8月19日午前10時30分。
「くそっ…!!」
うねうねするモノを睨みつつ、とてもじゃないが動けそうになかった深海将己は全力で走り、うねうねと距離をとった。
息を切らしながら全力で走ったためか、なんとか村の近くまで逃げ切ることができたようだ。
頭痛も治まり、どうやらうねうねしたモノもおってきてはいない。
「助かったのか…?」
またすぐ後ろにいたりするのでは、と半信半疑で辺りを念入りに確認する。
だが、何より深海自身の具合が悪くならない事が証拠になるだろう。
気を取り直して、深海は村へと向かって歩き始めた。
☆☆☆
8月19日午前12時。
『深海君無事ですか?まずはそちらが知りたがっていた2つから。
一つ目、山田太郎さんは偽名でなく実名でした。
蒼の
ギルドで確認をとってもらったので間違いありません。
彼はこの辺の安全区域で、一人で農家を営む方のようです。
また二つ目は日下部地方について。
ネットのホラー系のアングラサイトで調べたのですが、日下部に迷い込んだという人がちらほらといるといった書き込みがありました。
鬼と書いてきさらぎと読むとか、きさらぎに行ったらもう戻ってこれないとか、水を飲んだりその場所にある物を食べたりすると、その空間とのつながりが強くなり帰ってこれないなど、嘘か本当かわからない内容まで様々で混乱するかもしれませんが、一応手がかりになるかもしれないので書いておこうと思います。
帰ってきた方の証言によれば、なんかいつの間にか帰ってきてた、とかトンネルを抜けたら帰ってきた、親切な人に案内されてたら気づいたら戻った、帰るまで30年かかった、などの書き込みがありました。
うねうねに関する内容もあったので、以下にコピペしておきます。
【う/ねう/ねって知ってるか?】
1:名無しのホラー百選:2015/07/21
う○うねって知ってる?
なんか理解すると死ぬってやつ。
2:名無しのホラー百選:2015/07/22
おまww
口に出すと死ぬぞww
3:名無しのホラー百選:2015/07/27
レスがねえww
死んだかな1はww
4:名無しのホラー百選:2015/07/30
1だけど生きてるってw
なんかさ、友達と肝試しで蒼の山中のそれっぽい所に行ったんだけど、マジで怖かった。
うねうねしたものが、動物の体から出てきてんの。
もう一目散に逃げたね。
逃げたといっても山道仕様の車だったけど。
5:名無しのホラー百選:2015/08/02
マジでやめたほうがいいよ。
俺の友達が見たらしいんだけど、なんか飛鳥で流行った寄生虫の超巨大バージョンだとか。
なんでそんなでかいのか知らないけど、頭痛くなって、気づいたら近づいてきてるってさ。
そいつ? 死 ん だ よ。
下山してから、俺にその話をしてきて2時間後にね。
だからマジでうねうねはヤバイ。
…という事みたいです。
飛鳥の寄生虫については、少し時間がかかると思いますが私の方で調べてみましょう。
さて、これから例の山に頼まれていた穴掘りに向かうので、暫くレスが遅くなります』
「穴掘り…ああ、そういえば」
深海はメール内容を見つつ、眉間に皺を寄せた。
彼が城ヶ崎教授に送った内容の一部で、以下の通り頼んだ事がある。
「最後にあの墓石について。
「御」の字しか読み取れませんでしたが、『人身御供』と彫られていたかもしれません。
もし奉られてる本体に許可取れたら、掘り起こして貰えません?」
と。
送信内容を見つつ、いやいやいや、と口元が引きつった。
「まだ許可とってねーし」
止めておくか、と思った矢先、背後から「別にいいよ」という声が聞こえた。
息を一つ吐き、振り返る。そこには例の少女がいた。
既にここは村間近。
幸い、村人は外に出てるものはいないため問題ないが、あんまり堂々と話しかけるのはやめてほしいと思った。
「なぁ、お前って何なの?」
「何なの?ってどういう意味?」
「人身御供にされた子供の幽霊か?」
その言葉に、少女は考える。
そして、違う、と言った後に。
「けど関係はしてるかな。生贄になった子達は、私への供物でもあったから」
「…五大神…」
深海は呟く。
五大神の少女、という蒼の少女。
おそらく目の前にいるのはそれでほぼ間違いないだろう。
詳しくは教えてくれないが、肯定と言わんばかりに少女は笑みを見せた。
「長く、この村の人は信仰してた神を間違えてたの。
それが50年前の悲劇を生んだ。
渡来した寄生虫は、呪いの力によって大きくなり、そして知能を持った。人間くらいには考える事ができるはずだよ、あの寄生虫」
「はぁ…?いや、でも確かに…」
諦めるのが早かったり、自分の背後にいつの間にかいたり。
あの存在はそういう感じのものだった。
「私がお兄ちゃんの前に現れるのも、次で最後。
でも、その最後はお兄ちゃんが死ぬ瞬間だよ。
だから、もう会えないといいね」
微笑む少女は、すうっと消えていく。
深海は咄嗟に、消えていく彼女に声をかけた。
「せめてどうやったら助かるかくらい言ってけよ!」
「……」
最後に、彼女は何かを言っていた気がした。
口の形が、お行、お行、い行の3文字。
何かは今はぱっと浮かないため、先に村の調査をすることにした。
その矢先、深海の携帯がバイブレーションする。
村人に気づかれないように、念のためではあるが…意外と静かな場所だとバイブの音も結構聞こえるものだ。
烏月揚羽が、他の二人の
ハンターの内容を纏めて送ってくれたようだ。
まずは入生田宵丞から。
「成果無し」
緋杭湖の寺で色々と調べてみた彼だったが、住職は他方の檀家の家に向かっているため、小僧と話をしたが彼らでは何もわからず、結局無駄足になった。
続いて天瀬麻衣、揚羽と続いたが、彼女らもハズレ。
麻衣はハズレではなかったのだが、蒼の五大神の少女は、日下部地方で祀られていた、という事を東十常一から聞いたらしい。
結局、既に知っている情報のため、特に役に立つ情報は無し。
ため息を一つ吐き、まずは墓地近くの井戸から確認を始める深海。
家の壁には穴があいており、そこから中を確認する。
「~~○×△~」
「うっ…!」
頭が痛くなる。
中にいる村人は、くねくねと踊りながら何か意味不明な事を口走っている。
録音しようかとも思ったが、これ以上いると気が狂いそうになるため一旦離れる。
想定外なのは、狂って襲いかかってくる、というわけではなく村人の存在そのものがうねうねを理解するきっかけになりそうなことだ。
次に大きな家を探す。
そこは誰ひとりおらず、土足であがると色々と見て回る。
といっても茶の間とトイレ、玄関、寝室くらいしかない。
ほかの場所には何もなかったが、茶の間では古びた資料を見つけた。
その資料には、人身御供として生贄になった者の名前や、呪いを高める方法、という内容が書かれていた。
そして、遂に深海は希望の一文を見つけた。
『呪い返しについて』
人身御供によるこの呪いには、欠点が一つある。
それは呪い返しだ。
この呪い返しにより、便宜上うねうねと呼ぶモノとの繋がりは弱体化し、うねうねの呪いが一時的に遮断されてしまう。
こうなるとせっかくの生贄にも簡単に抵抗されてしまう。
元々弱い寄生虫なのだから。
そのため、絶対に祭場にある石は動かさないようにしなくてはならない。
「祭場…?どこにある?」
資料の続きを読もうとした時、深海は背後に気配を感じた。
そして…振り返った時は既に遅かった。
☆☆☆
8月19日午後13時。
「あ~もう!埠のヤツむかつくっ!全然取り合ってくれないんだよ~?」
『センパイ、愚痴言うために連絡してきたんです…?』
電話口の向こでグループトークしている麻衣と入生田に愚痴る揚羽だったが、この中で有力な手がかりがあったのは麻衣だけ。
それも、既に深海は知っていた内容だった。
『それにしても、天瀬さんどこで仕入れたんす?俺は誰も知らないの一点張りだったんですけど』
『ちょうど美術館で、東十常さんと会えて。そこから蒼の五大神の少女のくだりを聞いたんよ』
『ああ、俺も応対してくれたボーズさんが、少なくともここのお地蔵様はそんな大層なものではない、と言ってたっす』
「マイティだけじゃなくしょーりゅーも…あたしだけなにも情報無し?」
『神社で何も聞けなかったんです?』
「そーなの、なんかカラシがどーとか言ってたけど、うねうねと何も関係ないしさー」
『俺も色々聞きたいこととかあったんすけど…くさかべの事とかきさらぎの事とか』
その時、あ!と思い出したように揚羽が声を上げた。
携帯越しの入生田と麻衣の耳には、ガサガサと紙を開く音が聞こえた。
「そういえば、神主さんが魔除けの札をくれたんだった!」
『…それをどうするんです?今から深海さんの所に持っていきます…?』
『教授に頼んでみるって手もあるんじゃないすか』
「そーだね、今から行くとなると時間かかるけど…」
『深海さん、それまで何も無ければええですね』
「ちょっと、マイティ不安になること言わないでよ!」
☆☆☆
一方、同時刻。
目を覚ました深海は、小川にいた。
取り急ぎ、ふらつく頭でやろうと思っていたことをする。
桶が無いため、ペットボトルを何とか半分にして、その中に魚を入れようとした。
その時、汲んだ水にうねうねしている小さなものが見える。
「うおっ!?」
慌てて深海はペットボトルを落とし、距離を取る。
同時に、頭が痛くなってきたからだ。
だが、それと同時になんとなくわかってきた気もした。
「呪い…か?」
最後に少女が言った言葉。
そして、麻衣とやり取りをしていた時に感じた、何らかの気配。
ここまで小さいものではないが、よくよく探ればうねうねした物と似ている。
もし、あの時感じた気配が、元凶だとしたら。
その元凶は、どこにいるのか。どこからやってきているのか。
おそらく、それが分かれば。
そこに行けば、何かが分かるのかもしれない。
しかし、その時だった。
慣れてきた軽い頭痛と共に、遠くにうねうねしたものが見えるのだ。
2,3。
いや、5,6。
どんどんうねうねした物体は増えていく。
深海が瞬きをすると、空に浮いていたり増えたり、減ったりと定まらない様子だ。
幻覚。
深海の頭によぎったのはそれだった。
「またかよ…!」
いい加減ウンザリするくらいの発生率。
しかし、逆を考えれば毎回この小川にこのうねうねは発生している。
逆を考えれば、この小川に何か手がかりがあるとでもいうのか。
だが今はそんな事を考えている暇はない。
頭痛が治まってきたと思ったら、今度は意識が朦朧としてくる。
立って走ることはできそうだが、見ている物が支離滅裂な現状、どこに向かって逃げるのかにもかかってくるだろう。
☆☆☆
深海…HP190/MP65/OP41/状態:疲労(探索時や怪異に遭遇時、HP・MPの減少速度が早い)
最終更新:2015年12月13日 20:32