<1>
水鏡流星は、海底遺跡に向かわず島に残った。
理由は幾つかあるが、一番の理由は彼が行かなくとも、多くの
ハンターが向かったので安心しているからだ。
そのため、彼は“ある場所”へと向かったのだ。
「おや?」
彼は気配を消しながら男へと近づいた。
どこかへ連絡を取ろうとしたのか、携帯のボタンを押す。
が、サイレントにしてはいたが、男はその動作音にすぐに気づき、「君か」と声を水鏡へかける。
水鏡「なんだ、バレてたんスか」
物陰から姿を見せる水鏡。
ある小屋の中で、彼と大城太平は顔を合わせる。
水鏡「単刀直入に聞かせてくださいよ、あんたこんな所で何をしてんスか?」
大城「まさか何も知らないできたのか!?てっきり、わしは『気づいている奴』だとばかり…」
彼の一言で、水鏡の警戒心がぐんと上がる。
十字槍を構えると、脅すような口調で大城へ問うた。
水鏡「…説明しろよ。構えを解くかは、それで決める」
水鏡は十字槍を構えたまま、最初の余裕はどこへいったと言わんばかりの大城へと言った――。
<2>
大城「…と、いうわけじゃ」
水鏡「…マジかよ、予想以上に大きな事件じゃねーか」
彼の説明はこうだ。
この村は邪神ランマーを崇拝している。
過去の失踪事件は、その邪神へ生贄にされたという理由なわけだ。
彼、大城は村長として村の活動をしていくうちに、栄命島だけでなく漣島も邪神を崇拝している事に気づいてしまった。
彼自身にどうすることもできないこの問題、本土のハンターへ知らせようにも、元村長や長老会の面々が彼に睨みを利かせていたのだ。
下手に動けば、大城自身が消されかねない。
そう思い彼は島出身のハンターの双三を、魔物退治の名目で定期的に雇いつつ、裏では調査を頼んだ。
しかし大城の計画は、長老会にどこからかバレてしまい、中断せざるを得なくなったのだ。
既に双三は捕まり、
ギルドに辞表を書かせてハンターを辞めさせられたと聞いている。
大城が長老会に捕まったせいだった。
大城「…長老会もゆくゆくはわしに邪神への生贄を集めさせようとしていたようではあったが、この事件が切っ掛けでなりふり構わなくなっての」
水鏡「…この島の人間、全員が敵ってわけか?」
大城「いいや、そうではない。このことは長老会とわししか知らん。事が事でな、特にこの村のしがらみが薄い若いものには教えてはおらんのだ」
水鏡「つまり、その長老会のメンバーとあんたがこの事を知っているわけだな?その長老会のメンバーの氏名と家を教えろ」
大城「それは…無理じゃ」
水鏡「無理?なんでだよ」
大城「なぜなら長老会のメンバーは既に…って危ない!」
と、水鏡は大城のその声色の前よりはやく、背後の気配に気がついた。
それは漁師の筧利通だった。
出刃包丁を振り下ろしてきた彼の手首を、十字槍の握りの部分で突き、後頭部へかかと落としを決め気絶させる。
水鏡「悪いが、その程度の気配最初から読んで――」
得意ぶって笑う彼だったが、そのあとの言葉を言う前に頭上に衝撃が走る。
振り返った背後には、先ほどとは打って変わり、ドス黒い感情がこもった目つきをした男がそこにいた。
大城「…だから危ないと言ったじゃろう。筧よ、お前程度には手に負えんよ、ハンターはな。
ハンターカードという便利なものがある以上、こうして!こうして!!こうして!!!殺す勢い…いや、ブッ殺す勢いでなければ、傷すらつかんのじゃ!下手な不意打ちではなく、味方のフリをして殺す!これが一般人がハンターをブッ殺す唯一の方法じゃ!」
水鏡「…」
水鏡が何かを言おうとしたがそれは叶わず、彼の頭上へと何度も何度も金の置物で殴られ、やがて水鏡は血を流して意識を失った。
水鏡の反応、そして瞳孔を確認し意識が無いことを確信すると、大城は筧を起こす。
筧「そ、村長…」
大城「この阿呆め、筧よ…首尾はどうじゃ?」
筧「ああ、健と双三は今頃浜辺だぜ。で、健の彼女は既に船に入れてある。このハンターはどうする?トドメを刺して海に流すか?」
大城「いや、集落から離れているとはいえ、万が一という事がある。遺跡に向かっているハンターに気付かれたらまずい。そのまま船に乗せ、クーラーボックスにでも入れておけ。お前の漁用のクーラーボックスなら入るじゃろ」
筧「了解だぜ!邪神復活目前だな!」
大城「うむ、計画は順調じゃ。ハンター共が騒がしいが、くれぐれも気取られんようにな」
筧「わかってるっての、番場の家に行ったハンターもいるし、上手いことだませそうだぜ」
筧は水鏡を、用意していた巨大な袋へと包み持ち上げ、小屋から出ていく。
大城も一息つき、その場から出ようとしたその時だった。
大城「…?」
大城が何かに気付く。
そして足音が、近寄ってくる。
大城「これは…!くそっ、あのヤロウふざけおって!!!」
大城のその言葉を最後に、水鏡の携帯から声は聞こえなくなった――。
最終更新:2015年01月17日 15:28