8月18日、午後20時。
柳茜は、ある程度病院の1階2階を探索し終え、松原エレナと連絡をとっていた。
『で、何かわかったの?』
「そりゃーこっちのセリフでしょ。こっちは充電器を病室で見つけたくらいかな。
1階でカルテ見て、総当たりで2階まで調べたけど、それらしき人形もってる子は全部ハズレだったし。
トイレも見たけど、絶対ビックリポイントだと思ったのに、それもなくて肩すかしだしさー」
『いいじゃんその方が!あかねはもっと安全にいきなよ!』
「わかってるよ、だから地下は行ってないでしょ?携帯の電波通じなくなるし」
そう言って、階段の更に下を見る。
絶対に何かある。それはいい意味か悪い意味か、どちらにしろ絶対に。
そう確信が茜にはあった。
『それから、一応その病院特定したよ。紅の郊外にあった、六星病院って場所だね』
「……特定できたの?」
『あたしを誰だと思ってんの。天下の松原博士の孫娘よ』
ふふん、と得意気に鼻を鳴らすエレナだったが、実際はカルテに潰れた文字で星は把握できなかったとはいえ六はわかったので、特定は容易いんだろうなーと茜は思っていた。
『それと、そこで死者が続出して、医療ミスとかで少し騒ぎになったみたい。そのせいか院長が自殺して、廃病院になったらしいよ。今、晶にそっちに向かってもらってるから。現地で合流してね』
「了解。あー、でもさ。まだ地下調べてないんだよね」
『あかね……何度も言うようだけどさ』
「わかってるよ、一人で行かないよ。春日井さんが来たら、一緒に行ってみたいんだけど……」
『あかね!』
あー、やっぱり怒るよな、と電話を少し話しながら、大体危機感がなさすぎと説教を始めたエレナを口うるさく思った。
しかし、今の茜には一番頼りになる人物のため、わかってるよ、と相槌を打つ。
「でもさ、根本的に解決しないと、このホラーってまだ続いてんでしょ?」
『みたいだね。でも特定はもうあきらめたら?実際、人形なんてなかったんでしょ?』
「そうなんだよねー。でもあれは確かに、【カエシテワタシノニンギョウ】って聞こえた。だから、絶対にあると思う」
『まったく……じゃあ探してみれば?』
エレナはそういうと、通話は切れてしまった。
まずったなぁ、と思いつつ、茜は人形探索に繰り出す。
いつ来るか春日井を待っていると、いつになるかわからない。
それに、当事者でない人間がいても邪魔になるだけだ。
おそらく、エレナもそれは理解しているためか、あんなに怒っているのだろう。
「ってゆーかさ、私悪くなくない?」
文句を呟き、地下への階段を降りた、その瞬間だった。
「え!?」
突如地震が起こり、貴方の意識は崩落と共に消えた。
☆☆☆
8月19日、午前1時。
「っつ~……」
茜が目覚めると、そこはおそらく病院の地下。
真っ暗闇で何も見えないが、瓦礫に押しつぶされている自分の体を見ればそれは容易く理解できた。
携帯を見ると、既に午前1時。
5時間は寝ていたことになる。
頼みの綱の携帯も既に電波は無い。
「……少し様子見して、危なくなれば引き返すつもりだったんだけど……まさかこうなるとは」
元々携帯の電波が無い場所に足を踏み入れるというのは分かっていた。
しかし虎穴に入らずんば虎児を得ずという言葉もあるように、多少のリスクは背負わないと真実は見つからない。
1階2階を探索した茜だから、なおさらそう思った。
だが今の現状……エレナが見たら間違いなくキレるだろう。
「っ……!」
と、電話が鳴る。
電波が無い状態で、鳴る電話。
それは確定的に、あの電話の主を指していた。
手が動くのは不幸中の幸いか、通話ボタンを押して耳元につける。
『…シテ、…ノ…ギョウ』
「こんばんはー。人形を返してほしいんだよね?」
『……人形、ないの』
「どんな人形かな?」
『……女の子のお人形。私の、友達』
「女の子のか。よし、私が見つけてあげるから、ちょーっと待っててね」
そういって通話が切れる。
名前聞けなかったな、と思いつつ体を瓦礫から抜け出そうと踏ん張っていると、目の前に突如気配を感じた。
そして…白いワンピースの少女の幽霊が、貴方の目の前に携帯の番号が書かれた紙を置くと、消えてしまった。
「……かけろって事か」
携帯を取り出すと、相変わらず圏外。
しかし、現状どうこうする手はない。
おとなしくその番号を入力し、通話ボタンを押す。
「な……これ……」
世界が回るような感覚と共に、再度茜の意識は暗転した。
☆☆☆
8月19日、午前3時。
気が付くと、貴方は和室にいた。
どこかの家だろうか、明らかに病院ではないというのがわかる。
「うっそでしょ……。第二ステージ?」
地下に人形がある。それを見つけて解決。
そう思っていたせいで、茜にも焦りが生まれる。
さすがに瓦礫は一緒に来なかったようで、痛む体を何とか起こし、携帯を取り出した。
同時に、携帯が鳴った。エレナからだった。
「もしもし……」
『ふっざけんなバカ!やっと出た!!今どこにいんの!!』
「私にもわからないって、白いワンピースの子と会って、いきなり地震が起きて潰されて、動く体でその子が残した番号にかけたらこんな所に出たのよ」
『わかんねーよ!ちゃんと説明しろ!』
めちゃくちゃキレてる彼女に、きちんと今まであった経緯を説明する。
その中で、自分から地下に近づいて崩落に巻き込まれたとは言っていない。
別に嘘はついていない。ただ真実を言えば、不可抗力とはいえエレナは更にキレるだろうからだ。
少なくとも、今は刺激しない方がいい。ライフライン確保の意味でも。
『……ふーん。とりあえず今、晶が病院にいるんだよね。中を見てる。それと、佳奈にも手伝ってもらったけど、茜の考えてるような子はいなかったよ。
死んだ子でぬいぐるみを大事にしてたって子は多かったけど、それが化けて出るなんて未練もってそうな子かって言ったら……該当者はゼロかな』
「そんなはずないでしょ。その大事にしてたって子、もう一度調べてみてよ」
『だってよく考えてみな。その着信の噂だって、廃病院になって暫くしてからだよ?病院がある時は、医療ミスや死亡する人が多くても、幽霊関係の噂はなかったって聞くし』
それはそれで問題だが、だとすればあの少女はいつ亡くなり、化けてしまったのか。
廃病院になった後だとすれば……。
『たぶん、あかねが考えている通りだと思うよ。佳奈が調べたんだけど、院長には一人娘がいたみたい。
その子、院長が自殺して暫くしてから交通事故で死んでるんだよね』
「じゃあ、今いる場所がその子の家ってこと?」
『多分ね。そこも把握してるけど、今は皆廃病院にいるんだよね。どうする?時間はかかるけどそっちに人回す?』
どうするか。
おそらく、こっちに来たわけだし、病院へと転移する番号がどこかにあるはずだ。
それに、別の場所に転移する番号だってある可能性もある。
もしくは、もっと調査してもらうことだって必要かもしれない。
人形のある場所だって探さなくてはいけない。
どこから手をつけたものか。
貴方に選択が迫られた。
☆☆☆
茜…HP560/MP195/OP60/状態:普通
最終更新:2015年09月03日 05:24