- 序章
「平安時代ってさ……萌えるよね」
「……はぁ」
いつもの昼休み。
いつもの友人からいつもの妄言が耳を通り抜け、口からいつもの曖昧な返事が漏れる。
とりあえず、おかずを取ろうとした箸を止める。
「何よいきなり……脳に蛆でも沸いた?」
「お姉ちゃん、それは酷いよ……」
向かいの席のつかさから声が飛ぶ。
いいのよ、調子に乗るじゃないまた。
「だってさだってさ、皆着物だよ? 十二単とかさ、一度は着てみたいじゃん? 雅じゃん?」
はしゃぐいながら無駄に手でジェスチャーをつけているが、十二単をどうジェスチャーするんだか。
「しかし十二単は、大分重いと聞きますよ」
と、私の隣からみゆきが口を挟む。
まぁそりゃ、十二枚も着てればね。
「重いって、どれくらい? みゆきさん」
こなたやつかさが首を傾げる。
「正式名は五衣唐衣裳といいまして、本当は十二枚着るものではないのですが……ええと、大体20キロ。といったところでしょうか」
「んげっ」
指折り数えるみゆきに、こなたの顔が曇る。
さらに十二単は後からつけられた俗称だ、と付け加えるみゆき。
へー、それは初耳。
「あははっ、あんたじゃ潰れちゃうわね。雅が聞いて呆れるわ」
「むぅー、かがみは浪漫がないなぁ」
と頬を膨らませながら自分の弁当箱から玉子焼きを摘む。
「浪漫? どの辺りがよ」
「だってほら、私たちも着てたかもだよ。前世で」
……。
また何か、途方もない事をいいだしたよこいつは。
誰か、ヒロユキを呼んで来て。
ニシムラじゃねーよ、エハラだよ!
「ええと、何だって?」
とうとう私の友人からも、電波出身者が出たのか?
前世は大天使ミカエル様でーす、とか。
あのー、キリスト教に輪廻の概念ないんですけど。
「ほらよく言うじゃん……えっと、袖が触れたらどうこうって」
「袖?」
つかさが首を傾げる。
袖が……ああ、そういうことね。
あんたにしては、洒落たこと言うじゃない。
心配したわ、血管から蛆が沸いたんじゃないかって。注射器注射器。マジックマジック。赤いカプセル赤いカプセル。
「袖触れ合うもタショウの縁、ですね」
「そそ、それそれ」
みゆきにも何とか意味は通じたみたい。
つかさも頭を悩ませたあと、思いついたような顔をする。
あ……今嫌な予感が走った。
テリーなら靴紐切れてるレベル。
「あ、聞いたことあるよ。袖が触れた人は少しくらい縁があるってことだよねっ!」
と……自信満々で言われた。
この笑顔がまた、痛々しい。
「あ、あの……ええと」
みゆきも慌ててる。
このやるせない空気を打ち砕く勇気は、生憎私にはないみたい。
「……いいの、みゆき。世間の辛さを教えてあげて」
「ふぇ?」
本人はまだ顔に?が浮かんでるのが、姉として悲しい。
「ええと、ここでいうタショウは『多少』ではなく『多生』と言いまして……生まれ変わりや前世のことを言うんです」
「えっ、そ、そうなのっ!?」
一気につかさの顔が真っ赤になる。
たまに居るのよね、意味を取り違えてる人って。
……まさか自分の妹がそうだとは思ってなかったけど。
「つまり、袖が触れ合うようなことでも、それは何度も繰り返された過去の世の縁によるもので、すべては理由のないただの『偶然』ではなく、縁によって定められた『必然』である。という意味です」
「へ、へぇー……?」
みゆきの長い説明に頷くつかさ。
この顔は、理解出来てないみたいだけど。
というか最後まだ疑問符ついてるし。
はぁ……まったく、仕方ないわね。
みゆきの説明で大分空気も緩和されたし、少しは妹を助けてやらないと。
「簡単に言えば、袖が触れたぐらいでも前世では縁がある。ってことよ」
「そ、そう……なんだ」
私の短い説明で、何とか理解はしたらしい。
まぁそれぐらい覚えておけば恥はかかないでしょ。
「でもこなた。あんたよく知ってたわね。てっきり間違って覚えてるかと思ってたわ」
そして話を持ち出した張本人に話を向ける。
「ああー、よくマンガでネタになるからね」
そっからかよ!
期待した私が馬鹿だった! 絶望した!
「だから袖が触れたぐらいで前世に縁があるならさー、こうやって一緒にご飯食べてる私らも縁ぐらいあったかもねーってこと」
「あははっ、それ面白いね」
「ええ、夢のある話ですね」
こなたの言葉につかさやみゆきも共感し、平安時代に思いを馳せる三人。
私は……いまいちピンと来ないかな。
こなたやつかさやみゆきが、和服を着て宮廷を雅に歩いてる姿なんて想像も出来ないし。……特に最初の人。
それに神職の父の娘が言うのもなんだけど、前世だなんて馬鹿らしい。
今は今、それで十分だと思わない?
輪廻転生? リーンカーネーション?
はっ、迷惑なだけね。
何度生き返ったからって、意味があるわけ?
私が信じるのは、アキヒロの天草四郎だけよ!
……なんて事言ったら話の腰折りそうだから止めとこう。
「……はぁ」
いつもの昼休み。
いつもの友人からいつもの妄言が耳を通り抜け、口からいつもの曖昧な返事が漏れる。
とりあえず、おかずを取ろうとした箸を止める。
「何よいきなり……脳に蛆でも沸いた?」
「お姉ちゃん、それは酷いよ……」
向かいの席のつかさから声が飛ぶ。
いいのよ、調子に乗るじゃないまた。
「だってさだってさ、皆着物だよ? 十二単とかさ、一度は着てみたいじゃん? 雅じゃん?」
はしゃぐいながら無駄に手でジェスチャーをつけているが、十二単をどうジェスチャーするんだか。
「しかし十二単は、大分重いと聞きますよ」
と、私の隣からみゆきが口を挟む。
まぁそりゃ、十二枚も着てればね。
「重いって、どれくらい? みゆきさん」
こなたやつかさが首を傾げる。
「正式名は五衣唐衣裳といいまして、本当は十二枚着るものではないのですが……ええと、大体20キロ。といったところでしょうか」
「んげっ」
指折り数えるみゆきに、こなたの顔が曇る。
さらに十二単は後からつけられた俗称だ、と付け加えるみゆき。
へー、それは初耳。
「あははっ、あんたじゃ潰れちゃうわね。雅が聞いて呆れるわ」
「むぅー、かがみは浪漫がないなぁ」
と頬を膨らませながら自分の弁当箱から玉子焼きを摘む。
「浪漫? どの辺りがよ」
「だってほら、私たちも着てたかもだよ。前世で」
……。
また何か、途方もない事をいいだしたよこいつは。
誰か、ヒロユキを呼んで来て。
ニシムラじゃねーよ、エハラだよ!
「ええと、何だって?」
とうとう私の友人からも、電波出身者が出たのか?
前世は大天使ミカエル様でーす、とか。
あのー、キリスト教に輪廻の概念ないんですけど。
「ほらよく言うじゃん……えっと、袖が触れたらどうこうって」
「袖?」
つかさが首を傾げる。
袖が……ああ、そういうことね。
あんたにしては、洒落たこと言うじゃない。
心配したわ、血管から蛆が沸いたんじゃないかって。注射器注射器。マジックマジック。赤いカプセル赤いカプセル。
「袖触れ合うもタショウの縁、ですね」
「そそ、それそれ」
みゆきにも何とか意味は通じたみたい。
つかさも頭を悩ませたあと、思いついたような顔をする。
あ……今嫌な予感が走った。
テリーなら靴紐切れてるレベル。
「あ、聞いたことあるよ。袖が触れた人は少しくらい縁があるってことだよねっ!」
と……自信満々で言われた。
この笑顔がまた、痛々しい。
「あ、あの……ええと」
みゆきも慌ててる。
このやるせない空気を打ち砕く勇気は、生憎私にはないみたい。
「……いいの、みゆき。世間の辛さを教えてあげて」
「ふぇ?」
本人はまだ顔に?が浮かんでるのが、姉として悲しい。
「ええと、ここでいうタショウは『多少』ではなく『多生』と言いまして……生まれ変わりや前世のことを言うんです」
「えっ、そ、そうなのっ!?」
一気につかさの顔が真っ赤になる。
たまに居るのよね、意味を取り違えてる人って。
……まさか自分の妹がそうだとは思ってなかったけど。
「つまり、袖が触れ合うようなことでも、それは何度も繰り返された過去の世の縁によるもので、すべては理由のないただの『偶然』ではなく、縁によって定められた『必然』である。という意味です」
「へ、へぇー……?」
みゆきの長い説明に頷くつかさ。
この顔は、理解出来てないみたいだけど。
というか最後まだ疑問符ついてるし。
はぁ……まったく、仕方ないわね。
みゆきの説明で大分空気も緩和されたし、少しは妹を助けてやらないと。
「簡単に言えば、袖が触れたぐらいでも前世では縁がある。ってことよ」
「そ、そう……なんだ」
私の短い説明で、何とか理解はしたらしい。
まぁそれぐらい覚えておけば恥はかかないでしょ。
「でもこなた。あんたよく知ってたわね。てっきり間違って覚えてるかと思ってたわ」
そして話を持ち出した張本人に話を向ける。
「ああー、よくマンガでネタになるからね」
そっからかよ!
期待した私が馬鹿だった! 絶望した!
「だから袖が触れたぐらいで前世に縁があるならさー、こうやって一緒にご飯食べてる私らも縁ぐらいあったかもねーってこと」
「あははっ、それ面白いね」
「ええ、夢のある話ですね」
こなたの言葉につかさやみゆきも共感し、平安時代に思いを馳せる三人。
私は……いまいちピンと来ないかな。
こなたやつかさやみゆきが、和服を着て宮廷を雅に歩いてる姿なんて想像も出来ないし。……特に最初の人。
それに神職の父の娘が言うのもなんだけど、前世だなんて馬鹿らしい。
今は今、それで十分だと思わない?
輪廻転生? リーンカーネーション?
はっ、迷惑なだけね。
何度生き返ったからって、意味があるわけ?
私が信じるのは、アキヒロの天草四郎だけよ!
……なんて事言ったら話の腰折りそうだから止めとこう。
ともあれその日の昼休みは、その話題でもちきりだった。
やれ宮廷の造りがどうだの、結婚が早かっただの。
みゆきの口からはどんどん平安知識が漏れていく。
なんでも昨日一日で源氏物語を読み終えたらしい……みゆき、恐ろしい子。
気分はまさにそう、平安時代。
宮廷装束を纏って飲めや歌えや、貴族の雅で優雅な世界。
そうだ……それの所為。
絶対、それの所為に違いない。
その夜……あんな夢に誘われることになったのは。
話はとりあえず、そこから。
そう、そこから。
やれ宮廷の造りがどうだの、結婚が早かっただの。
みゆきの口からはどんどん平安知識が漏れていく。
なんでも昨日一日で源氏物語を読み終えたらしい……みゆき、恐ろしい子。
気分はまさにそう、平安時代。
宮廷装束を纏って飲めや歌えや、貴族の雅で優雅な世界。
そうだ……それの所為。
絶対、それの所為に違いない。
その夜……あんな夢に誘われることになったのは。
話はとりあえず、そこから。
そう、そこから。
(続)
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- 今まで読んでなかったのだが…ワクワクしてきたぞ! -- 名無しさん (2008-05-12 03:16:33)
- 不覚にもヒロユキのくだりで爆笑してしまった -- 名無しさん (2007-09-14 02:02:00)