私用の辞書には1万数千語登録されていますが、これは日常会話の観点で考えると多いです。実際こんなに使っていません。多分、ふだんは1000。それ以外でも3000もあれば事足りているようです。まして
アルカの場合、
n対語があるため、実際に覚えねばならない語数はかなり少ないです。
アルカは文法が単純で、
文型といった概念はなく、
テンスやアスペクトの作り方も容易です。活用や曲用もなく、
数も文法カテゴリーではありません。冠詞もないし、格変化もありません。かといって使っていて表現不足だなと感じることはありません。冠詞など、無い部分は別の表現に置き換えるだけで、これは自然言語間の翻訳と同じです。
品詞も単純ですしね。英語だと
名詞・
動詞・
形容詞・副詞を一々覚えないといけません。どの派生語も規則的でないし、ときには名詞と動詞が同形だったりすることもあり、色々大変です。アルカは人工言語なので規則的で、しかも全てが同形で、統語論で
不定詞の品詞を判断します。
エスペラントは語尾の母音変化という形態論で品詞を操作していますが、アルカは統語情報による操作なのでゼロ語尾でよろしい。これだけでも随分労力の減少になっています。また、
動詞に自他がないのも便利です。全て他動詞なので、英語などの自動詞に当たる意味は繋辞と組み合わせて作るか、対格を省略して作ります。
じゃあアルカで覚えねばならないことは何かというと、経験上、まず
文字や
音や文法です。でもこれは上記の理由で簡単です。そして次に語と
語法です。アルカだけで1日過ごすために必要な語は1000ほどです。でもこれは最低限です。実際は3000語から多くても5000語あれば十分でしょう。私自身、創造者で話者のくせに私用辞書の全ては覚えていません。多分、私自身の語彙は5000くらいじゃないでしょうか。でもまぁ、それだけの数を日常会話用に充当すれば十分生活はできます。
アルカの場合、たとえば動詞と名詞が異なった語形だということがないので、派生語が少ないです。だから3000も覚えていればかなりのものです。また、
n対語があり、最低2対から最高4対まであり、これらは全て規則的に覚えられます。対を持たない語もあるので正確な平均値は出ませんが、基本3000語のうち、半分以上は対語でしょう。特に基本語に対語が多いので、割合が高いはずです。
gars(ルバーブ)、
kyos(インシュリン)、
tih(ケーネル)、
tekl(バリウム)なんていう単語には対がないですが、基本語についてはかなり対語が多いので、3000のうち、半分以上は対語でしょう。したがって、恐らく覚えるのは1000強でしょう。
ただ、単語を日本語のまま丸覚えしても意味がありません。単語は用例で覚えるのが一番です。しかし用例を1つ見ただけではどう使うのか分かりません。つまり
語法やコロケーションが分かりません。じゃあどう解決するか。日本語話者にとっては日本語との相違を挙げるのが一番です。
「手紙を書く」はwrite a letterなのでコロケーションが一緒です。これは相違がないので辞書に書く必要がないでしょう。ただ「傘をさす」はopen an umbrellaなので、コロケーション情報を書く必要があるでしょう。
また「高い」とhighは建物や値段には共に使えますが、背にはhighが使えません。「背丈はtallとする」という注記が必要でしょう。しかし、辞書がなくてもかなりカバーできる部分があります。以下の見地があれば先にあげた単語帳だけでもかなり活用ができます。
動詞は
格組を持ち、種類ごとに分類されています。たとえば行くも来るも移動動詞なので、同じ格組を持ちます。存在動詞も同じです。
onが場所になります。
ke-e,
ket-e,
xa-e,
lev-e,
lov-eなど、全て同じ格組です。
onが場所です。英語だとleaveは他動詞ですがarriveは自動詞なのでatが必要です。そんな面倒なことはアルカにはありません。
lov-e,
lev-eは同じ格組です。それどころか移動動詞全体が同じです。
ある動詞の格組を知りたければ、その動詞がどの種類に含まれるのかを考えるだけです。動詞の種類は少ないです。物体の位置変化に関していえば、
ke-eを代表とする移動動詞、
lof-e(歩く)などの経路動詞、
skan-e(立つ)などの姿勢動詞などです。
パターン数が少ないのでどれに類別するかは容易に想像が付きます。同じ種類の動詞は同じ格組を共有するので、非常に覚えやすいです。
要するに数パターンしかない動詞の格組を覚え、種類ごとの代表的な動詞を数語覚えれば、他の動詞は類推で全て格組が分かるという仕組みです。動詞の覚え方としてはかなり簡単な部類です。因みに、
制アルカのプロトタイプではたった1つの格組しか認めていなかったのでもっと簡単でしたが、文が冗長になるので却下して現在の形に落ち着きました。
さて、
語法とコロケーションに戻りますが、もうひとつ便利な法則があります。アルカは多義語が少ないという法則です。自然言語は基本語が多義化します。goに関する言葉を集めたらそれだけで本ができそうですね。でもアルカで
ke-eは
ulが
onへ移動することしか表わしません。
bigもそうです。big problem,big heartという用法は
tasにはありません。
tasは3次元体のサイズが大きいことしか表わしません。分析的というか論理的というか、非感性的といったほうがいいかもしれません。
コロケーションも客観的・物理的・論理的に見るので、「考えれば分かる」ものが多いです。日本語だと傘はさすものですが、電気はつけるものです。でもどちらも道具の能力を発揮させるという行為なので、アルカでは一様に
as-eを使います。「大きな問題」というのも論理的に解釈します。問題は抽象物なので大きさは問えません。なので「程度が甚だしい問題」と捉え、形容詞は
tinを使います。基本的に程度を問う場合は
tinを使っていれば良く、道具のコロケーションには
as-eを使えば問題ありません。
英語でハロゲンヒーターをつけるというときの「つける」は何ていうのと聞かれて咄嗟に判断できるでしょうか。 DVDの電源を入れるとき、何という動詞を使えばいいのでしょうか。アルカでは全て
as-eで構いません。
厳しいテストの厳しいは何て言えばいいのでしょう。
kinでも良いのですが、これも論理的に考えるだけです。つまり難しいとか、或いは合格者が少ないとか、何らかのメタ日本語に論理的に置き換えて訳します。
また、アルカでは1語の持つ語義が多義でないだけでなく、語義が簡素に限定されていることも特徴です。
hanは「広い」です。「広い」は一般に面積の大きさをいうといわれています。確かに「広い公園」はいいですね。でも「広い紙」は変でしょう。「大きい紙」が妥当です。あれ、紙は3次元でもないのに変ですね。
実は「広い」は面積の問題だけではないのです。被修飾語の場所性が問題になるという要素も持つのです。だから紙は広いといえないわけです。この点については見落としがちで、言語学者の国広哲弥でさえかつて次元形容詞の論文でこのことを見落とされていました。
アルカの場合、
hanは面積が大きいことしか表わしません。公園も紙も
hanなわけです。語義ができるだけ単純かつ簡素に凝縮されています。この語義凝縮のおかげでアルカの語法やコロケーションは更に客観的・物理的・論理的になり、異言語話者にとっても習得が容易です。
アルカは新生人工言語なので文化が重要視されますが、惑星
アトラスは架空の存在なので、私らはこの地球で使っているわけです。だから初手の段階における学習の容易さと、その後の運用のしやすさは不可避な課題でした。
アンティスが濃厚に表れるのはそれ以降の話です。
雑感すると、レトリック的にはつまらない言語にみえます。が、学習と運用では楽な言語です。尤も、レトリックは勿論あるわけで、文学等においては修辞的な用法が勿論可能です。ただ、自然言語との違いは、レトリックがそこまで日常のコロケーションや語法に食い込んでいない点です。
さて、ここで挙げたアルカの性質を活かせば、
単語帳も随分使えるようになると思います。また、後に
辞書をアップした場合にも、かなりこの見地が役に立つでしょう。
最終更新:2007年11月12日 21:09