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らっきー☆すたーであんらっきー!?

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だれでも歓迎! 編集
 「それでは、今日の占いーっ、らっきー☆すたー!!」
 女性アナウンサーのはきはきとした声が流れる中、柊かがみは朝食を頬張りつつ、ぼん
やりとテレビへ顔を向けた。

 「今日、最も良い運勢は…」

 画面に表示される本日第一位の星座を眺めながら、かがみの頭に浮かぶのは、もうそん
な時間なのかということだった。花も恥じらう女子高生としては、甚だ間違った思考であ
ろう。
 それに比べて、テーブルの向かいに座る妹のつかさは、パンを手に持ったまま、口に運
ぶことも忘れるほど熱心に画面に見入っている。
 姉妹にしてこの違い。本当に双子なのかと首をかしげたくなる程だ。
 尚、今日に限って姉妹揃って朝から牛乳を飲んでいるのは、別に友人である某眼鏡天然
お嬢様のバストサイズに関係した話では全くない。
 妹のそんな様子に苦笑しつつ、口に含んだ目玉焼きを嚥下し、牛乳を流し込むと、かが
みは促すように声を掛けた。

 「ほら、つかさ。パン、冷めちゃうわよ」

 その声に、はっとしたようにつかさは手にしたパンを口に運ぶと、そのまま動きを止め
て、かがみの顔をじっと見つめた。

 「何、どうかした?」

 視線に気付き、手にしていたコップを下ろして訊ねると、倣うようにつかさもパンを皿
に戻し、上唇と鼻の間を両手の人差し指で押さえるような仕草で言った。

 「お姉ちゃん、口に牛乳のお髭がついてるよ」
 「えっ!?」

 はじかれたように口元を押さえると、慌てて手の平で拭う。朝から牛乳を飲むこと自体
が久しぶりであるためか、長いブランクから、普段の彼女からはとても考えられない、―
―いや、充分に考えられる失態であった。
 家の中であったのがせめてもの救いか。よく見ると、羞恥のためか耳まで赤くなってい
る。もしこれが学校であったなら、そう思うかがみの脳裏には、自分をからかうように猫
口で笑う人懐こい顔が浮かび上がる。


 「……取れた?」

 手を外し、蚊の鳴くような声で訊ねると、つかさは再びパンを頬張りながら、「うん」
と頷いた。
 その言葉を聞いて安心したのか、「ふう」と一息ついたかがみは、手と口周りを洗おう
と立ち上がり、

 「そして今日もっとも悪い運勢はー……、ごめんなさい、蟹座のあなた!」

 という言葉を耳にした。慌ててテレビ画面を振り返る。そこには、疑いようもないほど
はっきりと、自分の星座が最下位であることが表示されていた。
 普段から占いなど信じないタイプのかがみではあるが、いざ自分の星座が最下位だと目
の前で言われると、さすがに少し心にひっかかりを覚える。ましてやたった今、いくら身
内の前とは言え、牛乳髭などという醜態を晒した後では特に。
 よく見ると、双子であるから当然同じ星座であるつかさも、ショックのためか、食事の
手を止めて呆然と画面に見入っている。

 「でも、大丈夫!」

 爽やかな朝の空気の中、突如固まった柊家の空気を何とかしようと思ったのか、はたま
た決まった流れなのか、もちろん後者であるが、女性アナウンサーの声が二人を宥めるよ
うに響く。

 「そんなあなたを助けてくれるおまじないはー……」

 数秒の溜め。思わず二人の喉が鳴った。つかさだけではなく、いつの間にか、かがみの
顔も真剣そのものだ。画面を食い入るように見つめる瞳は瞬きすら忘れている。
 尚、この時かがみの上唇周辺の産毛が、ところどころ乾いた牛乳片によりきらきらと輝
いていたことは、誰も気付かなかったので割愛する。
 このままCMに入れば、残り時間を確認したつかさが是非の判定を下してくれたであろう
が、今回はクイズでなく占いであるため、そうはならなかった。当然CMも入らない。
 そうして永遠に近い2秒弱が流れた後、画面の切り替わりと同時に女性アナウンサーの
声が響いた。

 「好きな人とハグをする!」
 「ええーッ!?」

 間髪入れず聞こえた叫び声は一つ。その声に驚いた顔も一つ。前者は、思わず阿呆毛を
ひょこひょこ踊らせつつにじりよる人物が思い浮かび、それを必死に否定するための悲鳴
であり、後者はその声に反応して竦み上がった彼女の妹のことであった。
 つかさはかがみを見つめ、かがみはテレビの画面を見つめ続ける。再び固まりかけた空
気を動かしたのは、今度もやはりテレビから流れる声だった。

 「それでは、今日も元気に、いってらっしゃい」

 画面が切り替わり、違う番組が始まったことで我に返ったかがみは、手と顔を洗いに行
く途中だったことを思い出し、ぎくしゃくと洗面所へ向かった。


 洗面台の前に立ってまず思ったのは、鏡に映った自分の顔が、我が事ながらツッコミた
くなる程真っ赤であるということだった。
 それと同時に、先程のおまじないとやらが脳裏に浮かび、併せて身長の低さをアホ毛で
補う彼女の顔が思い出され、更に顔が赤くなる。
 そんな思考を振り払うように、かがみはぶんぶんと首を振り、蛇口を捻って流水に手を
浸した。熱を持った手の平に、冷たさが心地よい。そのまま、髪を濡らさないよう注意し
つつ顔を洗うと、顔の火照りも取れ、気分も落ち着いてきた。

 「よしっ」

 タオルで顔と少し濡れた前髪を拭き、大きく息を一つ吐く。もうすっかりいつも通りだ。
 そのまま歯磨きを終え、捲っていた袖を下ろし、外していた腕時計を巻いて廊下に出ると、つかさが待っていた。
 かがみの鞄を差し出しながら、声を掛ける。

 「お姉ちゃん、そろそろ行かないと遅れちゃうよ」
 「ん、ありがと。そうね、遅れたらこなたの奴に何言われるか分かったもんじゃないわ」

 答えながら、手を出して受け取ろうとするもタイミングが合わず、落ちた鞄がかがみの
つま先を強打する。

 「ぐあっ!!」
 「ご、ごめん、お姉ちゃん。大丈夫?」

 慌てて姉の様子を気に掛けて屈もうとしたつかさの頭と、返事をしようと顔を上げたか
がみの額が、これまた見事にぶつかった。

 「きゃっ!」
 「あうっ!!」

 痛みと衝撃で落としたつかさの鞄が、自らのつま先にヒットする。

 「ひああっ!!」

 しばらく悶絶する二人。連続して聞こえる悲鳴を気に掛け、様子を見るために廊下に出
た母親が見たものは、仲良く丸まって足のつま先を押さえつつ、ぷるぷると震える姉妹の
姿であった。


 「ぅおはよーっ」

 頭の天辺から飛び出たアホ毛をリズミカルに揺らしながら、泉こなたが待ち合わせ場所
に立つ二人に向かって元気に手を振る。周囲には会社員や他の学生等の姿も見られるが、
そんなことはお構いなしだ。

 「……って、どったの? 二人とも」

 遠目では気付かなかったが、近くで見ると二人の表情が妙に暗い。何故か二人とも額が
赤く腫れているし、かがみは右の靴が泥で真っ黒だし、つかさはスカートのお尻のところ
に砂埃がついていた。

 「こなちゃーん!」

 怪訝そうに近づくこなたが射程圏内に入った途端、つかさが涙を滲ませながら、飛びつ
くようにして抱きついた。身長差があるために、思わず倒れそうになる体を、しっかりと
踏ん張って何とか支える。

 「う、ぐ……、ど、どうどう。つかさ、落ち着いて」

 宥めるように背中をぽんぽんと軽く叩きつつ、傾いていた身を起こすと、つかさの後ろ
でまごついたように立ち尽くすかがみの姿が目に入った。

 「二人とも何かあったの?」

 つかさに抱えられたまま、こなたが小首を傾げつつ重ねて訊ねると、ようやくかがみは
状況に気付いたのか、二人を引き離しにかかった。
 そんな三人がじたばたと絡み合う内に、車輪の軋む音を響かせながら、電車が滑り込ん
できた。慌てて乗り込み、車内に入ると同時に扉が閉まる。列の先頭で待っていたはずな
のに、ぎりぎりセーフだ。

 「あ!」

 座席の方へ移動しようとして、かがみが声を上げる。こなたとつかさが振り向くと、ス
カートの裾を扉に挟まれて身動きの取れないかがみがいた。

 「あー、もう」

 明らかに苛立った様子で扉を睨む。その様子を見つめるつかさの表情も、やけに沈んで
いる。


 「ありゃー、かがみん。今日はツイてないねぇ」

 普段の調子で猫口で笑いながらこなたがそう言うと、目に見えて空気が凍り付いた。深
刻な表情で俯いたかがみとつかさを見て、流石のこなたも動揺する。

 「あ、あれ……?」

 二人の顔を交互に見つめながら、どうしたの? と視線で問うが、かがみもつかさも黙
ったまま動かない。いや、よく見ると、かがみの肩だけが小刻みに震えていた。
 その光景は火山が噴火する寸前の地鳴りに酷似しており、最も近くにいたこなたが本能
から危機を察知した瞬間、間髪入れずにそれは怒った。いや、起こった。

 「ツイてないなんてもんじゃないわよっ!!」

 大喝一声、あまりの迫力に車内がしんと静まりかえる。いくつかの視線がその発生源に
向けられ、すぐさま首の骨を折るほどの勢いで背けられた。触らぬ神に祟りなし。
 言葉通り、乗客は揃って明後日の方を向き、図らずも切っ掛けとなってしまったこなた
は、今まさにかがみと言う名の祟りと直面していた。

 「え、えーと」

 何とか状況の把握と打開を試みようと話しかけるも、かがみの「人も殺せそうな」視線
を間近で浴び、こなたは竦み上がった。アホ毛まで痺れ上がっている。
 いや、よく比喩表現として使われるが正にあれは殺人兵器だった、と後にこなたは語る。
成人男性なら3人、老人や子供であれば6人は殺せたであろう。車内に死者が出なかったの
は奇跡であり、偏に盾となって全てを受け止めた私のおかげであると。

 「まったく、何だって言うのよ。今日は本当に……」

 地の底から響くようなおどろおどろしい声。電車の揺れと、車輪とレールのぶつかる音
も合わさって、何とも形容しがたい雰囲気が漂っている。強いて例えるならば、地獄の釜
の底であろうか。
 救いを求めるようにつかさの方へ目をやるこなた。つかさは視線に気付くと、かがみを
ちらりと見やった後、「実はね」と出来るだけ刺激しないよう小声で話し始めた。

 「うーん、それはまた何とも災難だったねぇ、二人とも」
 「だから災難なんてそんな簡単なものじゃ……!」

 つかさが簡単に事の経緯を話し終えた後、しみじみと感想を述べるこなたに、憤懣やる
かたないかがみが噛み付く。
 それも致し方ないことだ。こなた達が乗車後ずっと、どの駅でも反対側のドアが開き、
結局スカートが挟まった扉はいつもの降車駅でも開かず、ようやく開いた見知らぬ駅で降
車後、現在折り返しの電車に揺られて遅刻確定の学校へ向かっている途中なのだから。
 更に、どうやら家を出て待ち合わせ場所に着くまでにも、犬には吠えられ追い回され、
左折車に巻き込まれそうになったと思えば、横道から飛び出してきた自転車を避けようと
して転んで尻餅をつくし、鳥の糞は降ってくる、さすがにこれは回避したと思えば踏み出
した先は蓋の外れた側溝だったり、正に踏んだり蹴ったりを具現したと言えよう。

 「星の巡りってのも案外馬鹿にならないネ」

 腕組みをしてうんうんと頷くこなたに、目元に涙を浮かべたかがみの鋭い視線が突き刺
さる。さすがに自重しているのか先程までの迫力はないが、相手がこなたでなければ肝が
縮んでいるだろう。男性であればコツカケを習得してしまう程に。

 「それにしても……」

 こなたの目がつかさに向けられる。

 「ん?」

 視線を感じたのか、窓の外を流れる景色など眺めつつ、バルサミコ酢ぅ~などと口ずさ
んでいたつかさが振り返った。

 「私が見たところ、かがみはかなり不幸な目に遭ってるけど、つかさはそうでもないよ
ねぇ」
 「え?」

 そんなことない、と反論しようとして、良く考えてみると、こなたと会ってから不思議
と急に何も起きなくなっていたことに気が付いた。
 かがみの方はスカートを挟まれる以外にも、この短時間で、電車が揺れた拍子に転んで
スカートが捲れそうになったり、乗り換える際には靴を片方車内に脱ぎ落としそうになっ
たり、階段では蹴躓いたり、ホームでは鞄のバックルが外れて中身を撒き散らしたり、と
実にバラエティ溢れる事態に遭遇したと言うのに。

 「あ、あれ?」

 首を傾げて考え込む。こなたに会うまではつかさもかがみも同じ状況だった。それが会
ってからは、つかさの方のみぱたりと不幸が止む。一体何があったのか。

 「何かフラグでも立てた?」
 「うーん……」

 待ち合わせ場所で会う前後のことを頭の中でリプレイする。こなたに会うまでは不幸が
起きて、会ってから不幸が起きなくなったということは、つかさとかがみの分岐はこなた
と会う直前か、会った直後ということになる。

 「これがゲームならTIPSとか出て真相に近づいたりするのカナ、カナ?」

 会心の物真似によるこなたの呟きは、しかし二人の耳には届かなかった。仮に届いてい
たとしても、状況は何一つ変わりなかったであろう。
 ただ、この時3人にもっとも近い座席で微睡んでいた雑誌編集者A氏は、この後一日中
「カナ、カナ?」というフレーズが頭の中でリフレインし続け、ついには午後の会議にお
いて席上で「カナ、カナ?」と口走ってしまったため、上司に長期の病気休暇を申し出る
ことになるが、とりあえず三人にはまったく関係のない話である。
 まあ、そんなことがある中、突然つかさの脳裏に鋭い閃きが走った。

 「あーっ!!」

 勢い込んで顔を上げると、こなたがしかつめらしい顔で妙なポーズをしている。しばらく無言で見つめ合う二人。

 「……えっと、どうしたの? こなちゃん」
 「パリイ!」
 「え?」
 「いや、つかさが何か閃いたーって顔してたからサ。うん、いいよ。分からないよネ。
忘れて」

 どこか隅の方を見つめて落ち込むこなたに苦笑した後、つかさはかがみの方へ向き直っ
た。

 「お姉ちゃん、分かったよ!」

 つかさが閃いた事というのは、朝の占いで言っていたおまじない、好きな人とハグをす
るというものだった。

 「……つまり、どういうこと?」

 いつもの駅に着いて電車を降り、改札をくぐっても、「遠くへ行きたい」を呟くように
歌っていたかがみだったが、救いの光が見えたことでようやく現実に復帰した。

 「だからね、ほら、朝にこなちゃんと会った時、私抱きついちゃったでしょ」

 つかさに言わせると、つまりそれが占いのおまじないで、それを実行したために不幸を
免れるようになったのだということだった。

 「で、でも、あれって好きな人とって言ってなかった?」
 「うん、そうだよ」
 「いや、だから、ほら、それだとつまり、その、こなたのことを……」

 ごにょごにょと呟くかがみの顔は、話の終わりに近づくに従って赤くなっていった。そ
んな彼女の様子を見て、こなたは堪えきれない様子でにまにまと笑い、つかさは不思議そ
うに訊ねる。

 「お姉ちゃん、こなちゃんのこと好きじゃないの?」
 「え゛っ!?」

 反射的に身を引くかがみの見事な裏声、見事な赤面、そして見事な動揺。その完璧なま
でのデレを目の当たりにして、こなたのにまにま笑いが更に深くなる。

 「べ、別にこなたのことが好きとか嫌いとかじゃなくて。……そ、そう言うつかさはこ
なたのこと好きなの?」
 「うん、私こなちゃんのこと好きだよ。お姉ちゃんは?」
 「ぐっ……!」

 正に墓穴。しどろもどろで必死に言葉を紡ぐも、自らドツボに嵌っていく。事ここに至
っては、「私もこなたのこと好き好きー」などと口に出来るはずもない。さすがはかがみ
と言えよう。
 こなたのにまにま笑いは今や最高潮だ。と思いきや、横合いから伸びたかがみの手が、
八つ当たり的にその口をつまみ上げる。

 「ひだだだだだだだだっ!!」
 「さっきからあんたは何笑ってんの!」


 ぶにぶにと上下左右に引っ張られるこなたの頬。その柔らかさ、その感触に思わず怒り
も忘れ、しばし夢中になるかがみ。引っ張るだけでは飽きたらず、両手で挟んだり、撫で
たり、そしてまたつまんだり。心なしかやや息が荒くなっている。

 「……かがみ?」
 「はっ!?」

 こなたの声に我を取り戻し、慌てて手を離すと、誤魔化すようにそっぽを向いて咳払い
をする。

 「ふー、まさかここまで怒るとは意外だったヨ。そんで、どうすんの?」

 やや赤くなった頬をさすりながらこなたが訊ねると、かがみはばつの悪そうな顔で「ご、
ごめん」と謝った後、きょとんとした顔をして聞き返した。

 「何が?」
 「何がって、ほら。これ」

 こなたはそう言うと、にんまり笑って両手を広げる。その様子を3秒ほど見つめ、やが
て言わんとすることに気付いたのか、かがみは赤面して大声を上げた。

 「ちょっ、こ、こなた!?」
 「ほれほれ」

 道の途中で立ち止まり、こなたは両手を広げたまま、かがみに向かって手首だけをくい
くいと動かし手招きをする。何とも男らしい行動だ。ノンケの人だってほいほいついて行
くだろう。あまりの堂に入った姿に、つかさも感心したように眺めている。

 「う、ぐ」

 しかし、かがみは動かない。いや、動けない。こなたの広げた両手を見つめたまま、硬
直したように立ち尽くしている。
 分かってはいるのだ。不幸から逃れる術があるというのならば、あらゆる可能性を試す
べきだということは。
 しかしこの時、彼女の頭の中では、不幸を一刻も早く何とかしたいという願望とか、こ
なたの勝ち誇ったような顔がむかつくとか、朝だけでこれなら今日が終わるまでにはどれ
程の不幸が降りかかるのだろうという不安とか、もしこなたに抱きついても不幸が消えな
かったらどうしようとか、それってつまり私がこなたを好きじゃないってこと? つかさ
より? そんなことあるはずない! とか、それはもう様々な考えがぐるぐると回り続け、
結局動き出せずにいたのだ。
 こなたもそんなかがみを特に急かそうとはせず、ただじいっと待っている。
 風が、静かに流れた。


 少し離れて二人を見守るつかさは、何となくムツゴロウさんのテレビ番組を思い出して
いた。
 そうそう、野生の動物は警戒心が強いから迂闊に近寄っちゃダメなんだよねー、などと
妙な感心をしている。この場合、野生の動物とは彼女の姉であり、ムツゴロウさんは彼女
の親友である。
 つかさの頭の中では、次第に様々な動物ドラマが繰り広げられ、それはもう色々と何だ
かすごいことになってしまっていたが、実際には状況に何の変化もない。両者は膠着状態
に陥っている。
 しかし、全く動きがないというのも当事者以外には退屈なもので、脳内劇場が盛り上が
っていた彼女もやはり例外ではなく、ふと何かを思いついたつかさは、静かにかがみの後
方へと回り込んで行った。
 じりじりと秒針がその位置を変えていく。流石にそろそろ事態の打開を図らねば、と二
人が考え始めた時、極めて人為的な形で切っ掛けが訪れた。
 それはある種、爆弾の投下にも似た行動で。

 「わっ!!」

 静寂の中、これ以上ないタイミングで響いた大声に、驚いて飛び上がったかがみは、反
射的に目の前のこなたに抱きついていた。

 「きゃああああああああっ!?」
 「うおっとー!」

 訳が分からず慌てて振り返ったかがみの視線の先には、つかさが照れ笑いを浮かべて立
っていた。

 「な、な、な、いきなり何してるのつかさー!!」

 こなたにしがみついたまま、猛然とつかさへ食って掛かる。心臓はあまりの衝撃にばく
ばくと悲鳴を上げ、目元には涙が滲み、頭の中はごちゃごちゃで、現状の把握すら出来な
い。そのため、とりあえず目の前にあるものへ感情をぶつけているのだった。
 こういった際の人間の行動について、この時点までまったく名前が出てきていない主要
メンバー残りの一人、歩く百科事典の異名を持つ彼女がいれば、適切な説明をしてくれる
のであろうが、残念ながらこの場において彼女の登場は無く、今後においてもその予定は
ない。関係者各位については、心からお詫び申し上げる。

 「ごめんね、お姉ちゃん。でも、ほら」

 かがみが本気で怒っている訳ではないと分かっているためか、つかさは申し訳なさそう
に笑って、かがみの後方を指さした。

 「……何よ、ほらって」

 つかさに促され、ゆっくりとかがみの首が後ろと言うか前を向く。丁度45度ほど振り向
いた時、「それ」が視界に入ったのか、かがみの体が音を立てて固まった。
 そう、彼女の目に飛び込んできたのは、これ以上はないくらい満面の笑みをたたえるこ
なたの顔。何をどうすれば人はここまでとろけた顔になれるのかと言うくらい、文字通り
喜色満面な笑顔だった。
 更にこなたは追い打ちを掛けるように、

 「いやー、かがみん、情熱的だねえ。でも、そのほとばしる熱いパトス、確かに受け取
ったヨ」

 などと言って、かがみの頭を撫でた。ちなみに、もう一方の手はしっかりと背中に回さ
れている。
 かがみは慌ててぶんぶんと首を振った。

 「ち、ち、ち、違っ、違う! 違うんだから!!」
 「違うって何がだね? ここまで熱く抱擁しておいて、今更違うだなんて、そりゃつれ
ないってもんだよ、かがみん」

 猫口で笑いながら、かがみの胸に顔を埋めるこなた。かがみはようやく自分の両手がこ
なたの腰をしっかり抱いていることに気が付くと、大慌てで手を外し、今度は肩を掴んで
引っぱがそうと藻掻いた。

 「えーい! 離れんかぁーっ!!」
 「そんなに照れることなにのに。かがみんはまったくツンデレだなぁ」
 「ツンデレ言うな!」

 すったもんだともつれ合う二人。実力伯仲、一進一退の攻防だ。端から眺めると仲のい
い馬鹿ップルのじゃれつきにしか見えない。
 それを正に端から羨ましそうに見つめるつかさ。彼女の脳内劇場第二幕は、これまたす
ごいことになっていた。現実が妄想に追いつく日も、そう遠くはないのかもしれない。

 「もおっ、何よ! おまじないだなんて嘘ばっかり! 全っ然不幸が終わらないじゃな
いのよぉーっ!!」

 かがみの叫びはどこまでも青い空に吸い込まれるように消えていった。ついでにつかさ
の呟きも。

 「……でも、お姉ちゃん、幸せそう」

【終わり】













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  • 読みやすいし話のまとまりもGOOD
    埋もれるのが惜しい作品 -- 名無しさん (2010-03-14 23:08:25)
  • かがみんはツンデレだなー=ω=. -- 名無しさん (2009-02-17 18:19:39)
  • とりあえず、gj。
    癒されたとてもすごく。 -- 名無しさん (2009-02-02 07:38:54)
  • 実際にこんな占い結果がでたら町中ハグだらけだよなー
    -- 名有りさん (2009-02-01 22:10:27)
  • ナレーションが面白かった -- 九重龍太 (2008-03-29 12:16:53)

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