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続・私だけのお姉ちゃん

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雨の中、私はこなちゃんの家に向かって自転車をこぎ続ける。
おでこにまとわりつく髪、濡れる服。
そのどれもが気持ち悪い。
でも、その存在よりももっと許せないもの。
私のもっと許せないもの。
それを殺すために私は駆ける。
こなちゃんの家まではもう少し。
こなちゃんが死ぬまで、もう少し。


「うおっ、だ、大丈夫、つかさ。そんなびしょ濡れで」
玄関に出てきた私を、こなちゃんは驚きの表情で出迎えた。
ふふふ、何驚いているの?
そんなものよりも、自分の命の心配をしたほうがいいんじゃないの。
家の奥からもってきたバスタオルで私の頭をごしごし拭くこなちゃん。
そんなことしても、お姉ちゃんは見ていないんだよ?
ポイント稼ごうとしたって、無駄なのに。
「用事もいろいろあると思うけれど、このままじゃ風邪引いちゃうし、
 とりあえずお風呂入った方がいいよ。今日は私以外誰もいないから大丈夫だしさ」
へぇ、それは好都合だね、こなちゃん。
ここでこなちゃんを殺しても、明日の朝まで誰にも見つからない。
誰にも見取られず、一人で死んでいくなんてこなちゃんにお似合いだ。
こなちゃんは私に背を向けて、お風呂の湯温を操作している。
鬱陶しいほど長い髪の毛が、向こうでわさわさと揺れている。
まったく隙だらけ。自分を殺そうとしている殺人鬼がすぐ後ろに迫っているというのに。
一歩、二歩、足音を殺してこなちゃんの後ろに忍び寄る。
三歩、四歩、鞄に隠していた出刃包丁を取り出す。
五歩、六歩、包丁をこなちゃんの背中に向けて振り上げ……
「そういえばつかさ、一体何のよ……」
その後に言葉は続かない。
ごふっ、と空気の漏れる音とともに、こなちゃんの口からあふれ出た血が床に広がる。
綺麗な赤が床を染める。


やった、やったよお姉ちゃん。
ついに邪魔者がいなくなった。私からお姉ちゃんを奪う邪魔者が。
こなちゃんがいなくなってすぐはとっても悲しいかもしれないけれど、
でも、私が癒してあげる。
きっと後になったら、こなちゃんがいなくなってよかったと思えるようになるから。
こなちゃんの体が力を失って床に倒れこむ。
ぬるっとした血に手が滑って、出刃包丁が手から離れる。
背中に出刃包丁を突き刺したまま、こなちゃんは床に横たわった。
「ごほっ……なんで、どうして……つかさ」
信じられないものを見るような目でこちらを見るこなちゃん。
私はゴミ虫のように這い蹲るこなちゃんを見下ろす。
まだ、気づいていなかったの? 私がこんなに傷ついていたのにしらんぷりなの?
「こなちゃんは私の大切なお姉ちゃんをとっちゃったんだよ。
 こなちゃんより私のほうがお姉ちゃんと長い間一緒にいるのに、
 こなちゃんより私のほうがお姉ちゃんの事をいっぱい知ってるのに、
 こなちゃんより私のほうがお姉ちゃんの事を長く想ってるのに、
 私のたった一人の、一緒に生まれたお姉ちゃんなのに、
 どうしてこなちゃんはそれを奪うの? なんで私より先に「私の」お姉ちゃんを横取りしてるの?」
地面にはいつくばったこなちゃんは、私に蹴飛ばされる度に小さく声を上げる。
何? いまさらかわいそうな振りをして被害者面するの?
そうやってかわいそうな振りして、私からお姉ちゃんを奪っていったんだね。
もう、許さない。
こうやって蹴っ飛ばしててもこなちゃんは死なない。
ううん、この程度の痛みで許さない。
そのためには、こなちゃんの背中の出刃包丁を回収しないと。
「このまま死ぬなんてことは許さない。
 逃げられないようにあの鬱陶しいほど長い髪で両腕を縛って、
 体のあちこちに包丁を削ぎとって、突き刺して、
 私と同じだけ苦しんで、生まれてきたことを後悔しながらこなちゃんは死ぬの」
こなちゃんの血でべたべたする包丁の柄をハンカチで包んで、こなちゃんの背中から引き抜く。
くぐもった、押し殺した声と、ごぼっと傷口から沸き立つ鮮血。
ああ、このハンカチお気に入りだったのに。もう血でべたべただよ。
最後までこなちゃんはうっとおしいなぁ。
「わ……私、つかさのことずっとずっと苦しめていたんだね」
何、いまさら命乞い?
死に際になってこなちゃんは血迷った事を呟きだした。
やっぱり、最初に気管を掻き切らなかったのは失敗だったのかな?
よし、次は喉を突き刺そう。
それも、すぐ死なない程度に、ずっと苦しめるように加減して。
「私、つかさのこと、大好きだったのに……」


カラン
床に出刃包丁が落ちて、跳ね返る音。
「私、ずっとつかさの家みたいな暖かい家、つかさみたいな家庭的な女の子に憧れていたんだ。
 お母さんが死んじゃってから、私お父さんと二人暮らしでさ、
 作る料理もお父さんから習ったものばかりだから男の料理みたいで大味でさ、
 つかさみたいな女の子らしい、かわいい料理が作ってみたかった」
なに、私、どうしたの?
あんなにこなちゃんが憎らしかったんじゃない。
なんで、どうして体が動かないの?
「最初に会ったときのこと、覚えてる?
 つかさが外国の人に絡まれていると思って助けに入ったときのこと。
 それまでにも何度もつかさの事見てた。何度も声かけようとして、
 でもつかさは結構人見知りするみたいで声かけづらかったしさ、
 だからあの時は、ちょっとだけチャンスって思っちゃった。
 私はつかさみたいにかわいらしい事はできないけれど、つかさみたいな女の子を助ける事ができる。
 私はお姫様にはなれないけれど、お姫様を守る騎士にならなれる。
 でも、本当は私、ずっとつかさを苦しめていたんだね……」
「う、うそ、だってこなちゃんはお姉ちゃんのことばかり見ていた。
 私のことなんかいつもほったらかしで、いつもお姉ちゃんのことばっかり見てたのに」
「それは……ごめんね。本当はずっとつかさと話したかった。でも、ついつい話し易いかがみのほうへ逃げちゃってた。
 私みたいなのがつかさに話しかけたら、純粋なつかさが壊れちゃいそうで……でも、ごめんね、つかさ。私の……せいだよね」
うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ……
私はその場に崩れ落ちる。
ぬるっとした血の海に膝をつく。こなちゃんの体を抱きかかえる。
背中の傷口からあふれ出る血、血、血……
「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛……」
止まらない、止まらないよ。
なんで、何で私、こんな酷い事したの?
早く、早く助けないとこなちゃんが、こなちゃんが死んじゃう!!
「あはは、つかさが私をぎゅっとしてくれたの、初めてだね。
 本当はずっとこうしてほしかった。つかさに、ぎゅっとしてほしかった」
「そ、そんな事言っちゃダメだよ。それってこなちゃんが前に言ってた死亡フラグだよ。
 こんな事言ってたら、こなちゃん死んじゃうんだよ!!」
「あはは、つかさ、そこはボケるとこじゃないよ。せっかくの感動のシーンなんだしさ……」
こなちゃんが私の手をぎゅっと握る。
血でべたべたする手。こなちゃんの柔らかい、小さな手。
「でも、つかさに殺されるなら……ちょっとだけ幸せかな」
こなちゃんは弱弱しく微笑む。
こなちゃんの手が力を失って、血の海にべちゃりと崩れ落ちた。












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  • 悲劇ではあるが愛があるので欝ではない、俺独自の分類では。 -- 名無しさん (2009-12-31 08:35:10)
  • なんという救われない話w -- 名無しさん (2009-12-22 21:50:44)
  • クリスマス直前なのに、なんという悲劇SSwww -- 名無しさん (2009-12-22 21:37:05)
  • 悲しみの向こうへと〜?
    たどり着けるなら〜
    僕はもういらないよ〜
    温もりも明日も〜 -- 名無しさん (2008-01-21 19:34:36)
  • 鬱的な話は好きだけど、泣いたのは初めてだわ… -- 名無しさん (2008-01-12 10:41:32)
  • BGM:悲しみの向こうへ -- 名無しさん (2008-01-10 06:13:00)
  • なんという救いがたい話……何だか泣けてくるぜ -- 名無しさん (2007-09-20 02:55:06)

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