第四階層・冥府の階層


エストレアが、魔力により巨大な鏡を創り出す。
そこに移っているのは、第四階層、冥府の階層だった。
その階層のエリアは、神風学園のようなものが見えたが、すぐにモヤがかかって見れなくなった。

―…?―
「どうしたの?エストレア」
―いや…気のせいだろう。あの悪魔がまだ中間の階層にいるはずがないのだ―

柳茜は、エストレアに尋ねた。
だが肝心な答えは聞けぬまま。
エストレアが鏡の力を終わろうとした瞬間だった。

『アハハハハ!』

女性の声が辺りに響き渡る。
そして、鏡の中に映るモヤが、貴方達のいる拠点へと滲み出てきたのだ!

「な、なにこれ!」

まず佐治宗一郎が倒れた。次に城ヶ崎憲明、紫堂陽人。
それだけではない、織ヒカル、牧本シュウ、風見次郎も倒れ、蒼白い顔で苦しんでいる。
いずれも、鏡に近かった者達。
一番前にいた茜は、エストレアがかばうように護ってくれたため、モヤに触れなかったが。

―魔女の呪い―
『…噂程度だが聞いたことがある。始祖の悪魔の中に、強力な呪いを使うアドラメレクの右腕がいるってな』
「おい、どういうことだラウム」

エストレアの言葉に呼応するように、悪魔ラウムが凪の体から抜け出る。
白神凪がそれを尋ねると、ラウムは肩を竦めた。

『しらねえよ、俺の時代の時はロノウィ以外いねぇんだしな』
―始祖の悪魔クラリス。アドラメレクの『裏』の力を濃く受け継いだ悪魔だ。本来なら最終階層である終わりと始まりの地にいるはずの悪魔がなぜ―
「そんなことより、どうにかならんの…!?」
「ヒカルっ…!しっかりして、大丈夫だよ!」

天瀬麻衣や向坂維胡琉の言葉に、エストレアがゆっくりと首を振る。

―魔女の呪い。呪いを受けた者は衰弱し、やがて死ぬ。解呪方法は一つ。悪魔クラリスを倒すこと―
「なんだ、だったらすぐにでも行って――」
―おそらく四層の全てのエリアにこの呪いが施されている。四層に足を踏み入れれば、自らも呪いにかかると思え―
「つまりミイラ取りがミイラってことかッ…」

再び映像が見えるようになった鏡に映るのは、大学部と思しき場所の時計の部分。
時計には12の炎が灯っており、やがてその炎は一つ消えた。

―ユグドラシルの水を飲ませても、おそらく効果はない。やはり、悪魔を滅するしかないだろう―
「あの炎がリミットってわけね。残り11日…ってことでいいの?」
―然り。27日末日までにクラリスを撃破できない限り、この者達にかけられた呪いは消えぬ。そして、あのモヤがある4層に行けば、その者達は次の探索に出ることはできぬ。よく考えて行動を行うがよい―

始祖の悪魔タイニーデビル撃破


拠点に戻った九重匠は、手に入れた宝玉をエストレアに解放してもらっていた。

―これで5体目の悪魔。ようやく半分か。…それにしても、お前は寝てなくてもいいのか?―
「…これでもギルド長の意地ってやつでね。見届けてから休ませてもらうよ」

ウバルが張った結界のお蔭で、4層のモヤに触れた者達の呪いの症状は重度の風邪レベルの気怠さになっている。
そのため、今まで起き上がれなかった者もある程度の生活はできるようだ。
ただし、それも制限時間まで。
新たに鬼ヶ原空、日野守桜、甚目寺禅次郎、九重匠が探索不可能となった今、戦力もそがれる事だろう。
そんな中、新たに宝玉が手に入ったのは朗報だった。

「あ、あれ?九重ギルド長!?」
「…君か。よかった、後は任せたよ」

そう、新たに出現した真田斎へと告げると、匠はその場に安心して倒れた。
時計の炎は19日時点で残り8。つまり後8日のうちに、4層を攻略しなければならないだろう。

始祖の悪魔クラリス撃破


―これで六体目。残る始祖の悪魔は4体となった―
「…私達が寝込んでる間に、何があったの。それに――」
「あー、なんつーか」
―クラリスの消滅を確認した瞬間、強大な力を感じた。そのため、緊急措置としてその時に手に入れた宝玉を解放したのだ―
「それが俺っつーわけですよ」

そういったのは水鏡流星。
死んだはずの彼が、ユグドラシルの大樹で記憶を流される前の記憶を保持して戻っているのだ。
それも、アドラメレクによる力らしい。

「始祖の悪魔、サルモン。今はもう力を失っちまったけど、ベレトから聞いた情報だ」
―始祖の悪魔筆頭にして、1,2を争う実力者だと。例え奴の攻撃を無効化した所で、無効化した時に発生する技を繰り広げてくる二段構えの悪魔だ。弱点は無いと言っていいだろう―
「ちょっと待ってよエストレア。さっきからそのサルモンって何なのさ?始祖の悪魔って事はわかるけど、どっから出てきたの」
「クラリスを倒した後に、突如出てきた悪魔ですよ。…そいつにカノンがやられて、俺も凪も立ち向かおうとした時に流星が来たんです」

桐石登也の説明に、ふーんと相槌を返す茜。

「それに負けて、凹んでるんだ?」

柳茜は、休憩すると言って休んでいる、この場にいない白神凪の事を思い返した。
単純にそれだけが理由じゃねぇ、と契約主である凪から離れて話を聞いている悪魔ラウムが返す。

「負けたから強さに凹んでるんじゃねぇよ。それに仮にそうだとしても、おそらく砂時計を発動したところで砂時計で吹き飛ばした時間の流れの中でも動いてくるだろうぜ。そんな化け物相手に臆するなって方が無理な話さ。それに凪はそんなタマはしてねぇよ」
「…え?それ本当かラウム?」

登也の表情が強張る。
砂時計が効かない、となると登也の手札が一つ封じられたも同然だからだ。
ラウムは「ロノウィから聞いたウバルから聞いた又聞きだがな」と頷き返し、続けて

「要するに、砂時計は超加速して気づいたら時間が過ぎてたっつー理論の魔術だろ。あいつにはどんな超スピードや催眠術とかも効かねぇ。言っちまえば、俺ら五体の…いや、ロノウィのクソジジイは始祖の一体だから、正確には4体のオリジナルともいうべき悪魔だ。それに体力は化けモンレベルであるし、補助なんて一瞬で打ち消してきやがる」

その言葉に全員が沈黙した。
まさに打つ手無し。最強の悪魔と言うべきなのだ。

「弱点が無いわけではない」
「!?」

今まで沈黙していた悪魔ウバルの言葉に、驚くラウム。
ロノウィ殿から聞いたのだが、と自分も正確には知らないことを伝えると

「時間停止。それだけは奴も解除できないと効く。遅延だろうが加速だろうが、ついてこれても停止だけはな」
「なにそれ。加速についてくる奴なのに、止まった時間は動けないって?」
「それに問題点も一つあるぜ。この中で、時間停止なんてタイムマシン作成を使える練くらいのものだろ?」

少し考えたが結論は出ず、見かねたエストレアが口を開く。

―とにかく、更なる階層に向かうがいい―

≪ツヅク≫
最終更新:2016年01月23日 12:13