プロローグ・終わりの始まり


「あれ…?ここは…?」

柳茜が目を醒ますと、そこには沢山の見知った顔が倒れていた。
今まで幾度となく共に戦ったハンター達。
そして、辺りを見渡すと宇宙空間のような場所に、自分達は石造りのような場所にいた。
ユグドラシルで見た巨大な大樹と、その周りには巨大な湖がある。

―久しいな、人間よ―
「!?」

その一言により、周りの者も目覚め始めた。
茜は、驚きの表情で眼前に聳える竜、エストレアを見る。

「えーっと…」

まず甚目寺禅次郎を探そうとした。
エストレアが用があるとすれば、彼の竜に見いだされた禅次郎だ。
辺りに沢山のハンターがいる事を見れば、茜も大勢の中の一人に過ぎないのだろう。

―今回は貴様だ、柳茜―
「え?」
―終わりが始まろうとしている。滅びの星、ハミルトン。魔王竜アドラメレクのみが起動できる、いち文明を滅ぼすことができる魔法―
「ちょ、ちょっと待ってよ!いきなりユグドラシルに連れてこられて、突然そんな事を言われても…」
―心せよ、柳茜。アドラメレクに見出されし竜の戦士よ。これより、アドラメレクに代わり最終試練を開始すると宣言させてもらう―

状況を少しずつ呑みこんでいく茜。
ユグドラシル、とは言ったが、厳密にいえばここはユグドラシルではない。
ユグドラシルの5層に似てはいるが、全く別の世界だ。
何よりここが始まり。
巨大な石造りの階段があり、遥か上の層のような場所は、広大な翡翠でできたエリアとなっていた。

―あれはほんの一角。第一階層は四季の階層となる。言うよりも行けばわかるだろう―
「…」

色々聞きたいこともあったが、確かに実際に見てみない事にはどうにもならない。
仲間に声をかけ、第一階層、四季の階層と呼ばれる場所の探索を始めるようとした時だった。

「あれ?皆?」
「…おい、どうなってんだ?ラウム」
「フェルゼちゃんっ!ハナちゃんとかみんな消えちゃったのっ~!」

いつの間にか、茜と白神凪、福良練の3人しか階段を上がってきていない。
困惑する3人に、エストレアの声が聞こえる。

―アドラメレクにより、階層に挑める人数は決められている。そして、悪魔共は既にいない―

「そんなぁ…またせっかくフェルゼちゃんとお話しできると思ったのに…」
「いや、待て福良。この世界のどこかに、感じねぇか?ラウムの気配は、遠くだが感じるぞ」
「悪魔はよくわかんないけど…とにかく、挑めるメンバーは決められてるってことね。いつもこの3人で挑まなきゃならないってことはないんでしょ?」
―然り。そして、貴様達と縁のある者達が、悪魔に囚われの身となっている。その者達は、エリア攻略の手助けとなるだろう―

エストレアの声がやむと、8個の宝玉が3人の手に入っていた。

「これは…」
―悪魔に囚われた者達の魂。我がいる拠点に戻れば、解放してやろう―
「…とにかく、一度戻った方が良さそうだね。悪魔の力は使えそう?」
「ああ、そこは問題ない。中にいたラウムが、力だけ残して消えたような感覚だな」
「じゃ、問題ないね。戻るよ!」

☆☆☆
3人が戻ると、そこには消えたはずのハンター達が戻ってきていた。
エストレアのいう事は本当のようで、一度に向かえる人数が制限されているようだ。

―では解放を行う―

エストレアの一つ目が光ると、8つの宝玉は壊れ辺りが光に包まれる。
そして、そこには佐治宗一郎、上条森羅、城ヶ崎憲明、織ヒカル、燕沢凛桜、北嶺真帆、砂金美作、葎イクルの8名が地面に座り込んでいた。

「…はい?おい!てめぇらどうなってんだ!?俺様さっきまで仕事してたはずだぞ!」
「ああああ!ちょうどいい所で!!!フラグが折れたァァァ!」
「おやぁ~?ここはユグドラシルですかねぇ~?」
「これは…そうそうたるメンバーだな」

桐石登也は、8人を見て思わず笑った。
これだけいれば百人力というものだろう。
そして。

「ヒカル~!!本物カヨ!?」
「ヒカルっ!」
「え?俺なんで…?は?イクルに…維胡琉先輩!?」

操られていた水鏡流星が、殺害したはずの織ヒカル。
彼がそこにいたのだ。

―アドラメレクの力で、死者も貴様達の同行者として呼び出されている。総勢20名の同行者と共に、全ての階層を攻略し、立ちはだかる敵を倒し、アドラメレクの座す終わりと始まりの地へと向かう事が貴様達の目的となる。降りたい者は我に言え。現実世界に戻してやろう。ただし、その者はもう資格は失い、この最終試練への協力はできない。ここにいる者達がハミルトンを止めるか、止められず世界ごと巻き込み死ぬ時までゆっくりと残りの人生を謳歌するがいい―
「ちなみに、私は抜けられないよね?」
―当然だ。貴様が抜けるという事は、最終試練の放棄を意味する―

やっぱりね、と茜はため息をついた。

―2月末日。およそ2カ月間、アドラメレクは待つといった。つまりそれまでにアドラメレクを倒せない限り、ハミルトンの発動は食い止められず、現実世界もろともこの世界は滅ぶ。今日は12月27日。1月1日まで待ってやろう。どの道、正式な攻略開始は1月1日からになる。そこで、他の者達は答えを出すがいい。最終試練に挑むかどうかを―

貴方達の前に、沢山の食料品が出現した。
全く調理していない、生のままの肉が、野菜が、魚が。

―滅びの時を迎えるまでの食については、我がユグドラシルの力を以って提供してやろう―

☆☆☆
拠点となったユグドラシルの一角に、上条が用意したスペース、アイテムショップがある。
彼だけ召喚された時、土御門家が所有する物資と共にここに召喚されたのだ。

「はぁ~、ババアは消えろ。どうしても売ってほしいなら、煌石1個10万円、ベッドの日用品は100万円。現金で」
「よし、揚羽さんこいつ殺そう」
「おっけー!」
「ちょっと、なんだよ!?僕のものだぞ!金払えよババア共!おい、来るなよ!うわあああ」

多少高いままだったが、それでもギルドで提供していた煌石等は定価よりちょっと高いくらいに、日用品も定価で。
茜と烏月揚羽の女子力で、交渉は成立した。

☆☆☆
拠点となったユグドラシルの一角に、貴方達が神崎信との最終決戦で使った飛行船、エリュシオンがあった。

「ここの座席を使えば、全員寝泊りできそうですねェ~」
「そうッスね、多少体は痛くなると思うッスけど」
「伍代さんもお留守みたい?」

砂金とヒカル、そして凛桜はエリュシオンの調査をしていた。
特に魔物などはおらず、寝泊りにも多少は体を痛くするだろうができるスペースはある。
肝心のエリュシオンの飛行装置などは、分かる者がいなかったため動かすことができなかったが…。

「でもこれ、掃除とか誰がするッスか…?」
「…リオは嫌よ」

こうして、エリア探索に行けない者達で交代して掃除を行う事になったのだった…。

☆☆☆

「いやぁ~興味深いですねぇ~!見たこともない魔物がたっぷり!」
「城ヶ崎さん、これ見て…!」
「おぉ!北嶺さんこれはすごいですよ~!絶滅したはずのむいむいです~!」
「ずいぶん盛り上がってんな…」

志島武生は、城ヶ崎と真帆と共に拠点となったユグドラシルの一角にある書庫へ来ていた。

「ここで、今まであったことを記録しておきますからね~。魔物の生態も知りたければ来てください~」

☆☆☆
拠点となったユグドラシルの一角に、だだっ広いだけの場所があった。

「おっしゃ、ここは訓練とかするのにちょうどいいな」

佐治はそこを眺めて一人呟いた。

「しかしなぁ、上条のアホはともかく、なんで俺様や城ヶ﨑がエリアに向かえねぇのかなぁ」

佐治が同行メンバーとして粋がっていた時、エストレアの一言を思い出す。

―同行者は20名。しかし、佐治宗一郎、上条森羅、城ヶ崎憲明の3名は非同行者となる。同行者20名以外にも、幾人かの非同行者も囚われている。救出すると良いだろう。なお、非同行者はアドラメレクの力によりこの拠点より外には出れぬ―

と。つまり佐治は既に戦力外なのだ。

「ふざけんなっつーの!だったらガキ共強くして、アドラメレクぶっ倒す!!!」

こうして、アドラメレクの、竜の戦士の最終試練が始まったのだった――。
最終更新:2015年12月24日 12:38