毘沙門ZERO
第2話「影は歩む」
―某研究所内―
某研究所内のコンピュータールームで3人組の職員は
複数のホログラム画面を見ながら、タッチパネル式キーボードを世話しなく動かしていた。
複数のホログラム画面を見ながら、タッチパネル式キーボードを世話しなく動かしていた。
「何機か生命体のいる星に到着したな。」
「うんうん、ここまでは順調。しかし…」
「3機くらいは、途中で小惑星にぶつかったり
ブラックホールにのまれちまってお陀仏だな。」
「うんうん、ここまでは順調。しかし…」
「3機くらいは、途中で小惑星にぶつかったり
ブラックホールにのまれちまってお陀仏だな。」
ホログラムに何か惑星らしき映像が映し出される。
しかし、その映像は鮮明でなくぼやけていた。
しかし、その映像は鮮明でなくぼやけていた。
「ん…?『アトラ』の宇宙船が何か映し出してるぞ。」
「だいぶぼやけているな~どこの星だ?」
「分からんね。“青い星”ってことは確かだ。」
「だいぶぼやけているな~どこの星だ?」
「分からんね。“青い星”ってことは確かだ。」
リーダー格の職員は映し出された画像の乱れを修正すべく
カタカタとキーボードを素早く操作する。しかし、画像の乱れは修正できなかった。
カタカタとキーボードを素早く操作する。しかし、画像の乱れは修正できなかった。
「あ~ダメだ。粒子の影響で電波が乱れてやがるッ!」
「まァいいんじゃね?ここまで『寄生卵計画』は上手くいってる。」
「後は“モノ”が上手に適応できるかどうかだ。」
「まァいいんじゃね?ここまで『寄生卵計画』は上手くいってる。」
「後は“モノ”が上手に適応できるかどうかだ。」
―アムステラ神聖帝国軍本部―
毘沙門隊副官セイザンは、いつもとは違う軍服
即ち『正装』に身を包み膝をついていた。それもそのはず…
即ち『正装』に身を包み膝をついていた。それもそのはず…
「ン~ッ…『寄生卵計画』の具合はどうですか?」
エレガントな部屋に、エレガントな服…
そして、エレガントな佇まい『オスカー=V=ベインシュテルン』の前だったからである。
上流貴族階級出身で、帝国軍内でも強い発言権を持つ男である。
そして、エレガントな佇まい『オスカー=V=ベインシュテルン』の前だったからである。
上流貴族階級出身で、帝国軍内でも強い発言権を持つ男である。
「“ここまでは”なんとか順調…現時点で19機が到着に成功致しました。」
「フフ…新たな植民地と資源獲得の為に『強化人間』を
冒険(派遣)させるとは。…なかなか良いところに目を付けるじゃありませんか。」
冒険(派遣)させるとは。…なかなか良いところに目を付けるじゃありませんか。」
オスカーは、そう言って豪勢な壺を眺めながらワインに口を付ける。
「軍内部だけでなく民間からも、莫大な報酬を餌に開拓者達を集めようとしたんですが
“危険”だの“リスクが多い”だの、チャレンジスピリッツがないボンクラどもの批判が多くてね。
特にお馬鹿な“コンウェイ”ってヤツが、私への嫉妬交じりに抗議してくるもんだから困ったもんですよ。
全く『冒険』ってものは『ハイリスク』だからこそ『成果が上げられる』ってものじゃないですかねェ…?」
“危険”だの“リスクが多い”だの、チャレンジスピリッツがないボンクラどもの批判が多くてね。
特にお馬鹿な“コンウェイ”ってヤツが、私への嫉妬交じりに抗議してくるもんだから困ったもんですよ。
全く『冒険』ってものは『ハイリスク』だからこそ『成果が上げられる』ってものじゃないですかねェ…?」
オスカーは愚痴交じりに…そして、呆れ果てながらワインを飲みほした。
一息入れると、髭をなでながら言った。
一息入れると、髭をなでながら言った。
「そんな時に貴方が助言してきてくれて助かりましたよ。
しっかし…『強化人間』の研究をどこで知ったんですか?
私を含め、ゾープ局長もこのことは秘密裏に進めてきた計画なんですが。」
しっかし…『強化人間』の研究をどこで知ったんですか?
私を含め、ゾープ局長もこのことは秘密裏に進めてきた計画なんですが。」
グラスを豪勢なテーブルに置き、オスカーは壺をエレガントなナプキンで磨き始める。
セイザンは膝をついたまま、ただただ静かに言った。
セイザンは膝をついたまま、ただただ静かに言った。
「“裏”を知ることも軍人としての務めと申しましょうか…」
オスカーが何かを察し、ただただ静かに言った。
「なるほど…裏毘沙門隊の働きですか。」
「ほう…“お分かり”になられましたか。」
「“裏”を知ることも将軍の務めですからね。」
オスカーとセイザンは、お互いに微笑を浮かべていた。
暫しの時間の後、オスカーはセイザンにあることを尋ねた。
暫しの時間の後、オスカーはセイザンにあることを尋ねた。
「そういえば、ギャラン大佐はこのことをご存じなのですか?
貴方がバロネス教育機構への投資や、研究所に行っていることは…」
貴方がバロネス教育機構への投資や、研究所に行っていることは…」
「『寄生卵計画』のことは黙っております。
これは私と一部の裏毘沙門隊で秘密裏に行っております。」
これは私と一部の裏毘沙門隊で秘密裏に行っております。」
「いいんですか?」
「あの方は“愚直”過ぎる。
裏毘沙門隊の結成を提案した時も、当初は反対なされたほどだ。」
裏毘沙門隊の結成を提案した時も、当初は反対なされたほどだ。」
「ほう…なかなかに面白い裏話ですね。確かに『正統派(頑固)』なところがありますからね。」
「この計画は、資源の獲得と領地拡大の為の調査をするものですが
『犠牲』が出ることは否めません。そんなことをギャラン様がお許しになるはずがありません。」
『犠牲』が出ることは否めません。そんなことをギャラン様がお許しになるはずがありません。」
「ふふ…確かに。“非常識”は認めない、根っこは真面目なお人ですからね。
でも…そんな人が多いからダメなんですよねェ。」
でも…そんな人が多いからダメなんですよねェ。」
そう…アムステラ神聖帝国は強大過ぎる力が故に、その維持も難しかった。
取り分け領土拡大の為に侵略は進めるが、居住区域などには一切攻撃を仕掛けず
戦闘は最小限に抑えるクリーンな戦争を展開する国家性であった。
その為、資金の問題や操兵の素材となる鉱物などの資源の枯渇が問題となっていたからだ。
取り分け領土拡大の為に侵略は進めるが、居住区域などには一切攻撃を仕掛けず
戦闘は最小限に抑えるクリーンな戦争を展開する国家性であった。
その為、資金の問題や操兵の素材となる鉱物などの資源の枯渇が問題となっていたからだ。
「それもそうですがオスカー様…」
「改まってどうしたんですか…?」
セイザンは静かにオスカーを見据えていた。
「もうすぐ聖帝様の奥方が世継ぎをご出産なされるとのこと…
そうなれば色々と面倒なことも起きましょう。」
そうなれば色々と面倒なことも起きましょう。」
セイザンは一呼吸置き…
「お世継ぎの誕生は、アムステラにとって『吉』でもあり『凶』でもあります。
つまり、ユリウ…」
つまり、ユリウ…」
「それ以上はおやめなさい。」
オスカーは掌を向け静止した。
「誰が聞いているか分かりませんよ。」
オスカーは笑いながら静止したのだ。
「も、申し訳ございません…」
セイザンは頭を下げ、オスカーはやれやれといった顔で言った。
「それよりも見て下さいよ、この壺を綺麗でエレガントでしょう?
この間攻め滅ぼした星で手に入れたものなんですよ。」
この間攻め滅ぼした星で手に入れたものなんですよ。」
オスカーは惑星で略奪したと思われる壺を自慢げに眺めていた。
―藤宮流大道場―
夜間、地球時間の22:00時よりその稽古は行われていた。
朝、昼間といた門弟はおらず、黒い拳法着に身を包んだ拳士達がいた。
道場に飾られていた開祖ビシャモンの肖像画には布が被せられている。
これを藤宮流では『ビシャモン隠し』と呼ばれる作法であった。
朝、昼間といた門弟はおらず、黒い拳法着に身を包んだ拳士達がいた。
道場に飾られていた開祖ビシャモンの肖像画には布が被せられている。
これを藤宮流では『ビシャモン隠し』と呼ばれる作法であった。
そう、これは『藤宮流殺人拳』の稽古なのだ。
普段の藤宮流の稽古では決して行わない『影』の技法(学問)である。
稽古は、薬品・毒物の調合法、暗器・火薬の使用法、心理学などの講義と実技より入り
後に、ガラス(水晶)や鉄砂利を詰めた砂袋を打つ部位鍛錬『金龍打ち』
急所攻撃を良しのノールールに近い組手『無用法』を行い稽古の完了とする。
稽古は、薬品・毒物の調合法、暗器・火薬の使用法、心理学などの講義と実技より入り
後に、ガラス(水晶)や鉄砂利を詰めた砂袋を打つ部位鍛錬『金龍打ち』
急所攻撃を良しのノールールに近い組手『無用法』を行い稽古の完了とする。
元より開祖ビシャモン=S=フジミヤスキーが起こした藤宮流では
薬草学・薬の調合法なども伝わっていたが、それはあくまで『健康法』的な意味合いが強い。
これら殺人拳(裏技)の技法・学問は、流派を興した当初はなかったものである。
2代宗家エイシュン=ハイドラゴンが、アムステラ神聖帝国軍の士官学校に入った際に
諜報・謀略・防諜などの秘密戦に関連する講義と実践を学んだことが起源とされ、
それらの知識に藤宮流の技法を加えたのが、殺人拳の雛形となったとされる。
幾多の研究と実践により、14代目宗家ジョーカー=ハイドラゴンによって完成された。
薬草学・薬の調合法なども伝わっていたが、それはあくまで『健康法』的な意味合いが強い。
これら殺人拳(裏技)の技法・学問は、流派を興した当初はなかったものである。
2代宗家エイシュン=ハイドラゴンが、アムステラ神聖帝国軍の士官学校に入った際に
諜報・謀略・防諜などの秘密戦に関連する講義と実践を学んだことが起源とされ、
それらの知識に藤宮流の技法を加えたのが、殺人拳の雛形となったとされる。
幾多の研究と実践により、14代目宗家ジョーカー=ハイドラゴンによって完成された。
稽古後、黒い拳法着に身を包んだギャランは一人の少年を前に出していた。
「皆よ、紹介しよう。この者の名は“ジネン”。
センゴク星より参った。今日より裏毘沙門隊に入ることになった。」
センゴク星より参った。今日より裏毘沙門隊に入ることになった。」
「ジネンと申します。よろしくお願い申し上げます。」
少年は深々と礼をする。
センゴク星より来たばかりの為か、髪型はまだ稚児輪であった。
センゴク星より来たばかりの為か、髪型はまだ稚児輪であった。
「ジネンはタケダリンク様の…」
ギャランが言おうとした刹那であった。
「…気に入りませぬな。」
遮ったのは、すぐ前の“男”であった。歳は20代半ばといったところであろう。
黒髪で長髪、眼は狼のように鋭い。誰をも寄せ付けぬ独特の雰囲気を持っている。
名はゼパル=サブノック、下級貴族出身の裏毘沙門隊隊員である。
黒髪で長髪、眼は狼のように鋭い。誰をも寄せ付けぬ独特の雰囲気を持っている。
名はゼパル=サブノック、下級貴族出身の裏毘沙門隊隊員である。
「“ゼパル”…よさないかね。」
ゼパルの横にいた、細身で髭の紳士がゼパルを制する。名はピエトロ。
藤宮流古参の門下で武器術を得意としていた。
ピエトロは軍人ではないが、その武器術…否、暗器の扱いは“神技”ともいえ
隊員達に暗器の取り扱い、薬物の調合法などを伝授するのがその役目である。
藤宮流古参の門下で武器術を得意としていた。
ピエトロは軍人ではないが、その武器術…否、暗器の扱いは“神技”ともいえ
隊員達に暗器の取り扱い、薬物の調合法などを伝授するのがその役目である。
「『よそ者』が来てもらっては困るのですよ。」
「アムステラ(うち)とセンゴク星は長年同盟関係にあるのだよォ?
それも、ユリウス様と懇意にしているタケダリンク様の推薦で彼は来たんだ。」
それも、ユリウス様と懇意にしているタケダリンク様の推薦で彼は来たんだ。」
「センゴク星人…ふっ密偵か何かで来たんでしょうて。」
「あのねぇ…」
ピエトロは髭を撫で呆れながら戒めようとした時である。
「構いませぬ。」
ジネンは言った。
「私とて“遊び”で来たのではないのです。」
ジネンは物怖じせずに答えたのだ。
「ゼパル…様でしたか。何なら“見せて”頂けないでしょうか?
藤宮流殺人拳の技法…否、貴方様のお力を是非とも体験しとうござりまする。」
藤宮流殺人拳の技法…否、貴方様のお力を是非とも体験しとうござりまする。」
ジネンは馬鹿にしたかのような“笑顔”で言ったのだ。
無論、その場は凍り付く。この少年、来たばかりだから知らないのだ。
無論、その場は凍り付く。この少年、来たばかりだから知らないのだ。
「ギャラン様…この者との『無用法』を願いたくッ!!」
ゼパルの声が響き渡る。
「あーあ…ありゃ“壊されるな”。」
「『切り落とし』で切られるな。」
「…見ものよ。」
「“紅手”ゼパルに目を付けられたのが運の尽きか…哀れな。」
「『切り落とし』で切られるな。」
「…見ものよ。」
「“紅手”ゼパルに目を付けられたのが運の尽きか…哀れな。」
道場内にいた『裏』の門弟達は、哀れみとも同情とも言える声を上げる。
それもそのはず、このゼパルは“紅手”という渾名は、手を血で染め上げるまで
かなり激しい鍛錬と組手を行うことでついた。そのゼパルとの『無用法』は良くて
打撲か骨折、最悪再起不能も考えられた厳しいものであった。
それもそのはず、このゼパルは“紅手”という渾名は、手を血で染め上げるまで
かなり激しい鍛錬と組手を行うことでついた。そのゼパルとの『無用法』は良くて
打撲か骨折、最悪再起不能も考えられた厳しいものであった。
「許可しよう…」
ギャランは、ゼパルの申し出を認める。
「秘技…『切り落とし』で切り落としてくれよう。」
ゼパルは滾らせていた。
この田舎者(よそ者)に藤宮流殺人拳の恐ろしさを見せつけてやるのだと。
この田舎者(よそ者)に藤宮流殺人拳の恐ろしさを見せつけてやるのだと。
「ふふっ…」
それに対しジネンは涼しく嗤い(微笑み)…
「一ミリも止めなくていいのですか…?」
ピエトロは呆れながら、ギャランに尋ねたが…
「どれほどのものか見たいのだ…あの少年を。」
…と言った。
勝負の行方は……
「バ…カな…」
結果…
「なるほど…これが『切り落とし』なる技。」
ギャランは終了の合図をかけ…
「そこまで…!」
無様にも、血の海に沈んでいたのは…
「ぐ、ぐふ…」
“紅手”ゼパルであった。
「ありがとうございます。この技の容量は分かりました。
直ぐにでも、身に付けましょう。教えて頂きありがとうございます。」
直ぐにでも、身に付けましょう。教えて頂きありがとうございます。」
かすり傷一つとしていないジネンは、ゼパルに深々と礼をし感謝の言葉を述べた。
(天才じゃったか!!!)
ピエトロはそう思い、他の門弟…即ち裏毘沙門隊隊員の面々は
唯々己の才の無さを痛感させられていた。
唯々己の才の無さを痛感させられていた。