とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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歌を歌ってみない? 2 ―その2―



相変わらずの美琴至上主義。度が過ぎる事も多いが、その考えの一貫性のみで見ればあっ晴れだ。なのだが、行動でそれを完膚なきまでに砕いてしまっている。

そこから料理が完成するまでは他愛のない世間話だ。常盤台の寮監の恐ろしさや互いの趣味など、話題になりそうな事を話していた。

美琴が完成した料理を運んでから一段と盛り上がり普段よりも遥かに楽しい食事となった。その会話の中、白井はおろかレベル5の美琴すら心から恐怖する寮監の事は大いに気になったが。聞こうとしたら二人の表情が不吉に歪んだので聞くのは躊躇われた。

「と、そろそろ時間ですので帰りますわ」
「あ、もうそんな時間なんだ」
「送って行こうか?」
「いえ、もう時間もありませんし、空間移動で帰れば安全ですの。むしろ、貴方に送ってもらう方がトラブルに巻き込まれそうですの」
「うっ、否定できない…」
「ではお姉さま。私が帰ると言えど、学生としての節度を守ってくださいまし。くれぐれも、過ちは犯されませぬようにしてくださいまし」
「あ、過ち…」

過ちと聞いてあれやこれやと妄想してどっかに旅立った美琴にため息を吐き、黒子は上条に詰め寄る。

「上条さんの事ですから大丈夫だと思いますが、くれぐれもお願いしますわよ!もしもお姉さまを穢したら…、わかってますわね…?」
「わかってるって!そんなことしないって!」

ちらりと鉄矢を見せて上条を脅迫する。

「では、私はこれで失礼しますの。作詞の方、頑張ってくださいまし」
「ああ、ありがとな。気をつけて帰れよ」

靴を履いてドアは開けず黒子は直接空間移動で外にでる。何気ない黒子の行動だが上条的には大いに助かった。もし黒子が上条の部屋から出て行くところを土御門にでも見られたらたまったもんじゃなかった。

「お~い、美琴~。そろそろ戻ってこ~い」
「にゃ!?」
「お、戻ってきたな。お前、先に風呂入っちまえよ」
「ふにゃ!?」
「そうした方がゆっくり歌詞の事考えられんだろ」
「…やっぱり、そういう意味よね…」
「ん?他にどういう意味があるんだ?」
「アンタってそういうとこは相変わらず鈍感よね…」
「そういうとこって?」
「いいわよ、気にしなくて」

黒子が持ってきた着替えの中から必要な物を取り出し美琴は脱衣所に入る。話がいまいち掴めなかった上条は閉まった脱衣所のドアを見ながら呟いた。

「なんだ?アイツ…」

結局、上条が風呂から上がった後も作詞の事は考えなかった。歌詞の事を考えようにもそれを乗せる曲がなかったのでどうしようもなかった。ゲームをしたりテレビを見たりと、二人は寝るまで楽しそうにしていた。

「ねえ、当麻」
「ん~?」

名前を呼ばれた当麻は枕と毛布を持って浴室に引っ込む途中だった。

「浴槽で寝るの、いい加減やめない?体痛くならないの?」
「そりゃあ最初は痛くなったけど、最近は馴れて快眠だぞ」
「でもさ、同じベッドでとは言わないけどさ、こっちの床で寝たら?」
「いやあ、さすがに女の子と同じ場所で寝るっていうのは紳士上条さんが許さないっていうか、何といいますか」

枕を持っていない方の手で頭をかきながら言う当麻に近付き、美琴は抱きついてあの必殺の上目遣いをした。

「私が頼んでも…?」
「うっ…美琴さんが、そういうなら…」
「じゃこっちで寝てね」
「はい…」
(もつかなぁ、俺の理性…)

せっかく黒子が持ってきてくれたパジャマも結局は使われなかった。着るものがあるのに美琴はわざわざ当麻のワイシャツを着ていた。

上はワイシャツ一枚。下は短パンを履いているらしいが、ワイシャツの裾が彼女には長めでぱっと見何も履いていないように見え、瑞々しい足がほぼ根元から丸見えだった。これは眼福もとい目の毒だった。上条さんの鉄壁の理性に早くもひびが入っております。

(当麻が寝たら布団に潜り込んでやる…!)

そんな上条の理性なんかお構いなしの大胆すぎる美琴の狙い。せっかく泊ったんだから、愛しの彼氏を抱き枕にして寝たかった。だって、最高の寝心地を味わえそうじゃない。

「電気消すけど、いいか?」
「うん、いいよ~」

かちっという音ともに電気が消え部屋が真っ暗になる。ほのかには見えるが、相手の表情までは見えない。これでは相手が寝たかどうかなんて判断できなかった。

(う~ん。どうしようかな…)

十分も待っていれば寝るだろう。そう見切りをつけ、まるで戦いに赴くかのような緊張感を持ちながら美琴は十分という時間と勝負していた。

(な、なんでせう!?この緊張感は!?)

電気を消した途端に異様な緊張感に包まれ睡魔が全く訪れてくれない。どんなに目をつぶっても睡魔は訪れてくれない。それどころかどんどん目が冴えてくる。寝返りを打ち体を丸くした浴室でいつも寝ていた体勢でも眠気は全く来ない。

何度か寝返りを打っている間に美琴がベッドから立ち上がった気配がして、その後すぐに水道から水が流れる音がした。

(喉が渇いて目が覚めたのか)

そう思いながら反対に寝返りを打つ上条にその事態は突然来た。美琴が同じ布団の中に潜り込んできたのだ。しかも正面から抱きついてくる。

(みみみみ美琴さん!?寝ぼけておられるのですか!?)
(んふふ~、当麻~。当麻の匂い~。にゃふ~)

混乱の絶頂の当麻とは正反対に幸せの睡眠の絶頂の美琴はそのまますぐ睡魔が訪れ本格的に眠り始めた。

安らかな寝息が聞こえてきて起こすに起こせなくなり、上条の中では理性と本能が激しいバトルを繰り広げられていた。

(だあぁぁっ!落ち着け上条当麻!!男は皆が皆オオカミではないのです事よ!!上条さんがそれを証明してやろうじゃないのですか!!)

口移しとかしていた人もさすがに中学生相手では超えてはいけない一線があるらしい。

結果から言うと上条は男の全てがオオカミではない事を証明した。

補習も含めた学校での疲労と、突然過ぎる内容の精神的疲労で理性に限界が訪れ、睡魔という本能が勝利を収めていた。

________________________________________

その次の日の朝、体に染みついた習慣か、美琴は7時前には目を覚ましていた。

(あ~…、当麻の顔がこんな近くに…)

ボーっとした頭で彼氏の顔を除きながら幾ばくか残っている睡魔にまどろんでいる。

(当麻の腕…暖かい…)

自分は上を向いている。上条の腕は自分の背中の下に左腕、右腕がお腹の上に合った。片方の腕を潰している形になっているが、美琴にここからどく気力はなかった。だって、ここは気持ちよすぎる。
寝返りをうち当麻の胸板に頭を押しつける形になり、上にあった右腕を背中に回させ、下にあった左腕を自分の前に持ってきてその腕を握っていた。

「う、う~ん…」
(ふにゃ!?)

僅かに体の位置を直した当麻の腕が体に触れる。

「にゃ…!?寝てるよ…ね!?…!?にゃぅ!?」

まるで起きているかのように動いている当麻の右腕。それが美琴の体を触っていく。ついには掴んでいた左腕も動き出す。

「ふぁ…!?に、にゃ…っ…にゃぁ!?」

悲鳴と言うにはあまりに甘く力のない声が途切れながら部屋に響く。

「と、とう、まぁ…!アンタ、ふぁ!?起きて、るでしょ!…にゃふぅ!?」

もう起きているとしか思えない動きだ。しかし当麻の目は開いておらず、また表情も美琴が最初見たときと変わっていなかった。

「にゃ…っ!?…ふぇ…!?」

5分。言葉にしても、普段から見ても短い時間だ。しかし、時と場合によっては永遠のように長く感じるんだと、美琴は心の奥底から思い、体の芯までそれを体感させられた。

「にゃぁ………にゃふぅ……」

________________________________________

カーテンの隙間から入る光とキッチンの方から聞こえる音で上条は目を覚ました。

「ん…?」

自分の両手にとても温かい感触が残っている。美琴を抱きしめた時とも違う、今まで感じた事のない温かさだ。

(…そういや、なんかいい夢を見てた気がする…。…美琴と一緒に寝てたからかな…)

半分閉じたままの目を擦りながら身を起こすと、いつものエプロンを身に付けた美琴がキッチンに立っていた。朝食の用意をしてくれているらしい。

しばらくぼ~っとしていると美琴がこちらに振り向いた。心なしか顔は真っ赤で恥ずかしそうにしている。

「…あ、起きてた。…もうすぐで出来るから顔でも洗ってきなさい」
「へ~い…」
(やっぱり寝てたんだよね…。そ、そうよっ。当麻があんな事してくるわけないじゃないっ)

あんな事。今朝の出来事を思い出し、美琴の顔が燃えるように耳まで真っ赤に染まる。その横を寝ぼけた表情の上条が行くが、寝起きの頭では気付けなかった。

ぼさぼさの頭をかきあくびをしながら返し、まだ眠気から覚めない体を立たせ洗面台に向かう。行きがてら時計を見るともう8時半だった。ずいぶん寝たなぁ。

適当に顔を洗って適当に眠気を覚まし、まだはっきりしない頭で歯を磨く。どうにも朝は弱かった。低血圧ではないのだが、とにかく苦手だった。なんかこう、布団から出るのがもったいないというか、もっと惰眠を貪りたいというか。

「当麻~?」
「いふぁいく~」

きちんと口の中を濯いで、ついでにもう一回顔を洗う。これで少しは頭がはっきりしてきた。戻ると、食事を並び終え後は食べるだけという状態だった。

「遅い!」
「朝は弱いんです…」
「私だって強くはないわよ(あんな事されたし…)」
「というか貴女のせいで中々眠れなかったんです…」
「(こっちはアンタのせいで散々な寝起きよっ)ふえ?私なんかした?」
「覚えていないんならいいです…」
「(こっちのセリフ!!)まぁいいわ。早く食べましょ」
『いただきます』

二人揃って挨拶をしてから朝食に端をつける。卵焼きに焼き魚に海苔に味噌汁と極々一般的なものだったが、誰かに作ってもらったり一緒に食べると普段の何倍もおいしく感じる。

「私たちが歌う曲ってどんな感じなのかしらねぇ」
「想像も出来ねぇなぁ…」
「…朝はホントテンション低いのね」
「そうかぁ…?」
「いつもの10倍は低い」
「まだ眠いんだから仕方ない…」
「私の作ったご飯食ってテンションあげなさい!」
「お~…」

食べているうちに眠気も覚めていき、朝から二回もお代わりをして空腹が満たした事でテンションも徐々に普段の物に戻っていく。

「ふぅ~。食った食ったぁ!ごちそうさん!」
「お粗末さまでした」
「美琴は、朝は紅茶だっけ?」
「ん~、何でもいいわ。あるなら紅茶がいいかな」
「へいへい~」

作るのは美琴だが片付けるのは上条というのがいつの間にか出来あがっていた。食後の飲み物を用意するのも上条となっていた。

自分のコーヒーと紅茶のカップを用意する。美琴から教わったのだが、紅茶は入れる前にカップを温め紅茶の茶葉は多めに使って淹れた方が美味しいらしい。自分で飲むときはもったいないのでやっていないのだが、彼女に出すときはそうやっていた。

「ミルクと砂糖は~?」
「今日はミルクだけでいいや~」
「へ~い」

紅茶を待つ間美琴はマンガを適当に引っ張ってきて呼んでいた。昨日から着替えていない、ワイシャツ一枚の状態でベットに寝転がっていた。

「出来たぞ~。って、お前…。腹、見えてるぞ…」
「ふにゃ!?」
「寝転がった時に服が捲れたんだろ。気をつけろよな…」
「………あんな事したくせに……………バカ…スケベ……ふにゅぅ……」
「ん?なんか言ったか?」
「にゃ、にゃんでもない!」
「猫化してるぞ?」
「気にするにゃ!!」
「気になるって言ったら?」
「家電の命は預かっているにゃ」
「ごめんなさい。申し訳ありませんでした。ですから家電を解放してください」
「よろしい。ところでさ、音楽ファイルが届くのって何時くらいだっけ?」
「詳しい時間は言われなかったな。昼頃って言ってたぞ」

今は9時を回ったくらいだ。あと3時間前後で届く。かもしれない。

「それまで暇だなぁ~」
「あ、ならさゲームしよ」
「お~。いいぞ~。でも上条さん家、新しいのはあまりないぞ?」

新しいのは高くて買いたくても買えずにいた。Wi○とかがとくに欲しい今日この頃。あまりいい評判は聞かないけどP○3辺りも気になる。

「今日こそアンタを倒す!!」

そういう美琴が取り出したるはスマ○ラDXだった。彼女の持ちキャラは同じ電撃にちなんだあのネズミだ。ちょこまか動いてカミナリを当てる、と言うのが美琴の好きな戦法。

「今日も返り討ちですのことよ!」

対する当麻の選んだキャラはあの緑の服を着た伝説の剣士だ。爆弾やブーメラン等小技を使いつつ確実に重い一撃を入れに行く、という基本的なのが上条の戦法だ。

開始して早々、上条の優位なペースで運び始める。爆弾の爆発までの時間を見極め投げ、引けばさらに爆弾を投げ追いつめ、構わず向かってくれば剣で迎撃していた。

そんな感じで美琴も善戦したが、ダメージが100を越えたところに回転斬りをもろに食らい盛大にふっ飛ばされる。

「なんでかわせないのーーー!!??」
「かわせないタイミングでやるのが基本!!」
「爆弾投げる暇を与えなきゃいいのよ!速攻よ!超速攻よ!!そんでカミナリよ!」
「ブーメランと言うのもあるんすの事よ!そんでもって!」
「あ~!捕まった!!投げ飛ばされる!!」

鎖に捕まり投げられたがまだダメージが低いのでふっ飛ばされることはなかった。けれど、結構食らってしまった。完璧に美琴の行動を読み切って動く上条に隙はなかった。

上条もダメージを食らい1,2度ふっ飛ばされたがそれでも先に美琴の方が残機が尽きた。

「もっかいよ!!勝つまで何度も!!」
「上条さんに勝つなんて100年早いのですよ!」

というかあのネズミしか使わないので、もうなんとなくパターンがわかっているので負ける気はしなかった。そこで今回は気分を変え、あの世界的有名なひげオヤジを使うことにした。

「今回はそれね!どのキャラでもふっ飛ばしてやる!」
「ひげオヤジをなめるんじゃないのです事よ!」

オールラウンダーなキャラは特徴らしい特徴はないが、それだけに使う人によって大きく化ける。

「その火の玉邪魔!!」
「かわしてここまで来てみなさい!!」
「くぅぅ!!」
「近付いてきてもふっ飛ばしますけどね!」

遠くからちまちまと火の玉を投げて、近付いてきたら強烈な一撃でふっ飛ばしまた火の玉を投げる。こういう戦い方すると、嫌われるので気をつけましょうね。

「その火の玉禁止!!」
「オーケー。なら接近戦でございますよ!」

遠距離の攻撃手段が火の玉しかないひげオヤジ。人によってはほとんど使わない攻撃手段だ。よって火の玉を禁止されたところであまり意味はなかった。

「ああ!またふっ飛ばされた!!」
「美琴さんは弱いですなぁ!」
「むかつく~!!」

完全に上条のペースで進む状況に、美琴は攻撃を食らわないようにするだけで精一杯だったがそれも長くは続かず、あっという間に残機が全て無くなる。

「はっはっはっ!上条さんの圧倒的勝利!!」
「う~!!!」
「もっと腕をあげてからまた来なさい!!…っと、メールか?」

勝ち誇っている上条の携帯がベッドの上でバイブで震えていた。時計を見てみると11時半くらいだった。少し早いかもしれないがあの曲かもしれなかった。メールを開くと案の定そうだった。

「おお、届いた届いた。美琴~」
「なによっ」
「そんな機嫌悪くするなよ~」
「のしかかるな!重い!!」
「それより、音楽が届いたぞ。なんでかお前のも一緒に。さっそく聞いてみるか?」
「当麻のから先に聞きたい」
「おー」

上条当麻と書かれているファイルを開いて音楽を再生する。

流れてきたのは、ヒーローみたいな曲というか、仮○ライ○ーの曲っぽい感じだった。

「当麻にぴったりじゃない?この○面ラ○ダーに使われそうな曲調」
「それは上条さんが子供っぽいってことでせうか?」
「ん~、ある意味そうかもね」
「ひどい!」
「そんなことより私のも聞かせてよ」
「おー…」

今度は御坂美琴と書かれたファイルを開きその音楽を流す。

こちらは当麻とは違い、ヒーローみたいな曲では決してなかった。けれど美琴にはぴったりと思える曲ではあった。

「美琴にぴったりだな~」
「そう?」
「こう、まっすぐな感じが美琴だな。うん」
「そうかなぁ」
「上条さんが言うんだから間違いないのです事よ」

のしかかっていた上条は体勢を直し美琴の隣に腰を下ろす。いったん携帯を閉じてから口を開いた。

「で、これに歌詞を付けるんだよな」
「そうね。簡単そうじゃない?」
「思ってたよりはなー。それでも難しそうだ…」
「深く考えるとわかんなくなるわよ。ただでさえ馬鹿なんだから余計に難しく感じるわよ」
「当たってるだけに言い返せない…」
「自分の言いたい事や、想いとか、誰かを思い浮かべて、曲のイメージを壊さない言葉を付けていけばいいのよ」
「言いたい事や、想い、誰かを思い浮かべて…、ねぇ」
「そう考えてやれば何とかなるんじゃない?1週間もあるんだしさ」
「確かに何とかなりそうではあるな…」
「んじゃ、まずは曲イメージをはっきり持つ事。繰り返し聞いて自分の中でイメージを固定するのよ。そうすれば歌詞を付けやすいはずよ」
「じゃあお前の曲はお前の携帯に送るぞ」

美琴の曲だけを抜き出してファイルを彼女の携帯に転送する。そして上条はイヤホンを付けてさっそく言われた事を実践していた。

根が真面目な少年だ。どんな状況であれやると決めた事は最後までやり遂げる。というか、それ以外を知らないのだろう。

最近それに影響されてきた美琴もイヤホンを付けて曲を聴くことに専念する。聞く際、自分の感じた事を書いておくとそれもイメージの固定化に役に立つ。

上条と美琴は紙とペンを用意してテーブルを挟んで向き合うように座り、作詞の作業に入った。

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一度任された事はやりきらないと気が済まず、終わるまで全力投球する上条さん。それと同じくらいの熱意を持って取り組んでいる美琴だが、その根幹にあるのは少々不純だ。

(これが終われば後は遊んでいられるんだから速攻で終わらすわよ!!)

上条たちは学園都市から1週間の休学を認められている。まず不可能ではあるが、仮に今日一日で終わらせる事が出来たのなら、後はただの休みだ。遊び放題だ。いちゃつき放題だ。

(でも、作詞って思いのほか難しいわね…)

自分の想いを直接的に表現した方がいいのか。間接的な方がいいのか。それは主観でいいのか。客観の方がいいのか。初めて作詞をやる美琴にはそれが全く分からなかった。

そして単語は思いついてもそれがうまく文にならなかったり、文になっても曲のイメージとなんか違う感じがしてうまくいかない。

(当麻だったらど真ん中のどストレートで主観で語りそうね~)

というよりも、きっとそれ以外は浮かんでいないだろう。けれども、その方が非常に彼らしいし、変に間接的、客観性を取り入れたら彼らしさが損なわれそうですらあった。

(私もそういう風にしてみようかな)

自分の想い、言いたい事を真っ直ぐに乗せてみよう。あんまり真っ直ぐ過ぎると少し恥ずかしいからちょっと婉曲した表現にして、それでそうやってみよう。

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(美琴も張り切ってんなぁ…)

音楽を聞きながら歌詞を考えようと手に持ったペンでコツコツと紙を叩きながらちらっと美琴の方を見てみる。ものすっごく真剣な表情になってる。

(言葉は案外出てんだけどなぁ)

文にも割となってきているが、それをそのままでいいのか。少しは比喩表現なる物を取り言えれた方がいいんでせうか。間接的表現なる物があった方がいいんでせうか。

その辺りで悩んでいて頭から煙が出そうだった。

思いついた言葉を比喩表現にしようとしたり、間接的な表現にしてみたりと頭の中で繰り返しているが、前半を試みた時点でオーバーヒート間近である。

(美琴の曲は真っ直ぐって感じだし、美琴も真っ直ぐだからそんな感じで歌詞付けるんだろうなぁ)

その方が美琴らしさが出ていいと、上条は思っていた。それ以外だとあまり美琴らしくない気がするとも。

(おし、変に考えるのはやめるか。思った事、言いたい事をそのまま歌詞にしてみよう)

恥ずかしいほどに真っ直ぐで、歌詞を見ただけで作った人が分かるほどに自分らしい歌詞にしてみよう。その方がきっと、自分が後悔しない気がする。

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自分の想いを真っ直ぐ歌詞に乗せる。そう思うと言葉がどんどん出てくる。後はそれを曲が持つ元のイメージを壊さない様かつ、自分というイメージも付け加える様な言葉にしていく。

曲を聞き始めてもう3時間は経っている。2時半にもなり、日はもう頂点から下がっている。美琴はともかく、上条にこれだけ長い時間集中できたというのも驚きだ。何かスイッチが入るとそれが入りっぱなしにでもなるのかもしれない。

しかし、どれだけ集中しようとも勝てない物はある。

グ~

イヤホンを外して考えていた二人の耳にそんな力の抜けた音が入り込んできた。

「あぁぁ!!今いいとこだったのにー!!」
「鳴ったのは確かに上条さんの腹だけど、上条さんのせいじゃありませんの事よ!?」
「当麻のせい!!なった腹を持ってる当麻のせい!!」
「腹が減ったんだからしかたないでせう!!」

歌詞を考えていた時の雰囲気など微塵もないいつもの口げんかになる二人。

「はぁ…。ま、仕方ないわね。いい加減お昼にしましょうか。もう2時半だしね」
「げっ、そんな時間なのか。そりゃ腹も減るわけだ」

見られると恥ずかしいので、書いていた紙を裏返しそして近くの参考書で蓋をする。そうしてから立ち上がり、美琴はエプロンを身につけキッチンに立った。

「なんか手伝うか~?」
「あ、じゃあ野菜切ってくれない?」
「任せとけ」

今日の昼食は餡かけ焼きそばだ。あらかじめ買ってあったシーフードを一口大に切り分け、その隣で上条が野菜を適当な大きさに切っていく。

それを見ながら焼きそばの麺の封を少しだけ開けてレンジに入れ加熱する。その間に、上条がまだ切り終わっていない野菜を切り分けていく。そうして全部切り終わってから、フライパンを取り出し餡を作っていく。

餡とその味付けを美琴に任せ、上条はレンジから麺を取り出しもう一つのフライパンに薄く油をしき、十分温まってから麺を入れる。両面をしっかり焼いて固焼きにする。

決して広くないキッチンで二人は器用にかわしながらこれまた器用に料理を作っていく。先に作り始めた餡が完成し、麺も丁度いい具合に焼けてきた。

麺をさらに移し、移したそばから餡が掛けられ餡かけ焼きそばが完成する。ものすごく食欲を誘う匂いだ。よだれが止まらない。

「二人で作ると早いわね~」
「美琴は唯でさえ手際がいいからな」

それぞれ自分を持って戻り、向かい合って座る。美琴のは1人前だが、当麻のは2人前くらいはありそうだ。餡が。

「麺よりも餡で腹が膨れそうだ…」
「あはは…、ちょっと量間違っちゃった…」
「ま、いいか。さ、冷えないうちに食おうぜ~」
『いただきます』

餡と麺、具を絡め上条は勢いよくすすり美琴は丁寧に口に運んでいた。

「さすが美琴さん。上条さんの好みをよくわかってらっしゃる」
「当麻こそさすがよ。私の好きな固さに焼きあがってる」
「そりゃあ彼氏さんですから」
「私もその言葉を返すわ」

もう何とでも言ってればいい。

空腹だった上条は10分足らずで全て平らげ、ベッドによっかかり楽にしていた。

「はぁ~。美味かった。ご馳走さん」
「早いわねぇ…」
「おう。腹減ってた上に美味かったからな」
「お粗末さまでした」

上条に遅れる事大体5分。食べ終わった美琴は当麻の隣で同じように楽にしていた。

「腹が膨れたら眠くなってきました…」
「食べてすぐ寝たら太るわよ?」
「美琴さんの料理で太れるなら本望ですたい」
「たいって、どこの人よ」
「まぁ、とにかく来い来い」

足を開きながらテーブルの下に伸ばし、その間に美琴を手招く。当然、そこが特等席の美琴はすぐにそこに収まる。後ろから美琴の腹の上に手を回し抱きしめる。

「わ、ちょっとどこ触ってんのよ!」
「どこって、美琴の腹?」
「お腹突っつくな!」
「丁度いい柔らかさだなぁと」
「柔らかくて悪かったわね!」
「いや、悪くないぞ。むしろベストな柔らかさで素晴らしいです、はい」
「褒められてるんだか何だか…」
「褒めてるぞ~?」
「って、ほんと眠そうな声ね」
「おお、本当に眠いからな」

美琴という最高の抱き枕を手に入れた事により上条の睡魔はピークを迎えた。思えば、昨晩はいつも以上にぐっすり寝れた気がする。

「これ片付けないと…ん?」
「すーすー」
「もう寝てる…」

耳のすぐ近くから上条の寝息が聞こえ、背中にかかる体重が気持ち重くなった。

「片付けられない…」

とか言いつつも、美琴も眠くなってきている。昨晩試した結果、やはり上条は最高の寝心地を誇る最高の抱き枕だった。普段使っているぬいぐるみとは比べ物にならないほどだ。

二人は午睡に勝てず、上条は腕の中に美琴を収め幸せな寝顔をし、美琴は上条の腕に収り幸せな寝顔で熟睡していた。

________________________________________

「んぅ…?…!?」

もう夕方で、日も沈みかけている時間に目が覚めた上条が最初に目にしたものは、自分が書いていた歌詞―書いてあるのはそれに使おうと思っていた単語だが―を見ている美琴だった。

顔は赤くなっていない。念のため。

「何勝手に見てるんだよ!?」
「なんとなく?それにしても、ホントに当麻らしい歌詞になりそうね~」
「美琴さんのも見せなさいっ!」
「そんなの嫌に決まってるじゃない」
「人の見といてそれですか!?」
「まぁまぁ」

上条の歌詞を戻し再び当麻の腕の中に収まろうとする美琴。上条もそれを受け入れ、寝る前と同じ体勢になっていた。

「この調子なら1週間後までには楽に終わりそうね~」
「楽かどうかはわからんけどな」
「案外明後日くらいには終わったりして」

初めて作詞をする人にしては驚異的な速さで進んでいると思う。冗談抜きで終わりそうな勢いではあるが、それは一日中作詞に没頭していたらの話だ。

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