水島七恵の案内で行成ハナ、鎮守由衛は美術部室へやってきた。

「ここです。電気がついてますし、まだ誰かいらっしゃるみたいですね。」
「へー、ここが。…で、美術室に何しにきたの僕ら? 」

七恵がそういうと、後ろからだるそうについて来ていた由衛が興味もなさそうにへらりと笑って。

「傘の噂を体験したっていう中谷さんにお話を聞きにきたのですよっ。」

由衛の今更な質問にも動じることなく、ハナが両手をパタパタさせながら応えると扉をノックしそっと中を覗き込んだ。

「お邪魔しますです…どなたかいらっしゃいますかー?」

中には油絵を描く男性の姿があり、声に気づいたようにこちらを振り向いたところで目が合った。
ハナはにっこりと笑って扉を開き、ぺこりと頭を下げた。

「あ、あの、突然すみませんです!
中谷さんはいらっしゃいません……ね。
あの、あの、私たち七不思議について調べてたのですが、みゆきちゃんの傘について何かご存じないでしょうか??」

くるりと室内をみまわすも、他に人影はなくへしょりと眉を下げてから、再び男性に向き直って小首をかしげた。

「中谷ならもう帰ったよ。あれ以来、夕方に残るのは止めてる…。俺が知ってることなら教えてやってもいいけど。」

「そ、そうですか…それでしたら是非教えていただきたいです!お兄さん、中谷さんと仲良しさんなのですか?」

帰ったと聞いてしゅんと再びしおれるが、すぐさま立ち直るハナをみて思わず男性は小さく笑う。

「まぁ、一応同じ部活やってるしな。部員少ないから。
…ところで、そっちの君、触ってもかまわないけど、壊さないでね?」

「あ、バレちゃいましたー?すみませーん。
もしかして、おにーさん、中谷なんとかさんのカレシだったりしてー?」

飾ってあった石像をつつき遊んでいた由衛に、軽く注意するが由衛は全く気にした様子もなく手持ち無沙汰になった両手を首の後ろに組みながら、適当なことを言っていた。

「そうなんですか!?じゃあ心配ですね…大丈夫でしょうか、中谷さん。」

「いや、違うけど…心配には変わりないかな…。
あの日最後に会ったの俺だし、一緒に帰ってればあんなことにならなかったかもって…。」

由衛の言葉を真に受けたハナに苦笑いをみせながら否定する男性は、そういった後、窓に打ち付ける雨を見ながら話を続けた。

「あの日…今日みたいに夕方から雨が降るって予報だったんだけど、彼女傘を忘れたっていって先に部室を出たんだよ。
けど、結局雨が降ってきちゃって、たまたま傘立てにあった赤い傘を手にしたんだって。
誰かのかもしれないのにね、なんか分からないけど迷わずその傘を掴んだ…何かに引き寄せられた気がする、って言ってたな。
それで、傘を開いてしまった…。
俺が帰ろうと、外に出たときはそんな傘落ちてなかったんだけど、ただ雨の中走りさる彼女の後姿だけは見たんだ。
青ざめた顔で、声をかけたけど気づかなかったみたいで…
あとは、まぁ噂にあるとおりだな。
彼女自身殆ど覚えてないみたいだし、直接聞くのも止めてやってくれるか?」

男性がそこまで話すと、眉を下げ力なく笑って。
二人は神妙な面持ちで小さく頷き、由衛はあくびを漏らしながら、はーい、と片手を挙げていた。


噂【みゆきちゃんの傘】の真相を解明!
最終更新:2015年07月02日 07:06