天瀬麻衣、柳茜、桜木有布、藤八沙耶の四人は和風庭園へとやってきた。

「どうも、お疲れ様です。草むしりの手伝いに来ました。」

麻衣は庭園に見えた作業服の男性に声をかける。
現役高校生の二人はもちろんだが、麻衣、茜の二人も挨拶程度には言葉を交わしたことのある用務員の兼田だった。
彼は、既に鎌を片手に草むしりをしていた。

「おう、助かるわ。じゃあ早速この庭全部の雑草をむしり取ってくれ。鎌がもう一本あるんだが、、、」

「お借りしてまーす。」

兼田が、用具入れを示そうと視線を向けたときには既に有布が片手に握っていた。

「…桜木、やる気満々やね。それじゃあその辺り、一人で頼むわ。」

麻衣の緩やかな笑みと言葉の真意を想像することは容易に出来ただろう…。
有布は反論することもなく、渋々、一番草の生えた場所へと移動し草を刈り始めるのだった。

「ええと、・・・・なにはともあれ、草むしりを頑張りましょう。むしりとりましょう」

二人のやり取りに躊躇しつつも、藤八が空気を割るように言うと、三人も黙々と草をむしり始めた。
そうしてあまりに集中しすぎて、本来の目的を忘れかけていた頃、藤八は一息つきながら口を開いた。

「ふぅ…兼田さん、いつもこんなに大変な作業を一人でされてるんですね、ありがとうございます。」

「はっは、そういってもらえると嬉しいね。ま、それが俺の仕事だからよ。
こんな天気じゃなきゃ、もうちっと明るくてやりやすいんだがなー。」

照れくさそうにタオルで汗を拭く兼田に、思い出したように藤八が言葉を続けた。

「そういえばこの霧って何か原因とか、ご存じないでしょうか?」

「…ん?あー、、そうだなぁ?今までこんなに大々的に霧がかったことはねーんだが、実は昔にも発生したことはあるんだ。
何年か前、、、そうだ、たしかあれも夏だったなー。
この庭園付近にもやもやっとな・・。」

◆◇
一方、桜の木の下を集中的にむしっていた茜はふと、木の根元に花を見つけ、手を止めた。

「ん……、桜…?」

思わず首をかしげるのは他でもない、日が沈みかけ、大きな木の陰が落ちるこの場所でもハッキリとその色が分かる、鮮やかな朱色の花びら。
そして目立たない木の根元の方にただの一厘だけ、咲いているのだ。

「ん?どうした、手がとまってるぞー?」

いつの間にか傍にいた兼田が喝を入れんと鎌を肩に乗せながら声をかけたが、茜の手元の桜を見て「ああ」と納得したように呟いた。

「気味が悪いだろ?たまに時期はずれに咲くんだよ。
日が沈む頃に咲いて朝には散ってるから知ってるのは俺くらいなもんだけどな。
昼間、だれかがこの木の下で告白でもしたんだろうねぇ…」

かっかっか、と慣れた様に笑うが初めてそれを見た茜には気味が悪い以外の何者でもなかった。

「もしかしなくても、七不思議の噂と関係があるんですか?」
「昔話だよ…学園が建つずっと前の話だ、俺も学生の頃に婆ちゃんに聞いたような昔のな。
おう、雨が降ってきたな…お前ら、頃合だ、終わりにするぞー。」

そういうと、校舎の中に入り休憩がてら桜の木の下の悲しい物語を語ってくれるのだった。
降り始めた雨の雫が、まるで涙のように葉先から滴っていた……


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最終更新:2015年07月01日 17:41