12月中旬、午後22時(2日目)。
入生田宵丞は息を切らしながら走った。
まず最初の目的地は、花時計広場。
通り道だったため、ここに何か原因がある、なんてことは彼は思っていない。
ただ、会いたい人にはいた。
「おやぁ~?入生田君ではありませんか~」
「あ、教授。よくわかりましたね…。」
直接面識はないはずだが、的確に声をかけられて振り向くと、城ヶ崎憲明。
夏に深海将己の怪異の解決に協力していた人物だった。
「うふふ~、私、こう見えても勘はすごくいいんですよね~。実はこの前も、商店街の福引で~」
「教授、土御門って人とコンタクトってとれますか。」
話が長くなりそうだったので、時間も惜しいし宵丞は話を切り出す。
相手の「ええ、取れますが~」の反応に続けて、今の状況を説明する。
怪異についても興味を示してくれるだろうし、将己を助けた所を見ても信用できる相手だと思うからだ。
「なるほど~、私は鎮守くんの事はよく知らないのでなんとも言えないのですが~…いつ頃からそうなったかはご存知です~?」
「いつ頃…だったっけ。」
宵丞は思い出してみる。
確かに最近、寝不足だーとはよく言ってたりしたが、それ以前に何かあっただろうか。
「寝不足ですか~、夢に纏わる怪異ですかね~?」
「そういえば、大分前に毎日変な夢で目が覚めるって言ってたような…。」
「その夢の内容、わかりますか~?」
城ヶ崎の言葉に、ゆっくりと首を横に振った。
わからない。
そう、内容を聞いても「大したことじゃないぜ」とはぐらかされたのだ。
「そうですか~、まあとりあえず、何かわかったら私にも教えてくださいね~?」
これ、改めて。と城ヶ崎から名刺をもらう。
電話番号やメールが書かれている。
「あ、土御門さんへの連絡は。」
「わかってますって、ちゃんとしてみますよ~。ただし!彼も忙しい身ですから、気長に待っててくださいね~」
それでは~と手を振りながら去っていく城ヶ崎を見送った後、宵丞は学園へと急いだ。
☆☆☆
茜駅前ターミナル前。
そこでは、深海将己が電話をかけていた。
「…なんででねーんだよ。誰かいるだろ普通は」
いくらかけても、緋杭寺には繋がらない。
売店で新聞を買いつつ、適当に腰かけて眺める。
そこには、新聞社がまだ正確に把握していないのか、事件発生の事だけしか書いていなかった。
情報が遅い新聞に呆れるように息をつくと、龍志狼ではなかったが、一人の少年を見つけた。
確か、他の奴が『零』と呼ぶ少年だ。
明らかにぼろ布を身にまとっているため、他の一般客と比べたら浮いている。
が、他の者は気づいていないのか、そんな彼に視線一つ送らない。
彼は将己の視線に気づき、笑顔を返すとリニアに乗りこんだ。
その行く先は粥満。
なんの意図があり、リニアに乗り込んだのかはわからない。
「行くか…?」
追っても、この一連の怪異の元凶とも呼べる、龍志狼と会える保証はどこにもない。
勿論、この怪異に関しても関わっているとは言えないだろう。
追うならば、将己の次の一手は決まったようなものだが、追わなければ龍を探すチャンスがまたあるかもしれない――。
☆☆☆
志島武生は、イーステン美術館にいた。
そこの経営主(実際は祖父の経営だが)である東十常司と会うため。
ちょうど運よく彼はおり、鎮守由衛の事を聞いた。
「寝不足…?最近は来てませんからねえ。わかりませんよ。
単位も足りてるようですし、王貴さんも学園に来ない事の方が多いですし」
「何かした、とか違和感を感じた、とかそういう事でいいんだ。鎮守、さんのちょっと変わった所をさ」
と顎に手を当て考える司。
そういえば、と切り出し。
「あの人、いつ頃かは覚えていませんが、生徒会室で寝ていたので起こしたところ、毎夜カウントダウンされる身にもなってよ、って再び寝直してましたね。
別にあの人に興味はなかったので聞かなかったですが!カウントダウン?と不思議に思って覚えていました。
いつだったかな…1月以上は前だったような気がします。最近は学園にもそこまで頻繁に来ていませんしね」
その時、司を従業員が呼んだ。
失礼、それでは何かあれば携帯に連絡でもください、と言うと武生の前から去って行った。
これ以上何か聞くのは、さすがに美術館にとっても営業妨害だろう。
☆☆☆
「でねえな…」
神風学園の本の虫へと向かっている六角屋灼は、携帯電話越しに呟いた。
上条はもちろん、土御門も王貴と連絡が取れない以上、連絡のしようがない。
灼の知り合い…他にはもう一人しか思いつかなかった。
『もしもし、六角屋?』
「あ…藤咲。頼みがあるんだけど…」
一通り話を聞いた、Bクラス
ハンターの藤咲真琴はため息をつき「いいよ」と返した。
「今リモートの依頼も2件しか入ってないし、なんなら龍志狼だっけ?そいつの居場所、調べてみようか?その代わり、高くつくけどね」
「葵以外も調べられんの…?だったら頼むかな…」
「ただ葵以外の情報屋とかとコンタクトとるから、時間はかかるよ」
迷ったが、龍志狼と会えるなら、と思い了承を出す灼。
藤咲は了解、と言うとそこで通話は切れた。
この後、特に大学部の本の虫では何も情報は仕入れられなかった。
☆☆☆
12月中旬、午後23時(2日目)
時間も時間のため、まずは守衛に言って中へと入れてもらった。
そして高等部のカフェテリアへ行く。
何度思い返しても、由衛に変わった所はなかったはず。
武生と灼の情報は、彼らから連絡が来たため聞いている。
「カウントダウン…。」
何かの比喩か、そのままか。
宵丞は呟きながら、丁度入ってきた人物に気付き顔を向けた。
「こんばんは、入生田先輩」
「櫻井さん、ごめんなー。」
まずは開口一番、真田斎が生徒会長の頃に生徒会役員だった櫻井六花を呼び出した。
家が神風学園に近いこともあり、すぐに来てくれた。
彼女以外とは相変わらず連絡がつかないか、友人である燕沢凛桜は、土御門伍代の別邸でバイトを行っている最中で、メイド長に睨まれているためすぐに電話は切られた。
念の為伍代に連絡をとれないか聞いてみたが、ここ数日、仕事帰りはどこかへ出かけているようなので、コンタクトを取るのは難しいと言われてしまった。
「で、鎮守先輩の事ですか」
「そう、櫻井さん何か知らない?同じクラス…。」
「同じクラスですが、浮いた存在ですもん。わかる筈がないですよ!」
夜中に呼び出したのはさすがにまずかったのか、六花は多少不機嫌な様子。
しかし宵丞にとっても、まさかこんな時間になるとは思ってもみなかった。
それだけ城ヶ崎といい時間まで話していたのだろう。
「そっかー…。うん、ごめんなこんな時間に。」
「…まあいいですけど。それで、入生田先輩はどこまで情報を掴んでいるんですか?そこからまずは聞かせてください」
宵丞はとにかく、自分が覚えてる限りの説明を行った。
六花は話を頷いて聞き、最後にこう呟いた。
「…そういえば、怪異で思い出しました。入生田先輩、大学部の七不思議ってご存知ですか?」
「…いや、知らない。」
夏頃にそれに関する依頼があったんですけど、と前置きをして
「それにたくさんのハンターの方が参加されていたみたいなんですが、鎮守先輩も出たらしいんですよ。
そして、なんでも喋る石像の怪談がどうとか言ってましたね」
「うん。」
「えっと…それ、だけなんですけど」
「あれっ。」
ずっこけそうになったが、それだけでも十分収穫にはなった。
喋る石像の怪談、それから調べようとしていた宵丞に、意外な所から声がかかる。
「メインエントランスの石像、夕方の4時44分44秒に一体だけ、いつもはいない石像がいる」
「え!?」
「小次郎…さん?」
小次郎はそれだけ言うと、奥へと引っ込んでしまった。
唖然としていた面々だが、六花が我を取り戻して大声を出す。
「それですよ!それ!鎮守先輩もなんか気になっていたようで!あー…!でもそれだとおかしいのか。確かその石像を見た人は、44日後に死ぬって噂ですから、もう12月だし、その依頼は6月か7月くらいだったし…」
「それを見たのが、つい最近って事は?」
「あ、そっかっ…!別にあの七不思議調査依頼の時に、見たってことはないですもんね!」
「だったら、カウントダウンもなんとなく繋がる。」
なんですかそれ?と尋ねる六花に今度説明する旨を伝えつつ、宵丞は立ち上がった。
「でも、もしそれが本当だとしたら、対処法は…?」
「え?…いや、聞いた事ないですね…」
困ったように狼狽える六花を見て、落ち着くように言いつつ、ふとポケットに名刺がある事に気が付いた。
城ヶ崎憲明の名刺だ。
迷わず宵丞は電話を城ヶ崎へとかける。
数コールの後、電話は繋がった。
「入生田です。」
『入生田くん?おやぁ~?どうしましたぁ~?』
夜遅くの電話を詫びつつ、今までの経緯を説明する宵丞。
そして、城ヶ崎から帰ってきたのは思わぬ言葉だった。
『入生田くん、そういえば深海くんの時の事覚えてます~?
あの時、深海くんがあったという女の子は五大神と呼ばれる大和の守り神的な存在だそうで~。
それらに頼み込んでみる、というのはどうでしょうか~?』
「頼めば、何とかなりますか?」
『わかりません~。ですが、対処法がない怪異ならば、もう神頼みしか~』
「っとすいません…ちょっと一旦切ります。」
携帯に別の着信が来ている事に気付いた宵丞は、一旦城ヶ崎との通話を切った。
その電話は将己からで、簡潔に。零というガキを見たとの事。
更にすぐ後、灼から龍志狼がいると思われる場所を、知り合いのハンターから聞いたと報告を受けた。
茜、粥満のリニアモーター間。
蒼、山岳地帯。
そして粥満、郊外にある使われていない教会。
それらの場所をメモしていると、六花がある事に気付く。
「あれ?もしかして粥満、いつだったか怪異があった場所じゃないですか?」
「…そういや、蒼もうねうねの時に行った場所か。」
「茜、粥満のリニアモーター間は…確かそこらへんに、昔の処刑場があったというゴミ捨て場があったはずです!」
日野守さんから聞いたという、得意気な彼女を横目で見ていた宵丞が一言呟いた。
「五大神…。」
「え?なんです?」
城ヶ崎との話に出ていた五大神。
誰かが知っているらしいが、誰だっただろうか?
なんだったか思い出せないが、もし龍志狼もそこに向かっているのだとしたら。
手がかりは、五大神になるだろう。
最終更新:2016年01月31日 23:20