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12月中旬、午後15時(1日目)。

桐石登也の置かれている現状を整理しよう。
用事で猿渡住職へと遺骨配送サービスの遺骨届けを終えた後、猿渡と世間話をしていた。
そして突然の電話。その電話に剣幕を変えた猿渡に帰れと言われる登也。
帰る時に龍志狼が現れ、彼について地下道を進むと、そこには怪異を隔離した部屋があった。
怪異ナンバー173のだるまに頭を潰された、猿渡と二名の弟子と共に…。

『扉をまずは閉めろ!』

悪魔ウバルの助言により、登也の体が動く。
龍が逃亡した後、近くの部屋に逃げ込んだのはよかった。
しかし、一人という状況な以上、目を離す状況は必ずくる。
まず扉を閉めて、瞬きを一つ。

「うおッ!?」

きちんと閉めたはずの扉。
しかし、その扉は再び半開きになっていて、だるまが外に半身をチラつかせている。
明らかに登也も3人と同じように頭を潰そうと狙っている!

「こんな反則な奴、外に出せるかよ…!」

もう一度閉め、今度は片目だけ開いてみる。
まずは試さなくては。
そう思っていた矢先、ウバルの声が響く。

『何をしている!両目を開けろ!』

その言葉に驚き、目を開く登也。
するとすぐ目の前に、いつの間にかだるまが来ていた。

「こ、これもダメだってのか!」
『この怪異にはルールがある。抜け道など無い、ルールに則り、対処をするのだ』

ウバルの声が今は頼もしく、彼の声に頷いてみせると目をそらさぬまま素早く回り込み、外に出て扉を閉めた。
そして瞬き一つ。
またもドアが半開きになっている。
そしたら再度扉を閉める。

「…無限ループに入ってないかこれ…」
『ドアを閉めたら、僅かな時間があるはずだ。次の瞬きまで、何かできるはずだろう』
「何かって…」

なんだよ、と言おうとした登也だったが、彼が一番よく分かっていた。
猿渡住職が電話を受け、闇雲にただこの場所へと来たのだろうか?
違うだろう。
おそらく、何らかの対処法があるはずだ。
それはモノ、そうでなくては、この場所に対処するための方法が。
他の弟子に管理を任せて、世間話に興じていた猿渡の事だ。
確実に、それは第三者が見て理解できる対処法としてあるはず。

「お札か、封印方法が記されたメモみたいなものか」
『そうだ、いいぞ桐石登也。死体までは数メートル、だるまさんが転んだの要領だ』

なんでだるまさんが転んだなんか知ってんだよ、と噴き出して突っ込みたかったが、今はあえてそれには触れない。
物を色々積んであるテーブルを扉が開かないように置く。
気休めレベルだが、瞬きしたりちょっと目をそらす余裕はできるはずだ。
もちろん、念のためだるまから目を背けず、瞬きして扉が開けばすぐに戻り閉める。そして次の瞬きまで余裕があるうちに猿渡の死体まで向かう。
彼の懐を漁ると、案の定お札が3枚出てきた。
それは手にしただけで、健やかなる、清浄なる、正しいような感じにさせてくれるようなお札だ。

『よし、それをあの扉に張り付けろ。それで終わる』

ウバルに言われた通り、扉に張り付ける登也。
試しに瞬きするが、だるまはもう出てこない。

「た、助かった…」

安堵してため息を一つ。
腰を抜かすように地面にへたり込む登也。
しかし、案外あっけなく終わるものだ。
もう一度言うが、瞬きをしてももうだるまは出てこない。
顔を背けてももう大丈夫。
安心だ。

「さて、問題はこの事を誰に、どう説明するかだよな…」
『しかし桐石登也、なぜ札は4枚ある?』
「4枚?…うおッ!?マジだ!?」
『おそらく1枚は予備と考えるのが妥当だろう。だが残り2枚。このだるま以外にも――』

ウバルが話を続けようとしたが、そんな事は登也の頭には入ってこなかった。
奥の隅に、すすり泣く声が聞こえる。
男の声で、すすり泣く声が。

「誰だ…?」
『ん?桐石登也、そこの死体、何か気にならないか?』
「え?」

登也が猿渡の死体を見るが、頭を潰されている以外は特になんともなっていないように見えるが…。

『違う、その隣だ』
「あ、こっちね。は…?…な、なんだよこれ…?」

彼の目の前にあったのは、先程は頭しか注視してなかったせいか。
僧衣がズタズタに切り裂かれている男の死体だった。
こちらの僧二人の直接の死因は、頭部損傷が先か、それとも引き裂かれたことによる失血死が先か。
それくらい深い傷だ。

「…お前、か…?」

登也が声をかける。
すすり泣く声が止み、奥の隅にいた男が立ち上がり、こちらを振り向こうとした時。

『何をしている!後ろだ!』
「えー―」

登也が振り向くと、そこには真っ黒な姿のお爺さんが立っていた。
全身真っ黒。カラスのように。
そしてお爺さんが登也の首を掴むと、登也の体がずるずるとお爺さんの中へと吸い込まれる!

「ぐッ…!がッ…!」

息ができず、そのまま取り込まれ、意識を失いそうになっていた登也を呼ぶウバルの声が聞こえた――。

☆☆☆
「…」
「誰もいませんね…」

日野守桜と鬼ヶ原空は、本堂へとやってきていた。
ギルドから連絡を受け、本堂でちょうど蜂合わせた二人。
どうしようかと困っていたら、小僧を見つけて声をかける。

「住職ですか?…あれ?さっきまでいたのになぁ…」

その時、電話が鳴る。
その電話は暫く鳴り続いていたが、やがて切れたようだ。

「…電話、よかったんですか?」
「あれ?他の人、どこいったんでしょうかね?」
「こっちじゃない?」

空が地下道へ続く道を見つける。
小僧と桜も続いてそちらへと行くと、中の方からたくさんの僧の経を読む声が聞こえてきた。


「…なんかすごくヤバそう」
「い、行きますか…?もしかしたら登也先輩、この奥にいるかもしれませんし…」
「ちょっと待って」

空は携帯を取り出し、登也に向けてメールを打った。

『無事か?寺に到着したがそちらのお加減はいかが?なんか必要なものあるか?』

と。
勿論返事はすぐに無い。

「いこうか」

此処にいてもしょうがないし、と地下道を指さす。
頷くと、「僕はいいです!」という小僧を本堂へ置いて、二人は地下道方面へ向かっていった。

☆☆☆
登也が目を醒ますと、辺りは真っ暗な世界だった。
否、かなり先の方に光が見える。

「ここ…は…?」

全てがスローモーションで動いている。
登也の動きも、声も。全てが。

「う…ばる…?」

ウバルの反応はない。
無視というより、不思議な力で遮断されているかのように。

「け、いた…い」

携帯をスローなペースで取り出してみた登也。
そこは圏外になっていた。
考えていても仕方がない。
そう思い光の所まで歩き出した。

『グゴゴガガガグ』

先程のお爺さんが、ゆっくりと背後から迫ってくる!
元より動きは遅いようだが、そのお爺さんだけはスピードを変えず、元の速度のままで登也へと迫る!
普通の速度で逃げても、スローペースなため光まで向かう前にまず摑まるだろう。
何か仕掛けなくてはならない。
しかし、何もないこの世界でどうやって?
誰の助けもないまま、迫るお爺さんをどう対処するか。
正念場だ。
最終更新:2016年02月01日 07:38