そして親衛隊は釘をさす
御坂美琴はお昼を食べに、一人ファミレスにいた。
最近発見してお気に入りの、通称『巨乳ファミレス』である。
(しかし、今日は『あの日』を思い出す顔ぶれだわね…)
美琴は一人で4人テーブルを占拠している。昼前でやや混みだしていたがまだ余裕はありそうだ。
見回すと、前にいた巨乳ジャージ教師、巨乳オデコ高校生が今回もおり、
美琴が「巨乳ファミレス」と名付けた所以でもある。
(ここで携帯でも掛かってきたら、『あの日』の再現ね)
ゲンかつぎではないが、あの時と同じくハンバーグ定食を注文し、ふっ、とため息をつく。
思いはまた上条当麻の元へ舞い戻る。
――まだ、一端覧祭に誘えていない。もう数日もないのに。
『あの日』にココでかかって来た携帯の話、シャッターの件で貸しはある。
しかし、そもそも上条には返し切れない借りがある以上、真面目に主張するだけ人間としてダメだろう。
何より、大覇星祭の罰ゲームで懲りていた。嫌々付き合わせても、結局何も残らないのだ。
だから、真正面から行くしかない―――が、動けない。
何かささいなキッカケはないか。それがあれば今度こそ…と考えている間に今日に至る。
「美濃牛ステーキ定食お待たせしました」
「ん?」
わたしじゃないで…すよ、と答えかけた美琴は、固まった。
上条当麻がニヤニヤしながら立っていた。…幼女を連れて。
「残念、違ったか。お前ならコレかなと思ったんだけどなー」
「な…な…な?」
考えていた相手がいきなり目の前に現れたのだ。言葉が出てこない。
「席空いてっか?何なら一緒に食おうぜ」
「あ…うん、いいけど」
「んじゃ先生、奥へずずいっと」
せんせい?
「先生はお邪魔じゃないのですかー?」
「あー、気にしなくっていいっすよ」
「え、えーっと?」
「御坂、この人は俺の担任の先生で、月詠小萌先生。見た目で分かるとおり、学園の秘密兵器だ。」
「なんて紹介してるんですか上条ちゃんはー!小萌先生、って呼んでくれると嬉しいです、よろしくですよー。」
「よ、よろしくです小萌先生。常盤台中の御坂美琴です。」
「お~、やはり御坂さんですかー!御坂さんのLV5へ至る過程は皆のお手本ですからねー。すごいですよー」
「あ、どうも…です」
やっぱり面とむかって言われると照れてしまう。
「その点、上条ちゃんはほんとに…」
「やっぱりそうきますかね先生!? 頑張ってますって!頑張ってLV0なんですって!」
「女の子が絡んだ時の行動力と思考力を、勉強に使ってるとは先生には思えないのです」
美琴が上条をジト目で睨む。
「ちょ、ちょっと待って先生。えーっと、先に注文しよ注文!」
2人は注文し、美琴もさっきの注文を2人のに合わせて出してもらうよう、頼んだ。
「小萌先生、コイツってほんとに無能力者なんですか?ちょっと疑問があったりするんですけど」
「機械はウソつけませんからねー。上条ちゃんは純正LV0、まったく無いですねー」
上条は右手を左手で差し、そのあと両手で『バッテン』とジャスチャーをしている。
どうやらイマジンブレイカーを秘密にしたいらしい。
「でもですねー」
小萌は続ける。
「あたしは上条ちゃんには何かあると思ってますよー」
「何か…?」
「現在のカリキュラム上、微かにでも能力は発現するはずなのですよー。それなのに皆無ということは」
「ということは?」
「レベル…次元が違いすぎて、発現してるのに我々が判定できないモノを持っている、という可能性があるのですー」
上条と美琴はギクッッッ!として顔を見合わせる。
頼んでいたモノが届き、各々食べ始める。
「そもそも上条ちゃんは、御坂さんとどうやって知りあったのですー?」
上条は記憶喪失のため覚えていない。
美琴は(ちょうどいい機会かしら)と思いつつ、言葉を選んで話す。”幻想殺し”には繋がらないように。
「えーと、今年の6月くらいだったかしら、私が不良に絡まれているのを助けてくれたんです。」
「御坂さんなら、助けてもらわなくても大丈夫なんじゃないですかー?」
「そうです、ただのおせっかいですね。」
「ただの、とか言ってんじゃねー」
「まあそこからは、会うたびに口ゲンカみたいなことしてまして。」
実際は一歩間違えれば死に至る電撃であったが。
「で、まあ私がちょっと大きい問題を抱えて悩んでいた時に、それを解決して貰って」
ちょっと美琴は顔を赤らめ、
「それで、えっと、今は仲良くさせていただいてます。ハイ。」
上条はまさかそんな言葉で美琴が締めるとは思わず、ナイフを持つ手が止まった。
「上条ちゃんは~~~~!」
小萌はポカポカと殴りだした。
「あっちこっちでフラグ立てすぎです!良い事してるのは分かってますけど、それにしても!」
「いやだから!フラグフラグって皆いうけど、次なにかイベント起こるからフラグでしょ!?なんにも起こんないし!」
「…! じゃ、じゃあ仮に、仮によ?」
美琴は思わず口に出す。
「あたしが『妹の件ではありがとう。お礼に映画などご一緒にいかがですか?』とか言ってたら」
仮の話でも上条を正視できない美琴はうつむいて言う。
「それはアンタにとってイベント発生だったのかしら?」
上条は腕を組んで考えている。
「映画に誘われるってのはイベントだな。でもそのケースはちょっと違うかなー」
「なにが?」
「俺は俺が助けたいから動いたんであって、お前たちが助かった時点で、もう終わってるんだよ」
「…」
「そこからお礼ってのが分からな・・・い?い、いたいいたいー」
上条は思いっきり小萌にツネられる。
「御坂さん、この子にはあとで説教しときますー。聞いてると御坂さんまで馬鹿になっちゃいますよー」
「それ生徒に向かって言う台詞かフツー!?…っていたいいたい~」
「はあ…」
(イベント起こさせる気がないだけじゃないの!ほんとにもー!)
その後、小萌と美琴はやたら高度な話で盛り上がっていた。
『AIM拡散力場を利用したネットワークを用いる科学者に…』
『能力開発に用いるガンツフェルト実験で…』
『でも絶対能力者実験っていうのが…』『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの…』
上条は全然ついていけず、寂しそうにポテトをつまんでいる。
そこに上条の携帯が鳴る。
電話に出た上条は、少し話すと、会釈して席を立ち、コーナーで長話の体勢に入った。
その姿を眺めつつ、
「今日は御坂さんとお話しできて良かったですよー。あたしが感心したのはー…」
小萌は微笑みながら美琴に話しかける。
「上条ちゃんみたいな無能力者相手でも、分け隔て無くお話しているのは、素晴らしいことですよー。」
「…」
「学生のレベル分けの弊害ですねー。人をレベルで判断する人が多いんですよー」
「いえ…間違いなく、あたしもそうでした。今でも変わらないかもしれません。」
美琴はつぶやく。
「あたしって友達少ないんですよ。でもそれは強さを求めた代償かな、なんて思い込んでて…
でもアイツは…あたしより強いのに、どんどん人が集まってくる。」
―――LV5を軽くあしらうだけの力を持ちながら、無能力の烙印を押され、
―――そんな不当な扱いを『どうでも良い』と切り捨て、
―――その絶大な力を持ちつつも奢らず、どんな弱者にもどんな強者にも分け隔てなく対等に接し、
―――そして、、、
「アイツの近くにいれば、あんな風にあたしも変われるかなあ、なんて…」
小萌は美琴を見つめ、ウンウンと頷きながら、
「若者はどんどん悩んで、そして思ったことを行動するのです!正解なんてないのですよー!」
(んー、ちょっとスッとした)
とりあえず誰かに心の中を話せたことで、美琴は心が軽くなった気分だった。
すこし考え込んでいると、フ…と影が差した。
ん?と顔をあげると…巨乳に囲まれていた!厳密には巨乳2人+1だったが。
「んじゃあ月詠センセお先じゃんよ」「小萌先生、お先です」「…(黙礼)」
巨乳ズが挨拶する。このオデコな人、大覇星祭でアイツに介抱されてたような気がする。
…お先、といいながら何故か動かない?そして何故ミツメル?
「さて、御坂さん」
小萌を見ると…今までみたことのない黒い笑顔が!
「上条ちゃんは皆のアイドルですから~」
え?
「もし抜け駆けして一端覧祭で独り占めしようとか~」
ええ?
「不埒なことを考えているとー、このお姉様がたや、幸せを許さないお兄様がた…」
え、ええ?
「いろんな人達が、”かわいがり”にきますからねー?」
ひええええええええっ!
「いやー、わりぃわりぃ。じゃあ先生そろそろ戻ろっか」
そう言って戻った上条の前に映ったものは。
ニコニコしている小萌と、
「高校生…コワイ…先生…コワイ」とつぶやいている視線の定まらない美琴の姿であった。
fin.