8月18日午前10時。
先輩
ハンターである安土優と、手分けして結界を完成させた東雲直は、まず唐沢商店に向かった。
商店には店主がおり、まずはお悔やみを告げてハンターである身元を説明した。
「……それでですね、事件が起きた事について詳しく聞きたいのですが」
「……」
「……」
沈黙が続く。
奥についている血糊を見れば、ここでも被害があったことが容易くわかる。
直は違和感を少し覚えつつ、話を続けた。
「事件が起こる前に、何か気になる事とかはありませんでしたか?」
「……」
「村長の家、倉庫付近に誰かが近づいた様子は……?」
「……」
「事件当日、いつこういった状況になったかを説明して戴けると……」
「……」
「えっと、事件後に村に残ってる人とか、出ていった人はどれくらいいるのかとかは……」
「……」
店主は何も話してはくれず、直は困っていると電話が鳴る。
番号主は上条森羅。結界を作っている途中にかけたが、出なかった人物だ。
しかし、ワンコールで切れてしまった。
「……話づらい事をぶしつけに尋ねて申し訳ありませんでした」
そういって店主に頭を下げ、店から出る。
少なくとも、今彼には時間が必要なのだろう。
おそらく店内に留まっても、詳しい話を聞けそうにはない。
ならば、今来た電話の主へと折り返し電話を掛ける方が確実だ。
「……」
電話をコールする音だけが虚しく響く。
電話に出る様子は無い。
悪戯にかけてきたのか、コールをやめて次の目的地である八坂の家へと向かった。
☆☆☆
8月18日午前11時。
八坂の家に来ると、出迎えてくれたのは八坂俊雄という方だった。
まずは唐沢商店と同じようにお悔やみを述べ、自己紹介をした後に話を聞く。
「事件が起こる前か~、悪いけどうちはオヤジと二人暮らしだから、実質的な被害はないんだよね」
「つまり、気づいたことは無かった、と」
「でもオヤジは結構顔広かったから、知り合いも何人か亡くなってるみたいだし、ふさぎ込んじゃってさ」
「老若問わずですしね……」
「その点、俺は友達も少ないし、村にはいないからよかったんだけど!」
わははは、と笑う俊雄に、少し不謹慎を感じはしたが、次の質問に移った。
「倉庫かぁ~、俺は知らないなぁ。そもそも、あの倉庫は小さいころから近づくなって言われてたし、結構頑丈に鍵がかかってるしね。ふざけて開けたやつもいるみたいだけど、特に何か起こったとかは聞いた事ないなぁ」
「では事件当日、八坂さんがどうしていると、異変に気付いたかを教えて戴けると」
「そういわれてもねぇ~、俺が気づいたのは遅いよ?なんかさ、気が付いたら騒ぎになってたっていうか」
「その間、家にずっといたんですか?」
「そうだな、ネットゲームやってた」
「そ、そうですか……」
ボサボサの髪に伸びた髭、中年太りの見た目といい、二人暮らしといい、おそらくこの人はいわゆるニートというやつなのだろう。
しかも、財産があるため仕事は今はしていないと言っていた。ネオニートというやつだ。
「あ、そうそう。事件後だけど、村内でコガラシを開けたのは誰かってことで疑心暗鬼になってるから、とてもじゃないけど村から出た人はいないよ。
皆最初に箱を開けた犯人を捜そうとしてるからね~」
「八坂さんは捜していないんですか?」
「当たり前だろ、そんなことするより、ネットもしないといけないし、オヤジの看病だってある。こう見えて忙しいんだよ俺は」
看病するから仕事をしていないのか、仕事をしていないから看病くらいはと思っているのか。
そこは事件には関係ないし、深く立ち入る気もないので効かず、最後に2点尋ねた。
「唐沢さんと村長の大塩さんについて教えてください。人となりとか」
「村長は子供のころからあんまり付き合いないしなぁ……。オヤジの看病するようになってからは、あんまり外でなくなったし俺」
「では唐沢幹雄さんの事は?」
「唐沢は結構親しいよ~!生活用品とか、届けてくれるようにいつも言ってあるし。
あーでも今日来るかなぁ。あいつ甥っ子が来てて、その子も亡くなったしね~」
「甥っ子……?」
「そうそう、2,3日前から来てるんだよ。この村に」
「そうでしたか、有難うございました。話しづらい事を不躾に尋ねて申し訳ありません。でもこの事件を解決させる為に、ぜひ教えて下さい。後、今
は調査中ですのでくれぐれも村の外には出ずに、この村の中にいて下さい。お願いします」
「はいはい、分かってるよ」
会話を終え、外に出てからまずは安土と連絡をとる。
安土はすぐに電話に出て、情報交換を行った。
向こうもハズレだったようで、有力な情報は今の所なかった。
「あ、でも俺、一つ気になることがありましたよ」
『さっき言ってた、唐沢商店の甥の事か?』
「はい、
ギルドの情報は一人暮らしって聞いてたので」
『2,3日前に甥が来たんだろ?そんなのギルドでも把握できてなかっただけだろ。特に問題にはならねぇだろうが』
その説明では納得できなかった。
おそらく、安土も気づいていないのだろう。
暫くして、話を切り出したのは安土だった。
『なあ直。この村、色々とおかしくないか?なんか、様子が変だぜ』
「俺も感じてました。……でも、何も手がかりがない状態で、変に疑うのは……」
『とにかく、このままじゃ事件解決はしねえ。一応俺の方で神主は呼んどいたから、それが来るまで再度聞き込みだな』
「……確認ですけど」
『緋杭寺の住職の知り合い?だったか。そいつじゃねーよ。だから万が一に備えないといけねぇ。お前の知り合いはどうなんだよ?』
「こっちもダメですね……。連絡が繋がりません」
あれから何度もワンコールで変則的に電話が来たが、明らかにからかっているようにしか見えなかった。
なのでもう電話は今は掛け直していない。
上条森羅らしいと言えばそうなるのだろうか。
『じゃあまた何かあったら連絡する』
そういって安土は電話を終了する。
携帯を服の中にしまおうとすると、再度電話が鳴った。
すかさず通話ボタンを押すと、電話から驚いた声があがる。
『うわ、出ちゃったかー』
「上条先生、遊ばないでください」
『こういう茶目っ気は必要でしょ。それにこちとら朝早くから誰かさんの電話のせいで起こされてるんだから』
午前9時がそんな早いか?と思いつつも、それを話したところでどうしようもなかったので、とりあえず現状について説明した。
コガラシと聞いて「やっぱり」と言いつつも、心底嫌そうな口調で。
『君が電話してくるなんて、コガラシ関係じゃないかと思ったよ。
まあせっかくだし、僕も調べた情報を教えてあげよう』
上条の調べた内容は以下の通り。
- コガラシは東晋から渡来したもので、それが大和の一部地域に広がり、今も存在するという。
- 力の強さは、弱い順からイッポウ、ニホウ、サンポウ、シホウ、ゴホウ、ロッポウ、チッポウ、ハッカイと言うらしい。
。おそらく、今回はハッカイではないか。今まで上条が知っているコガラシは、全部黒かった。チッポウも黒だったという。彼はハッカイのみ知らないらしい。
- 解決方法は神主に払ってもらう事しかない。経は効かないらしく、寺の人間は無力だということ。逆に大和の一部地域に伝わっているものなので、神主なら知っている者も多いとか。
『ま、こんな所でしょ。後は君が頑張って。僕はこれ以上関与するつもりはないからさ』
「上条先生、ありがとうございました」
『最後に一つ。そういう古い箱の事なら、村長か昔から続いている家の方が知ってるだろうね。そっちに尋ねてみれば?』
それだけ言うと、電話は切れてしまった。
大体、話は整理できてきた。
だが……色々とやることが増えてしまい、手が回らないのが現状か。
本当に今クリアすべき内容は何か。それを考えて行動しなければ、二兎を追う者は一兎をも得れなくなってしまうだろう――。
☆☆☆
直…HP1250/MP165/OP40/状態:コガラシ(毎回のリアクションで怪異に遭遇しなくても必ずMP100減少)
最終更新:2015年09月03日 05:42