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日野守桜は高等部のカフェテリアにやってきた。
この時間はほぼ客がなく、小次郎が仕込みをしているようだった。
「こんにちは、小次郎さん。お仕事中申し訳ありませんが、少しお話よろしいでしょうか?」
カウンターに腰を下ろし、アイスティーを注文しつつ控えめに話を伺った。
雑談をしながら、時折七不思議の話題を持出し情報を聞き出そうとする。
流石に小次郎は長く勤めて居る為、以前に学園の七不思議を調べていたらしいということ、その際に和風庭園に霧が出ていたことまで知っているようだった。
「10年前ですか…先輩方もまだ中等部の頃ですね…。
ちなみに霧が出たり、晴れたりした際には何か変わったことに気づかれましたか?」
小次郎はゆっくりと首を左右に振った。
その後もしばらく二人の雑談は続いたが、どうやら特に新しい情報は得られなかったようだ。
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日浦博喜は高等部の時計棟にやってきた。
博喜は扉に手をかけるが、ガチャガチャと音が鳴るだけで扉は閉まったまま。
「あ。鍵かかってるんやった…」
髪をくしゃりと撫で付けながら、うっかりした様子で眉を下げた。
雨の音の中で、小さく時計の歯車が動く音が扉の向こうから聞こえてくる。
戻って兼田を探そうかと踵を返したところで、茜が遅れてやってくる。
「日浦君、コレコレ。」
にっと口端をあげる茜の手には兼田から借りてきたらしい鍵がぶら下がっていた。
「どこにいったかと思ったら、流石やな。」
博喜は少しばつの悪そうに苦笑いを浮かべつつ、茜が扉を開くのをまった。
扉を開くと、先ほど微かに聞こえていた歯車の音が大きく耳に入ってくる。
「なんや、他にもなんか仕掛けでもあるんやろか…」
「んー?」
茜は中へと入りあたりを見回すが、見当ハズレといったように首をひねった。
機械にそれほど詳しいわけでもないが、どう見ても仕掛けがあるようには見えず、紫の霧もこの部屋の中には他の施設同様入り込んでいないようだからだ。
「私、この部屋から紫の霧が降りてってるのかと思ったんだけど、違ったみたい。」
「せやなぁ…特に変わったところもないし…ハズレ、か。」
細部まで探索を終えると少しばかり肩を落としながらも、扉を閉め屋上へと戻った。
◆◇
東雲直は栄養ドリンクを一本深海へと渡し、残った一本を自分で飲んだ。
体力が回復し、足取り軽く大学部の屋上へとやってくる。
激しく屋上の地面に打ち付ける雨に直は顔をしかめた。
「んー、結構降ってるなー。」
小さくぼやきながらも傘を差し外に出て学園を見渡す。
白楼館や図書館などはまだ所々明るいが、洋風庭園や体育館、グラウンドは既に真っ暗だ。
「流石に高等部までは見えないか…………―」
目で確認できるところはここまでかと、直はゆっくり瞼を閉じ意識を集中させてどこからか異変を感じないか、隈なく確認した。
しかし、今までと何か変わったところは特にないようで、感じるのは相変わらずの紫の霧の不思議な感覚だけだった。
「何もない…か。
―…ん?月?……うわっ!?」
ふと、目を開くと空から一瞬だけ月明かりが漏れた気がした…が刹那、あたりが白く眩しい光に覆われ、直は再び目を閉じる。
最終更新:2015年07月19日 15:00