9月15日11時30分。

「おじーちゃーん、遊びにきたよ!」
「おお、ハナ。よくきたのう」

あの事件から暫くした日。
祖父の国木田明夫の粥満の家へとやってきた行成ハナ。
あれから電話でのやり取りはしたが、国木田の仕事が忙しく今日まで時間がとれなかったのだ。
そのためか、国木田もとても嬉しそうな雰囲気なのがハナに伝わるだろう。

「あれっ」
「やあ、お邪魔しているよ」

茶の間に通されたハナは、既に先客がいる事に気が付く。
紅茶を啜りながら、微笑む人物は土御門伍代だった。

「あれ…?おじーちゃん…」
「ああ、まず誤解無きよう説明しておこうか。今回国木田先生の所へ来たのは、勧誘ではないから安心したまえ」
「うむ。近くを寄ったがてら、報告に来てくれてな」

報告?と首を傾げるハナに、伍代は微笑みながら君にも教えておこう、と言い。

「あの教会と時計塔は、我が土御門が買い取らせてもらった。
だが安心してくれていい。シスターこそこちらで何人か手配させてもらったが、神父は我が土御門と全く関係が無い所から勧誘させてもらったからね。
なんでも紅の西蘂町という場所で、神父をしていた人らしい」
「え、でも…」
「もちろん、メインの信仰は異なるが…同時に鈴鳴様も祀るように伝えてあるから、何らかの形で鈴鳴様の事は後世へと伝えられていくはずだよ」

あ、よかった。とほっと一安心。
子供が好きな巨大な女性の姿をした鈴鳴様。
彼女は見た目こそ怖かったが、その実とても子供想いの優しい幽霊?さんだったのだ。

「しかし伍代君。ワシは教会一つで二つの神を祀っているなんて聞いた事が無いぞ」
「…まあ、そこは今の世のニーズに応えた結果という事で」

国木田の言葉に、苦笑を浮かばせながら屁理屈をこねた伍代に、国木田は呆れたような息をつく。
結果的によかったと思い、まあまあと国木田をたしなめるハナに、伍代は話を続けた。

「そして、殺人鬼の…元、時計塔の管理人の幽霊だが、浄霊させてもらったよ。
今回の一件、緋杭寺の方に相談したところ、興味をもってくれてね。
先日、全て事が済んだ。今頃、亡くなった子供の幽霊も天へと召されてる頃だろうね」
「しかし教会に大勢の坊主が押し掛けた時はたまげたぞ。もっとなんとかならんかったのかい」
「ふふ、霊を成仏させるものはなんでもいいのですよ。問題は、成仏してほしいという念に込める想いが大事なのですから」

と、その時教会の鐘がなる。
正午を報せる鐘だ。
その音を聞き、伍代は腕時計を見ると立ち上がる。

「おっと、それでは私はそろそろ失礼しますね。
国木田先生、行成君も、いずれまたお会いしましょう」

丁寧に腰を折り挨拶をすると、伍代は去っていく。
彼が外へ出ると、リムジンが彼を迎えに来た。
それを窓から見送ると、国木田は鳴り終わった教会の鐘を見上げる。

「移り行く時代の流れと共に、旧き存在は忘れ去られていく。
しかしそれでも彼女らは、変わらずワシらを見守ってくれているんじゃな」
「…そうだね。おじいちゃん、後で教会に行ってみてもいいかなあ?」
「なら、ワシも行こう。ハナや隣の家の子を助けてくれたお礼、まだ言ってなかったしな」
「うんっ!」

こうして、旧き教会に関する鈴鳴様の事件は幕を降ろす。

――

「全く…事件の元凶がよくも姿を現せたものだ」
「まあまあ兄さん、そう言わずに。その分、経は頑張って唱えさせて戴きました」
「元はといえば、君のせいなのだがね?」
「おお、これはこれは」

辛辣な物言いに、リムジンで移動する伍代の隣にいる男――龍志狼は肩を竦めた。
しかし笑顔は崩さぬまま、用意されたコーヒーを一口飲む。

「さて、そろそろ本題に入ってもらえないか?私もこの後のスケジュールが詰まっているのでね」
「ええ、分かっています。私もこれから『彼』と色々回るところがありますので」
「ユグドラシルで彼ら…ハンター達があったという少年か。ホムンクルスだったな?」
「ええ。もっとも、今はそれ以上はさすがに兄さんにも教える気はありませんが」

その言葉に、やれやれと言わんばかりにため息をつく伍代。
彼らを乗せたリムジンは、そのまま粥満の土御門の本邸へと向かっていくのだった。

―END―
最終更新:2015年12月09日 22:49