげに頬を赤らめている。
「ごめんね、取り乱しちゃって。さっき、たまには実家に帰れば~とか話をしてたときに
ちょっと親のことを考えちゃって……そして、昔、お父さんのことどう思ってたっけ?
って思いだしてるうちに……自分のお葬式の時のこと思い出しちゃって……」
ふぅ~とため息をついてどこか遠くを無表情に見つめる。
「え?お葬式の時って自分の?……姉さん、死んでたのに?」
自らの葬式の様子を知っているという発言に喰い付いてしまう。
今、目の前にかなたが居るという現象も相当おかしいハズなのだが
目に見えてしまっているだけに逆に気にはならないという。
「いや……その……恥ずかしながら、今みたいに幽霊さんしてて自分の葬式見てたの。
今と違って誰にも見る事が出来なかったみたいだったんで気がつかれてないけど」
てへっと照れ隠しに舌をペロっと出してみる。
「…それはつまり成仏出来てなかったと?」
ゆきが恐る恐る聞いてみる。
「それを言うと今も成仏出来てないって事になるけど……
とりあえず成仏というものがどういうものか良く判ってないからなんとも…ね?
そもそもあの世という所にまだ行った事がないし……
そう君には前に話したと思うんだけど…
みんなも寝てるときって夢はともかく睡眠そのものに記憶はないわよね?
夢の記憶さえも残ってなければ、寝てから起きるまでの記憶はまるでなくて
寝てる時間分まるまるワープしたような感じがあると思うんだけど、
今がまさしくそれなのよね。
ハッと起きると数年くらい経過してて現世に現れてるの。
一瞬、わたしは死んだ夢を見ていたんじゃないかって思うくらいだもの。
だからあの世ってものは全然わからないの……

もしかしたら、覚えていない夢と同じで
記憶がない眠りの期間にあの世に行ってるのかもしれないけど
覚えてない以上は知らないも同然だからね」
そんなかなたの話にゆきとゆいは興味しんしんである。
「へぇ~なんか不思議ね。そうなんだ」
ゆきがふーむと考え込む。
「ねぇ伯母さん、他の幽霊さんにはあったことあります?」
そんなゆいからの質問に
「ん~それが無いのよね~~、一人くらいあってもよさそうなんだけど……
やっぱり私は特殊なのかもしれないわね、というか特殊よね、みんなと逢えて話が出来てる時点で」
「まぁ~黄泉帰るって言葉があるくらいだし神代の時代にはよくあったのかもな」
そうじろうもウムウムとうなずきながら答えるのであった。

「にしても、子供の葬式に出てる親の顔って見れた物じゃないわね……
あれほど悲しい顔は見た事がなかったわ……」
と何気に視線を入り口の方へと泳がしてみれば、
飲み物を抱えてこちらを伺っているこなたと目があってしまった。
「!!!!」

「大丈夫、私はお父さんよりも先には死ぬつもりないから」
かなたが口を開ける前に、こなたが少し大きめな声で言葉を投げる。
こなたの声でその存在に気がついたそうじろう達。
「こなた、おま……下に行ってたんじゃ?」
別に聞かれて恥ずかしいような事は何も話してはいないのだが
なぜかドキッとする。
「飲みもの取りにちょっとね。そしたらなんか、話が聞こえちゃってさ」
「ちょっと……いつから居たの?……なんだか恥ずかしいわ……」
こなたから隠れるかのようにそうじろうの影へと隠れてしまった。
「ん~?そんな恥ずかしがるような事、話してたのかな?
わたしは自分のお葬式見てたの辺りからしか聞いてないんだけどなぁ~」
「ん~~、ま、なんだ、ちょっとな。別にシモネタな訳じゃないんだぞ?
かなたが、なんだ、その、思い出したくない過去を思い出しちゃって
泣き出してしまったり、取り乱してしまったりで……
親としては子供にはあまりそういう所は見られ……はっ!!」
異様な雰囲気を察知してこなたが居る方の反対側を見てみれば
なんでそんな事まで話すの!!と無言で抗議しているかなたが、ぷくーっとほっぺを膨らまして睨んでいた。
「ちょ!!!ちょっと落ち着け!!!!」
「知らない!!!!」
ぷいっと反対側を向いてしまった。
「ありゃりゃなんだかよくわからないけど、やはりわたしはお邪魔だったようですなぁ~
とりあえず、また明日ということで部屋に戻るよ、こんどこそおやすみなさぁ~い」
トテテテテッとリズムよく階段を降りて行く音が響く。

こなたが下の階へと降りて行ってからしばらくして、各々が手にしていたアルコールを飲み干すと次へと飲み進み始めた。
「まぁまぁ」
ぽんぽんっとかなたの頭に手を置く。
「まさかあのタイミングでこなたが居るとは思わなかったけどさ……
こなたがさ…おまえが泣きじゃくってた所を目撃してたとしてもだ、
あいつはさ、なんていうか……おぅわ!!」
ガコン!
缶を手に取ろうとして倒してしまう。
開けたばかりだったのが災いしてすぐに立て直したにも関わらず
テーブル、床と広範囲に渡ってビールが流れてしまった。
「あちゃ~、こりゃまた粗相をやらかしてしまったな」
何か拭く物をと立ち上がったところに
「伯父さんタオル~はいよ〜〜……台所からもう少しもってきますね~」
とゆいがタオルを投げ渡す。
「おお!サンキューゆいちゃん」
いそいそとこぼしたビールを拭き取りはじめる。
「まったく、兄さん何やって……」
ガコン!
そうじろうを手伝おうとして椅子から立ち上がった拍子にそうじろうのビール缶を再び倒してしまった。
「ふおぉぉぉおおぉお?!!」
ちょうど床を拭いていたそうじろうの頭にこぼれたビールが直撃した形になり、そうじろうから雄叫びが上がる。
「あ!ごめん!!兄さん、ゆい、タオルもう少し持ってきて」
「あはは、はい、お母さんタオル、こんなこともあろうかと多めにもってきてるよ」
ささっとそうじろうとゆきの二人にタオルを手渡し、ゆいもあとかたずけ戦線に加わるのであった。
ゆいが必死に笑いを堪えてるのとは対称的に、かたずけの間にも兄妹間でぶつくさとなにやら言い争いを続けている。

(そう君が言おうとしてたことはわかるわ……でもね、やっぱり母親としてあんまり恥ずかしいところや、
格好悪いところは見られたくはない……って思っちゃうのよね……これが、そう君と私の親としての経験の差なのかぁ~
……それにしても、そう君といいゆきちゃんといい、昔から変わらないわね)
二人のドタバタに思わず笑みがこぼれてくるのであった。

「……ええ~と……みんな大丈夫?飲み過ぎじゃない?」
3人で飲んだにしては多めな空き缶が転がる。
そんな状況に少しばかり心配になってくる。
「んん~?ゆいちゃんは明日も休みだし、俺やゆきは予定なんてあってないようなもんだし…無問題!!」
と言い放つと次なるビールを開け始める。
「ちょっっっ!!そう君!!……もう、どうなっても知らないわよ?」
あきれつつも笑顔でたしなめる。
「大丈夫よ、兄さんだし…というか予定があってないようなものだなんて、
さらりと失礼なこと言ってくれるわねぇ~、兄さんと一緒にしないでくれる?」
と言い切り、その勢いでこれまた手にしたビールを飲み干してしまう。
「なんだと~実際問題、明日予定あんのかよ?」
新しい缶をカシュッと開けつつ問いかける。
「有ったらこんな時間まで飲んでないわよ。なにか問題でも?」
こちらも負けじと新しい缶を開けて飲み始める。
「……言ってる事矛盾してないか?おい」
「してないわよ、たまたま予定がないのが重なっただけじゃない。自由業な兄さんとは違うのよ」
「むむ!!自由業とは言ってくれるな!!こう見えてもな……」
意気込むそうじろうの話をさえぎるかのように
「締め切り以外は兄さんの都合で変更利くじゃない。自分の都合がまかり通る。
そして締め切りすら守らないときてる。普通の仕事じゃあり得ない、自由業以外のなにものでもないわ」
そこまで言い切るとビールを再び口にする。
「うぐぅぅう……だって普通の仕事じゃないし……」
「なにイジケテンのよ!!」
パコーンと空き缶で頭をはたく。
「締め切りぐらい守りなさいって言ってんのよ!
……原稿を取りにくる編集さんにいつもいつもいつも迷惑かけて!!」
「ここ数年はほとんど大丈夫だぞ!!締め切り間に合わないのは年1、2回程度だ!!
それでも昔とちがってなんとか原稿を落としてはいないし……」
再び話を遮るように
「普通の会社じゃ1回でアウトだから」
「…………仰せの通りでございます」
もはや言い返すことすら出来なくなったそうじろうが土下座をする。
「人様に夢与える仕事してんだから、人様に迷惑かけないようにしないとねぇ」
「はい……」
「あらららら、ゆきちゃん、これまたバッサリと………
そう君も事実なんだからちゃんと受け止めてなおさないとね」
フォローになってないフォローをするかなたと
「いい本書くのに……読者に言っても誰も信じないと思われるくらいなんでこんなにギャップがあるのやら」
酔った勢いでここぞとばかりに責めに入るゆき。
「『作家そうじろう』は俺だけど俺じゃないというか、趣味と仕事は別個なのさ
趣味=仕事な先生達もたくさんいるけど、俺みたいなタイプも案外多いんだぜ?」
「はぁ~モノは言いようってことかしらねぇ~
大昔の兄さんはカッコ良かったのに、どこでどう道を間違えたのやら……」
「おいおい……なんだ?今晩はサンドバックかよ俺、叩かれまくりだな」
「旦那と兄はいつまでも格好よくあって欲しいものなのよ」
言ってて恥ずかしくなったのか、ぷいっとそっぽを向く。
「あははは~……」
そうじろうにしてみれば、それを言われるとバツが悪そうに苦笑するしかない。
「大丈夫、そう君は今でもカッコいいから!」
そういうかなたの言葉には力がこもっている。
「私はちゃんとわかってるから大丈夫よ、ダメなところも確かに多いけど……
少ないかもしれないけどカッコいいそう君、私ちゃんと知ってるし今でも見せてくれるし
…………えへっちょっとのろけちゃったかしら?」
勢いで言ったものの、だんだんと恥ずかしくなってきた。
「あ~も~…ごちそうさま…………そうね、姉さんだけには見せてたのかもね
少なくとも私は知らないんだけどね……でも良かった、姉さんが幸せそうで
バカ兄貴が姉さんに何か迷惑かけてんじゃないかと思ってたけど」
ジト~とした目をそうじろうに向ける。
「ちょ、おいこら、なんの迷惑だ!……いや、色々迷惑かけたな……
迷惑というより苦労だな…ようやく売れ出した頃にはもう……だったしな」
はじめ、ムッとしたがすぐにその通りだなとしょげてしまう。
そんなそうじろうを見てクスッと笑みをこぼす。
「私は迷惑だなんて思ったことはないけどね。確かに苦しかったし大変だったけどね
でも、そう君と一緒に夢に向かって進んでいってるのが実感できてたし楽しかったのも事実よ」
「……なんていうか……その…ありがとう。かなた、俺の嫁でいてくれて本当にありがとう」
肩を抱き寄せようとかなたに手を伸ばしてみるが
やはりというかなんというかそのまま空を切るのみで触れることはできない。
さっきは抱きしめることができたのに……
これも神の気まぐれか、ま、あまり贅沢を言ってもバチが当るというもの。
姿を認識できて話をする事が出来る。
これでも十分過ぎるくらいの出来事なのは間違いない。

ほぼ落ちているつかさをそのままこなたのベットに寝かせると
こなたはそそくさとテーブルを片付け始めた。
「布団とってくるわね」
そんなこなたを横目にかがみが部屋を出て行きがてら声をかけてくる。
「よろ~」
テーブルを壁に立てかけ二人分の布団がひけるようにゲーム機やら雑誌やらの小物を隅へと追いやる。
「ほい、敷き布団ね」
かがみが先ずは敷き布団をもってくる。
「あいよ~」
こなたが布団を床にひき始める。
すこしスペースが足りないのはご愛嬌。
その間にかがみがその他のものを持ってくる。
「ほいっと、シーツとタオルケット、枕っと。毛布の方が良かったか?」
展開が完了している布団の上に降ろす。
パパッとシーツとタオルケットを展開して寝床が完成した。
「エアコン付けて寝る訳じゃないから、タオルケットで十分でしょ。下手するとそれすら要らないかもw」
「まぁ、そうだな、でも最近、朝方は寒い時がないか?」
8月も下旬だ。さらに周りは田畑が広がる郊外だ。
真夜中から明け方にかけては25℃を切るのは間違いない。
薄着では下手すりゃ寒いと感じる気温まで下がる可能性も。
「寒けりゃ寒いで身体寄せ合えばいいんだよかがみ」
洒落なんだか本気なんだかよくわからん答えが返ってくる。
かがみの返答が来る前に幅が足りずに狭くなってる方の布団にそそくさとこなたが滑り込む。
「あ”~~…なんだ、その……とりあえず寝よう!もう私も限界に近いものが…」
すでに眠気が支配的で突っ込む気にもなれないかがみがボフッと布団に身を投げる。
「かがみと添い寝は久しぶりだねぇ~」
「…隣りなだけで添い寝じゃないだろ」
狭い方に自ら入ったこなたの心遣いに気がつきつつもあえてそこには触れずに突っ込みを入れて行く。
こなたがその手の事に対してお礼を言われる事に不慣れというか
異様に恥ずかしがってあたふたしだすのをわかっているから(本人は否定しているが)
かがみも何も言わないスタンスを取ってはいる。
(素直じゃないと言うかなんというか……なんだかんだと優しいんだよな、自覚してなさそうだけど)

かがみがスースーと寝息を立て始めた頃、
「むむ~、こんだけかがみが近いとさすがに暑いか~窓開けておくか」
一度は寝込んだこなただったが、窓を開けにムクリと起きあがり
風が抜けるようにと廊下側のドアも豪快に開ける。
「このままちょっと飲み物も取って来るよ。妙に喉が渇いちゃってさ」
誰が聞いてるわけでもないのだが、寝ている二人に告げてそのまま、階段を登って行く。

喉の渇きを潤し、ふぅっと一息つく。
いい感じにそよそよ~と夜の空気が吹き抜けて行く。
「かがみ…あのね」
寝ていて先ず聞いていないと思われるが、かまわず、しかし起こさないようにささやくように話しかける。
「とりあえず、お父さんよりも先に死なないように気をつけなきゃねって再確認したよ。
あの世で賽の河原なんてやりたくないしね。かがみたちもおじさんやおばさんよりも長生きしなきゃダメだよ?
とりあえずそんだけ、んじゃ、おやすみかがみ、つかさ」
そしてかがみの隣で横になるのだった。

「一時期に比べると、夜中は随分と過ごしやすくなったねぇ~」
誰に言うでもなくつぶやく。
目を瞑ったものの結局寝付けない。
時計は1時を指そうとしてる。
上の階からはまだまだ話し声が聞こえてはくる。
いつもなら自分も寝れないからと話に参加しているだろう。
だが、今日は違う。
自分があの場にいてはいけない。
それぐらいの空気は読める。

開け放たれた窓から入り込んでくる風が気持ち良い。

ただ目を瞑って横になる。
なにもせず、ただひたすら目を瞑りぼーと横になる。
ある意味、贅沢な時間の使い方。
たまにはそれも悪くないな。
よくよく耳をこらせば、いつのまにやらコオロギやらの秋の虫の音も聞こえ出しているではないか。
そうか、そういや、もうすぐ夏も終わるんだな……
そんなことを考えてるうちにいつの間にやら眠り落ちていた。

明け方、寒さと尿意でつかさが目を覚ます。
「…うう…あれ?ここは?…こなちゃんのベット?」
二階でゲームしてたんじゃ?とか、なぜ一人ベットで?など色々と疑問に思うことはあるが
まずはトイレである。だが起きるのが辛い、足先も冷えてるのがわかる。
「……うぅ…寒いよう……」
膝を抱えてタオルケットにくるまる。
そうは言ってもお漏らしするわけにもいかないので気力を振り絞りトイレへと向かう。
用を足して部屋に戻って来たものの、目の前ではこなたとかがみが寝ている。
そして、ふらふらと潜り込んだ先は、元々寝ていたこなたのベットではなくかがみのタオルケットの中。
「おねえちゃん…えへへ、あたたかーい……zzz」
ほぼ無意識、まさしく本能の赴くままにといったところ。

しばらくして……かがみが尿意を催し目を覚ます。
ほぼ同時期にこなたも目を覚ます。
開けっ放しの窓が意外に寒い。
「…う~ん、意外に寒いね、こりゃ。全開はやっぱり良くないね」
数センチだけ開けて窓を閉める。
窓を閉めるこなたを見ていたかがみが何かに気づく。
「……およ?つかさ…いつの間にここに?」
自分の真横にいるつかさに気がつく。
「寒かったんじゃない?」
こなたが眠そうな目で答える。
「とりあえず、私は2階のトイレにいくからかがみは1階のトイレ使いなよ」
とこなたが階段へと向かう。
「ん?ああ、ありがとう」
かがみも眠そうな目で返答をしてトイレへと向かう。

二人が戻り、こなたが
「意外に寒いね、毛布持ってくる?」
「んん~こなたのベットのタオルケットを使って2枚重ねにして、布団で3人で寝れば大丈夫じゃない?」
かがみがわざわざ毛布持ってくるまでもないよと答える。
「ああ~う〜そだね、日が出たらすぐ暑くなるだろうし、3人固まって寝れば寒くないだろうし……」
といいつつ、自分のベットからタオルケットを剥ぎ取ると
つかさを中心としてタオルケット2枚を掛け直す。
「さて、3人川の字になって寝るとするかね」
そういうと、こなたがつかさの隣へと潜り込んでいく。
「んん、そうね、んじゃ、もいちどおやすみ」
かがみもこなたと反対側のつかさの隣へと潜り込んでいく。
「「暖かい~」」
各々が感想を述べつつあっという間にまどろんでいく。
窓の外は、太陽が地平線からもうじき顔を出しそうな夜と朝のまざった色になっていた。

「…う~ん……朝?」
軽く開けられた窓から、これまた軽く開けられたドアに向かって風がゆっくりと吹き抜けていく。
陽の光に染まった薄手のカーテンが、風に揺られて室内をゆらゆらと柔らかく照らす。

部屋の明るさでなんとなく目覚めたゆたか、しかし、すぐに周囲の異変に気がつく。
目の前に柔らかくて暖かいものが……
そして、酒臭い。
はっと目が覚める。
「お、お母さん!!」
母であるゆきが自分を抱きしめるように隣で寝ていたのだ。

えーっと、昨日はおばあちゃんちからこなたお姉ちゃんのところへ帰って来て
伯母さんに遭遇して……でもそのまま話すこともなく眠くなっちゃって……
…あの後、お母さんも来てたんだ。
そっか、こなたお姉ちゃんのお母さんはお母さんにとっても大切な人だったんだもんね。
はぁ…お母さんか…
もし私のお母さんがいなかったら……
そんなの想像もつかないよ…
…………………………
頭の中を色んな思いが駆け巡る。

「…ゆたか…ごめんね…」
耳元にいきなり聞こえてきた母の言葉。
「!!」
はっとして母の顔を見るも、相変わらず寝ている。
(寝言?……私、夢のなかでどうなってるんだろう?)
知りたいような知りたくないような。
心当たりがないわけでもない。
今でもそうだが、小中とよく具合が悪くなり、学校を休んだり保健室の常連だったりしてたけど
その時に、よく言われていた……
中学の頃になると、そんな自分が嫌でしょうがなかった。
「お母さんは悪くないよ」
いつも言い返してたっけ。

(夢の中で、また倒れたり具合が悪くなってたりしてるのかな?)
母の顔が今にも泣きそうな悲しい表情になっている。
「大丈夫だよお母さん……私もお姉ちゃん達や友達のおかげでだんだん強くなって来てるから」
ぎゅーーーっとその大きな二つの双丘に顔を埋める。
酒くさいのはちょっと嫌だけど…
私の大好きなお母さん……
二度寝の快楽もあってそのまま再び眠りに落ちていった。

次に目をさましたのはゆいだった。
泉家に標準装備されているゆい用の布団の上でちゃんと寝ていた。
いつ布団をひいたのか?どうやって寝たのか?記憶がおぼろげだがちゃんといつも通りに寝ていた。
むくっと起きて伸びをする。
いまいちアルコールが抜けていない。
時計を確認する。
8時。
「あ~う~ん…5時間は寝たか?」
ベットの上に視線をやれば、母とゆたかが未だに寝ている。
母の腕のなかで眠るゆたかはいつにもまして幸せそうに寝ている。
そんな幸せそうな表情を見ているだけで心が満たされる。
それはそうと自らの現実を顧みる。
「あ”~う”~明らかに飲みすぎだねこりゃ。頭は痛くないけど…アルコール抜けてないな~こりゃ」
吐息の匂いの自己判断でも明らかに酔っ払い継続中である。
(……昨日、風呂に入れてないし…シャワーくらい浴びるか)
よたよたと風呂場へと階段を上っていく。
「あう~喉乾いた~~」
シャワーを浴びる前に、水をゴクゴクと飲み干す。
辺りを見回しても、居間も含めて人の気配はしない。
「伯父さん達も部屋に戻ってるみたいだね…良かった良かった」
酔いつぶれて居間で転がってるかとも思ってたが、ちゃんと自室に戻れているようだ。

風呂場に着いて、ちょっとしたサプライズが待ち構えていた。
浴槽が適温のまま保たれていたのだ。
「おお!まさかお風呂が沸いていたなんて!!
……こなたが気をきかせてスイッチ入れたまんまだったんだね……ガス代もったいないのに……
ありがとうこなた、私には出来すぎた妹だよ、ほんと」
ありがたく朝風呂を堪能するゆいであった。

昼過ぎにむくりと起きる。
不規則な生活ゆえ、寝る前にはエアコンを28℃設定で入れて暑さで目が覚めないようにしてある。
窓には分厚い、床まで伸びてもさらに余ってる遮光カーテンで覆われている。
現像室としても機能することがあるので、そのための遮光でもあるのだが。
そのため、光がない真っ暗闇である。時計を見なければ昼なのか夜なのかさえ判らない。
ゆえに、太陽が眩しくて目がさめることもない。
土曜の夜くらいか?カーテンを閉めないで寝るのは。
「んぐーーーーーー……と…ちょいと飲みすぎたかな?我ながら酒臭いな、はははは」
時計を確認すれば、すでに昼を過ぎている。
「…ちーと寝すぎたかな?」
窓際まで行きカーテンを開ける。
強烈な夏の日差しが襲う。
「ぎゃーーーー焼けるぅーーーーーー」
独りリアクションをとる。
当然、ツッコミもなにもない。
「……はぁ…誰もいないのに、何をやってるんだか」
ま、そんなノリツッコミもいつものこと。
ふぁ~と眠そうに居間に顔を出すと、すでに皆が揃っていた。
「そう君、おはよう、お酒大丈夫?残ってない?」
かなたは昨夜の飲みっぷりを見てただけに、心配そうだ。
「おはよう、かなた……んん~正直抜けてない」
そして…
「あ、お父さんおはよう」
こなたからは普通に普通のいつものあいさつだ。
「伯父さんおはようございます」
「伯父さん、よく寝れた?アルコール抜けた?」
ゆい、ゆたか姉妹も極々普通だ。
「「おじさんおはようございます」」
柊姉妹からもいつものようにあいさつが来る。
さすが家族and常連である。
特別なことではないことはわかっている。
あくまで日常だ。
「兄さんおはようって、もう昼すぎよ?」
そうじろうのような人種に慣れていないゆきからは一般人らしい反応が返ってくる。
「相変わらず不規則な夜型なの?」
あれ?もしかして心配されちゃってんのかな?
そう思ったわけだが
「まぁ兄さんは、もうしょうがないとして…
ゆたかやこなたちゃんに悪い影響がでないように気をつけてもらわないと…」
そんなことはなかったか、と思ったのだが、更に言葉が続いていく…
「…しょうがいっちゃしょうがないけどさ……
兄さんもいい歳なんだからそろそろ身体への負担とか考えなきゃダメよ?いつまでも若くはないんだから」
そんなことないこともなく、普通に心配されていた。
「……あ~…うん、確かに若くはないな、今も酒抜けてないなぁ~って感じてるもんな。
こんくらい問題なかったハズなんだがな……ほんと、いつの間にやら…だな
不規則なのも……職業柄ってのもあるのかもしれんし、趣味のせいでもあったりはするんだが…
夜型が一周すると朝に目が覚めたりして、普通の人のサイクルになってる時もあるにはあるんだがな」
さすがに笑い飛ばす訳にもいかず、さらに最近は自分でも何とは無しに感じ取っていただけに謙虚に答えてしまう。

そんな会話を聞いていたこなた達だったが
「悪い影響って……私に関してはちょーっと手遅れかもね~」
ボソっと悪びれもせずに呟く。ただし小声で。
「自覚してんのは素晴らしいが、改めようとはかけらも思ってないんだな」
安定のかがみのツッコミも、あちら側には伝わらないようにという配慮で小声だ。
「…普段の生活に支障をきたさない程度にはとどめてね?こなた」
幽霊の特性を生かして耳元でささやく。
「……う~ん、お母さんにそんなこと言われたら…頑張らないとだな、これは」
かなたにささやき返すのであった。

「ふむ、そうだな、記念撮影でもするか」
昼下がり、何か考え事でもしてたのかと思いきや、突然そんなことを切り出した。
「かなり豪華なメンツだし、こんな機会がまた来るとも思えないんでな……
つーわけでカメラの準備するから、みんなも準備しといてくれないかな?」
「およ、静かにしてたなと思ってたらそんなこと考えてたんだ。確かにお父さんの言う通りだね。
ほんと、たまにだけどいい事言うよね、写真撮ろうだなんて思いつきもしなかったよ」
こなたが茶化しつつも、GJ!とサムスアップをそうじろうに決める。
サムスアップを返したそうじろうが準備に取り掛かる。

「そういえば、おばさんは幽霊なのに写真に写れるんだよね」
「写れるって……まぁつかさの言う通りか。
なんかお盆の一件以来いろいろと非常識なことが続いてるせいで感覚が麻痺してきてるな」
「まぁまぁかがみ、それにつかさもだけど、とりあえず写真に写る格好はそれでいいの?
……聞いといてなんだけど、かがみたちにサイズが合う着替え用の服は当然ないけども」
そんなこなたの言葉に、かがみとつかさが顔を見合わせて頷きあう。
「これで大丈夫だよ」
「そうね、普段通りのほうがいいだろうしね
……あんたのことだからメイド服でも出して来るかと警戒してたけど」
なんというか安堵した表情のかがみに対して、
フフフッと、こんなこともあろうかと準備してあったのさとでも言いたげに
「ん~?実は着たかった?メイド服。無いわけじゃないよ?実は以前試しに作ったゆい姉さん用のならあったりするから。
ただ、かがみだとサイズが一回りは合わないかなぁ~特に胸回りはスカス…」
「着ないわよ!それに胸回り云々は余計じゃ」
こなたが最後まで話終わる前にかがみのツッコミが返ってきた。
「やれやれ、それは残念なことだ……さて、私は着替えてくるとするかね~」
こなたが意味ありげにニヤリとして振り向き部屋へと向かう。
「……なにをやらかす気なんだ?」
「お母さんのお古に着替えてくるだけだよ?」
ニマーとこなたが返す。
「それは良かった……」
かがみの安堵した表情を見て
「あれ?なに?コスプレでもし……」
「せんでいい!!」
こなたに最後までセリフを言わせないそのツッコミに、周りには笑いが巻き起こっていた。

そんなこんなでカメラも含めた準備が整った。
「さて、デジタルの方でちょっとテスト撮影するぞ~、ほら並んだ並んだ」
そうじろうに言われるがままにかなたを中心に一列に並ぶ。
「ほい、チーズ…んじゃ、も一丁、チーズっと……ちょっとみんなそのままで待っててな……」
なにやらカメラをちょろちょろと弄りまわし再びカメラを覗き込む。
「んじゃーいくよー…はいチーズっと……もう一回いくよ~…はいチーズ」
そしてカメラからTVへと映像を出力してみる。
「ファインダー覗く分にはかなたも写ってるんだが、肝心のセンサーが捉えてるかどうかだな~
お盆の時は、どう見ても心霊写真です、本当にありがとうございました。状態だったからなぁ~」
じゃーんと言いつつTV画面にあらわれた写真には…………
「ありゃ~4枚とも心霊写真にすらなってないな~~この前と違って、昼間だからなのか?
なんつーか、かなたが立ってる空間がなんとなく歪んでるような揺らいでるような、そんな感じだな
そこに居るの知ってるからそう見えるけど、知らなきゃなんか他の原因のせいにしちまうな~」
「お母さんは、やっぱデジカメとは相性が良くないんだね~」
「ああ~だな」
そうじろうとこなたがお盆の時の経験を踏まえて結論をだす。
「ま、いいさ。こいつじゃ多分だめだろうなって思ってたから」
デジイチを外し昔から愛用している一眼を据え付ける。
こなたが意外だ、と言わんばかりに
「あれ?カメラそっちなんだ、わたしはてっきりこの前の使うのかと」
「んん?こいつか?」
袖口からひょいとかなたのカメラを取り出して持ち上げる。
「こいつはこいつで使うけど、まずはコレでな。これの方が画角が広いしな」

「さて、みんな準備はいいかい?んじゃいくぞ?…そりゃ」
セルフタイマーが作動を始め、そうじろうがかなたの傍に立つ。
『カシャッ』
シャッターが下ろされ撮影が終わる。
「さて、次は撮影実績のあるこいつで撮るとするか」
ちゃちゃっとカメラを入れ替えファインダーを覗く。
「さ、手前と奥の二列になってもらおうかな。俺は後列に入るからな~……おし、いくぞ~」
再びタイマーが作動し始め、今度はそうじろうは一番後ろ…3列目に入る。
『カシャッ』

「さて、残りのフィルム分はみんなで好き勝手に撮るとするか、俺はこのデカブツで撮るから
かなたのカメラはこなた達で自由に撮っててくれ」
そういうとこなたにかなたのカメラを手渡す。
「うん、わかった」
そしてちょっとした撮影合戦が始まった。
ちゃんと撮れてるのか、その場じゃ確認できないその不便。
枚数制限が半端ないフィルム。
とりあえず数を撮ってうまくいったのだけ、良さげなのだけその場で選んで残りは消去など不可能。
1枚1枚を考えて、丁寧に撮影していかなければならない。
デジタルに慣れ切ってる身にはその制約が、失敗が怖くて緊張を呼んでしまう。
つかさに至ってはシャッター切るその指がプルプル震えている…
かと思えばこなたは能天気にカシャカシャと連写してみたり…

デジカメと違い、写ってるかどうか?何がどう写っているのか?全ては現像してからのお楽しみである。
「でもさ、一々現像待ちとかさ、面倒この上ないよね、一度デジカメの楽さ知っちゃうともう戻れないよね」
こなたがヤレヤレこのローテクめとでも言いげだ。
「確かにそうなんだが、この一手間にも味わい深いものがあるんだぜ?」
「私も将来はハマるかもしれないけど、今は別にいいかな?わからなくて」
今んとこ興味は無い、趣味に加える予定もないと伝える。
「こなたには俺の血も流れてるんだぜ?そのうちわかるようになるさ」
拒否反応にはついては特に気にする風でもなく、時が経てばこなたもハマってるよと言いたげだ。
「……ん~それは否定できないねwま~そん時はそん時でということで」
こなたもこなたで、そんなそうじろうのニュアンスを汲んでの返答をする。

「んじゃ、今から現像してくるから俺の部屋には入って来ないようにな」
カメラを回収して部屋へと撤収していった。

現像が終わるまで、各自フリータイムとなったが
かなたとゆきの二人がとにかく楽しそうに話していたのが、こなたの目に強く焼きついていた。
(幼馴染…それも1つしか歳が違わなくて、お隣さんで、いつも一緒で…ある意味姉妹だもんね
私とゆい姉さんやゆーちゃんとよりも濃ゆい関係だったんだろうな…)
と、ゆたかもかなたの方を気にしてるのに気がつく。
ん?と思い、昨夜の記憶を辿ってみると……
(あ~そういや、ゆーちゃんはお母さんと話をしてなかったっけな?)
「ゆーちゃん、お母さんにちょっと話があるから行くけど、一緒に行かない?」
ゆたかに話しかける。
最初、え?と虚をつかれたようにポカンとしていたが、言葉の意味を理解してすぐに
「うん!」
嗚呼、なんて素敵な笑顔。
その笑顔のためなら死ねる!
なんてセリフはさすがに言葉にはしなかったが、その笑顔を見るためならどんな労力も惜しくない
従姉妹とはいえ実質的な妹として、そんな子が自分の家にいることに幸せを感じずにはいられない。

「お母さん、ちょっといい?」
ゆき、ゆいとの3人で話が盛り上がってるところに話しかける。
「あら?どうしたの?」
かなたがこなたの方に顔を向けると、そこには可愛らしい女の子がこなたに隠れるようにしてこちらを伺っていた。
「あら?ゆたか?どうしたの?」
こなたがかなたに返答する前にゆきがゆたかに声をかける。
ゆたかがゆきに言葉を返す時間を与えないように、間髪入れずにこなたが答える。
「あ、いや、ゆーちゃん、まだお母さんと直接話してなくてさ……
それで…従姉妹っちゃー従姉妹なんだけど、実質、私の可愛い妹でもあるゆーちゃんを紹介しようと思ってね」
ゆきの問いに対するゆたかの返答を期待していたのでは、事態が進まないだろうというこなたの判断でもある。
そんなこなたの言葉を受けて、かなただけでなく、ゆきとその隣にいたゆきとゆいも笑顔でゆたかに顔を向ける。
こなたの影に隠れるようにしていたゆたかだったが、3人の視線を浴びてさらに緊張してしまう。
「ひゃう……あの…その…」
「大丈夫だよ、私がついてるから」
緊張でこなたの影に隠れてしまったゆたかにささやく。
「……う、うん」
(大丈夫、大丈夫……こなたお姉ちゃんが隣にいる。そもそも、伯母さん以外は家族なんだし)
フンッ!と両脇で拳を握り自分に気合をいれる。
「あ…ああ、あの…こなたお姉ちゃんのお母さん、初めまして、小早川ゆたかです!」
ガチガチに緊張しながらもなんとか言い切る。
「いや~~ゆたか、可愛すぎるわ~~」
一番に反応したのはゆきだった。
ぎゅーーーーっとゆたかを抱き上げる。
「え?あ?お、お母さん?」
嬉しいのだが、今は違うような……
どうすればいいのかわからずなすがままに流される。
「お母さん、ちょっと落ち着いて。今は伯母さんに自己紹介してる場面でしょ。
気持ちはわかるけど、私だって我慢したんだよ?」
こなたが突っ込みを入れようとしたが、意外にもその前にゆいから突っ込みが入った。
「あ、あら…おもわず、ね?」
これは失礼とばかりにかなたの正面に来るようにゆたかを降ろす。
かなたと向き合っているゆたかが緊張してるのが見て取れる。
そんな緊張を解きほぐすかのようにニコッと微笑む。
「初めまして、泉かなたです。泉こなたの母親をやっていました。
ダメなお姉さんかもしれないけど、これからもお願いね」
(やってましたって…過去形なんだ……いや、確かに間違っちゃいないけど…
そうだよね、今まで死んでたんもんね…難しいよね自己紹介)
母親やってました発言におもわず声が出そうだったが、頑張って踏みとどまる。
そんなこなたのとなりから
「こなたお姉ちゃんはダメなんかじゃないですよ?
勉強なんていつしてるんだろう?と思ってるのに普通以上の成績ですし,
…そして家事は完璧にできるんですよ?…ダメどころかすごいお姉さんですよ!」
力説するゆたかがまぶしすぎて正視できない。
「そんな、買い被り過ぎだってゆーちゃん」
下手に褒められると、こそばゆくて仕方がない。

「家事ができるのは女の子の憧れですよ」
それでもゆたかにとって、目標の人の一人であることに変わりはない。
こそばゆくてモジモジしちゃいそうだが、そこまで言い切られてしまうと悪い気はしない。
「いやいや…ありがと、でもね言うほどには完璧じゃないって、まだまだ失敗も多いよ、一通りできるってだけだよ」
一応、謙遜というか…事実を述べる。完璧って言えるほど極めてなんていないよと。
そっかぁとすこし残念そうなゆたかだが
「でも……お弁当を毎日自分で作って持って行くなんていうほど簡単じゃなかったですし」
(いや〜あれは勢いで言っちゃったからであって、私でも時間的に簡単なことじゃないんだけどね
…ゆーちゃんは料理の技術的なことを言ってるんだろうけど)
ゆたかの発言に戸惑いつつも、さらなるゆたかの発言にそなえてあえてノーリアクション。
「…その一通りできるってのが、やっぱり憧れるよ、すごいよ!
私はやっと自分のお弁当の他に食事当番もできるように……いや、まだ一人じゃちょっとだし…」
そう言ってくれるゆたかの視線が眩しい……
「ゆーちゃんありがと……いやぁ照れちゃうな、ゆーちゃんにそこまで言われちゃうと…私も、もっと頑張らないとだね!」
そんな言葉とは裏腹に姉として、自分は母の言うようにダメな姉なのではないか?とは常に感じている。
姉として一緒に生活を始めてから、まだ半年も経っていないけど、
あの見られている感というか、下手なことはできないな、
という年長者としてのプライドというかプレッシャーをひしひしと感じずにはいられない。
かがみとの会話でもそこら辺の『姉』というものの矜持について、なんどやりとりしたことか。
まぁそんなプレッシャーを受けつつも、結局は昔のまま変われてない自分がいるわけで
そんな自分はやっぱりダメ人間の部類に入る訳で。
だから、そんな自分なんか憧れるような人じゃないよ、と。
そんな思いがグルグルと渦巻き、会話の続きが上手く紡げなさそうだったこともあり
こなたが思わずゆいに助けを求めるように目を泳がせる。
「んん?何?やけに自信なさげな顔をしてるねぇ〜」
こなたの顔を見て即答である。
「あれれ?顔に書いてあったかな?……う〜ん、ゆい姉さんはやっぱすごいな」
「それそれ、今のその気持ちだよ。きっとゆたかはこなたのことをそんな風に思ってるんじゃないかな?」
間髪入れずに、こなたの今のその私に対する思いと同じだよ、と。
ぽんっぽんっとこなたの頭の上に手を置いて
「だから大丈夫だって、自分で思ってる程ダメじゃないから。こなただって私のことすごい姉だって言ってくれるけど、
私だって『いやいや、そんな大したもんじゃないですから』っていつも思ってるんだから
だからね、そんなに気負わなくてもいいんだよ、今まで通りで」
ゆいの言葉を受けて、そんなもんなのかな?という安堵が生まれる。
「だからって、今のままでいいって訳でもないのよ?」
せっかくの安堵もかなたによるクリーンヒットにより打ち砕かれる。
「そう君みたいな趣味のことを言ってる訳じゃないのよ?……できたら止めて欲しいかな?って思うことは思うけど
それは無理なお話でしょうし、趣味は趣味で他人がとやかく言うことじゃないとも思うしね。
今のままじゃダメよっていうのはね…夜更かし…という次元じゃ最早ないような気もしますが、
ちゃんと寝るべき時間には寝ててねってことと、遊びにばかり時間を使ってないで勉強もしないとねってこと…
宿題を写させてもらってるなんて……論外です。
そういうズルや人として曲がったことはしちゃいけませんよっていう部分ね」
言ってる内容とは裏腹にとても嬉しそうに語る。
「お姉ちゃんも、いざやるとなると大変なもんでしょ?」
こなたに言い終わると、ゆきとゆいの方を見てニコっとする。
ゆきはなにも語らなかったが、恥ずかしそうに微笑んでいた。
ゆいはえへへと嬉し恥ずかしな様子でにやけていた。

「よっしゃーーーーー!」
現像を終えたそうじろうが部屋から出てくる。
明らかに半透明ではあるが、しっかりとかなたが写っている。
「俺のデカブツで撮ったやつは白い何かだったんだが、かなたのカメラで撮ったやつはちゃんと映ってたんだ!
何が違うんだろうな?やっぱ、こいつにも魂が宿ってるんかな?主人がわかるんだろうな」
そういって、かなたの小さなカメラにスリスリとほおづりをする。
「焼き増しはまた今度な。ゆきんとこには郵送で送っとくからさ、今日んとこはみんな勘弁な
こんな人数分、今すぐには色々と無理なんでなw」
そんなこんなで本日の全イベント?をこなし、さんさんごごな午後が過ぎていく。

そして、夏が過ぎ……




「こなた〜いい加減寝ないと、明日の朝起きれないわよ?」
日付が9月1日に変わって暫くして廊下から声がかけられる。
「んん~、もう少ししたら寝るよ~」
こなたが答える。
(というか、普通に目が冴えてて眠れそうにないんだけど、どうしたものかね~)
昨日までの夜型生活のせいで、見事に覚醒中である。
さっきああは答えたものの…
「ま、全然眠くないし…ん~眠くなるまでこうしてますか」
そのままネトゲを続け、時計を見ればもうすぐ1時……
ふと気配を感じて振り向くと
「そんなことだろうと思ったわ…」
「うぉ!?」
いつの間にやらとなりにかなたが漂っていた。
「い、いつのまに?!」
「声かけても返事がないから、寝たか、ヘッドフォンしてゲームかアニメ見てるか
だろうなぁと思って、壁抜けして様子見に来てみれば……やはりね~
もう、ダメじゃない。眠くなくても横になって目を瞑ってるだけで
それなりには体力回復するものだから、とりあえずベットで横になってなさい」
もはや抵抗はムダと諦めて素直に明かりを落としてベットに潜り込む。
「……ふぅ……どうしよ、ちっとも眠くならないや……」
「子守唄でも歌う?」
かなたが冗談めかして言ってくる。
「え?へへへへ、別にいいって、なんか恥ずかしいし……
さてさて、とりあえず目を瞑っておきますか…」
眠れはしないものの、目を閉じておいてればそのうち寝れるだろうと思い
ぱっと見寝てるような状態になった。
かなたが見守るかのようにふわふわと漂っている。
ときたま、もぞもぞ~と動くのが寝付けてないのかな?と思わせる。

「ね~んねんころりよ~おこ~ろり~よ~♪」
さっき冗談っぽく言ったから、というのもあるが
ただ、なんとはなしに子守唄を唄いだしてみた。

その歌声が不思議と心に響く……
まるでラリホーでも唱えられたかのように意識が遠のいて行く。
(……むかーし……小さい頃…聞いた…こと…あっ…た…けな……)
それがそうじろうのなのか、ゆきのなのか、(夢の中での)かなたのなのか……
まどろみゆく意識のなか、ぼやけた記憶しか思い出せぬまま眠りに落ちて行った。

そして夜が明けて……

まだまだ夏の余韻が残るいつもどおりの9月1日の朝。
宿題は結局のところ終わりきっていない(内緒だけど)
これもいつもと同じだ、結局12年間一度も完遂していない。
さらに夜型の生活を続けていたせいで、この時間帯が眠くて仕方が無い。
これまたいつもと同じだ。
「うおっヤバい、初日から遅刻しそう」
ゆたかはとっくに出発しており独りで遅刻ギリギリの登校をする。
これも良く有ることだ。
「いってらっしゃい、気をつけてね~」
ただ一つ今までと違うことがある。
玄関で見送ってくれる母が居るということ。
いつまで居られるのか知る由もないのが残念ポイントだが、今はこうして居てくれてる。
それで十分、贅沢は敵ってものだ。
(へへ、お母さんが居る……いいね、こういうのって)
送り出してくれる母に笑顔で手を振る。
「いってきまーす」














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  • 随分と長い時が過ぎてしまいました。
    なんとか終わらせることができました。


    素人丸出しな文章にも関わらず、最後まで読んでくれた方々。
    ありがとうございました。


    -- まだry (2015-03-05 16:54:20)

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