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雨降りの日に

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「あーあ、この分だと今日も一日中降るのかなぁ」
 梅雨だからと言ってしまえばそれまでだけど、もう少し晴れの日があってもいいのに。そんな
愚痴をこぼしながら、かがみはベッドの上に腰を下ろして濡れた髪と服を拭いている。
 屋根を打つ音は不規則に強まったり弱まったりの繰り返しで、いつ終わるとも知れなかった。
「ドーム以外の野球中継が中止になってくれるから、私にとっては恵みの雨だけどね」
「またアニメ? ホント、あんたからそれを取ったらいくつ好きなものが残るんだか」
 そうやって、かがみは芝居がかった身振り手振り――だめだこりゃとあきれた口調で
皮肉ってみせる。言われた通り、趣味が数えるほどしかないのはまぎれもない事実なんだけど、
さすがにこれはムッと来るよ。
 それを自分が片思いしている相手に言われたとなれば、なおさら自分が理解されていないように
思えて悲しいから……。
「失敬だなー。そういうかがみだって、案外趣味は少ないように見えるよ。ラノベとゲームと
間食を取ったら後は何が残るんだろね」
 少量の香辛料をパッと振りかけて同様の台詞を返す。ふふん、最初に仕掛けたかがみが悪いんだからね。
 辛口を薄めようというだれかさんの思し召しか、さっきより雨脚が強まっていく。
「ぐっ、間食は余計よ。それに私にだって、不本意でも好きな事や――くらい」
「……? なんで『不本意でも』がつくのか分からないんだけど」
 不意に湧き上がったかすかな疑問を喉元で食い止めて聞く私に、かがみは「んもう、鈍感なんだから」と返す。
「それがよりにもよって、誰かの世話を焼く羽目になる事だからよ。一人にしておくとどうなるか
分かったものじゃない子もいる事だし」
 真っ先につかさの顔が思い浮かぶ。つかさは絵に描いたような天然ドジッ娘だからねぇ……。
「で、どうしてこっちをチラ見しながら言うのかな」
「どうしてって、あんたがその定義に入っちゃってるからじゃない。暴走する可能性があるものには
得てして安全装置がつきものでしょ?」
 売り言葉に買い言葉、これもさっきの仕返しなんだろうけど、またずいぶんとひどい言われ様。
「むぅ、人を物騒なものみたいに言わないで欲しいなぁ……」
「ある意味当たってると思うけどね。懲りずに人前で白色矮星並みの質量を持った弾丸を発射したし」
 うぁ、ひょっとして公衆の面前で『かがみ様』って呼んだ事根に持ってない? まずい。非常にまずい。

「さ、与太話はおいといて、次はこなたの番よ」
「へ?」
 根に持っているのと、もっとすごい報復を受けるかも、という予想は私の心配しすぎだったみたいだ。
かといって、事態は全く好転していないんだけども。
「何鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてんのよ。私がちゃんと言ったんだから、あんたも告白するのが
筋ってもんでしょうが」
 そんな私を気にする風もなく、先を急かすかがみ。心なしか、早くこの話題を終わらせたいと
焦っているように見えた。
「……」
 それをきっかけに、落ちそうだった魚の小骨ほどの引っかかりが再び鎌首をもたげてくる。「ちょうど
雨にさえぎられた部分、あそこをかがみはなんて言ったんだろう」って。
「さ、早く白状しちゃいなさいって」
 決心してしまえば、後はそこまでの道をたどるだけだった。私はかがみの用意したレールに
乗せられることなく、こともなげに言う。
「……今は、まだ言えないよ」
「ちょっと。それ卑怯じゃない?」
 あからさまに不満の声を上げるかがみ。そこへ続けて、具体的な箇所はあえて指摘せずに疑問をぶつける。
「全然。かがみがもう一つの事について話してくれたら、その時言うのじゃだめかな」
「……」
 このまま逃げ切れると見積もっていたんだろう。何馬身もついていた差を最後の直線で詰められ、
かがみは固く口を閉ざしてしまう。
「それとも、今口にすると何か不都合でもあるの?」
「……そう、かもね」
「……」
 どちらかがどちらかを引き離す事もなく、並走したままお互い沈黙が続く。灰色の空から
降り続けるシャワー音がテレビに映る砂嵐のそれと同じに聞こえる。次の風景が脳裏に映らなくて
うかつに口を開けない。

 そんな均衡を破ったのは、普段ならなんでもない仕草――鼻をムズムズさせたかがみが、口を
押さえてかわいいクシャミを漏らす。
「はくちゅんっ!」
 この時ばかりは天の助けに思えたその効果音に、はっと我に帰った私はかがみに告げた。
 なんとかして状況を変えないと、どうなるか本当に分からなかったから。
「ほらほら。風邪でも引いたら元も子もないから、シャワーを浴びてきなよ」
「……うん。そうする」
 恐らくかがみも同じ心境だったんだろう、ほっと一息ついて立ち上がる。
「着替え、私の服でなるべくゆったりしたのを探しておくから」 
「ありがと。じゃあ、行ってくるね」 
 どこかぎこちない笑顔で、かがみは部屋を後にした。

 パタン、と扉が閉まってから足音が遠ざかるのを確認し、ようやく一息つく。
「いつになったらちゃんと言えるんだろ……」
 以前に比べてお互い憎からず思っている度合いが増しているのは分かっている。そしてそこから
先に進めない理由も。
形ある答えを出す方法が浮かんでは消えていくけれど、今はとにかく目先の問題――たとえそれが
本題の先送りになっても、二人ともシャワーを浴びた後は服が乾くまでどうやってかがみと過ごすかに
考えを巡らせていよう。
 この季節の天気同様、心に晴れ間がまだ差さなくても、きっとどこかでその時は来ると思うから。

 まだ今より小さかった頃に聴いた事がある歌と想いを合わせて口ずさみながら、
私はかがみから借りて未だ読みかけのラノベに手を伸ばしていった。


 今もまだ君への想いを言わないのは
 愛情も友情も大事だから
 あの日から二人の距離が近づいても
 君と居るその時は いつもRainy day―
 (FIELD OF VIEW『Rainy day』)



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