幸村カヤ、深海将己 、日浦博喜の三人は高等部の屋上にやってきた。
事前に兼田から時計棟に入る鍵と鐘を磨く用具を預かって来ていたため、カヤがその鍵で扉を開けた。

「なんかあっけないもんだな。」
「立入禁止って言われると無性にワクワクしちゃいますもんね!あ、でもなかなか面白いですよー。」

そういって電気をつけると、大きな時計の裏側、歯車がギリギリと音をたてながら回っているのが見える。

「こりゃスゲエ。」

深海はなかなか目にすることのできないレトロな機械仕掛けの時計に、珍しく目を輝かせていた。

「あれが、問題の鐘?到底届きそうにないんやけど…はしごとかあるん??」

その隣で日浦が天井を見上げると、象徴的な大きな鐘がみえたが、確かにあたりにははしごらしきものは見当たらない。

「えっと…兼田さんなんか言ってましたっけ?まさかあそこまでよじ登るとかじゃないですよねっ!?」

ハッとした様子で辺りを必死に調べはじめるカヤを横目に「しらん、後は任せた。」と完全に他人任せな深海。

「そんなー、深海さん。私だって見たいのに…じゃなくて手伝ってくださいよー!」
「…なんか仕掛けでもあるんかな…」
「…仕掛け…なぁ。」

日浦の一言に何か思いついたように時計の裏をいっそう真剣に眺めると、唐突に歯車を一つ抜き取り、別の場所にはめ込んだんだ。

「ちょ、深海さん!!?何やってんすか!?」

と、カヤが驚愕の表情で声を上げた直後、ガタガタと音をたてながら天井からはしごが下りてきたのだ。

「へぇ、なかなかやるやん。まさかそんなところに仕掛け梯子のスイッチがあるなんてなぁ。」
「ビンゴ。さっきの歯車だけ、他と噛み合ってなかったからなんか変だと思ったんだよな。」
「おおっ、流石です!!マジ尊敬しますっ!」

日浦は思わず感心したようにゆっくりと下りて来るはしごを眺め、カヤは一瞬何が起きたのかと目を瞬かせていたものの、深海の言葉を聞けば、手の平を返したようにパチパチと手を叩く。

こうして三人は無事に鐘磨きの仕事を始めたのだった…
…しばらくすると、外からは雨音が響きはじめる。

◆◇
三人の鐘磨きが終わる頃、草むしりを終えた兼田がやってくる。

「お、はしごの下ろし方、よくわかったな?
教えるの忘れてたってぇ、今思い出してきたんだがよ。
鐘もずいぶん綺麗になったし。そんなもんで十分だ。ありがとうよ。」

そういうと、鐘をカーンと一度鳴らす。高音の澄んだ音が学園に響いた。

「ところでおっさん、時計棟ってなんで立入禁止だったわけ?」
「七不思議が関連してるん?」
「皆さんなんで平気そうな顔してるんですか!?
ううっ、耳がキーンって…あー、あー、…兼田さん、時計棟の噂ってご存じないですかね?」

二人が兼田に時計棟のことを尋ねると、鐘の音に怯んだカヤも慌てて質問を続けた。

「なんだよ、矢継ぎ早に…?立入禁止の理由?んなもん、時計やら鐘やら弄られたら困るからに決まってんだろ。
今回は特別だ。今後も立入禁止には変わりねぇよ。だからこれが見納めかも知れねえぞ?」

今のうちに堪能しろ、とばかりにニヤリと笑いながら言う兼田。

「ま、七不思議も関係なくはねえな。
何年か前、この学園が襲撃されたのは知ってるな?
その襲撃理由になったブツを隠すための、装置が此処にあってな。
その為に人を寄り付かせない噂が必要だったわけさ。
つまり…あの噂はな、カモフラージュ、デマカセだ。
今となっては無意味だが、聞きたいなら教えてやるさ…」

とカラカラ笑いながら噂の話をすると、さっさと後片付けを済ませ、あまり時計を見ることのできなかったカヤの名残惜しそうな視線を遮るように時計棟の扉は再び閉じられるのだった………。


依頼【急がし用務員】達成!
噂【時計棟の亡霊】を完成、真相を解明!
最終更新:2015年07月03日 12:36