「すーみーまーせーんっ!地下閉架を調べたいんですけどー!」

静かな事務局に声が響く。
声の主は六角屋と地下閉架の探索をする筈の烏月揚羽だった。

「あの、もう少しお静かに願えますか?…地下閉架、ですね。こちらに記名を。」

事務局には3人の職員が居たが、一番近くに居た頭の涼しそうな眼鏡の男性職員が、申し訳なさそうに返したあと、立ち入り許可の書面を差し出した。

「…声でか…あー……あの、すみません。ついでにお話を伺ってもいいですか?」

揚羽より一歩先に事務局の入口に居た鬼ヶ原空は、苦笑いを浮かべつつ耳の調子を整えてから男性職員に話しかける。

「貴方も…地下閉架の話ですか?」
「ん?ああ、それはこっちの…って、もういないんかいっ。
…あ、すみません、えっと…、それで私は、用務員の市倉さんを探してて、あと出来たらそこのエレベータの噂が知りたいんですが…何か知ってます?」

隣にいたはずの揚羽の姿は既になく、一人突っ込みを終えた後、空が慌てて聞きなおした。

「え、ああ。市倉さんなら、食堂の食券機が壊れたとかで見に行ってたはずですね。
…エレベータ…ああ、緑色のスカート着た女性の噂ですかね…?」

「食堂なら板垣さんが行ったから大丈夫かな…。
あ、スカート…?よく分かんないんですけど、知ってること何でもいいんで、教えてください。」

空は、他の場所へいったメンバーを思い返すと、納得したように一つ頷き、再び職員に向き直って話を聞こうと耳を傾けた。

「…ここだけの話ですよ?真相を知れば、大した話じゃないんですけどね…。
前に務めていた女性職員がよく緑のスカートを履いてたんですけど、その職員と一緒にエレベータに乗り合わせたあと宝くじが当たった、とか告白された、とか誰が言い出したんだか尾ひれがついて、、もともと職員用のエレベータなのに利用する生徒が後を絶たなくて…。
仕方なく…、赤いスカートの女性と乗り合わせると死ぬっていう噂を流したんですよ。お陰で生徒の利用が減りましたけど……今度は面白がって利用する生徒もいて、収拾がつかないんです。」

そこまで話すと、緩やかに首を振り盛大にため息を漏らしながら事務員さんは仕事へと戻っていった。

◆◇
揚羽が事務局で許可をもらっている頃、六角屋灼は図書室にやってきた。
許可がなければ、地下に入るのも躊躇われるので、図書室内で何か噂のヒントになるものはないかと探すことにした。

「…図書ノート……」

ふとカウンター席に置かれた、ノートを見つけた。
『図書ノート』と書かれたそれは、読んだ本に関するコメントや、置いて欲しい本の要望などが大部分だが、中には恋愛ごとの相談やらよく分からない落書きも多く書かれている。
他に何もなさそうだと思った灼は、そのノートをパラパラとめくり始めた。

「………………?」

数冊が束ねられたそれは随分なページ数で、全てに目を通すのは無理だ、と思った灼だったが、同じような文面が何度も出てくることに気がついた。

「…『地下閉架の黒の魔術書みつけた。』『黒の魔術書にお願いしたい』…黒の魔術書…お願い?」

書かれた内容をポツリ口に出していると、ガラリと扉が開かれ、揚羽がやってきた。

「むっすー、お待たせー!許可とって来たよっ!」
「あ、烏月さん、お疲れさまっす。」

図書室は静かにするもの、という概念は既に忘れ去られている様子の声量で笑みをみせる揚羽に、小さく頭を下げた灼は、ノートに書かれた『黒の魔術書』の話をした。

「ふぅん?じゃあ黒い本さがそっ!!」

そう軽く言って、地下閉架に降りていくも、その直後、閉架の本の量に愕然とさせられるのだった。

◆◇◇
「あーーーーっ!ぜーったいこんな中から見つかるわけないよっっ!!」

と、集中力のなさを発揮した揚羽が両手を挙げると、その腕が本棚にあたり、数冊の本が落ちてきた。

「烏月さん、狭いんすから暴れないでくださいよ……って、流石って言うかなんていうか…。」

落ちてきた本を、拾いながら嗜めていた灼は、手にした本を見て思わず揚羽へ視線を向け声を漏らした。
手にしていた本は黒一色の装丁の本、表紙には古代文字が書かれており見た目は魔術書のようだった。

「えっ!?ナニナニ!?見つかったの??やったー!さすがあたし!!」

飛び跳ねて喜びたいところをぐっとこらえつつ、灼の持つ本を覗き込んだ揚羽だったが、中身は真っ白。

「なんだこれ……」

パラパラとめくっていくが、全てのページが真っ白なのだ。
そして最後、背表紙の裏に、こう書かれていた。

『この本に自分の願い事を書くと、それがどんなものでも叶う。
ただし、願い事が叶った時に「その人の大事なもの」をなくす。』

「ビンゴ!だねっ。でもこれガセみたいだよー?」

そういって、落ちた本の中にあった、ボロボロのメモを拾い上げた。どうやら本に挟まれていたらしいノートの切れ端のようだ。

『願いが叶う…っていうのは嘘です。
でもワクワクして面白かったでしょ?
やっぱり願いは自分で叶えないとね!』

そう書かれた切れ端を本にはさみなおすと、落ちた本を片付け地下閉架を後にするのだった。
階段をのぼり窓の外を見れば、既に陽は沈み窓ガラスに雨の雫が垂れていた。


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最終更新:2015年07月25日 06:50