とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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例えばこんな1月31日(記念日) 2



同日 とある花屋にて―――

初春の案内で、3人は第7学区のとある花屋に来ていた。
西洋の通りにいかにもありそうなモダンな外観で、赤を基調としたシックな色使いに好感が持てる。
入り口の上辺りに落ち着いた山吹色で「Flore claire(フロール・クレール)」と書かれている。 恐らく、それがこの店の名前なのだろう。
外には大きな鉢植えが置いてあり、入り口の横にはカラーウッディを利用しその日お勧めであろう花の名前と値段が書かれていた。
外から少し見えるだけでも店内に色々な種類の花があるのが見える。
案内してくれた初春と佐天も、店の雰囲気と取り扱っている花の種類の豊富さに思わず見とれているようだった。
「こんなに種類あるのか… ま、とりあえずは片っ端から見てくかな。」
そう呟き、早速上条は店内へと入って行った。 上条の呟きを聞いた初春がふとある事を思い出した。
「花って確か、それぞれに花言葉があるからそこも気にした方が良いですよね?」
「かもしれないねー。 あ、そうだ! 今回の趣旨に合いそうな花言葉を持ってる花、調べられないかな?」
「ちょっと待って下さいねー。 花言葉、花言葉… っと。」
初春は早速調べ出すが、一言で「花言葉」と言っても意外と目的・用途別に種類は多い。
「今回の『感謝』とかを意味するのは、カンパニウラとかダリア、モルセラとかですかねー。 でも今挙げた花って、花束とかよりも一輪の方が合うかもです。
 でも、花を一輪だけプレゼントというのも微妙ですよね。 きっと、店員さんなら簡単に作ってくれるとは思うんですけど、他の花と混ぜる感じになるんでしょうか…」
と言って、初春は画面に表示された花を指しつつ悩む。
花言葉も意識するとなると、意外と難しいな。 と改めて実感したが、佐天は上条が言った先程のセリフを思い出した。
「ねえ初春… そういえばさっき、上条さんって『美琴が好きだ』って思いっきり言ってたよね? どうせなら、そういう方向の花言葉から選ぶのも良いんじゃない?」
「…ですかねぇ。 それじゃ、そういう方向の花言葉は? っと…」
話の意図を察したのか、初春は早速「そういう方向の意味」の花言葉を持つ花を探し直す。 その口元が何やらニヤけているのは気のせいだろうか。
「見つけました! これとかこれ、こんな感じのお花はどうです?」
「どれどれー?」
佐天が画面を覗き込むと、そこにはいくつかの花が載っていた。 初春が指差した花を見ると、花の写真と共にそれぞれの花言葉も載っていた。
「良いね、これ! この辺りなら、どれを選んだとしても後で面白いかも…」
「ですです。 後で御坂さんをファミレスに呼んで、花を貰った際の話を聞けると楽しいかも! イヤ、絶対に聞き出しましょう!!」
店先でニヤニヤする様子はハタから見ると結構怪しいのだが、2人は気にしていない。
そんな事よりも、「さて、どうやって呼び出し、聞き出そう?」とその先の事まで考え出している位である。
「このお店のHP上から確認すると、どれも『在庫有り』にはなってたんですけど… 一応、店員さんに確認してみますね。」
「了解! それじゃ私は上条さんを誘導してみるね。」
お互いに頷くと、初春は店員のもとへ。 佐天は上条のもとへとそれぞれ向かうのだった。

(さて、っと… 上条さんはどこへ…?)
広い店内とは言え、色々な花が飾られていて場所によっては反対側の通路も見えない。
どこだろう? としばらく探した所で、通路の途中で何かを見つめて佇む上条を見つけた。
「あ、居た居たー。 って、上条さん立ち止まってどうされたんです?」
近くに寄ると、一つの花に注目しているのが分かった。 その周りを見ると、同じ花でも『紫』、『青』、『ピンク』、『白』、『黄色』と種類が豊富なようだ。
「いや。 パーっと店内を見てきたんだけどさ、急にこれが目に留まったんだ。 んで、よくよく見てみると意外と綺麗だなと思ってな。」
言われてみると、確かに綺麗だった。 ちょこん、と白い小さなものが目に留まる。 じっくり見つめてみるとそれが花であるというのが分かった。
「自分の感覚だと綺麗だな、とは思えるんだけど… こういうのって、贈られるとどうかな?」
「そんなに心配しなくて大丈夫です! 綺麗ですし、絶対喜んでくれると思いますよ!!」
(うーん、これってさっき見た気がするような… この花って何だったっけ?)
上手く思い出せずにモヤモヤとしたが、自信無さげに確認してきた上条に対して佐天は胸を張って答えた。
「これなら、この花をメインにして綺麗な花束にしてもらえるかも。 早速店員さん探してきますね。」
手の空いてそうな店員はいないだろうか?と辺りを見回すと、初春と女性の店員が揃ってこちらにやってくる所だった。
やって来た初春に近寄り、小声でそっと耳打ちする。
(上条さん、そこにある花が気に入ったみたい。 で、それに決めるかもって。 でも、そこにある花って、さっき見かけなかったっけ? 気のせいかな。)
佐天がそれとなく示した花を見て、驚く。 どんな花を選ぶのか、と少し不安になっていたがどうやら杞憂だったようだ。
(わー、鮮やかだし綺麗で素敵じゃないですか! 名前は……… うーん。 確かに、さっき見かけたような…)
初春も気になるのか、花の名前で再度検索をし始める。
ヒソヒソと小声で話し合う佐天と初春だったが、店員は初春からそれとなく話を聞かされていたらしく上条に声を掛けていた。
「いらっしゃいませー。 本日はどのような花をお探しですか?」
「あっ、ども。 実は、色々と見てたらこの花が何となく気になって… 質問なんですけど、この花で花束とかって作ってもらえますか?」
と言って上条が指差した花を店員が確認する。 そういった注文には慣れているのか、すぐに答えが返って来た。
「『その花だけで』っていうのもできますけど、その花なら他のを少し付け足せばもっと見栄えの良いのができますよ。 サイズはどうされますか?」
サイズまでは考えて無かった。 どれくらいが良いんだろう?と考え込んでしまう。
しかし客が悩むのにも慣れているのか、店員がさり気無く話を導いてくれた。
「『花束にしたい』って事は、どなたかにプレゼントされるんですよね? そうすると、サイズは手渡せる位で良いかもしれませんね。」
「えっ? ええ、まあ…」
この店員さんなら、目的をちゃんと話した方がより良くしてくれそうだ。 だが、「彼女に贈ろうかと」と伝えようとして恥ずかしくなってしまう自分が居る。
土御門や青ピ、佐天や初春などの知り合いに言うのは慣れてきた上条だったが、見知らぬ人に言うのはまだ戸惑いがあった。
どうしよう?と悩んでいると、少し離れた所で歓声が上がる。 歓声の主は佐天と初春であった。

(か、上条さん素敵です! 直感でこの花を選ぶなんて!!)
(だよねだよね! さっき初春が調べていくつか見せてくれた中でも、まさか「これ」を選ぶなんてね。)
2人を見ると、小声で相談しているようだったが何だか盛り上がっていた。 上条と店員の視線に気が付いたのか、こちらに慌てて近付いてくる。
「上条さん。 ダメですよ、恥ずかしがらずに目的をちゃんと伝えないと。」
こちらの話はちゃんと聞いていたらしい。 いきなり初春にダメ出しをされてしまう。
「えっと… 実は、彼女に自分の気持ちを伝えるのにプレゼントしたくて。」
感謝の気持ち、とまではまだ言えなかった。 だが、上条がそう伝えると、
「ふふっ。 その彼女さん、羨ましいですね。」
と、店員は微笑みながら言う。 続けて、「実はこのお花…」とその花が持つ意味を教えてくれ、「この花で良いか?」と確認された。
花が持つその意味に一瞬固まるが、既にこの花が気に入ってしまっている。 今更他を探しても見つかる気がしなかった。
(ま、美琴といえど全部の花言葉を知ってるとは限らないからな。 …見た感じで喜んでくれるだろ。)
自分にそう言い聞かせ、選んだ花をメインにして花束を作ってもらう事にした。
GOサインが出ると、店員は必要になるであろう量と他に添える花なども選び奥のレジへと移動する。
てきぱきと花束を作る作業をしつつ、店員は再び上条に質問してきた。
「花束でしたら、ラッピングなどいかがでしょう? ラッピングは通常タイプのアメリカンと、少し上品な感じのヨーロピアンの2種類ございます。
 通常タイプのアメリカンだと無料で。 ヨーロピアンですと、すみませんがお花代の他にプラス500円となっております。 どちらになさいますか?」
どの程度を以って通常と言うのだろう?と疑問に思ったが、通常よりは上品な方が良いかもしれない。
「と、とりあえずヨーロピアンでお願いします。」
「それと、プレゼントでしたらメッセージカードなども一緒にいかがでしょう? こちらもプラス500円となっておりますが…」
「一応、それもお願いします。」
「メッセージカードを書くのであれば、こちらでどうぞ。 少しですけど、色々なペンも有りますのでお使い下さい。」
空けてくれたレジの端を使い、早速カードにメッセージを書き込んでみる。
書き始めこそ少し迷ったものの、自分は気持ちを伝えられると信じて簡単なメッセージで済ませる事にした。
ありがとうございました、とメッセージカードを渡すと店員が受け取り花束に添えてくれる。
流石、と言うべきだろう。 上条がカードに書き込み終わった時点で既に花束は完成している。
出来栄えは?というと、頼んだ自身でさえも少し驚く程の良い出来であった。
この花束を崩さずに持って帰るには?と考え、気になった事を聞いてみる事にする。
「あっ、そうだ! 花束を直接持って帰るのが恥ずかしいんで今日届けてもらうように配送とかってお願い出来ませんか? 家は第7学区のとある学生寮なんですけど。」
「配送ですか… うーん。 配送だと、前日の14時までにご注文頂かないとお届け出来ないんですよー。 あっ、そうだ。 少々お待ち下さい。」
一旦断られはしたものの、何かを思い出したらしい店員が他の店員を探してレジを離れた。
配送が断られた、という事は自分で持って帰らないといけない。
とりあえず持って帰る途中で誰かに出会わない事を祈りつつ、覚悟を決める。 だが、上条が覚悟を決めた辺りで先程の店員が戻ってきた。
「確認しました所、これから第22学区の方にお花を配送しに行く用事がありますね。 その際にご一緒でよければお届けできますよ。」
と嬉しい提案をしてきた。 話を更に聞くと、それは夕方頃になるらしい。 時間帯的にも丁度良いかもしれない。
「届けてもらえるなら、それでお願いします。 送料はいくらになります?」
「お代は結構ですよ。 『ついで』で行ける範囲でもありますから。 それでは、配送先のご住所をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
渡された紙に、配送先として自分の学生寮の住所を記入する。
「それじゃあ、配送宜しくお願いします。」
「ありがとうございました。 それと、有料のラッピングとメッセージカードをセットでお選び頂いたので『お花の情報カード』もつけておきますね。」
「何から何まですみません、ありがとうございます。」
話がまとまった所で会計を済ませる。 会計が終わった所で改めて店員に礼を伝え、上条達は店を出る事にした。 

「せっかく案内して来てもらったのに、最後は自分で決めちまってごめんな。」
店から出てしばらく歩いた所で上条が謝ってきた。
「問題ないですよー。 やっぱり、『上条さん自身が選ぶ』というのが大事だと思います! それに、案内だけでもお役に立てて良かったですし。」
大丈夫、気にしないで下さい。 という初春と、その横で佐天が頷いている。
「それじゃあ私達はこっちの道なんで、この辺りで!」
と言って佐天と初春は上条と別れた。 段々と遠くなる上条を見送り、姿が見えなくなった辺りで横に居る初春が話しかけてきた。
「久しぶりに上条さんの本領発揮を見ましたけど、やっぱり凄いですねー。」
「だね。 まさか、パッと見であの花を選ぶとは思わなかったよ。 もし、あんな事を自分がされたら、雰囲気によってはイチコロかも…」
そこまで言った所で佐天が溜め息をついた。
「あーぁ… 私も御坂さんみたいに素敵な彼氏見つけられるかなー?」
「見つけられますよ、きっと! お互いに頑張りましょう!!」
「そうだよね! 頑張るかー!!」
完全下校時刻も近くなった道の片隅で、2人の少女は何やら決意を固めるのであった。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆


同日夜 とある学生寮―――

佐天と初春の2人と別れた後、上条はまっすぐ学生寮へと帰って来ていた。
メールで「夕飯作って待ってる」と言っていたのを思い出したからだ。 余り待たせるのも悪い気がする。
玄関のカギを開けドアを開けて中に入ると、制服にエプロン姿の美琴が玄関で出迎えてくれた。
「おかえりー。 思ってたより遅くなくて安心したわ。」
「夕飯作って待ってる、って話だったからな。 出来るだけ待たせたくなかったんだよ。」
そう言いつつ中へ入ると、一段と良い香りが漂ってきた。 良い香り自体は廊下を歩いて来た時からしていたが、どうやら自分の家だったようだ。
台所を見ると鍋が見えた。 鍋と香りから判断すると…
「おぉ! 今日はビーフシチューか? 珍しいな、平日に作ってくれるなんて。」
「今日は寒かったからねー。 久しぶりに腕によりをかけて作ったわよー。」
と美琴は可愛らしいガッツポーズをしながら答えてきた。
「もう出来てるから、そろそろ夕飯にしない? 洗面所で手洗いとうがいしてきてよね。」
「おーう、分かった。 ちょっと待ってろ。」
返事をしたあと一度リビングへと移動し鞄を置く。 そして洗面所へと向かう。
上条は洗面所で手洗いとうがいをしながら、どうやって話を切り出そうかシュミレーションをしてみた。
改めてシュミレーションをしてみると意外と難しそうだ。 柄にも無い事を言う(であろう)自分に恥ずかしくもなる。
(今更ながら凄く恥ずかしいぞ、これは。 だが、もう花束も頼んじまったしなぁ…。)
仕方無い! 決めたからにはやってやる!! と決意し、リビングへと戻った。
リビングへと戻ると、既にビーフシチューが盛り付けされていた。 他にサラダもある。 後は上条が席に着いて食べるだけだ。
美琴の正面に座ると、
「当麻を待ちくたびれてお腹ペコペコよー。」
と頬を軽く膨らませて抗議してきた。
「悪い。 ちょっと用事があってな。 それじゃ食べようか。」
2人で「いただきます。」と声を合わせ挨拶し、食べ始める。

上条はどう切り出そうか未だに迷っていた。 話をそれらしい方向へと持っていこうかと考えたが、上手いきっかけも思いつかない。
花が届けば、とも思ったがまだインターホンが鳴る気配は無かった。
あれこれと考えている内に、そわそわとしている様子が美琴にも伝わってしまったらしい。
「どうしたの? さっきから落ち着かないみたいだけど…」
「えっ!? そうか? か、上条さんは落ち着いてますの事よー?」
「思いっきりウソでしょ、それ。 …またどっか外へ行くとか、何か隠し事とかしてるんじゃないでしょうね?」
信じられない、とばかりに疑いの目で見てきた。 やはり、美琴には敵わないかもしれない。
(花束はまだ届いてないが、もう言うしかないか。)
そう決意して、話を切り出す事にした。
「…あー。 実は美琴に話さないといけない事があってだな…」
「何よ? まさか本当にまた外に行くとか言うんじゃないでしょうね?」
美琴は自分で言った事を疑いから確信に変えようとしていた。 歯切れの悪い上条の話し方では無理も無いのかもしれない。
「いや、それは違うんだけどな…」
「じゃ、何よ?」
先程までの空気は一転、険悪なムードになりかける。 が、そこでインターホンが鳴った。
助かった、と思い急いで玄関へと向かう。 時間的に、頼んでおいた花だろうと予想し印鑑も用意した。
「どちら様ですか?」
「フロール・クレールです。 お届けものに参りました。」
玄関のロックを外しドアを開ける。 と、そこには先程店で対応してくれた店員が立っていた。
「それではこちらに受け取りのサイン、または印鑑をお願いします。」
言われるままに、指差された場所に印鑑を押した。
「それではこちらが控えになります。 ありがとうございました。 それでは頑張って下さいね!」
花束が入ったダンボール箱を上条に渡すと、店員は去って行った。 何か最後に一言、余計な事を言われた気がするが気にしない事にした。
玄関先でのやり取りが中にも聞こえていたのだろう。 ダンボール箱を持ってリビングへと戻ると、美琴がジトっとした目でこちらを見ている。
その目はいかにも「何を頑張るのよ?」と言いたげだ。
だが、それを無視する形で予定していた事を実行に移す。 品物(プレゼント)は届いたのだ。 あとは言うだけである。
覚悟を決め、美琴に届いた品物を開けるように促した。
「とりあえず、そんな目で見るな美琴。 お前に何か届いたみたいだぞ?」
わざとらしい振りに、ダンボール箱を渡された美琴は相変わらず何か言いたげだった。
「何か、も何も贈り主がアンタになってるじゃない。」
「いいから、開けてみろって。」

上条に促され、とりあえずダンボールを開けてみる事にした。
ダンボールを開けると… 中には花束が入っている。
「綺麗…」
ピンクを基調としたその花束に、美琴は思わず見とれてしまう。
花束の色使いや花自体の綺麗さに見とれていたが、しばらくしてカードが2枚挟まっている事に気が付いた。
1枚目のカードを手に取る。 そのカードは『お花の情報カード』とタイトル付けされていた。
中を見ると、そこには「お花の楽しみ方」として延命方法などの色々な情報がプリントされている。
そして最後に、花の名前と花言葉が手書きで記入されていた。 恐らく、客が買った花毎に店員が書き分けるのだろう。
そこにはこう書かれている。

 花の名前(色) : スターチス(ピンク)
 花言葉 : 永遠に変わらない心

一瞬、それを見た美琴の動きが止まりそうになる。 だが、2枚目のカードが気になり何とかそれを手に取る。
2枚目のカード、それはグリーティングカードであった。
カードには短い文章ではあるが、見慣れた上条の筆跡でこう書かれていた。

―――いつも迷惑ばかりかけている美琴へ。 日頃の感謝と自分の想いを込めて。 From 当麻

2枚目のカードのメッセージを読んだであろう美琴の動きが止まった。
恐らく数分程経ったであろうか。 未だに美琴は動かないでいる。
きっと言うなら今だ!と決意し、上条は美琴を後ろから抱きしめた。 すると、美琴からこちらに向き直して抱きついてくる。
……美琴は泣いていた。
その姿に焦り、上条は咄嗟に謝ってしまう。
「ごめん、美琴。 やっぱり、俺がこんな柄にも無い事すると変だよな。 でも、外へ行くとかそんな事は無いから。」
上条の確認に、美琴は無言で首を左右に振り「違う」と答える。
「何て言ったら言いか上手くまとめられないけど… 入院とか課題とか、いつも色んな事で迷惑ばかりかけてるからさ。」
そこまで言った上条は、これまでの日頃の感謝の気持ちなどを出来る限りの言葉で伝えた。
きっとそれは、何を言っているのか上手くまとまっておらず意味不明な部分もあったかもしれない。
でもきっと自分の気持ちは伝わってくれただろう。
そう思えた所で
「いままで色々と迷惑かけてごめんな。 そして、俺を選んでくれてありがとう。 俺も美琴の事、愛してるよ。」
と改めて美琴に想いを伝えた。
先程、感謝の気持ちを伝えた辺りでようやく落ち着き始めていた美琴だったが、再び泣き出してしまう。
「うぇぇ… わだじもとうmのことぃあいじtるって…」
何か言ってくれたようだったが、泣きすぎて解読不能にまでなっている。
上条は優しく抱きしめ直し、泣き止むまで美琴を宥めていた。


小一時間程経ったであろうか、やっと美琴は落ち着きを取り戻した。
すると、ポツポツと美琴も自分の気持ちを語り出す。
「ずっと私だけ空回りしてたのかと思ってた。 いつも当麻は『好きだぞー』ってテンプレみたいな返事しかしてくれないし。
 当麻は私に彼女になるのをOKしてくれたけど、それは私を気遣ってくれたからなのかな?って。
 ひょっとしたら私の気持ちだけ一方通行で… でも、他に好きな人が居ても良いから当麻と一緒に居たいな、って。
 でもさっき、当麻の気持ちを言葉にしてくれて、形にもしてくれて… 『嬉しい』って思ったら涙が止まらなくなっちゃって。」
それは、美琴が如何に上条を好きだという事、そして不安だったかという事でもあった。
聞いた上条は嬉しさを感じると共に、反省もした。 自分の考えでここまで不安にさせていたのか、と。
「美琴は一度決めたら突っ走りかねないから、せめて美琴が高校に入るまでは『愛してる』とかは言うのは待とうと思ってたんだ。
 けど、俺の考えが逆に美琴をそんなに不安にさせてたなんて思わなかった。 それが今の内に分かっただけでも、許してくれないか?」
「もう良いの… あなたの気持ちはちゃんと伝わったから。」
そこまで言うと、自分も気持ちを伝えた事で完全に落ち着いたのだろう。
美琴は姿勢を正して上条の方を向き
「私はきっと、当麻のお嫁さん(パートナー)になる為だけに生まれて来たと思う。
 もし他に選択肢があったとしてもそんな選択肢はいらない。 私も、当麻の事を愛してます。」
と言って、ぺこりと頭を下げて来た。 そんな姿が可愛くて、美琴を強く抱き寄せる。
上条は目をみながら
「俺こそ、今一つ頼りにならない奴かもしれないけど、改めてよろしくな。」
そう言って美琴の頬を両手で包み、唇を重ねる。

まだまだ寒い1月の学園都市。 だが、とある学生寮の一室にはそんな寒さに決して負けない暖かいカップルの姿があった。

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