恐山ル・ヴォワール

青森県、恐山。この山中にある旅の扉の前で、二人の青年が言葉を交わしている。
もっとも、傍目からはひとりの青年が巨大な箱に向かって話しかけているようにしか見えないのだが。

『それで、シナクさんはこれからどうするつもりですか?』
「ああ、目の前に旅の扉があるんだから、すぐにくぐってもいいんだろうが……。
 やっぱりギリギリまで人を集めたいな。ひとりでも多くの人間に、ここに旅の扉があることを教えたい」

コピーベルトに表示された情景の書き手からのメッセージに、シナクはそう答える。
その静かだが力強い口調に、情景の書き手は何か熱いものを感じ取る。

『わかりました。僕にたいした考えがあるわけじゃないし、あなたを止めはしません。
 まあこの状況じゃ、止めることも助けることもできないんですが』
「その箱、壊しちまえばいいんじゃねえの? たぶん俺ならできるぜ?」
『あー、お気持ちはありがたいんですが、遠慮しておきます。書き手ロワなら、「箱から出たら死亡」とか普通にありそうなんで。
 前回も、空鍋をかき回し続けないと死ぬなんて制限かけられた人がいると聞きますし』
「そうか、まああんたがそう言うなら無理にとは言わねえが……。
 じゃあ、俺は他の参加者がいないか探してくる。タイムリミットまでには戻ってきて、あんたと一緒に旅の扉くぐるから」
『行ってらっしゃい。ああ、でもあんまり遠くには行かない方がいいですよ。
 もう残された時間はそんなに多くないですから』
「ああ、そういやそうなのか……。俺を吹っ飛ばしやがったクソガキにもリベンジしておきたかったが、欲張りは言えねえか。
 リベンジは次のフィールドでのお楽しみってことにして、今は近場にいる人間の捜索に専念しよう」

不満げな表情を浮かべながら、シナクは移動を開始する。だがその足は、三歩と歩かぬうちに止まってしまった。

「誰かー! 誰かいないかー!」

ちょうど正面から、マイクを使って怒鳴っているような大音量の声が聞こえてきたために。

「うるせえええええええええ!! 何をそんなでかい声で叫んでんだ、この野郎!!」

鳴海譲りの気の短さが発動したのか、シナクはとっさに叫び返してしまう。

「おお、誰かいるのか! 待っていてくれ、今そっちに行く!」

それに対し、向こうからも応答が返ってきた。少しして、声の主が姿を現す。
それはゴスロリ服の少女を連れ、もう一人の少女を背負った青年だった。

「私はオールロワの書き手、カラオケボイスだ!」
「俺は漫画ロワのシナクだ。まず、そのでかい声をなんとか……」
「早速ですまないのだが、頼みがある!」
「いや、だからその声をだな……」
「どうか彼女を助けて……!」
「こっちの話を聞けえええええ!!」


しばらくお待ちください……


「つまりだ、その人が死にかけてるから回復アイテムか回復能力がほしいと。そういうことだな?」
「ああ、そうだ」

数分かけて状況を理解したシナクの言葉に、カラオケボイスは大きくうなずく。

『申し訳ないですが、僕の支給品に回復に使えそうなものはありませんね』
「そうか……」

情景の書き手がコピーベルトに表示した言葉に、カラオケボイスは悲観の色を隠せなかった。
どういう事情かは知らないが、シナクはデイパックを持っていない。すなわち支給品を所持していない。
それでいて情景の書き手が回復アイテムを持っていないとなれば、この場に普通の名探偵を治療する手段はないということになる。
彼女の命を救うことはできないのか。そう思い悩み、思わず頭を抱えるカラオケボイス。
だが彼の前にいるシナクの目には、まだ諦観の念は浮かんでいなかった。

「なあ、あんたら誰か刃物を持ってないか?」
「刃物? そんなもの何に使うっていうのよ」
「いいから!」

シナクの言葉に当然の疑問を投げかける断崖道だったが、シナクはそれを一喝する。

「刃物なら私の支給品にあったが……」

そう言って、カラオケボイスはデイパックから取り出した一振りの刃物をシナクに手渡した。

「阿紫花のドスか……。できればナイフとかのほうがよかったんだが、贅沢は言ってられねえか」

渡されたドスを、シナクは左手に持つ。そしておもむろに、自らの右腕を斬りつけた。

「ちょっと、何を……!」
「黙って見てろ!」

再び断崖道を怒鳴りつけつつ、シナクはおのれの腕から流れる血を左手でぬぐい取る。
そして血をたっぷりとまぶした左手を、普通の名探偵の口に押し込んだ。

「いいかげん説明してくれ。どういうことだ」
「俺に流れるしろがねの血は、原作では一度心停止した人間を生き返らせたことがある。
 つまり、極上の回復アイテムなんだよ」
「なるほど、そういうわけだったのか」
「それならそうと、最初から言いなさいよね」

シナクの説明に、カラオケボイスと断崖道もようやく納得の表情を浮かべる。

「問題は、血の力が制限されてるかもしれないってことだ。こいつが息を吹き返すかどうか、今は神にでも祈るしかねえ」

真摯な表情で、シナクは普通の名探偵を見つめる。その様子に、目立った変化はない。
だが2分、3分と時間が経っていくと、次第に彼女の頬に赤みが差してきた。

「これは……」
「いけるんじゃないのか?」

その場にいる全員が、固唾を呑んで事の推移を見守る。そして、10分ほどの時間が過ぎた時……。

「ん……。んん……」

ついに、普通の名探偵が目を開けた。

「あれ……。ここはどこなんだぜ……」
「おお! 復活したか!」
「大丈夫か? 起きられるか?」
「何とか……」

断崖道に肩を貸され、普通の名探偵はゆっくりと体を起こす。彼女の顔には、もうすっかり血の気が戻っていた。

「ひょっとして……あんた達が助けてくれたんだぜ?」
「まあ、そういうことになるかな」
「あ……ありがとうなんだぜ」
「おいおい、泣くなって」

目にうっすらと涙をたたえる普通の名探偵の方を、シナクが遠慮なしに叩く。
今、彼らは一つの命を救ったという幸福感で一つになっていた。


それが、すぐに失われるとも知らずに。


最初にそれに気づいたのは、断崖道だった。

「あれ? 誰かこっちに……」

次の瞬間、音速の疾風が駆け抜ける。そして、血の雨が降った。

「え……?」

シナクは、目の前の光景を受け入れられなかった。目の前にいるのは、どこからか現れたボロボロの服を着た少女。
彼女が持つ槍の先には、胸に赤い花を咲かせた普通の名探偵の姿がある。
槍は、寸分の違いもなく心臓を貫いていた。
しろがねの血を飲んだ人間は、その後も常人以上の回復力を持つことになる。
だが、この場合は話が別だ。一瞬で殺されてしまえば、回復のしようがない。
奇跡の復活を遂げたはずの普通の名探偵は、その直後にあっさりと取り戻した命を奪われたのだ。

「て……め……!」

ようやく幾ばくかの平常心を取り戻したシナクは、少女に殴りかかろうとする。
だがそれよりも早く、少女は片手をシナクに向けた。

「バインド!」
「何!?」

少女が叫ぶと同時に、シナクの両手両足を魔力の輪が拘束する。
それだけで、シナクは一切の身動きが取れなくなってしまった。

「フェイトちゃんの姿の人を見失ったから、欝展開のにおいがする方向に来てみたけど……。大正解だったね。
 奇跡的に一命を取り留めたキャラが、その直後にあっけなく殺される……。なかなかに鬱じゃない」

槍を普通の名探偵の身体から抜き取りながら、少女……悪魔のフラグ建築士は狂気じみた笑みを浮かべる。

「この外道が……!」

断崖道は、顔を怒りに歪めながら拳銃を構える。だが銃口を向けられても、建築士は笑みを消さなかった。

「いいのかな、撃っちゃって。外れたら、味方に当たっちゃうよ? そんなに銃の腕に自信があるのかな、あなた」
「クッ……!」

動けないシナクを背にして、余裕ぶった口調で建築士は言う。
その言葉は、断崖道を制止するには十分だった。彼女は銃に関して、全くの素人。
狙いを外し、シナクを撃ってしまう可能性は決して低くない。

「なら、これでどうだ!」

断崖道がためらっているのを受けて、その傍らにいたカラオケボイスが跳ぶ。
そこから、奇妙なポーズでの跳び蹴りが繰り出された。
しかし建築士は、ストラーダを盾にその蹴りをがっちりと受け止める。

「残念ながら、身体能力はオリジナルのスザクほどじゃないみたいだね、あなた」

蹴りを受け止められ着地したカラオケボイスに対し、建築士はすかさずストラーダを逆袈裟に振るう。
何とかかわそうとするカラオケボイスだが、間に合わない。腹から胸にかけてを一直線に切り裂かれ、鮮血をまき散らしながらカラオケボイスは倒れた。

「ううっ……うあああああ!!」

カラオケボイスまでも倒され、半ばヤケになった断崖道が銃の引き金を引く。
だが、素人が破れかぶれに撃った弾丸が都合よく当たるはずもない。
放たれた銃弾は、あさっての方向へ飛んでいった。

「残念だったねえ。私を倒せる最初で最後のチャンスだったのに」

嘲笑を浮かべながら、建築士は一気に断崖道との距離を詰める。そして彼女に反応する間も与えず、その両目を一気に切り裂いた。

「きゃああああ!!」

痛みと視力を奪われた恐怖で、断崖道は絶叫をあげる。建築士はそれを、恍惚の表情で聞いていた。
彼女はゼロスによるホリィさんいじめに荷担した書き手のひとり。そのため、負の感情をエネルギーにするゼロスの特徴も受け継いでいるのだ。

「さて、あなたとそっちのスザク君は、生き地獄コース♪ 苦しみにもがきながら、次のフィールドでも頑張ってね?」

建築士は抵抗する断崖道を無理矢理引きずり、旅の扉へ放り込む。さらに倒れたままのカラオケボイスを蹴り飛ばし、彼の身体も旅の扉へ押し込んだ。

「てめえは……!!」

一部始終を見ているしかなかったシナクは、振り絞るような声で建築士に語りかける。

「てめえは……悪魔かああああああ!!」

気の弱い人間なら、聞いただけで気絶してしまいそうなシナクの叫び。だが、当の建築士には何の動揺もなかった。

「悪魔でいいよ……。というか、元々悪魔だもん。悪魔のフラグ建築士、それが私の名前」

自らの名を口にしながら、建築士は再び嘲笑を浮かべる。

「というわけで、抵抗できない相手を残してマーダー勝ち逃げ! これもそれなりに鬱だよねえ。じゃあね」

激情に満ちたシナクの視線をさらりと受け流し、建築士は旅の扉に身を投じ……るかに見えたが、突然その動きを止めた。

「なんて、言うと思った?」

振り向いた建築士の、視線の先。そこには、鋼鉄の箱があった。

「私が現れてから完全に無視されてたから、ひょっとして参加者として認識されてないんじゃ、とか思ってなかった?
 残念、それも計画通りなの。助かるかもしれないっていう、希望を踏みにじるためのね」

建築士が、ストラーダの穂先を情景の書き手に向ける。おのれの命の危機を感じ取る情景の書き手だが、彼にできることは何もない。
鋼鉄の箱に閉じこめられた彼は、自分で動くことすらできないのだから。

「いくよ、『とある魔術の超電磁砲』」

ためらいなど微塵も見せず、建築士は情景の書き手に死を告げる言霊を紡ぐ。
その瞬間、三叉の魔力砲撃がストラーダから放たれた。電撃を帯びた魔力の奔流は、瞬く間に情景の書き手を飲み込んでいく。

「ま、技の内容はトライデントスマッシャーそのまんまなんだけどね」

建築士がそう呟いた時には、全ては終わっていた。後に残されたのは、『箱だったもの』と『人だったもの』だけだ。

「じゃあ、今度こそさよならなの。せいぜい元気でね、お兄ちゃん」

シナクに告げると、建築士は今度こそ旅の扉の中に消えていく。その瞬間バインドが解除され、シナクの体は自由を取り戻した。

「う、おお……。うおおおおおおおおおお!!」

シナクは、地面に崩れ落ちた。そして、声を張り上げて泣いた。
悔しくて、情けなくて、そして許せなくて。
全てを吐き出すように、シナクは泣き続ける。そのまま10分ほどの時が流れ、ようやくシナクの嗚咽は止まった。
彼はゆっくりと立ち上がる。そして、力強い足取りで旅の扉に向かって歩き出した。

「すまねえ、みんな……。許してくれとは言わねえ……。俺にそんなことを言う資格はねえ。
 だがせめて……せめてもの罪滅ぼしに……。あのガキだけは絶対に俺がぶっ殺す!」

悲痛な決意を口にしながら、シナクは旅の扉へと飛び込む。その顔に、おぞましき悪魔<デモン>の表情を浮かべながら。


【普通の名探偵@ニコロワ 死亡】
【情景の書き手@芸人ロワ 死亡】

【現在位置・新フィールドへ】

【悪魔のフラグ建築士@kskロワ
【状態】ダメージ(小)、魔力消費(中)、幼児化、バリアジャケットボロボロ
【装備】ストラーダ@kskロワ
【道具】支給品一式、夢成長促進銃@kskロワ、不明支給品0~1
【思考】基本:鬱フラグを立てまくる
※外見はフェイトのバリアジャケットを着た高町なのはです
※幼児化は放送まで解除されません


【カラオケボイス<◆KV/CyGfoz6>@オールロワ】
【状態】:胸から腹にかけて深い傷、まともに動けないレベルのダメージ
【装備】:枢木スザクの格好(現在はアッシュフォード学園制服)
【道具】:支給品一式。不明支給品0~2(怪我の治療ができるアイテムではない)
【思考・行動】
 基本:打倒、主催!
 1:対主催! 対主催!
 2:断崖道について来いと言った責任は取る
 3:一応、猫や猫の姿をした参加者、ネコミミの参加者に気をつける
※外見と身体能力は 枢木スザク@コードギアス です。スザクがアニメ本編で着ていた服ならいつでもどこでも一瞬で衣装チェンジができます。
※生きろギアスがかかっているかは不明。猫の姿の参加者やネコミミのついた参加者に出会ったらどうなるのかも不明です。
※オールロワで黒井ななこに支給されたカラオケ用機材一式に可能なことは、自力でできます。


【断崖道<◆d3hAP9FFr2>@オリロワ】
【状態】両目失明
【装備】ゴスロリ服。S&W M60
【道具】支給品一式。
【思考・行動】
 基本:無気力
 1:カラオケボイスについていく。
※少なくとも、怪我を治せるような特殊能力は持っていません


【【車輪】シナク@漫画ロワ】
【状態】右腕に小さな傷、悪魔<デモン>状態
【装備】阿紫花のドス@ロボロワ
【道具】なし
【思考】
基本:熱血対主催!
1:悪魔のフラグ建築士を殺す
※外見は加藤鳴海@からくりサーカスです。
※【車輪】は「漫画ロワに登場した、車輪の付いたアイテムを具現化する」能力です。


※普通の名探偵の支給品は、その場に放置。情景の書き手の支給品は、使用可能な状態かどうか不明。

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カラオケボイスの適当な設定と目的地 普通の名探偵
ホイール・オブ・フォーチュン 情景の書き手
余計なことすんなよ(読み手の心の声) 悪魔のフラグ建築士 7人の魔女+α
カラオケボイスの適当な設定と目的地 カラオケボイス たとえ胸の傷が痛んでも
カラオケボイスの適当な設定と目的地 断崖道 どうでもいいけどプーチンってプッチンプリンみたいなかんじで美味しそうですよね
ホイール・オブ・フォーチュン 【車輪】シナク 一瞬のしろがねサーカス

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最終更新:2009年07月16日 17:22
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