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柊と40人の変態

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 ――ぽきっ。

 右手で本を抑えながら、左手に持ったお菓子の折れる音を聞いた。
 うん、やっぱりポッキーの醍醐味の一つはこの音よねぇ。
 そんな風が吹けば桶屋が儲かる程度には確実性のある持論を考えながら、私はこの誰もいない教室である人物を待っていた。

 ――ペラペラ。

 本が風でめくれて多少うっとうしい。
 窓を閉めればそれに悩まなくても済むかもしれないけど、この暑い中汗をかくのはごめんだ。

 誰もいない教室、本のめくれる音、そしてポッキーの折れる音。
 この三つの何処にでもありそうな音は、やはり何処にでもある日常をあらわしているようで少し歯痒い。
 もっとも、青春の日常というのはそれから過ぎ去って長い人から見れば日常さえも非日常のように楽しく感じられるのだろう。
 残念ながら青春真っ盛りの私たちはそのありがたみがわからないけど――
 でも、毎日が代わり映えの無い日常だからラノベの世界の非日常が面白いのだろう。
 その世界を羨ましく思っても、その登場人物も、現実の私たちと同じようにその世界の楽しさがわかってないのだ。
 なんてもったいない。
 こんな何にもならない考えをしているうちに、そう、ありふれた日常である今日が過ぎ去っていくのだ――

「かがみぃぃぃぃ!役所から婚約届け貰ってきたよぉぉぉぉぉ!これで結婚できるね!子供は何人作ろうかなぁ、新居は何処がいいかなぁ?大丈夫!産むのは交互交代制だから!」
「出来るか、住めるか、産めるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 私の親友というポジションであるところの泉こなたはありえないくらいの劣情をかもし出しながら私への求婚を迫った。
 もちろんそんな負のオーラに私が耐えられるはずも無く、気づいたときには教室を飛び出し絶望的な未来と共に走り出していた。

「あれ~?お姉ちゃんどうしたの?」

 教室を出るとそこにはつかさがいた。
 私はつかさの手をつかんでそのまま走る。

「お、お姉ちゃん、痛いよ。何してるの?愛情表現?」
「何してるも何も無いわよ!こなたがいきなり私に目に見える負の波動を垂れ流しながら私への黒色ブライダルを申し込んでんのよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「え?お姉ちゃん結婚するの?よかったね~」
「いいわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 つかさが満面の笑みで返してくる。
 私の望んだいい子に育ったけど、もうちょっと頼りがいが欲しいなあ。
 ……最初の言葉はノイズ、ノイズ、ノイズ、ノイズ、ノイズ。

「そっか~お姉ちゃん結婚するんだ~。寂しくなるな~。でも、大丈夫だよ。お姉ちゃんの(性的な意味で)大切な部分を貰うのは私だから」
「あんたもかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 つかさの手を思いっきり突き放し、見えない明日へランナウェイ。
 鬼は二人で私は一人。
 これはあの二人が相打ちになるのを願うしかない。
 と、そんな時目に入ったのは……。

「峰岸ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「ひゃうっ!?」

 背後から速さそのまま思いっきり抱きつく。
 おお、よく倒れなかったわね。
 すごいすごい。

「ど、どうしたの?柊ちゃん」
「助けて峰岸!精神および肉体年齢12歳の変態ロリオタクと私のかわいいつかさが紅いオーラとそこはかとなくフローラルな香りをかもし出しながら 
 キリモミ回転して私の(性的な意味で)大切なものを奪おうとしているのよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「お、落ち着こう柊ちゃん?私でいいなら力になるから、ね?」

 この間わずか0.3秒。
 峰岸~、やっぱりこいつはいい奴だ。
 日下部が甘えるのもわかる。
 中学時代に比べてこいつらのここ最近の扱いをぞんざいにしてたけど。

「でも……相手が妹ちゃんとは言え、女の子の大切なものを無理矢理奪うのは許せないね……」

 おお?峰岸が萌えて……もとい燃えている!
 日下部いわく怒った峰岸は怖いらしいからこれは頼りになるかも。

「わかった、柊ちゃん。私が妹ちゃんと泉ちゃんに自分がしようとしてることを教えてくるね」
「おお~!流石峰岸!」
「今回は、頼りにしてね。絶対成功させるから」
「うんうん!峰岸最高!グッジョブあやのん!」
「教えてくるよ……柊ちゃんのようなタイプは顔を羞恥の紅で染めてそれでいて少し反抗の念を見せるけど本当は奪って欲しくてたまらなくて最終的に自分から『奪ってください』って言わせるのが一番気持ちいいことを」

 前言撤回、こいつ萌えてた。
 ここはいつから変態共の魔窟と化したんだろうか。
 グッバイ峰岸、あんたにときめいた一瞬は黒歴史としてドームに封印しておくわ。
 幸運にも峰岸はあの二人の(きわめて負の方面の)説得に向かっているため時間稼ぎにはなるだろう。
 私はこの一瞬だけ峰岸に背中を預けてここを後にした。



 逃げ続けて20分。
 もはや信じられるものは自分という一つの鋼鉄の意志のみ。
 先程から変わった状況といえば、峰岸の話術によって鬼が40人になっていた。ちくしょう。
 後、その鬼は言うまでも無く全員女だった。畜生。

「あ、柊。休んでたときのプリントだが……」

 あれ、男子生徒だ。
 私と同じクラスの……誰だっけ?
 唯一つだけいえることは、これが初めての一般人との遭遇だった。

「男子生徒Aぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ゴフッボキャラマド!」

 変な音と同時に首が極めて鋭角的な方向に曲がっているのが見える。
 あ、極まっちゃった……?

「で、ありえないくらいの変態に絡めれて困っていると」
「うん、まあ……一言で言えばね……。普段特に話してるわけじゃない人に頼むのは都合がいいと思うけど、お願い、助けて!」

 僕はしばらく黙り込んで考える。
 柊かがみ――男子生徒の中でも人気があり、狙っている人物は多いが未だ告白した男子すらいないというある意味憧れの存在だ。
 それは特定人物以外には全くデレないからだ。もっとも、それが彼女の魅力の一つでもあるが。
 じゃあ今この状況を僕が助けるとどうなるだろう?
 答えは簡単、間違いなくフラグの一つや二つは立つだろう。
 僕も柊に興味が無いわけじゃない。
 はたから見てて結構かわいいと思うし、近づけるならお近づきになりたい。
 でも――

「ごめん、無理」
「な、なんで!?」
「だって――」

「だってまだ、刺されたくはないし」

 彼女の後ろを見ると、40人程度の(性的な意味での)血と(無論性的な意味での)汁に飢えた女子……もとい、獣が集ってきている。

「「「「柊ぃ~」」」」
「かがみ(さ~ん)~」
「お姉ちゃ~ん」
「ひっ!?」


 ここで柊を庇うとどうなるか?
 想像するまでもない。
 ……命で済むなら安いほうだろう。
 そんなことを考えているうちに、40もの獣ががいっせいに柊に襲い掛かる。

「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ――合唱。
 手を合わせて祈る。
 お気の毒に……。
 さ~て、帰るか。
 ここにいたらいいものが見れるだろうが、流石に高校生で一生もののトラウマを残したくは無い。

 ……あ、後日談を話しておくと、柊は峰岸とかと話すたびに微妙に顔を羞恥の紅で染めてそれでいて少し反抗の念を見せていた。
 ……いやぁ、しあわせそうでなによりで。





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コメント:
  • 峰岸はバイなのか -- 名無しさん (2011-04-13 11:25:22)
  • 俺なら助けるね、死んでもかまわない -- 名無しさん (2008-07-22 03:44:02)
  • ん~!
    かがみ、大変だね…
    がんばれ! -- 名無しさん (2008-07-21 23:50:40)

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