8月18日、午後22時。
深海将己は、城ヶ崎憲明と共に変死事件の調査に蒼まで来ていた。
正確には城ヶ崎とは葵
ギルドで一緒になって、そのまま蒼まで異次元のポイント調査に付き合わされて、変死事件の調査依頼を蒼ギルドから依頼されて請けた形となる。
事件現場から30分程でついたため、蒼ギルドから向かうよりも近かったのだ。
貴方達は釣りに来ていた山田太郎(やまだたろう)という男から話を聞いていると、蒼ギルドの
ハンターも到着したので、彼らに山田を任せて死体の調査を始めた。
暫く調査をしていたが、余り見てていい気分の死体ではなかったため、深海は少し離れて現場周辺に何かないか探していた。
すると、近くに小さな石に、「……御…」と一文字以外は掠れて読めない墓のようなものを見つけた。
「名前か?」
それにしては、墓石も手のひらサイズしかなく、動物のような小さな物を埋める盛り上がりしかない。
さすがに子供や赤ん坊でも、もう少し盛り上がりが大きくなるはずだ。
深海は、近くにタンポポがあったので、それを摘み墓に備えて手を合わせた。
なぜ知らない、しかも人間じゃないかもしれないのに、このような事をしたのか。
深海は無意識的にそれを行っており、別に何かに乗り移られているわけでもなければ操られているわけでもない。
慈愛の心で供えたわけでもない。
ただ、気づいたらその一連の行動を行っていた。
「深海くーん」
「教授、なにか見つかりました?」
城ヶ崎が死体の方から、何やらメモを持ってきて見せてくる。
そこには「うねうね」とだけ書かれていた。
「うねうね……」
「実は先月、7月のいつだったかに、蒼で同じような事件が起きたようです。
手口も同じような感じらしく、同一犯の可能性で見ておいた方がいいでしょうねぇ~」
「そもそも人間なんすかこれ?寄生虫とかは?」
「先月もその疑いを持ったハンターがいたので、解剖してみたんですが、どうやら何もでなくて。いやぁ~、不思議ですよねぇ~」
魔力は感じなかった。
刃物などを使った形跡も無い。もちろん、内部から破かれたような傷口なので、それは不可能に近いだろう。
「ひとまず、今日はこれで調査を終了しましょう~。これから蒼の街に戻っても、23時は過ぎそうですからね~」
「わかりました」
と、城ヶ崎が魔力の玉を作り出し、死体の近くに置いた。
既にほかのハンターも撤収したようで、死体だけが放置されている。
「ちなみに、この死体は囮に使います。何かあったら、私の魔力玉が感知してくれるというわけです~」
「囮……ってことは」
「ええ、おそらく犯人はこの周辺にまだ潜んでいると思われますからね~」
まず死体を処理していけよ、と深海が思う前に、城ヶ崎がそう言った。
でもやはり、このまま死体を残していくのは、正直誰だって嫌だろう。
だがそれを言った所でどうしようもないため、深海はほかのハンターと共に街へと戻っていこうとした。
「教授は帰らないんすか?」
「あ~、私はここでお留守番です~。野生動物に死体を荒らされる可能性もあるので、それを阻止しなければ~」
「一人で?」
「はい~、なんなら、深海君もここで一緒に死体をチェックしておきます~?」
「いや、遠慮しときます」
さすがに朝から付き合わされた挙句、疲労も濃く体には現れている。
一回蒼へと戻り、城ヶ崎が予約していたホテルに泊まって疲れを癒すため、他のハンターと共に深海は帰った。
城ヶ崎は鼻歌を歌いながら、他のハンターが持ってきたのか、寝袋を草の上に広げて寝始めたので、色々と心配しなくてもいいだろう。
何か分かったら教えてくれるだろ、と思いながら、一日目は終了した。
☆☆☆
8月19日、午前5時。
深海が朝、目を覚ますとそこは森の中だった。
「はぁ?」
朝の冷え込みで目が醒めたようで、まずここがどこなのかわからないし、なぜここにいるのかもわからない。
確か蒼のホテルは個室で、ベッドで寝た所までの記憶はある。
ではなぜこんな森で目が醒めたのか。
ひとまず冷静になって携帯を取り出し、城ヶ崎へと連絡を取る。
「はいはーい、深海君早いですね~。私も1時間前に起きたところでして~」
「教授、あのホテル泊まったら意味不明な所で起きたんすけど」
「はいぃ?言っている意味がちょーっとわかりませんねぇ~」
とりあえず目が覚めたらホテルではなく森の中だった事を説明する。
そして、城ヶ崎の目の前の死体に変化は無いか尋ねた。
「そうですねぇ~、この死体には特に変化は何も」
「……わかりました」
じゃあなぜ自分は今ここにいるのか。昨日何かしたとすれば、その死体を見たことくらいしか覚えがない。
「お兄ちゃん」
「!」
いつの間にか、深海の背後に小さな着物をきた少女が立っていた。
少女からは魔力も、気配すら感じない。例えるなら、この世の者でないような――。
「おい、お前か?」
「ふふふ」
その態度が少し勘に触ったので、深海はもう一つの可能性も相手につぶやいてみる。
「……うねうね」
「ダメだよお兄ちゃん。その名はダメ。理解してもダメ。お兄ちゃんがお兄ちゃんでなくなっちゃうよ」
うねうねの正体と思ったが、そうではないらしい。
謎の少女は鼻歌を歌いながら、歩いて深海がいる方向とは反対方向へと行ってしまった。
「待て!」
「ふふふ、お兄ちゃん。死にたくなかったら、早く見つけてね」
少女が立ち止まり、振り返る。
そしてそれだけ言うと、すうっと消えてしまった。
少女が居た場所まで行くと、どうやら山の頂上だったようで、山の麓の方に村みたいなものが見えた。
すぐさま、深海は写メを撮り城ヶ崎へと送り、いつの間にか切れていた携帯を再度繋いだ。
「教授、今送った画像の場所わかりますか?」
「うーん、ちょっと難しいですねぇ~。今からネットに繋いで調べてみるので、一度切ってもいいですか~?それと、深海君が失踪したことはギルドに伝えておきますね~」
「了解、こっちはこっちで何か手がかり探します」
そう言って電話を切る。
一体ここはどこなのか、そしてあの謎の少女は何者なのか。
あのグロい死体と関係がある事象なのか。
事件は始まったばかりである――。
最終更新:2015年08月20日 12:44