平原の七人

「……ったく、無茶しやがる」

第二マップ北西部、プレーンエリアの一画で剣客オボロは独り毒づいた。
右手で後頭部を掻きながら、首をしきりに傾けて関節を鳴らす。
旅の扉を抜けるためとはいえ、強引な手段で一時的に欝に叩き落されたのだ。
メンタル面のコンディションはあまり宜しくないようだった。
しかし、とんだ目に遭わされたものの、彼の心の中にコリジョン・ナンバーズへの恨み辛みはない。
誰かが欝になって旅の扉を開くことが最善の一手であることは、オボロ自身も理解していた。

「許せって最初に言われてたしな。さてと、ここはどこなんだ?」

乾いた土から腰を上げて周囲を見渡す。
付近にコリジョン・ナンバーズの姿はない。
パヤロワ断章ギャルゲ写本も見当たらない。
どうやらオボロは他の連中とは別々に移動させられてしまったらしかった。
そのことを念頭に、オボロは改めて周辺の様子を確認する。
平地(plain)の名の通り、辺りはこれでもかというくらいに見晴らしがいい。
目に付くといえば、背丈の低い草木と、土が剥き出しの簡易な道ばかり。
視界を遮るものはあちらこちらで疎らに生えている木が精々だ。
それゆえ、ここにいる『自分以外の誰か』の存在は、すぐに分かった。

「範馬、勇次郎か」
「ほぅ……面構えは一丁前みてぇだな。ちょっと相手になって貰うぜ」

オボロから離れること十数メートル。
土と砂によって舗装された道のど真ん中に【暴流】ゼフィエフの姿はあった。
総身に負ったダメージなど意に介することもなく、堂々と腕を組み仁王立ちをしている。

「俺は漫画ロワの【暴流】ゼフィエフ。手前ェは?」
「RPGロワ、剣客オボロだ」

言葉遣いこそ普段通りだが、ゼフィエルの憤怒は、もはや『頂点にある』という表現すら生温いほどだった。
鬣の如き赤毛が火炎のように揺らめき、滲み出る殺気は今にも形を成さんばかり。
怒りの原因は、先ほどの戦闘で受けたダメージなどではない。
圧し折れた肋骨も、随所の骨格に入ったひびも、全身に刻まれた裂傷も、全ては『軽症』
相対した相手の強さに心躍らせこそすれど、怒るには値しない。
憎らしきは"百万の愛でられし魔法使いの父"である。
それなりに歯応えのある使い手との戦いを二度も妨害され、無様なやられ方で新フィールドへと放り込まれたのだ。
この怒りを収めるには、それこそ誰かの死が不可避であろう。
そして、ゼフィエフの標的が誰であるか分からないオボロではない。

「ハァッ!!」

裂帛の気合と共にゼフィエフが地を蹴る。
オボロはデイパックから朱鞘の古刀を抜き、鯉口を切った。

「――っ!」

十数メートルもの間合いが瞬時にゼロになる。
視認の限界に迫る速度で繰り出される右拳。
オボロはそれに鞘をぶつけ、同時に刀身を引き抜いた。
砕かれる鞘。
一瞬早くゼフィエフの胸板を裂くカウンターの抜き打ち。

――浅い。

万全の構えではなかったとはいえ、速度も角度も人間を斬り殺すには充分だった。
だがその程度ではゼフィエフに深い傷を与えられない。
胸筋を寸断し、あわや骨に達するほどの切断面であっても、奴にとっては『軽傷』なのだ。
オボロはそれを直感的に悟り、身を低くしてゼフィエフの脇を抜け、即座に遠心力を乗せて刀を振るう。
斬撃で奴を倒すには、一方的に切り刻み続けるより他にない。

「邪ッ!!」

しかしまさかの『後の先』――!
ゼフィエフの総身の筋肉が盛り上がり、豪速の後ろ回し蹴りが放たれる。
みしり。
オボロの脇腹に突き刺さる蹴り。
びきり。
骨格と肉体が形容しがたい悲鳴を上げる。
ぐずり。
体内に溢れる熱くて湿った感触は、もたらされた傷の重さを物語る。
振り抜いた刃は届くことなく、オボロの身体と共にゼフィエフから遠ざかっていく。

「がっ……!」

背中から強かに叩きつけられ、ごろごろと草の地面を転がる。
範馬勇次郎の姿が示す通り、ゼフィエフの攻撃は一撃一撃が必殺の重みを持っている。
支給品も特殊能力も必要としない全身凶器。
その常識を超えた身体能力は、苦痛にのたうつ暇すらオボロに与えない。
オボロが起き上がろうとする瞬間を狙い、ゼフィエフの手刀が叩き落される。
防ぐこともかわすこともあたわぬ凶悪な"斬撃"――


「マグルガ!」


天から撃ち落とされる緑の光撃。
それは狙い過たずゼフィエフに直撃し、小規模な爆発を巻き起こした。
遅れて落下してきた何かが、その爆風をクッションに減速し、地面と衝突する。

「あいたたた……なんだよぉ、地面に向けて撃てば大丈夫じゃあなかったのかよぉ」
「おのれオカマヒゲ! 謀ったな!」
「そんな呼ばれ方は嫌だ! とにかく、無事に着地できたんだから……」

落ちてきたのは、レジェンドオブw2アニマルス、◆.xD7msqny6の二人と一匹。
バトルフィールドエリアの上空で吹き飛ばされた彼らは、大きな弧を描いて、二つ隣のワストエリアにまで飛んできたのだ。
大蛇の首が放ったエヌマ・エリシュによって初期の落下速度はだいぶ軽減されていたが、それでも生身では耐えられない。
そこで◆.xD7msqny6が思いついたのが、もう一度何かを下向きに撃てば勢いを相殺できるかもしれない、というアイディアだった。
三人は頭や体についた草を払い、ふと顔を上げ、そして硬直した。
目の前には、怒りのあまり笑みすら浮かべた範馬勇次郎、もとい【暴流】ゼフィエフ。

「あ……」

死んだな、とレジェンドオブw2は直感した。

無理だ、これは無理だ。

ただでさえ地上最強の生物なのだ。

しかも何だか凄く怒っている。

原因?

きっとアレだ。

さっきのが当たったんだ。

それでブチギレたんだ。

絶望に震えるレジェンドオブw2とゼフィエフの間に、白い影が割って入った。

「逃げてください、ご主人様! この怪物は任せて!」

アニマルスは総身の体毛を逆立たせ、威嚇の体勢を取っていた。
無論、獣の威嚇で怯む相手ではないことくらい、アニマルスにも分かっているだろう。
これは挑発である。

『戦うなら自分と戦え。
 まさか自分から逃げてレジェンドオブw2を襲うというのか?』

闘士としてのプライドを煽る行為に、ゼフィエフはにやりと笑った。
両腕をゆるりと上げ、ファイティングポーズへと移行する。

「ご、ごめんよぉ!」

アニマルスの意志を理解し、レジェンドオブw2は走り出した。
無理に残っても足手まといになるのは明らかだ。
それなら格好悪くても尻尾を巻いて逃げてしまうのが、何よりもアニマルスのためになる。

「じゃ、じゃあ俺も」
「おまえは残れ!」

レジェンドオブw2に続いて離脱しようとした◆.xD7msqny6に一喝するアニマルス。
今のところ、魔本を読むことができるのは◆.xD7msqny6だけ。
アニマルスがあの呪文を使おうと思えば、彼の存在は必要不可欠なのだ。

「おいおい……何勝手に盛り上がってるんだ?」

ゼフィエフの背後でオボロが古刀――無銘・九字兼定を構える。
戦況は一対三。
状況は挟み撃ち。
しかしそのような状態にありながら、ゼフィエフは心底愉しそうに笑っていた。




   ◆   ◆   ◆


三人と一匹が戦闘態勢に入った丁度その頃、比較的背の高い街路樹の木陰で人影が動いた。
太い幹に背を預けて、彼らからは死角になるようにしている。

「Surviver――と、びーはちは第三の能力の発動を宣言します」

言うが早いか、人影……びーはちの足元から光る糸の絡まったようなものが広がっていく。
ところどころに浮かぶ円の模様は、どことなく人間の顔に似ている。
ジョジョの奇妙な冒険に造詣が深い書き手であれば、その正体を一目で看破することが出来たかもしれない。
そのスタンドの名は『サバイバー』
第六部の本編ではDISCによって与えられた能力として登場したスタンドである。
スタンド自体に攻撃力は一切なく、射程も精々数メートルから十数メートル。
本体の怒りに反応して自動的に発動し、射程内にいる生物を怒らせ、争いを誘発させるだけのスタンド。
かのDIOからも、言葉遊びのレベルの比較ではあるが、最も弱いスタンドとしてその名を挙げられた代物だ。
御坂美琴の身体に由来する電気を操る能力。
能力名を冠したSSで活躍した"Radical Good Speed"
同じくSSタイトルとなり、大規模な乱戦の原因となったSurviver
どれもびーはちの能力となるには充分な由来を持っているといえるだろう。
ところで、サバイバーというスタンドは、本体が何かしらの怒りを覚えたとき自動的に発動する代物である。
制御は不可能で効果は無差別。
故に『最も弱いが最も手に余るスタンド』なのだ。
それが何故びーはちの掛け声で発動したのであろうか。

……先ほどの放送で二つの名が呼ばれた。
笑顔の人
魔術師殺し
二人は、びーはちと同じロワの書き手であった。
マルチジャンルバトルロワイアルの書き手が殺された怒り――
助けることが出来なかった自分への怒り――
それらの怒りの感情は、サバイバーを発動せしめるのに充分過ぎるほどである。
しかし実際には、放送終了から現在に到るまでサバイバーは発動していなかった。
その秘密は『電気を操る能力』と『サバイバーの性質』にある。
サバイバーは、本体が怒ることで脳内に発生する0.07Vの電流(インパルス)の中に出現し、
それが本体の意志とは無関係に、電流とともに周囲へ拡散することで効果を発揮する。
つまりびーはちは『電気を操る能力』によって、この電流の拡散を防ぎ留めていたのだ。
簡潔に言い換えれば、びーはちは怒りを覚えても効果を出さないよう制御するのは可能だが、
そもそも怒らなければ発動はできない、ということである。

だが、ここまでは制御可能である点を除けば原作能力の焼き直し。
ここからがオリジナル。
ここからが、書き手ロワの真骨頂。

体表がスパークし、高圧電流が迸る。
随意に動く電撃はびーはちの周囲で渦を巻き、微弱な電流を帯びたサバイバーを取り込んでいく。
サバイバーの通常射程が狭いのは、電流が遠くまで伝わらないのが原因だ。
逆に電気の伝わりやすい環境であれば、その射程は見渡す限り一帯にまで及ぶ。
例えば、水浸しになった床。
例えば、金属だらけの環境。
例えば、遠くまで届くほどに電流が増幅された状況――

すぅっと息を吸い、止める。
巡る思考は罪への懺悔か、それとも殺意か。
視線の先には四つの影。

 a chain of murders
「殺  人  連  鎖」

当人達には聞こえるはずのない声で呟き、びーはちは電撃を解き放つ。
到達までのタイムラグは誤差の域。
限りなくゼロに近い、まさしく知覚の埒外にある速度で、"サバイバーの効力を帯びた電撃"が放射状に拡散していく。
それはまさに電気の網。
元は高圧電流であるが、大気に薄く拡散した状態であるため、これ自体に殺傷能力は一切ない。
だが痛みを感じないが故に、張り巡らされた電子の網に気付くものはいない。

而して対峙する三人と一匹の書き手達は、びーはち以外の誰にも悟られることなく、サバイバーの網に包み込まれていくのだった――

びーはちはそっと目を閉じた。
広範囲に行き渡った電流は、さながら感覚神経のように働いて、視覚よりも如実に戦況を教えてくれる。
これもまた、スタンド能力と電撃を融合させた"殺人連鎖"の効果の一端である。
その気になればサバイバーの効果を抑え、感覚だけを得ることも可能だが、今はそんな必要などない。
これから引き起こされるであろう凄惨な戦いを、静かに傍観しているだけだ。




   ◆   ◆   ◆


畜生が


なんでこんなことになってんだ


コリジョン・ナンバーズと合流しなくちゃいけないってのによ


ああ、腹が痛てぇ


あのクソ野郎のせいだ


ぶった切らないと腹の虫が収まらねぇ……!








腹立たしい


実に腹立たしい


百万も主催者も、両方だ


この連中もロワの醍醐味なんざ分かっちゃいないに違いねぇ……!








ご主人様のために戦うと誓った


邪魔者はみんな殺すと誓ったんだ


それならこいつらは?


決まってる、今から殺すんだ……!








何でだよ!


何でこんなことになってるんだよ!


こうなったらもうヤケだ


やれるとこまでやってやる……!







「マグルガ!」

口火を切ったのは◆.xD7msqny6の詠唱であった。
アニマルスの尾から放たれる緑色の呪文。
しかしそれは標的に届くことなく、ゼフィエフの豪腕に叩き潰される。

「真空斬!」

オボロの繰り出した真空の刃がゼフィエフの背を裂く。
だがそれすらも意に介さず、ゼフィエフは瞬時に向きを反転。
間合いの常識を逸脱した前蹴りをオボロに打ち込む。
辛うじて後方に飛び退いたオボロだったが、ゼフィエフの足が掠めた衣服の一部が、無残にも弾け飛んでいた。

「掠っただけでこれかよ……」

どこからともなく湧き上がる闘志の合間を縫って、オボロは突如として発生した異常について思考した。
――光っている。
ゼフィエフの筋肉が。
白い犬の尾が。
ヒゲ親父の魔本が……これは光り方が少し違うので除外。
なんとなくだが、理解できる。
この光っている部分は奴らの長所だ。
いわば戦いにおいて最も役に立つ箇所が、こうして輝いて見えるのだ。
逆に、ゼフィエフの負った傷のように、役に立たなくなった場所はドス黒く濁って見えている。
どうしてこんな現象が起こったのか分からないが、戦いの助けにはなりそうだ。

「……」

ニィッ、とゼフィエフは獰猛な笑みを浮かべた。
連中の体に浮かぶ光と、黒く濁った部分。
これは紛れもなくサバイバーというスタンドの仕業だ。
ゼフィエフは漫画ロワの書き手であり、範馬勇次郎や愚地独歩ほど多くはないが、
ジョジョの奇妙な冒険のキャラクターを書いたことがある。
漫画ロワに登場したDISCの中にサバイバーは無かったが、それと判別するくらいの知識は充分に有していた。

(誰の仕業だか知らねぇが、味な真似をしやがる)

これはゼフィエフにとって好都合だ。
甘ったれた対主催も、口だけの似非マーダーも、ガタガタ震える臆病者も、サバイバーの前では等しく闘志を引き出される。
絶望と苦悩の果ての殺し合いではなく、狂乱の果ての暴走に近いのは減点だが、やはりそれでも小気味いい。
蹴りを飛び退いて回避したオボロへ向けて、一気にダッシュする。

「チャーグル! チャーグル!! チャーグルッ!!!」


背後に感じる、凄まじいエネルギーの高まり。
ゼフィエフは地面を踏みしめて急ブレーキを掛け、アニマルスと◆.xD7msqny6に向き直った。


「チャーグル!!!! チャーグル!!!!!」


アニマルスの四肢と胸にエネルギーが集積する。
即座に地を蹴るゼフィエフだったが、次の一言には間に合わない。


「いけぇ! チャーグル・イミスドン!!!!!!」


放たれるV字の光の奔流。
チャーグル・イミスドンとは、最終決戦でガッシュが使ったシン・チャーグル・イミスドンを除けば、
華麗なるビクトリーム様が使用した最強の呪文である。
チャーグルという呪文を唱えることで身体の五箇所にエネルギーを蓄積し、それを一気に解き放つ大技だ。
距離を経るごとに巨大になっていくV字型が、ついにゼフィエフと激突する。

「ぬおっ……!」

土俵の上で力士と力士がぶつかり合うように、チャーグル・イミスドンを押さえんとするゼフィエフ。
しかし着実に規模と威力を増していくチャーグル・イミスドンの前に、じりじりと後退を余儀なくされていく。
ここで押し負ければ膨大なエネルギーに飲み込まれてしまうだろう。
そのダメージ自体は、いい。
許せないのは、押し負けてしまったという事実そのもの――!
ゼフィエルの口元が歪み――笑みを形作った。

「ぬるいッ!」

右の拳がチャーグル・イミスドンを突き破る。
理不尽なまでの一撃によってV字型のエネルギーは粉砕され、周囲にその残滓を撒き散らした。
地面を覆う草木が薙ぎ払われ、根こそぎ浮き上がり、湿った土を露出させていく。


勝ち誇るゼフィエルの眼前で、白い尻尾が揺らめいた。


ざぷり、と湿った音がする。
突き出されたままのゼフィエルの右腕。
その肘から少し先がずるりとスライドし、落ちていった。
数瞬遅れ、夥しい量の血液がまるで滝のように流れ出始める。

「ぬるいのはどっちだろうね」

剥き出しになった土に着地して、アニマルスは言い放った。
チャーグル・イミスドンは盛大な陽動であった。
本命は、尻尾の一閃で腕の一本でも奪うこと。
利き腕を奪われたグラップラーなど、戦力半減で済みはしまい。
ゼフィエルが憤怒に身を任せんとした瞬間、その懐へ別の影が飛び込んだ。

「……桜花、雷爆斬!」

胴を薙ぐ第一閃。
袈裟懸けの第二閃。
そして下から斬り上げる第三閃――!
鮮血が、まるで桜の花弁の如く舞い散った。

「――――ッッ!」

ほぼ同時に距離を取るオボロとアニマルス。
ゼフィエルはまさに満身創痍といった状態だ。
普通なら、既に事切れていたとしてもおかしくない。

そう、普通なら。

「…………ハハハハハハハハッ」

笑い出した。

「ハハハハハハハハハハハッ」

片腕を落とされ、全身を切り刻まれてもなお、ゼフィエルは笑っていた。
アニマルスとオボロはその異様さに一歩退いた。
◆.xD7msqny6は心の力を使い切ったのか、汗の浮かんだ表情で、地面に膝を突いている。

「ハハハハハハハハハハハハハァッ!!」

哄笑が止み、静寂が訪れる。
張り詰めた緊迫感の中、ゼフィエルは高らかに両腕を挙げた。
筋肉が凄まじい勢いで膨張し、ズタズタになっていた服を引き千切る。
露わになったゼフィエルの肉体。
その背に浮かぶは、鬼の貌。

「――悪鬼、暴流」

ただでさえ鍛え込まれた筋肉が更にバンプアップする。
皮膚は筋肉の膨張によってビンと張り詰め、傷口の血管が圧迫されたのか、出血がたちどころに停止する。
しかし、オボロ達の目を奪ったのは、そんな表層だけの変化ではない。

「光ってる……」

◆.xD7msqny6が呆然と呟いた。
恐らくは、サバイバーの影響下にあったために気付くことができた変貌。
光と濁りが入り混じっていたはずのゼフィエルの肉体が、今やその隅々に到るまで輝きに満ち溢れているのだ。
全身が長所であると。
欠点など一つもないと。
ゼフィエルの存在そのものが謳い上げているのだ。


地表でミサイルが爆発したかのように地面が揺れる。
同時に掻き消えるゼフィエルの姿。

(しまった!)

アニマルスの動物的直感が、己に迫る危機を察知する。
だが、遅すぎた。
真下から掬い上げるように放たれたゼフィエルの『右腕』が、アニマルスの腹部に叩き込まれる。
まるで意趣返しのように、ゼフィエルは右腕の切断面でアニマルスを打ち上げたのだ。
内臓がいくつか潰されたのか。
アニマルスの口から血反吐が溢れた。

「ご主人さ……」

刹那、振り下ろされた左の手刀がアニマルスを両断する。
比喩ではなく文字通りの切断。
肉と背骨と臓腑をまとめて切り裂かれ、アニマルスは絶命した。
その亡骸が宙に浮いている間に、ゼフィエルは◆.xD7msqny6の腹に拳を放った。
かなりの距離があったにも関わらず、◆.xD7msqny6はゼフィエルの接近に気付くこともなく、無残に胴体を貫かれていた。

「――!」

オボロが九字兼定を構える。
コンマ秒以下の直後、ゼフィエルの中段突きがオボロの胸を撃ち砕いた。





三つの亡骸が、ほぼ同時に地面へ落ちる。
それらの中央で、ゼフィエルは長く息を吐いた。
恐らくは本体が死亡したのだろう。
サバイバーの効果は、いつの間にか消え失せていた。
悪鬼暴流。
書き手としての彼が最後に範馬勇次郎を書いた話のタイトル『悪鬼』
書き手としての彼に与えられた称号『暴流』
二つの名を併せ持つこの力は、ゼフィエルの身体能力を超越的な領域にまで引き上げる。
それを発動した以上、彼に敗北の二文字は有り得なかった。

「が、ふ……」

仰向けに斃れていたオボロが血の泡を吐く。
しかし、ゼフィエルは一切の関心を向けはしない。
手応えは充分すぎるほどだった。
肋骨と胸骨は跡形もないだろうし、肺は両方ともボロボロだろう。
たまたま、偶然にも心臓だけは機能を失わず、即死しなかった。
ただそれだけのことだ。

「ああ、お前と……繋いでみたかった、なぁ……」

言葉の先には、ここにはいない誰かの姿。
そしてオボロは二度と動かなかった。
ゼフィエルはオボロの亡骸に背を向けて歩き出し、切り落とされた右腕を拾った。
この腕は『当面は』使い物にならないだろう。
だが、どこかに都合のいい回復アイテムでもあれば、すぐにでも直せるに違いない。
例えば辺りに散らばっている支給品――


ザクッ――――


オボロの真空斬が背中に刻んだ一直線の刀傷。
それを掻き分けるようにして、硬く冷たい感触が、ゼフィエルの体内に侵入した。

「何、だぁ……?」

首だけを傾けて、ゼフィエルは背後を見た。
背に突き刺さっている黒い両手剣。
頭三つか四つ分は小さな女の姿。

「どうか赦さないでください、とびーはちは誰にともなく謝罪します」

女が片足を軸にしてくるりと回転する。
短いスカートが浮き、紫の装甲に包まれた脚が砲弾のように放たれる。
まるで杭打ちのように、鋭い蹴りが刀身をゼフィエルに打ち込んでいく。

「どうかびーはちだけを呪ってください、とびーはちは身勝手にお願いします」

もう一度回転し、柄を深々と蹴り込む。
肺臓と心臓を抉っていた切っ先が胸板を突き破る。
合計三発の蹴撃により、剣はついにゼフィエルを貫通した。

「咎は、死んでも背負います」




   ◆   ◆   ◆



びーはちはアロンダイトが貫通した手応えを感じ、踵を返してゼフィエルから離れた。
その背中に、心底愉しそうな笑い声が投げかけられる。

「ククク……ハハハハハハッ!」

信じがたいという表情で振り返るびーはち。
左胸を貫かれたはずのゼフィエルは、高らかに笑いながら、胸から突き出た切っ先を握り締めていた。

「その言い草、たまらねぇな」

ずるり、ずるりと、切っ先が胸から抜けていく。
それは必然的に、柄の側が肉体へめり込んでいくことを意味していた。

「奉仕マーダーか? それとも手前ェだけの脱出狙いか? 俺の読みでは前者だな。
 殺しに躊躇はないようだが、それでいて愉しんでる様子も無ェ」

もう既に刀身の半分ほどが抜けていた。
柄は背中に埋没し、孔から壊れた蛇口のように鮮血が流れ出ている。

「それでこそバトルロワイアルだ」

背中に突き刺さっていたはずのアロンダイトが、胸の側から抜き取られる。
生々しい血糊に塗れた刀身が陽光を浴びて鈍く輝いていた。
びーはちは臨戦態勢を取り――すぐに解いた。
ゼフィエルの手からアロンダイトが滑り落ちる。


偉大なる鬼神は、遂に事切れていた。


びーはちは目を閉じて胸元に手を置いた。
この場で散った四人への、黙祷の真似事だ。

「ぱちぱちぱち」

気楽この上ない声と共に拍手の音が鳴り響く。
びーはちが振り向くと、そこにはフェイトのバリアジャケットを纏ったなのは――悪魔のフラグ建築士。
にこにこを満面の笑みを浮かべて、フラグ建築士は拍手を続けていた。

「はじめまして、なのかな? 私は悪魔のフラグ建築士。
 とっても素敵な鬱フラグだったよ、びーはちさん」
「……何を言っているのか分かりません、とびーはちは不快の念を表明します」

いつも通りの無表情と抑揚のない声色だが、不快だという発言に嘘はなかった。
唐突に現れて意味不明の賞賛をされて、正直に喜べる者のほうが異常である。

「鬱フラグも何も、ここにいるのはびーはちと貴女だけです」
「うん、そうなんだけどね。例えば……ほら、彼」

フラグ建築士は仰向けで斃れている剣客オボロを指差した。

「最初に名乗りあってたのを聞いてたから分かったんだけど。
 この人の知り合いが、東へエリア二つ分進んだ先にいるんだ。
 知り合いの訃報だけでも鬱なのに、こんな近くで死なれたと知ったら凄いことになると思わない?」

びーはちは何も答えずに、フラグ建築士を睨む。
恐らくこの人物は"殺人連鎖"を発動する前にここから離脱し、解除した後に戻ってきたのだろう。
そう考えれば電気の網に引っかからなかったことも頷ける。
"殺人連鎖"に気付いていたのか、それともただの偶然か。
どちらにせよ、只者ではあるまい。
びーはちに睨みつけられても、フラグ建築士は楽しそうな顔を止めようとしない。
指先をオボロから外し、見当違いの方向へと動かす。

「次に、一人だけ逃げちゃった人。
 自分を逃がすために強敵と戦った仲間が死んでしまう……王道って素晴らしいよね」

首を傾げ、同意を求めるフラグ建築士。
無論、答えはない。
びーはちはアルターに包まれた右脚を引き、重心をずらした。
フラグ建築士の指が、ゆっくりと、びーはちへと動く。

「そして、あなた」

びーはちが地面を蹴る。
ストラーダがソニックムーブを発動する。
アルターと魔法によってもたらされた高速の機動が、さながら旋風のように絡み合う。
数秒の交戦を経て、鈍い金属音が響き渡った。
びーはちの蹴りをフラグ建築士がストラーダで防いだ格好で、二人は動きを止めていた。
装甲と刀身がガリガリとこすれ合い、力任せの押し合いに移行したことを知らしめる。

「どうしてムキになるの? 奉仕マーダーなんて存在自体が鬱フラグじゃない。
 方針転換でもしない限りはね。書き手ならそれくらい分かってるでしょう」
「貴女がどう思おうと、びーはちは貴女を殺すだけです、とびーはちは宣戦布告をします」

フラグ建築士はストラーダを振るい、後方へ跳躍して距離を取った。
この人物はまともに戦うつもりなどない――
僅か数秒の攻防だったが、びーはちは肌でそう感じ取っていた。
鬱フラグを喜び、鬱展開を愉しむ。
そんな奴が、自分で『存在自体が鬱フラグ』と称したびーはちを殺そうとするだろうか。
せっかくの芽を摘み取ろうとするだろうか。

「私はあなたみたいな人達を見ていたい。あなたは私みたいな人に殺されたくない。
 いい取引だと思わない? ……じゃあね♪」
『sonic move』

勝手なことを一方的に言い切って、悪魔のフラグ建築士は姿を消した。
びーはちは暫く周囲を警戒していたが、本当に立ち去ってしまったのだと悟り、溜息を吐いた。
ふと、周囲を見渡す。
この場所には死体が四つ。
デイパックも同じ数だけあったはず。
だが実際に転がっているデイパックはたったの二つだ。
犯人の見当は簡単につくのだが、しかしいつの間に――

「やられました、とびーはちは愚痴を零します」

アレは警戒すべき相手だな、と内心で決定する。
そして、仁王立ちのまま絶命したゼフィエフの傍らに寄り、血塗れのアロンダイトを拾い上げる。
ぬるりと死の感触がした。







【剣客オボロ@RPGロワ 死亡】
【【暴流】ゼフィエフ (◆05fuEvC33.)@漫画ロワ 死亡】
【アニマルス(◆TPKO6O3QOM)@動物ロワ 死亡】
【◆.xD7msqny6@ゲームロワ 死亡】

【一日目 朝/プレーンエリア】



【レジェンドオブw2@ニコロワβ】
【状態】疲労(小)
【装備】なし
【所持品】射影機@ニコロワβ(07式フィルム29/30)
【思考】
基本:冒険せず、しっかりと確実な『繋ぎ』(他者の手助け)をする。
0:とにかく逃げる。
1:アニマルス達が心配。
2:ニコロワβの書き手を見つけたら、冒険しない範囲で『繋ぎ』をする。
※外見は弱音ハク@VOCALOIDですが、口調は秋山森乃進@ゲーム実況です。




びーはち(仮称)@マルチジャンルバトルロワイアル】
【状態】中の人:健康、疲労(中) 中の人状態
【装備】無毀なる湖光@○ロワ
【持物】基本支給品×3、破壊の杖(使用済み)@漫画ロワ、外装(中破)@初期装備、エアバッグ@現実
    九字兼定(鞘なし)@ラノロワオルタ、不明支給品1~6
【思考】
1.同ロワ書き手は助ける。他ロワ書き手は○ロワ書き手の為に殺す、とびーはちは思考します。
2.どうにかしてみんなに追いつく、とびーはちは考えます。
3.悪魔のフラグ建築士は油断ならない、とびーはちは警戒します。
※外装の見かけは身長212cm、体重130kg(推定)で金色のちよ父です。背中にトリップ(◆b8v2QbKrCM)の刻印有り
※中の人の外見は御坂美琴@とある魔術の禁書目録です。電気を操る事が可能。なぜか口調はミサカ@とある魔術の禁書目録です
※エアバックは六時間経たなければ再使用できません
※アルター能力ラディカル・グッドスピードを発動できます(台詞中の表記は"Radical Good Speed")
※スタンド能力サバイバーを発動できます(台詞中の表記はSurviver)
 通常のサバイバーとは違い、電気を操ることで怒っても効果が出ないように制御可能
※『殺人連鎖(a chain of murders)』
 電気を操る能力によってサバイバーを自在に拡散する
 レーダーのような感覚器としての効果もあり、こちらのみを発動させることもできる




【悪魔のフラグ建築士@kskロワ
【状態】ダメージ(小)、魔力消費(中)、絶好調
【装備】ストラーダ@kskロワ
【道具】支給品一式×3、夢成長促進銃@kskロワ、不明支給品1~6
    カラオケマイク、ビクトリームの魔本@アニロワ2nd
【思考】基本:鬱フラグを立てまくる
    1:当面は鬱の気配を辿って移動する
※外見はフェイトのバリアジャケットを着た高町なのはです
※『迷える人形』
人間以外の参加者と二人きりになる空間を形成する
※『はじめてのこくご』
相手の台詞を全て平仮名のみにする。フラグ建築士が傍にいなければ効果は切れる。




【九字兼定@ラノロワオルタ】
出展は空の境界。
五百年以上前に打たれた名刀だが、銘はない。
九字兼定とは「兼定という刀匠の作だとされる、なかご(=握り部分の刀)に九字(=臨兵闘者皆陣烈在前)を刻んだ刀」という意味合い。
長い歴史を重ねたため、抜き身にするだけで結界を切り裂くほどの力を得ているらしい。


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最終更新:2009年12月09日 18:33
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