翌朝。柊家では、いつもと同じようにかがみとつかさが朝食をとっていた。
昨日は結局、学校には遅刻したものの、事情が事情であるため特にお咎めは無く、その
後もぴたりと不幸な出来事は止んでいた。かがみ的には何となく不本意だったらしいが。
そんな忌まわしい記憶はすでに頭の片隅に追いやってしまったのか、かがみはトースト
の最後の一欠片を口に入れると、コーヒーカップ手に取った。牛乳は昨日で懲りたらしい。
そして置いてあった新聞を広げると、一面に目を通す。
世はなべて事も無し。目立って大きなニュースも見当たらず、天気は今日も快晴のよう
であった。
昨日は結局、学校には遅刻したものの、事情が事情であるため特にお咎めは無く、その
後もぴたりと不幸な出来事は止んでいた。かがみ的には何となく不本意だったらしいが。
そんな忌まわしい記憶はすでに頭の片隅に追いやってしまったのか、かがみはトースト
の最後の一欠片を口に入れると、コーヒーカップ手に取った。牛乳は昨日で懲りたらしい。
そして置いてあった新聞を広げると、一面に目を通す。
世はなべて事も無し。目立って大きなニュースも見当たらず、天気は今日も快晴のよう
であった。
「うんうん」
熱いコーヒーを一口啜り、思わずしみじみと頷いてしまう。昨日と比べて、今朝の何と
平穏なことか。日常の有り難みを改めて思い知るかがみであった。
平穏なことか。日常の有り難みを改めて思い知るかがみであった。
「……お姉ちゃん、何だかお父さんみたい」
そう呟くつかさも、どうやら食べ終えたようで、こちらは昨日と同じように牛乳を口に
運んでいる。両手でコップを持つ仕草が小動物チックで微笑ましい。
運んでいる。両手でコップを持つ仕草が小動物チックで微笑ましい。
「つまり、それだけ平和だってことよ」
そう言ってつかさの額を軽く指で弾きつつ、かがみは新聞を置いて席を立つと、洗面所
へ向かった。
鏡の中の自分にどこもおかしいところがないことを確認すると、ホッとしたように軽く
息を吐き、歯磨きを始めた。歯ブラシによって押され、形を変える頬を見ていると、昨日
のこなたの頬とその感触を思い出し、思わず生唾を飲み込む。歯磨き粉入りの。
かがみは2分ほど激しく噎せた。
何事もなかったように居間に戻ると、入れ替わりにつかさが洗面所へ入る。その間に、
かがみは自身の支度を整え、時計で時刻を確認した。昨日よりは若干早い。これならば、
余程のことが無い限り、今日は遅れずに済むだろう。さすがに二日連続で遅刻するわけに
はいかない。
つかさも用意を終える頃、テレビから脳天気な声が聞こえてきた。
へ向かった。
鏡の中の自分にどこもおかしいところがないことを確認すると、ホッとしたように軽く
息を吐き、歯磨きを始めた。歯ブラシによって押され、形を変える頬を見ていると、昨日
のこなたの頬とその感触を思い出し、思わず生唾を飲み込む。歯磨き粉入りの。
かがみは2分ほど激しく噎せた。
何事もなかったように居間に戻ると、入れ替わりにつかさが洗面所へ入る。その間に、
かがみは自身の支度を整え、時計で時刻を確認した。昨日よりは若干早い。これならば、
余程のことが無い限り、今日は遅れずに済むだろう。さすがに二日連続で遅刻するわけに
はいかない。
つかさも用意を終える頃、テレビから脳天気な声が聞こえてきた。
「それでは、今日の占いーっ、らっきー☆すたー!!」
思わずかがみとつかさの肩が跳ね上がる。どうやら昨日のあの悪夢は、二人の中で拭い
がたいトラウマとなっているようだ。
ぎぎぎ、と音がするようなぎこちなさで、心底嫌そうにテレビへ顔が向けられた。
がたいトラウマとなっているようだ。
ぎぎぎ、と音がするようなぎこちなさで、心底嫌そうにテレビへ顔が向けられた。
「お、お姉ちゃん……」
「大丈夫よ、つかさ。この手の占いコーナーで二日連続最下位だなんてこと、絶対にあ
り得ないから」
「大丈夫よ、つかさ。この手の占いコーナーで二日連続最下位だなんてこと、絶対にあ
り得ないから」
「さて、今日、最も良い運勢は…」
昨日と同じ女性アナウンサーの声。同じ言葉。始まりを意識して、思わず手に力が籠も
る。ここで蟹座が呼ばれてくれれば、そう願うが、世の中やはりそう上手くはいかないら
しい。かすりもしない。気を落としかけ、いやまだ始まったばかり、と顔を上げたところ
で、立て続けに2位、3位、4位と外れた。
さすがに嫌な予感がしてきたのか、堪らずつかさは顔を覆い、かがみが「今日、学校休
もうかなー」などと現実逃避を始めた時、それは訪れた。
昨日と同じ女性アナウンサーの声。同じ言葉。始まりを意識して、思わず手に力が籠も
る。ここで蟹座が呼ばれてくれれば、そう願うが、世の中やはりそう上手くはいかないら
しい。かすりもしない。気を落としかけ、いやまだ始まったばかり、と顔を上げたところ
で、立て続けに2位、3位、4位と外れた。
さすがに嫌な予感がしてきたのか、堪らずつかさは顔を覆い、かがみが「今日、学校休
もうかなー」などと現実逃避を始めた時、それは訪れた。
「第6位は、蟹座のあなた」
語尾が消えない内から、無意識にかがみは立ち上がっていた。つかさと目を合わせると、
喜びのあまり無言でひしと抱き合う。
喜びのあまり無言でひしと抱き合う。
「お姉ちゃん!」
「つかさ!」
「つかさ!」
正に阿吽の呼吸。どこからともなく祝福の鐘が鳴り響いてくるような気がするほど、美
しい姉妹絵図であった。具体的に言うと、全裸の天使が舞い降りてきてパトラッシュと一
緒に何処かへ連れて行かれそうになるくらい。
しかし、そんなことをしている間にも世界は回り、蟹座へのコメントは続く。
しい姉妹絵図であった。具体的に言うと、全裸の天使が舞い降りてきてパトラッシュと一
緒に何処かへ連れて行かれそうになるくらい。
しかし、そんなことをしている間にも世界は回り、蟹座へのコメントは続く。
「……思わぬハプニングで気になるあの人と急接近!? ラッキーアクションはボディブロー」
「ボディブロー!?」
「ボディブロー!?」
驚いたかがみとつかさの声がハモる。ボディピローの間違いではないかと画面を見て確
認するも、そこにはしっかりとボディブローの文字が。ご丁寧にハートマークまでついて
いる。いかにも、気になるあの人と急接近するためにはボディブローをよろしくね、とい
った感じだ。何をどうよろしくすればいいのかは不明だが。
二人は同時に顔を見合わせると、力なく笑い合った。
認するも、そこにはしっかりとボディブローの文字が。ご丁寧にハートマークまでついて
いる。いかにも、気になるあの人と急接近するためにはボディブローをよろしくね、とい
った感じだ。何をどうよろしくすればいいのかは不明だが。
二人は同時に顔を見合わせると、力なく笑い合った。
「所詮、占いなんてこんなものよね」
「そだね」
「そだね」
何となく拍子抜けした様子でいつの間にか床に倒れていた鞄を拾うと、かがみは「そろ
そろ行こっか」と声を掛けた。つかさも気の抜けたような顔で「うん」と頷き、ふらふら
と二人で玄関へ出る。
ぼんやりと靴を履いていると、最後に居間から例の女性アナウンサーの声が漏れ聞こえ
てきた。
「そんなあなたを助けてくれるおまじないは……、恋人とキスをする!」
再び顔を見合わせると、何となく苦笑を浮かべながら、二人は家を後にした。
そろ行こっか」と声を掛けた。つかさも気の抜けたような顔で「うん」と頷き、ふらふら
と二人で玄関へ出る。
ぼんやりと靴を履いていると、最後に居間から例の女性アナウンサーの声が漏れ聞こえ
てきた。
「そんなあなたを助けてくれるおまじないは……、恋人とキスをする!」
再び顔を見合わせると、何となく苦笑を浮かべながら、二人は家を後にした。
いつもの待ち合わせ場所。昨日のこともあるので、今日は少し早めに約束をしておいた
のだが、こなたの姿は普段の時間になった今でも見られなかった。
のだが、こなたの姿は普段の時間になった今でも見られなかった。
「まったくもう、昨日あんなに言っておいたのに!」
かがみは先程の疲れのためか、早速ツンデレギアをサードにまで入れ、こなたがいつど
こから現れてもいいようにツンツンしている。
対照的につかさはギアが上がらないのか、姉を宥める気力も湧かず、「あはは」と笑う
ことで、少しでも場を和ませようとしていた。
そんなつかさの健気な思いが通じたのか、ようやく道の向こうに小さな、しかし特徴的
なシルエットが現れた。普段から小さく見えるのは事実小さいので正しいのだが、今日は
何故かいつも以上に小さいように思われた。シンボルであるアホ毛もしなびているように見える。
こから現れてもいいようにツンツンしている。
対照的につかさはギアが上がらないのか、姉を宥める気力も湧かず、「あはは」と笑う
ことで、少しでも場を和ませようとしていた。
そんなつかさの健気な思いが通じたのか、ようやく道の向こうに小さな、しかし特徴的
なシルエットが現れた。普段から小さく見えるのは事実小さいので正しいのだが、今日は
何故かいつも以上に小さいように思われた。シンボルであるアホ毛もしなびているように見える。
「……ちょっと、あいつどうしたのかしら」
途端にかがみのギアがデレに入る。実にいいエンジンだ。音が違う。
そうしてこなたが横断歩道の前に辿り着くと、見計らったように信号は赤に変わった。
更に、その眼前をもうもうと排気ガスを撒き散らしながら、大型トラックが勢いよく通
り過ぎる。ついでに、何故かある水たまりの水を思い切り跳ねながら、誰に向けたものと
も知れないクラクションを大音量で響かせて。
煙が晴れると、足をずぶ濡れにしたこなたは、咳き込みながら不機嫌そうに顔を顰めつ
つ、鼻先を手で扇いでいた。
そうしてこなたが横断歩道の前に辿り着くと、見計らったように信号は赤に変わった。
更に、その眼前をもうもうと排気ガスを撒き散らしながら、大型トラックが勢いよく通
り過ぎる。ついでに、何故かある水たまりの水を思い切り跳ねながら、誰に向けたものと
も知れないクラクションを大音量で響かせて。
煙が晴れると、足をずぶ濡れにしたこなたは、咳き込みながら不機嫌そうに顔を顰めつ
つ、鼻先を手で扇いでいた。
「……ねえ、お姉ちゃん。あれって」
「言わないで、つかさ」
「言わないで、つかさ」
漠然とした不安。しかし、それを口にすると認めてしまうようで、かがみはあえて思考
を封じる。嫌でも答えはやってくるのだ。泉こなたの形をして。
信号が青になると、人混みに揉まれながら、こなたがよろよろと近づいてきた。段々と、
その疲れ切った表情がはっきり見えてくる。
髪の乱れ、セーラー服には所々ほつれやかぎ裂きなどが見られるが、普段が普段なので、
どこまでが「それ」なのか判断がつかない。
しかし、かがみとつかさの中にあった疑問は、今や確信に変わっていた。
そのまま、あと数歩という位置まで近づいた時、不意にこなたは立ち止まった。表情は
俯いているので確認出来ない。
を封じる。嫌でも答えはやってくるのだ。泉こなたの形をして。
信号が青になると、人混みに揉まれながら、こなたがよろよろと近づいてきた。段々と、
その疲れ切った表情がはっきり見えてくる。
髪の乱れ、セーラー服には所々ほつれやかぎ裂きなどが見られるが、普段が普段なので、
どこまでが「それ」なのか判断がつかない。
しかし、かがみとつかさの中にあった疑問は、今や確信に変わっていた。
そのまま、あと数歩という位置まで近づいた時、不意にこなたは立ち止まった。表情は
俯いているので確認出来ない。
「ちょっ、こなた。大丈夫?」
そう言って、かがみが一歩踏み出した瞬間。ゼンマイをフルに巻いて手を離したチョロ
Qのような勢いで、こなたが飛びついてきた。つかさが「お姉ちゃん、それはこなちゃん
の罠よ!」と叫ぶ暇もない。いや、彼女も昨日まったく同じ事をしているのだが。
Qのような勢いで、こなたが飛びついてきた。つかさが「お姉ちゃん、それはこなちゃん
の罠よ!」と叫ぶ暇もない。いや、彼女も昨日まったく同じ事をしているのだが。
「かがみ様ぁーっ!!」
タックルは腰から下。実に基本に忠実な、美しいフォームのタックルである。ここまで
低く、さらに素早く組み付かれては、いかにかがみと言えど逃げようはあるまい。つかさ
も思わず見惚れていた。
状態としては、サムソンティーチャーとサタンクロスが前後逆に合体したような感じだ。
かがみは振り払おうと試みるも、がっちりと決まったクラッチにそれを断念し、とにかく
状況の説明を促した。
低く、さらに素早く組み付かれては、いかにかがみと言えど逃げようはあるまい。つかさ
も思わず見惚れていた。
状態としては、サムソンティーチャーとサタンクロスが前後逆に合体したような感じだ。
かがみは振り払おうと試みるも、がっちりと決まったクラッチにそれを断念し、とにかく
状況の説明を促した。
「後のこなタックルである」
「いや、そっちの説明じゃなくて」
「いや、そっちの説明じゃなくて」
どうしても茶々を入れずにはいられないこなたに、条件反射でかがみからツッコミが入
る。それが嬉しくてたまらないのか、こなたはようやく今日初めての笑顔を見せた。
る。それが嬉しくてたまらないのか、こなたはようやく今日初めての笑顔を見せた。
「まぁ、薄々は分かってるけどね。……例の占いでしょ?」
かがみがそう指摘すると、こなたは腰にしがみついた状態から身を起こし、素早く真正
面からかがみに抱きついた。昨日に引き続いてのハグである。そのままいつものにんまり
スマイルを浮かべると、必死に離れようとするかがみに顔を近づけながら言った。
面からかがみに抱きついた。昨日に引き続いてのハグである。そのままいつものにんまり
スマイルを浮かべると、必死に離れようとするかがみに顔を近づけながら言った。
「そこまで分かっているなら話は早いね、ワトソン君。そう、我が双子座は今日最下位
だったんだよー。おかげで朝から散々な目に遭ってねぇ。だからサ、ほら」
だったんだよー。おかげで朝から散々な目に遭ってねぇ。だからサ、ほら」
こなたの手に力が込められる。それと同時にかがみの両手がこなたの額と顎を掴んだ。
引力と斥力。両者の力比べが始まる。一方はより近づこうと、もう一方はより遠のけよう
と。プロレスで言う手四つにも似た、原始的で厳かな戦い。つかさはかぶりつきで熱く様
子を見守りながら、脳内で実況と解説を展開している。
引力と斥力。両者の力比べが始まる。一方はより近づこうと、もう一方はより遠のけよう
と。プロレスで言う手四つにも似た、原始的で厳かな戦い。つかさはかぶりつきで熱く様
子を見守りながら、脳内で実況と解説を展開している。
「ちゅーしてよー、かがみん。私は昨日してあげたじゃん」
「誰もあんたにキスなんてされとらんっ!!」
「誰もあんたにキスなんてされとらんっ!!」
それまで出来るだけ距離を取ろうと必死で顔を背けていたかがみは、叫んだ拍子にこな
たの顔を見てしまった。額と顎を捕まれたまま口をすぼめているため、それはもう物凄い
ことになっている。アニメならモザイクとか必要なくらい。これでキスしようだとか言う
のだから、たまらない。例えるなら、映画のラブシーンでヒロインの顔がアップになった
瞬間、鼻毛が飛び出ていることに一人だけ気が付いたようなものだ。
たの顔を見てしまった。額と顎を捕まれたまま口をすぼめているため、それはもう物凄い
ことになっている。アニメならモザイクとか必要なくらい。これでキスしようだとか言う
のだから、たまらない。例えるなら、映画のラブシーンでヒロインの顔がアップになった
瞬間、鼻毛が飛び出ていることに一人だけ気が付いたようなものだ。
「ごふっ!」
堪らず思い切り吹き出すかがみ。それぞれ両手が塞がっているために遮る手立てもなく、
無防備なこなたの顔面に聖なる唾液が降りかかる。グレートかがみの毒霧攻撃だ。
虹が、見えた気がした。
無防備なこなたの顔面に聖なる唾液が降りかかる。グレートかがみの毒霧攻撃だ。
虹が、見えた気がした。
「ちょっ、かがみっ、いきなりひどいよっ」
慌てて手を離し、こなたが文句を言う間も、かがみの遠慮無い高らかな笑い声が響き渡
る。5分も続ければ腹筋が6つに割れるのではないかと思えるくらいの大笑いだ。
る。5分も続ければ腹筋が6つに割れるのではないかと思えるくらいの大笑いだ。
「ごめん、ごめん。何か、色んな意味で凄くてさ」
ひーひーと息切れをし、それでもまだ収まらないのか、ところどころ吹き出しながら謝
ると、かがみはむくれているこなたの顔を、取り出したハンカチで優しく拭った。
今度こそ笑いを収めて、「ごめんね」と呟く。途端に何も言えなくなり、「うー」と唸
るこなた。
そんな二人を見つめながら、「仲がいいなぁ、まるで姉妹みたい」と思う実の妹。不憫
な子である。
ると、かがみはむくれているこなたの顔を、取り出したハンカチで優しく拭った。
今度こそ笑いを収めて、「ごめんね」と呟く。途端に何も言えなくなり、「うー」と唸
るこなた。
そんな二人を見つめながら、「仲がいいなぁ、まるで姉妹みたい」と思う実の妹。不憫
な子である。
「じゃあ、お詫びにちゅーしてくれたら許すよ」
「何でだよ。元はと言えばあんたの所為でしょ」
「何でだよ。元はと言えばあんたの所為でしょ」
人差し指を立て、これでどーだとばかりにこなたが言うも、かがみの反応はけんもほろ
ろだ。ギアがツンに入ったままなのだろう。
しかし、そう来るであろうことを予測していたこなたは、すぐさま次の策で畳み掛ける。
ろだ。ギアがツンに入ったままなのだろう。
しかし、そう来るであろうことを予測していたこなたは、すぐさま次の策で畳み掛ける。
「うぅ……、かがみんは私が不幸な目に遭い続けてもいいって言うのね」
よよと泣き崩れる振りをして、ちらりとかがみを横目で見る。案の定かがみは言葉に詰
まっていた。昨日のかがみの不幸っぷりと言ったら、それはもう悲惨なんて言葉じゃ足り
ないくらいのものだったのだ。目の前で同じ状況に陥っている人がいれば、何とかしてあ
げたいと思うのが人情と言うものだろう。例えそれが策略だと分かっていても。
後一押し、そう睨んだこなたは追加の策として、目を潤ませながら雨の日の子犬のよう
な目でつかさを見上げる。それだけではなくふるふると震えながら、「つかさぁ」と呟くことも忘れない。
勢いよくつかさの胸に見えない矢が突き刺さる。こうかは ばつぐんだ!
まっていた。昨日のかがみの不幸っぷりと言ったら、それはもう悲惨なんて言葉じゃ足り
ないくらいのものだったのだ。目の前で同じ状況に陥っている人がいれば、何とかしてあ
げたいと思うのが人情と言うものだろう。例えそれが策略だと分かっていても。
後一押し、そう睨んだこなたは追加の策として、目を潤ませながら雨の日の子犬のよう
な目でつかさを見上げる。それだけではなくふるふると震えながら、「つかさぁ」と呟くことも忘れない。
勢いよくつかさの胸に見えない矢が突き刺さる。こうかは ばつぐんだ!
「こなちゃんっ」
思わずひっしとこなたを抱き寄せるつかさ。「計画通り!」とばかりに、つかさの胸の
中でこなたがほくそ笑む。同時にかがみは自分が窮地に立たされたことを悟った。
中でこなたがほくそ笑む。同時にかがみは自分が窮地に立たされたことを悟った。
「お姉ちゃん、こなちゃんにキスしてあげて」
つかさは胸にこなたをしっかりと抱えたまま、かがみをはったと見据えて言った。つか
さもかがみほどではないにしろ、十二分に不幸を経験しているのだ。こなたを助けたいと
思う気持ちは決して小さなものではない。
かがみもそれが分かるだけに、返す言葉が浮かんでこない。出来ることなら自分だって
何とかしてあげたいのだ。
しかしキスは嫌だ、断じて嫌だ、天地がひっくり返ったって嫌だ、雨が降ろうが、槍が
降ろうが、例え5kg痩せたとしても……それならいいかな――、という思いも胸にある。
何故そんなに嫌なのか、こなたのことが嫌いなのかと言えば、そうではない。ここでキ
スをしたらこなたに屈したようで嫌というのが7割、2割が行為そのものに対する躊躇、そ
して残りの1割が、出来れば、もしそういうことをするのであれば、ムード溢れる夕暮れ
の海辺で、波打ち際を二人きりで歩いているうち、
さもかがみほどではないにしろ、十二分に不幸を経験しているのだ。こなたを助けたいと
思う気持ちは決して小さなものではない。
かがみもそれが分かるだけに、返す言葉が浮かんでこない。出来ることなら自分だって
何とかしてあげたいのだ。
しかしキスは嫌だ、断じて嫌だ、天地がひっくり返ったって嫌だ、雨が降ろうが、槍が
降ろうが、例え5kg痩せたとしても……それならいいかな――、という思いも胸にある。
何故そんなに嫌なのか、こなたのことが嫌いなのかと言えば、そうではない。ここでキ
スをしたらこなたに屈したようで嫌というのが7割、2割が行為そのものに対する躊躇、そ
して残りの1割が、出来れば、もしそういうことをするのであれば、ムード溢れる夕暮れ
の海辺で、波打ち際を二人きりで歩いているうち、
「あっ」
「ん?」
「ほら、あれ。イルカが跳ねてる」
「本当だ……」
「……綺麗ね」
「うん、でも」
「何?」
「かがみの方が、もっと綺麗」
「な、何言ってるのよっ! こなたったらもうっ、いつも冗談ばっかり」
「こんな時に冗談なんて言わないよ」
「え……?」
「かがみ……」
「……ん」
「ん?」
「ほら、あれ。イルカが跳ねてる」
「本当だ……」
「……綺麗ね」
「うん、でも」
「何?」
「かがみの方が、もっと綺麗」
「な、何言ってるのよっ! こなたったらもうっ、いつも冗談ばっかり」
「こんな時に冗談なんて言わないよ」
「え……?」
「かがみ……」
「……ん」
とか、そういうシチュエーションじゃなきゃ嫌だとか、むしろいいとか、なーんてね、
なーんてねーという願望であった。
なーんてねーという願望であった。
「……お姉ちゃん?」
「はっ!?」
「はっ!?」
心配そうな妹の声で我に返ると、かがみは慌てて口元を拭った。知らない間に涎が垂れ
ていたらしい。二人から浴びせられる冷たい視線を誤魔化すために、かがみは第2位の理
由を捲し立てた。
ていたらしい。二人から浴びせられる冷たい視線を誤魔化すために、かがみは第2位の理
由を捲し立てた。
「いや、だからほら、私たち女同士でしょ。それにそういうことって、こういう理由で、
しかも人前ですることじゃないと思うし」
しかも人前ですることじゃないと思うし」
ね、と強引に押し切ろうとするも、二人とも引き下がる気配はまったくない。無言のま
ま見つめ合う三人。こなたはかがみに弱く、かがみはつかさに弱く、つかさはこなたに弱
い。これが俗に言う「三竦み」の語源であった。じゃんけんを行う際に、「最初はこなた!
」と言うのも、これに由来すると考えられている。嘘である。
そんな中、突然つかさがこなたを見つめると、真面目な顔で口を開いた。
ま見つめ合う三人。こなたはかがみに弱く、かがみはつかさに弱く、つかさはこなたに弱
い。これが俗に言う「三竦み」の語源であった。じゃんけんを行う際に、「最初はこなた!
」と言うのも、これに由来すると考えられている。嘘である。
そんな中、突然つかさがこなたを見つめると、真面目な顔で口を開いた。
「パリイ!」
あまりに予想を越えた行動に狼狽するこなた。
「……ど、どったの? つかさ」
「え? だって、何か閃いた時にはこう言うって、昨日こなちゃん言ってなかった?」
「え? だって、何か閃いた時にはこう言うって、昨日こなちゃん言ってなかった?」
どうやら電車でのことを言っているらしい。ようやく思い出したこなたは、曖昧に笑っ
て誤魔化した。あまりに純粋なつかさの夢を壊すまいと思ったためだ。
つかさも深くは追求せず、何故かこなたを解放すると、その腕を取ってかがみの前に誘
導した。細かく指示を出し、二人を向かい合わせに立たせると、近づいたり離れたりしな
がら位置を確認し、微妙な修正を行う。綺麗に真向かいではなく、少しねじれたような位置。
て誤魔化した。あまりに純粋なつかさの夢を壊すまいと思ったためだ。
つかさも深くは追求せず、何故かこなたを解放すると、その腕を取ってかがみの前に誘
導した。細かく指示を出し、二人を向かい合わせに立たせると、近づいたり離れたりしな
がら位置を確認し、微妙な修正を行う。綺麗に真向かいではなく、少しねじれたような位置。
「二人とも、ちょっとこのまま動かないでね。あ、こなちゃんはもうちょっとだけ上を
向いて。うん、そんな感じ。絶対に動いちゃダメだよ。ぜぇーたいっ」
向いて。うん、そんな感じ。絶対に動いちゃダメだよ。ぜぇーたいっ」
あまりに真剣な眼差しに、二人がこくこくと頷くのを見て、うんうんと満足そうにつか
さはかがみの右隣に移動した。こなたから見ると左隣だ。
さはかがみの右隣に移動した。こなたから見ると左隣だ。
「つかさ?」
「何してるの?」
「何してるの?」
訝しげに訊ねる二人に、「いーから、いーから」と手を振り、
「じゃあ、行っくよー」
と声を掛けた。二人とも心底不思議そうな表情を浮かべている。
しかし、そんなことはこれっぽっちもお構いなしに、つかさは思い切りバックスイング
を行うと、渾身の力を込めたレバーブローをかがみの右脇腹にお見舞いした。鈍い音が響
き渡る。手首の辺りまでめり込むような、それは見事なボディブローだった。
つかさの突拍子もない行動に、思わず目が飛び出るこなた。そしてかがみは「ぐえっ」
と呻いたかと思うと、体を「く」の字に折り曲げた。
苦しそうに歪んだ顔が必然的に下がる。そこには、狙い澄ましたようにこなたの顔があ
った。勢いよく顔がぶつかり、結果、二人はキスをした。もし、これをキスと呼べるので
あれば、だが。
しかし、そんなことはこれっぽっちもお構いなしに、つかさは思い切りバックスイング
を行うと、渾身の力を込めたレバーブローをかがみの右脇腹にお見舞いした。鈍い音が響
き渡る。手首の辺りまでめり込むような、それは見事なボディブローだった。
つかさの突拍子もない行動に、思わず目が飛び出るこなた。そしてかがみは「ぐえっ」
と呻いたかと思うと、体を「く」の字に折り曲げた。
苦しそうに歪んだ顔が必然的に下がる。そこには、狙い澄ましたようにこなたの顔があ
った。勢いよく顔がぶつかり、結果、二人はキスをした。もし、これをキスと呼べるので
あれば、だが。
「やったぁー!!」
あまりの痛みに蹲って呻き続ける二人を余所に、ひとり計画通りに事が運び、はしゃぎ
回るつかさ。両手をあげてぴょんぴょんと飛び跳ねる。BGMは呻き声。何と言うか、非常
にシュールな絵面であった。
回るつかさ。両手をあげてぴょんぴょんと飛び跳ねる。BGMは呻き声。何と言うか、非常
にシュールな絵面であった。
「……つ、つかさ? これは一体、何のつもりかしら」
ようやく混濁した意識から回復したのか、緩やかに身を起こすと、とても肉親に対する
ものとは思えない目つきでかがみが声を振り絞るように問う。夜叉もかくや、という眼光
である。父のただおが目にすれば、ショックのあまり心中を図るかもしれない。
かがみに答えを聞く気はまるでない。もし仮にこれが三択クイズでも選択の結果は全て
同じ、DEAD END直行、それ一つきりだろう。
こなたはまだ顔を押さえてのたうち回っていた。
ものとは思えない目つきでかがみが声を振り絞るように問う。夜叉もかくや、という眼光
である。父のただおが目にすれば、ショックのあまり心中を図るかもしれない。
かがみに答えを聞く気はまるでない。もし仮にこれが三択クイズでも選択の結果は全て
同じ、DEAD END直行、それ一つきりだろう。
こなたはまだ顔を押さえてのたうち回っていた。
「いやー、上手く行くか冷や冷やものだったよー。何か一つ、少しでもずれたらおしま
いだからね。頑張ったよー」
いだからね。頑張ったよー」
つかさはあくまであどけなく、ほのぼのと答えた。その笑顔には一点の曇りもない。状
況を考えると、心から戦慄を覚える答えだ。
かがみは言いたいことが、山で言えば富士山58個分くらいあったが、ほんの少し多すぎ
て、どれから口にするか考えるのも面倒だった。だから、代わりに小さく一つため息をつ
いた。同時に脇腹に激痛が走り、再び声を上げて蹲る。慌てて駆け寄るつかさ。
況を考えると、心から戦慄を覚える答えだ。
かがみは言いたいことが、山で言えば富士山58個分くらいあったが、ほんの少し多すぎ
て、どれから口にするか考えるのも面倒だった。だから、代わりに小さく一つため息をつ
いた。同時に脇腹に激痛が走り、再び声を上げて蹲る。慌てて駆け寄るつかさ。
「お姉ちゃん! 大丈夫!?」
「って、あんたがやったんでしょうがああぁーっ!!」
「って、あんたがやったんでしょうがああぁーっ!!」
間髪入れない大絶叫。あまりの怒りのためにギアがトップを振り切り、痛みも忘れたの
か、この後しばらくかがみのオンステージであった。ずっとかがみのターン。あちこちで
破壊音や悲鳴が聞こえる。
か、この後しばらくかがみのオンステージであった。ずっとかがみのターン。あちこちで
破壊音や悲鳴が聞こえる。
「大体キスさせるのにどうしていきなり人のお腹を殴るのよ!」
「だ、だって、今朝のおまじないでボディブローがいいって言ってたから」
「私にゃ全然良くないわーっ!! 何が占いよ、何がらっきー☆すたーよ! 私の不幸
は一体いつになったら終わるって言うのよーっ!!」
「だ、だって、今朝のおまじないでボディブローがいいって言ってたから」
「私にゃ全然良くないわーっ!! 何が占いよ、何がらっきー☆すたーよ! 私の不幸
は一体いつになったら終わるって言うのよーっ!!」
かがみの叫びに全世界が涙した。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。きっと明日はいいことあるって」
「だからあんたが言うなーっ!!」
「だからあんたが言うなーっ!!」
気が付けばいつの間にか、こなたは隅の方で小さくなってぷるぷると震えていた。
「今までかがみが一番怖いと思ってたけど、本当に怖いのはつかさだったよ……」
しみじみと呟く言葉は、世界中の何よりも真実味が溢れていた。
【終わり】
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- 世界の中心で不運を叫ぶ。
かがみ「誰か平穏を下さいー!」 -- 名無しさん (2011-04-29 21:21:53) - 続編ながら手抜き無し・完成度高し!
つかさ…天然なのに恐ろしい娘っ!w -- 名無しさん (2010-03-14 23:10:51) - みんながみんな痛い思いをしたね……笑わせていただきました☆ワラ -- 名無しさん (2009-12-15 21:07:09)
- 純粋にボディブローをするつかさ色々な意味ですげぇww -- 名無しさん (2009-10-08 17:56:12)
- つかさ…なんて恐しい娘ッ! -- 名無しさん (2009-02-19 02:11:56)
- さすがかがみと血をわけた姉妹・・・
やるときにはやるのか・・・ -- 名有りさん (2009-02-01 22:37:32) - つかさ恐いけど可愛い
-- 九重龍太 (2008-03-29 12:28:01) - つかさ自重wwwwww -- 名無しさん (2007-11-20 21:24:32)
- つかさのキラ真っ青な頭脳に感動した!!wwww -- 名無しさん (2007-10-12 16:59:13)
- つかさやべえwwwwww -- 名無しさん (2007-09-30 02:29:10)