8月18日午後13時。
「おや?どうかしたのかな?」
「現場検証をさせてください。倉庫、もう一度入らせてもらっても構いませんか?」
「ああ、構わんよ。鍵は開けておるでな。ワシは気分が悪いので、行けんが…」
「構いません、ありがとうございます」
東雲直は村長の家へとやってきていた。
村長の大塩平八に許可をもらい、倉庫へと足を踏み入れる。
その瞬間、強烈な吐き気や胸の気持ち悪さがこみ上げてくるが、我慢しつつ携帯を取り出し、写メを撮った。
立っているのも辛くなってきたので、すぐに倉庫から出て写メを確認する。
そこには、特に『箱の前には何もない』状態のコガラシの箱が置いてあった。
「…」
一瞬だけ表情が険しくなる。
そして、村長の大塩の所へと戻った。
「何かわかったかの?」
「いえ、特には…。その、倉庫には鍵がしっかりとかかっていたんですよね?」
「うむ、そうじゃ」
「村の井戸について聞かせて欲しいのですが」
深さはどれくらいか、埋め立てても特に何かあったりしないかを聞く。
問題無く、特に何か事故があった場所でもないようなので、最悪そこを封印場所に選ぶかもしれないということは伝えておいた。
「そうか…やはり完全な消滅は難しいのかの?」
「はい、そうですね…。少なくとも、今の俺の知識では。よろしければ、コガラシについて聞いている事、知っている事をどんな些細な事でもいいので教えて下さい。
俺はコガラシの封印の解き方は知りませんでした。コガラシを開けた事によりこのような惨劇が起こるというこ
とは、村の人なら誰でも知っている事なんでしょうか?」
「…」
口を閉ざした村長だったが、やがて沈黙を破るように話し始める。
「コガラシの開け方や、起こりうる惨劇は誰でも予想はできるわい。
下手に興味を持っても困るでな、女子供には話してはおらんが…村の成人の男連中なら誰でも知っとるよ」
「成る程…」
さすがに、村長の前のため誰でもコガラシを開けることができる、という言葉は言わないでおく直。
「後、事件の前後、何か変わったことや、気になった事などはありませんでしたか?」
「いや、特にはないのう」
「そうですか、わかりました。ありがとうございました」
礼を言うと一旦外へ出た。
昔から住んでいる人のことも聞こうとしたが、さすがに連続での質問は村長の心象的によろしくはなかった。
協力者は多い方がいい。
公園に向かう前に、先輩
ハンターの安土優と連絡を取る。
上条森羅と連絡が取れ、聞いたことをまず彼に伝える。
そしてその後に彼が調べた内容を聞いた。
彼が調べた内容は、どうも唐沢幹雄が怪しいということだった。
唐沢商店の店主で、甥の安藤吉見という少年が遊びに来ていたらしいが、なんでも村長の家の倉庫の裏に、草むらに隠れているが壁に穴があるのを発見したらしい。
頑張れば大人一人通れそうなくらいのその穴は、上手く草むらの中に隠してあったとか。
『目撃者は馬路良樹(うまじよしき)。そいつが数日前に麻雀仲間を誘いに行った時に、村長の倉庫の裏で安藤ってガキを見つけて、声をかけたら「ここ壊れてるよ」って教えてくれたらしくてな。
…もっとも、そいつは誰にも話してないみたいだし、現に当日は麻雀仲間4人で村営プール近くにある家で麻雀をしてたみたいだし、アリバイはあるぜ』
「つまり、唐沢さんがその話を聞いて、倉庫にあるコガラシの封印を解いたってことですか?」
『ああ、そうだ。お前も気づいたか?箱の前に血糊なんてなかったろ?つまり安藤ってガキは開けてねえ。
麻雀野郎にもアリバイはある。となると、決まったようなもんだろ』
「…」
『そういうわけで、今から唐沢に揺さぶりをかけてみる。何かわかったら、お前にもまた連絡する』
「わかりました。あ!最後に一つだけ!」
『なんだ?』
「東条慶介さんに連絡をとってもらえませんか?
東晋、コガラシ、符についても知っているかもしれませんし、力になってくれれば頼もしいかなって思うんですよ」
『わかった、やってみる。あんまり期待するなよ?』
通話を終えると、携帯を切る。
本当に唐沢幹雄が犯人なのか。
今はまだ分からない。そちらは一旦安土に任せつつ、直は公園に向かうことにした。
☆☆☆
8月18日午後15時。
公園には人気も少なくなってきており、1~2人しかいない。
その人たちも、あまり余所者は好意的ではないのか、直に気づくと逃げるように去っていった。
ここはあまり意味がない場所と言ってもいいだろう。
血糊はまだ残っているが、遺体は全部埋められたようで、公園の隅に沢山の棒が立っていた。
「…」
黙祷をした後、特に何かあるか調べてみたが、目ぼしい物はなかった。
戻ろうとした時、直の携帯にメールが入る。
安土からで、どうやら神主が着いたらしい。
唐沢商店での聞き込みは、隣に神主がいるため、一応気を使ったらしくまた会った時に話す、ということだった。
直は一旦、村長の家へと戻った。
☆☆☆
8月18日午後16時。
「遅れてすみませんねぇ」
「いや、気にするな」
直が村長の家に戻ると、ちょうど安土と神主姿の男が話している所だった。
安土は直に彼を紹介する。
「駒田誠二(こまだせいじ)です。よろしくお願いします、東雲さん」
「はい」
名前を既に知っていたため、直は名乗らずに安土を見る。
どうやら彼が直が来る前に紹介していたようだ。
あまり賢い人物ではないが、こういう手回しの早さはさすがBクラスハンターというべきか。
「祓いの儀は19時から倉庫で行います。それから2時間くらいになりますかね、
人払いと何かあった時の護衛をお願いします」
「ああ」
「はい、わかりました」
こうして、ある程度の段取りを聞くと、彼を休ませるために村長の家から出た安土と直。
ふとした疑問を直は彼にぶつけた。
「あの、結界はどうしたんですか?外からも破れないんじゃ…」
「ああ、それか。一点だけ符を剥がしたんだよ。結界はそこから徐々に消えて行き、後数時間で消滅するだろうな」
「え!?それってまずくないんですか!?」
「問題ねぇよ、後3時間で祓いの儀だ。それくらいまでは持つだろ」
だから、と安土は言葉を続ける。
そして倉庫を遠目で見て。
「あいつが儀式を始めたら、邪魔な奴は絶対に近づけるな。例えば…犯人とかな」
「それは…」
「ついでにあの後あった事を今伝えておく。あれから、俺は唐沢商店に行きあの話をしてみた。
壁に穴が空いてることに気づいてたんじゃないかってな。
そしたら、やっぱり知ってたみたいだ。でも俺はやってない、と一点張りだ。
…もしあいつが犯人だとしてもそうでないとしても、邪魔をするなら儀式の時間だろう。
村長から、村人にこの後、儀式が始まる数時間の間、倉庫に誰も入らないようにと伝わる手筈になってる。
俺は中であの神主を護衛する。直、お前は外を調べな」
相手の言葉に頷いて肯定する。
その後、安土が重要な事を話し始めた。
「問題は儀式終了後だ。
あくまであいつができるのは、再度封印を施す程度。
消滅なんてできるはずがないし、ハッカイは初めてらしいから何が起こるかわからない。
だから俺が中で護衛するとは言ったが、お前は外の怪しい奴を近づけさせないようにしつつ、何かあったら中でハッカイの対処をできるようにしておけよ」
「対処、ですか?でも、魔術とか効くんですかね…」
「そっちじゃねぇよ。まず神主の救出を最優先しろ」
了解です、と返して苦笑する。
そのまま倉庫近くで待機することになった。
時間まで、ネットで調べてみたものの、コガラシについて、直が知る程度の噂はあれど、核心をついたものはないようだ。
東晋や真森村についても、それとコガラシでヒットすることはなかった。
「おい、直!」
「はい?」
突如声を荒らげた安土に、少し驚きながら振り向く。
すると、彼が携帯を直へと投げてきた。
『もしもし、東雲君…でいいのだろうか』
「あ…東条さん、ですか?」
その通りだ、と電話の向こうで肯定する声が聞こえた。
やっと繋がったという安心を否定するかのように、安土が話しかけてくる。
「儀式の時間までもう時間がない。聞くことは2つくらいにしとけ。
それと、儀式中何かあったらすぐ携帯で呼ぶから、それまで外で怪しい奴がいないかとか、やり残したことがあればやっておけよ?」
おそらく、ここが正念場だ。
犯人は本当に唐沢幹雄なのかどうか。
そして、東条慶介に何を聞くのか。
それが重要になってくるだろう。
☆☆☆
直…HP1150/MP65/OP40/状態:コガラシ(毎回のリアクションで怪異に遭遇しなくても必ずMP100減少)
最終更新:2015年11月23日 10:19