8月19日、午前5時。
柳茜は謎の家の1階を調べていた。
「大体1階はこんなもんかな」
茶の間のソファーに座り、1階で見つけた物をテーブルに並べた。
まず電話帳。
沢山の電話番号が載っているが、試しに神風学園に掛けても繋がらなかった。
あの女の子とこの怪異の関係を見るに、おそらくこの電話番号で意味のある番号はこの一つ。
『六星病院』の電話番号だ。
まだかけてはいないが、おそらくかければここに転移したように転移できると思われる。
いつでも戻る事ができるというわけだ。
「コンセントくらい使えるようにしといてよ」
独り言をぼやきながら、携帯の充電を見る。
残り20%、エレナとの連絡用と割り切っていれば、おそらく電池は持つだろうと思う。
しかし、携帯の充電器こそ今座っているテーブルの上にあるものの、コンセントに繋がっているくせに電気が無いときたもんだ。
茜は茶の間で見つけた救急箱で応急処置を終えると、立ち上がる。
次は2階の探索だ。
「それにしても、変ね。茶の間にくらい、家族の写真とかありそうなもんなのに」
1階にはそれらしいものは全くと言っていいほどなかった。
生活感が無い、と言っても現実世界ではないから当然なのだろうが、それにしたって違和感を感じる。
ひとまず気を取り直し、2階に上がって一番真正面の部屋をノックして入る。
鍵はかかっていない。
「早速当たりかな」
扉を開けると、そこは可愛い小物が沢山ある部屋だった。
おそらく女の子の部屋だろう。
勉強机、ベッド、本棚くらいしか家具は見当たらないが、その代わり可愛い小物……というより、ぬいぐるみが沢山飾ってある。
まず、机に「六星玲子」と書かれた高校の教科書を見つけた。
おそらく、彼女の名前だろう。
次にベッド近くの洋風の精巧な人形から、背筋が寒くなるような気配を感じた。
茜は躊躇いもせずそれを持ち、詳しく調べてみる。
どことなく、人形から殺気が感じられるが、何かしてくる気配はない。
直感で、この人形を探しているのだと理解した茜は、その人形を抱えながらその部屋の探索を終え、右隣の部屋に同じようにノックした後にはいった。
ほかの部屋と違い、鍵が廊下側についている意外は、ほかの部屋と似たような造りだ。
「な、何これ……」
どの扉の前にも、誰の部屋かわかりやすいようにはなっていなかったが、先程の部屋が女の子の部屋だとすれば、ここは父親か母親の部屋と考えるのが妥当だった。
だが、その考えはすぐ打ち砕かれることになる。
その部屋の中は、カーテンがボロボロに破かれ、テレビは画面が破壊されており、ベッドは真ん中から割れて折れている。
絨毯も切り刻まれてボロボロだ。
そして、壊れたベッドに親子3人が写っている写真がある。
その写真に白いワンピースの少女の幽霊と同じ格好の子が写っている。
しかし、その両隣の父親、母親と思われる人物の顔が、釘か何かで貫かれて破かれている。
それ以外は特に目ぼしい物もなく、外に出ようとした時だった。
背後に、気配を感じる。
「玲子、ちゃん……?」
振り返ると、白いワンピースの子がいた。
茜が呼びかけると、その子はすうっと消えてしまった。
最後に、『チガウ』とだけ言い残して。
「え…?」
人形を返す暇もなく、少女は消えてしまった。
暫く固まっていたが、突然人形から強い殺気を感じたので、茜は驚きつい人形を離してしまう。
すると、人形も同じように消えてしまった。
否、落としたと思った人形が、いつの間にか茜の頭上へと持ち上がっていたのだ。
そして、その隣に刀が見えた。
「!!」
咄嗟に螺旋棍を出して防御体勢を取る。
刀は振り下ろされたが、何とか螺旋棍Lv1で直撃は防いだ。
が捌ききれず、肩が僅かに切れる。
「あんたは…」
そこには、スーツ姿で口と鼻の間にヒゲがある男が、右手に刀、左手に茜が落とした人形を持っている。
おそらく、父親だろう。
『悪い子だ……悪い子にはお仕置きだ……』
「ちょっと!いきなり何するのさ!」
話なんか通じない。
すぐにそれはわかった。
更に言うなら、この部屋をこの惨状へ変えたのも、何となくは理解できる。
「成仏しても恨まないでよ!」
フリーファントLv3を発動し、男が振り下ろす刀を体捌きで回避すると、螺旋棍Lv3を放つ。
当たった感触を確かめると、少し気は引けたがABBABをそのまま放った。
爆風と共に、部屋の壁が病院とは違い粉々に砕けている。
「あっちゃ~…やりすぎたかな…。ま、さすがにあのまま放置したら、こっちが危なかったし仕方な――」
『悪い子にはお仕置きだ…』
「!?」
声に気がついた時にはもう遅かった。貴方の背後にいつの間にか回っていた男は、刀を右肩へと突き刺す。
「うああっ…!」
『悪い子だ…』
続けて首筋目掛けて横一閃。
百戦錬磨の茜をも圧倒する速度に力。
違う、そうじゃない。
当たっていたのは最初から男ではなかったのだ。
刀が刃こぼれしている様を見ながら、螺旋棍を発動し防ごうとする。
しかし、肩が上がらず首まで右腕が上がらない。
「っ…!」
首を切られるよりマシだ。
そう咄嗟に判断し、床へと背中から倒れこむ茜。
もちろん男はそう甘くなく、一閃後に左手の人形を投げ捨てると、左手で振りの隙をカバーしつつ地面へと刀の向きを転換させた。
「やっば…!」
螺旋棍の発動が間に合わない。
そのまま心臓目掛けて刀が振り下ろされるのを、蹴りで何とか抵抗してみようとするが、一足遅かった。
『!』
「え…?」
死を覚悟しつつも、目を見開き最後の最後まで諦めなかった茜の目には、不可思議な光景が映る。
投げ捨てられた人形が男へと掴みかかっているのだ。
その人形の目には殺気が篭っており、その殺気は茜ではない、男へと向けられている。
『……ニゲテ』
「…!!ありがと…!」
見なくてもわかる、おそらくあの子が助けてくれたのだろう。
お礼を言って、左手で咄嗟に携帯を取り出し、予めいつでもかけれるようにしておいた六星病院の番号をかける。
すると、世界が回るような感覚と共に、再度茜の意識は暗転した。
???
8月19日、午前8時。
貴方は意識を取り戻すと、目の前に涙目のエレナの顔が目にはいった。
「やっと目を覚ました!!バカ!このバカ!」
「柳さんよかった~」
「ふう、このまま目を覚まさないんじゃないかと思ったよ」
松原エレナ、佐伯佳奈、春日井晶の3名が、茜を囲むようにしゃがんでいる。
エレナに至っては、バカバカ言いながら涙目で怒りつつ、茜の胸ぐらを掴んで揺さぶっている。
「ちょっと待ってよ…!わかったから一回離して…!」
何とか落ち着いたエレナから離れた茜は、佳奈に体力の回復をオーラでしてもらい、まずここが廃病院の1階だと言うことを確認する。
そして、彼女達がそれまでに調べた情報を確認した。
晶は院長の六星明夫(はるお)には、一人娘と母親と3人暮らしだったが、離婚して娘と二人暮らしだったということを調べてきた。
六星玲子という一人娘がいることを確認する。
「でもさ、おかしくない?じゃあなんでその玲子ちゃんはチガウって言ったの?」
「名前が違うって意味じゃないんじゃないかな~?」
「それにしたっておかしいでしょ、何が違うの?」
「うーん、結局分からずじまいか…」
結局進展は無いままか。とエレナが呟いた時、辺りの空気が変わった。
凍りついたように、寒気がする。
「ね、ねえあれ!」
「な、なに!?」
「聞いてないよ…全部敵ってわけ!?」
白衣姿だが、刀を持ちその顔は先程の男、六星明男が中心に立っている。
更に彼を囲むように、メスや斧などを持った者達が立っていた。
「あ、あれ東山さんだよ!」
「うちの大学の犠牲者って奴!」
佳奈の言葉に補足するようにエレナが付け足す。
前の方にいる茶髪のセミロングの子だろう。
彼女も他の物同様、包丁を持ってじわじわと近寄ってきている。
万事休す。
いかに
ハンター4人でも、30人…しかも六星明男が先程のような動きをされたらまず勝ち目はない。
背後には階段がある。2階への階段、もしくは電話での転移を使うか。
だが、この者達を何とかする、もしくは逃げきれば、これでこの一件は解決するのだろうか。
何か見落としてはいないか。
時間は無い。すぐに決断しなければならないだろう。
茜…HP621/MP70/OP53/状態:負傷(特殊技のダメージが5分の1)
最終更新:2015年12月13日 20:35