ラブラブドッキリ大作戦!! 前編
学園都市にもクリスマスの季節がやってきた。
今日は12月18日、真冬ともあってかなり冷え込んでいるが、数日後にクリスマスイヴ&クリスマスという一大イベントを控えているせいか人々のテンションは高めである。
また街中はクリスマスツリーやきれいなイルミネーションで飾り付けされ、プレゼントを用意したりケーキを注文する人で溢れていた。
それらを販売する店員もサンタクロースの格好をしており町はクリスマス一色だ。
そして高校1年生になった御坂美琴もクリスマスイベントを楽しみにしている1人。
「今年のプレゼントはどうしようかなー。」
防寒対策のため制服の上に厚めだが可愛いコートを着た美琴は小さくそうつぶやいた。
高校1年生の冬、ということは初めて上条との出逢い、悪夢の実験、イギリスのクーデター、第3次世界大戦、そしてハワイへ行ってからもう2年が経過したということだ。
2年経ったことで美琴自身変わったところといえば、身長が少し伸び、プロポーションが母親の美鈴並みになっていた。
そしてもう一つ大きく変わったことと言えば上条との関係。
美琴が中3の時に上条から告白され今では学園都市に名を馳せるラブラブカップルとなり、さらには上条と同じ高校に通っているのだ。
そんな大好きな上条にクリスマスプレゼントを渡したいのは当然だが、付き合い始めてからは誕生日や記念日など何かあるとプレゼントを渡していたので最近はネタが尽きてきていた。
(手作りのマフラーは去年のクリスマスに、手編みのセーターは今年のいい夫婦の日(11月22日)にあげたのよね。お揃いのアクセサリー系は何度も渡してるし…何か良いものないかなー。)
というわけで今日は上条へのプレゼントを買いにきているのだが中々良い物が見つからない。
そもそもどんなプレゼントにするのかは一週間以上前から考えているのだが全く良い物が思いつかないのだ。
で、これだけ美琴がプレゼントについて悩んでいる間上条は何をしているのかというと……残念ながら補習だった。
一昨日の16日からクリスマスイヴまで毎日遅くまで補習があるらしい。
ちなみに上条の成績だが、付き合い始めた頃は美琴が付きっきりで教えてきたため校内でもかなり上位になるなど誰もが驚く成長ぶりを見せていた。
しかし最近は2人きりで勉強するとついいちゃいちゃしてしまい全くと言っていいほどはかどらなかったため、このままでは卒業が怪しいということで冬休み前からクリスマスイヴにかけて集中補習を受けることになったらしい。まあ一応大学には推薦で合格している。
で、補習期間は勉強の邪魔をしてはならないということで上条には会わないと決めているのだが3日目にしてすでにキツい。
上条に会いたくて会いたくて仕方が無い。
「会いたいなー……ってダメダメ!!邪魔しちゃダメなんだから。それにクリスマスまで後1週間だから早くプレゼントを用意しないと。後は…パーティの準備もしなきゃいけないし結構忙しいわね。」
パーティの準備、というのは3年前から、つまり美琴が中学2年生の時から毎年開催されるクリスマスパーティのことだ。
パーティの主催者は上条の友人の土御門元春……ではなく以外にも打ち止め。
というか打ち止めが『クリスマスパーティをやりたいっ!』と3年前に言い出し、お願いされた一方通行が半ば強引に人を集めたのが開催されるきっかけで、今では毎年恒例の行事となっていた。
まあ毎年恒例、と言っても今年で3回目だが。
そして参加者はというととにかく様々。
さすがに魔術サイドの人間は参加できないが学園都市内の知っている人に片っ端から声をかけ過去2年多くの人が参加していた。
またこのパーティが開催されるため美琴はイヴに上条と2人っきりで過ごしたことはない。
24日の夜にスタートし25日の昼頃まで騒ぎっぱなしなので、クリスマス当日は疲れきって2人で過ごす時間等ないに等しい。
途中で抜け出そうにも上条が終始参加者に捕まりっぱなしなのでそれも不可能。ちなみに上条は必死に抜け出そうとしているのだが失敗に終わった。
そんなわけで24、25日両方とも2人きりで過ごせないわけだが美琴は普段から上条と一緒にいられるし、みんなで過ごすことも楽しいのでさほど気にしてはいなかった。
(まあ2人で過ごしたくない、って言えばウソになるんだけどね。さ、もうちょっとプレゼント探そっと。)
その後美琴は様々な店を回り1時間ほど上条に渡すプレゼントを探し続けた。
服を見てみたり、お菓子を買おうかとも考えたが結局これといって良い物を見つけることはできなかった。
長い時間探してきたため太陽は完全に沈み、街頭によりほんのりと照らされた帰り道を1人でとぼとぼ歩いていた。
暗くなるということは寒さが増すということで、美琴の吐くため息は白い息となって空中に消える。
「う~ん…やっぱり何か作ろうかな…でも時間もないし……あーどうしよ!!」
プレゼントを考え用意する時間もなく、上条をがっかりさせてしまったらどうしようという焦りから思わず声が出てしまった。ちなみに辺りに人気は無い。
しかし叫んでも問題が何も解決しないことくらいわかるので、美琴はまたため息をついてから自分の寮へと向かう。
今美琴が住んでいる寮は学校から紹介してもらったワンルームマンションの一室なのだが、美琴は上条が好き過ぎるあまり普段は週6で上条の寮に泊まり込んでおり自分の寮に帰ってくることは1週間に1回帰れば多いほうだ。
しかし上条が補習のため今週寮に帰るのは今日で3回目、こんなに自分の寮にいるのって久しぶりだなー、とか考えていると
「あれー?御坂さんじゃありませんかー。」
「ッ!!?」
ふいに前方から声が聞こえた、がその場所にはちょうど街頭がなく真っ暗の暗闇のため誰がいるのかわからない。
かと思いきや…
「こ、小萌先生ですか…びっくりしたー…驚かさないでくださいよ。」
「いやセンセーは驚かそうと思ったわけではありませんよー?」
暗闇の中から現れたのは上条や美琴の学校の教師である月詠小萌。
身長わずか135センチあまりの彼女は特注らしいピンク色のコートに身を包み、買い物の帰りらしく手には買い物袋を持っていた。
美琴は急に声をかけられたことで一瞬びっくりするも、声で相手が小萌先生だとすぐにわかっていたのだ。
「それに驚かされたのは先生のほうですよ?いきなり道ばたで叫び声がしたので何かと思えばうちに学校の生徒さんだったのですからびっくりしたのですよ。」
「う…」
小萌先生の的確なツッコミに返す言葉もなかった。
というか叫び声を聞かれていたということがわかりかなり恥ずかしかった。
「それでどうしたのですかー?やっぱり上条ちゃんのことで悩んでいるのですか?」
「は、はいその通りです。クリスマスプレゼントをどうしようかと思いまして…パーティの準備もあるから今から何か作るのは時間がなくて…」
美琴はまたまたため息をついた。それぐらい思い詰めているのだ。
そんな美琴を見た小萌先生が
「…それならせんせーにいい考えがあるのですよ!」
「いい考え!?それって何ですか!?」」
美琴は小萌先生の言葉に食いついた。
本来なら自分で決めた物を上条に渡すのが一番だが、今回は期限が一週間ということとパーティの準備で忙しいこともありそうも言っていられない。
すると小萌は自信満々な様子で
「それはですね…上条ちゃんにドッキリを仕掛けるのです!!」
「……え?ドッキリ…?」
何か良いプレゼントを紹介してくれるのだと考えていた美琴だが、全く違うことを言われ少し困惑した様子を見せる。
一体ドッキリがなぜプレゼントになるのか、そもそもドッキリってプレゼントととして成立するの?とか疑問しか生まれなかった。
「えーと…それは一体?」
「簡単なことですよ。上条ちゃんには内緒でイヴに2人きりで過ごす場をプレゼントするのですよ!!」
「ッ!!」
またしても想像と全く違うことを言われたのだが、小萌の提案は美琴の心を的確にとらえていた。
「2人きりでイヴを……それいいですね!!」
「でもドッキリだけじゃありませんよ?御坂さんが手料理を振るまい、ちょっとした物をプレゼントすること全て合わせてクリスマスプレゼントということなのです。」
「なるほど……あ、でもそれだと打ち止めのパーティに参加しないってことになりますしみんなに悪いような…それに当麻だってみんなと過ごしたいかもしれませんし…」
「それなら気にしなくても大丈夫です!パーティに参加する皆さんにはセンセーの方から話しておきますから。それに上条ちゃんも彼女さんと一緒に過ごせるのだから嬉しいに決まっているのですよ!というか一度上条ちゃんと2人でクリスマスイヴを過ごすところを想像してみてください。」
「当麻とクリスマスイヴに2人きり…」
小萌先生の言葉を聞いた美琴は実際に想像してみる。
イヴの夜。
部屋にいるのは美琴と上条の2人だけ。
おいしい料理とケーキを食べ終わりとてもいい雰囲気。
ソファに座りながら上条に寄り添いロマンチックな夜景を眺める。
そして2人は―――
「御坂さん大丈夫ですかー?顔が真っ赤ですよ?」
「え、と、ま、まあ大丈夫です…」
「大丈夫ならいいですけど…それでどうするのですか?もしドッキリを仕掛けるのなら私も協力するのですよー!!」
「……えーと……お、お願いします…」
こうして今年のクリスマスイヴには上条にドッキリ大作戦を行うことが決定した。
♢ ♢ ♢
ドッキリ大作戦を行うと決めた翌日から美琴は大忙し。
ドッキリを仕掛けるための場所を探したり、どんな料理にするのか考えたり、小萌先生の知らない人には自ら上条へドッキリを行うことを伝えなければないし、何よりイヴ当日に上手く上条へのドッキリを成功させるために打ち止めのパーティ参加者たちと入念な打ち合わせを行う必要があった。
とりあえず普段あまり会わない人にはメールで作戦のことを伝え、身近な友人には直接伝えることにした。
そんなわけで美琴が訪れたのは風紀委員の第177支部。
「―――ってわけで当麻にドッキリを仕掛けることにしたの。だからパーティには出席できないからごめんね。」
「いやいや気にしないでくださいよ!ね?佐天さん?」
「そうですよ!上条さんと2人で楽しんじゃってください!!」
快く応援してくれているのは美琴の長年の友人である初春飾利と佐天涙子。
中学3年に進級している2人は2年前と比べて身長も伸び大人っぽくなっている。
しかし本日第177支部にいるのは初春と佐天だけではない。
「ドッキリって面白そうね。上条さんも喜びそうだし面白いプレゼントね。」
「頑張ってくださいね御坂様!」
「私たちにも協力できることがあればなんでもおっしゃってください!」
「まあわたくしがお手伝いすれば成功は間違い無しですわね。」
「協力するのー。」
第177支部に友人大集合。
固法は風紀委員第177支部所属なのでこの場にいても全くおかしくないのだが、風紀委員と関係のない湾内、泡浮、婚后、春上が支部にいることは珍しい。
この日たまたま遊びに来ているらしく、一度にドッキリのことを伝えられてラッキー!、とか美琴は思った。
「みんなありがとね!!よーし!今日から1週間準備頑張らなくちゃ!!」
「……お姉様。」
みんなに応援してもらえたことで喜んでいると視界の外から声がした。
美琴を『お姉様』と呼ぶのは妹達と後輩の白井黒子のみ、そして今美琴を呼んだのは当然黒子である。
黒子は今までイスに座りながら紅茶を飲み、黙って美琴の話を聞いていたので初の会話参加となった。
「パーティに参加できないのはよろしいのですが…ドッキリだけではあまりいいプレゼントとは言えませんわね。インパクトに欠けると言いますか…」
「え?そ、そう?」
黒子は紅茶の入っているティーカップを机の上に置き美琴を見る。
当然黒子も2学年進級し現在では常盤台中学3年となっているのだが、初春や佐天と違い2年経ってもあまり変わっていなかった。
若干だが身長は伸びた。ほんとに少し。
唯一大きく変わったところと言えば、美琴と上条の関係を壊そうとするどころか応援してくれる強い味方になっていることだ。
2人が付き合い始めた当初は猛反発し幾多と上条を抹殺しようとしていたのだが、次第に美琴の幸せな顔が見られるのならば上条と付き合ってもいいと考えが変化したのだ。
「今のお話を聞く限り上条さんにドッキリを仕掛けるのはいいのですが…手料理を振る舞うことは日常茶飯事ですし簡単なプレゼントだっていつも渡しているでしょう?」
「う…言われてみれば…」
黒子に指摘された美琴はドキリとした。
小萌からナイスなドッキリ大作戦の提案があり、上条を喜ばすことができると思い浮かれていたので細かいことまでは考えていなかった。
「ど、どうしよ…何か良い案は…」
「落ち着いてくださいなお姉様、何も策がないとは言っていませんわ。工夫すればよいのですから。」
「工夫?」
何か良い案を持ってますよオーラを醸し出している黒子に一同の視線が集まる。
さらに美琴は座っている黒子に近づき
「工夫って何よ?隠し味とか?」
「まあ隠し味もいいですがやはり普段とは違う手料理を作ってはいかがですか?お姉様、様々な国の料理のフルコースを授業で習いましたわよね?」
「あ!習った習った!そうか…時間もかかるし普段は作らないけどクリスマスだから特別ってことで作れば…」
「そういうことですわ。でも2人で食事をしなければいけないわけですから作り置きしなければいけませんわよ?」
「あ、そうか…それもちょっと工夫しないといけないわね。」
美琴はレンジで暖めると味が落ちるからダメよね、と独り言をつぶやいた。
「お姉様、残念ですがわたくしと初春と固法先輩はこれから風紀委員の仕事がありますのでここで失礼します。」
「あ、うん。黒子、いろいろとありがとね。すっごい助かったわ。」
「いえいえ。かまいませんわ。私はお姉様の笑顔が見られればよいのですから。それでは失礼しますわ。」
黒子は恐ろしいくらい協力的だった。
が、部屋から出て行く瞬間
「まあお姉様が悲しむようなことがあればあの方を全身全霊込めてぶっ殺しますけどね。」
♢ ♢ ♢
美琴が黒子からアドバイスをもらってから1時間後、雲一つなくよく晴れた空の元を美琴は一人で歩いていた。
友人達だが、婚后、泡浮、湾内はこれから出かける約束を、佐天はアケミら友人と遊ぶ約束を、春上は『絆理ちゃんと遊ぶ約束してるのー』とか言い、みんなそれぞれ用事あるらしく第177支部から出た時に別れたのだ。
その後食材の下見を済ませ、今現在はドッキリを行う場所を探していた。
「う~ん…以外と見つからないわね。」
上条に悟られない場所という条件はなかり厳しく、今のところ見つかる気配がない。
第7学区内には良い場所が無いのかと考え、他の学区へ移動を検討している美琴の元へ1人の少年がやってきた。
「あ、いたいた。おーい!」
「え?あ、半蔵さん。こんにちは。」
道の向かいからやってきたのは上条の戦友である服部半蔵、今日も元気にいつもと変わらない忍者っぽい格好をしている。
だが普段は上条に会いにくるならともかく、美琴に会いにくるなんてことはまずないため、一体何なんだろうか、もしかして当麻に何かあったのではないか、と瞬時にマイナス思考に走る。
「あの…“いたいた”って私を探していたんですか?」
「ああ、上条にドッキリを仕掛けるって浜面から聞いてさ。是非とも協力しようと思って探してたんだよ。」
「協力…ですか?ていうかもう知ってるんだ…」
かなり以外な半蔵からの手助けの申し出、とりあえず上条に危険が迫っているわけではないので美琴は一安心する。
「まず一つ聞きたいんだけどさ、ドッキリを仕掛けるための場所ってどうするつもりなんだ?」
「あー…場所…ですか。まだ決めてませんね。個室サロンでも借りようかと最初は考えたんですけど問題があって…」
「問題っていうのは個室サロンだと当日案内するときに上条に怪しまれるってことか?」
「…その通りです。それに飾り付けする場合は個室サロンを何日も借り続ける必要もあるから無理なんですよ。だから今考え中ってとこですね。」
そんな美琴の言葉を聞いた半蔵はニヤリと笑みを浮かべる。
「じゃあさ、俺の隠れ家を使わないか?」
「隠れ家?」
隠れ家、というのは半蔵が学園都市内の至る所に大量に所有している住処である。
段ボールハウスから高級マンションまで様々な隠れ家が存在し、そのことは上条を通じて美琴も知っており実際そのうちのいくつかに足を運んだこともある。
「いいんですか?」
「もちろんさ。それでどんな隠れ家がいいかいろいろ考えたんだけどマンションの一室なんてどうだ?キッチンがあるから料理もできるし、当日上条には一度打ち止めのパーティに来てもらってそこで『パーティに必要な物を忘れたから取ってきてくれ』とか俺が言えば大丈夫だろ?」
名案である。
半蔵の考えならば確かに上条に怪しまれないでドッキリ大作戦を成功させることができるだろう。
「じゃあお言葉に甘えてお願いします!」
「よし任せとけっ!じゃ、早速今から下見に行くか。」
こうして美琴は半蔵が所有するマンションの一室へと向かった―――
♢ ♢ ♢
それから1時間後、半蔵の隠れ家の1つであるマンションの一室を見せてもらい終わっていた。
半蔵が紹介してくれたマンションは大通りに位置し、7階の部屋だった。
また2LDKの広々とした部屋で、最近郭が持ってきたらしいソファや机などの家具が置かれており美琴と上条の2人でパーティをするのには丁度いい。
唯一の欠点と言えば外の景色。
マンションは大通りにあるため道を挟んだ向かいには大きなビルがそびえ立っており、決して景色が良いとは言えない。
だがドッキリ大作戦決行時は夜なのでカーテンを閉めるしそこまで気にならないはずだ。
よって特に問題がないため美琴はこの部屋を気に入り、ここで上条へのドッキリを行うことを速攻で決定した。
そんなこんなで部屋を見終わりマンションから出てきたのだが、美琴と一緒に出てきたのは半蔵だけではない。
一緒に出てきたのは茶髪でコートを着た少年と、ピンク色のジャージにもこもこの上着を着た少女の2人。
「いやーほんとびっくりしたぞ。いきなり入ってくるんだもん。」
「だもんじゃねーよ!!俺の許可無く勝手に隠れ家に入るんじゃねー浜面!!それから滝壺も!」
「だってさ、はまづら。」
つまりどういうことかというと半蔵が美琴に紹介したマンションに先客がおり、その先客というのが半蔵や上条の友人である浜面仕上とその彼女の滝壺理后で、この2人が室内でいちゃついていたのだ。
半蔵は勝手に隠れ家に入った2人に厳重注意。
注意を受けた浜面と滝壺は特に反省した様子もなく去って行った。
「全くあいつらは……まあちょっと予想外のこともあったけどドッキリ実行場所はここでいいんだよな?」
「はいもちろんです!!」
「じゃあ今日からでも使ってくれ。あ、これ部屋のカギな。」
半蔵から部屋のカギを渡され美琴のやる気はさらに上昇、絶対に上条を喜ばしてやろうという想いが強くなった。
「じゃあ俺ももう行くよ。当日は上手くいくといいな!」
「はい!ありがとうございました!!」
片手を振って去って行く半蔵に美琴は深々とお辞儀をして見送った。
「よ~し!ドッキリを仕掛ける場所は決まったし後は…料理の練習しなきゃいけないから材料を買って……あ、その前に当麻の部屋から調理器具持って来なきゃ。」
今のところ全てが上手く物事が進み、ご機嫌の美琴は上条の寮へと向かう。
調理器具は美琴の寮にも一応あるのだが、上条の部屋で料理することのが圧倒的に多いため高価な調理器具は上条の寮に置いてあるのだ。
もちろんそれは美琴が持ってきたものなので上条の調理器具もあり、美琴が持ち出したところで上条が困ることは無い。
そして数十分後、美琴は上条の寮へと到着。
エレベーターを使い上条の部屋がある階まで上がり部屋の前にたどり着いた。
時間的に上条の補習は終わってるいるのでもしかして帰ってきてるのでは、と思っていたが部屋にはカギがかかっていることからまだ帰ってきていないとわかった。
「ま、まあ補習が終わるまで会わないって決めてるんだから別にいいんだけどね!」
ただの強がりである。
上条がいないのならば早く部屋から調理器具を持って帰ろうと思い、バックから部屋の合鍵を取り出そうとしたのだが
「あ、あれ?……ウソ!ない、鍵が無い!!」
カギが無い、いつも上条の部屋の合鍵をしまってあるはずのカバンのポッケに入っているはずの部屋の合鍵が入っていなのだ。
とてもとても大切な物なので絶対になくさないようカギには大きめのゲコ太キーホルダーをつけてあるのだが、カバンには自分の寮のカギと半蔵から受け取ったカギしかない。
ぶっちゃけると美琴の能力さえあれば部屋には入ることができるのだが、彼氏の部屋にそんな物騒な方法で入りたくない。
「ど、どうしよう…もし無くしたって当麻にバレたら大事にしてなかったって思われちゃう…」
暗くなり外に出る人が少なくなったためか風の以外の音が聞こえることはなく、その静かな状況が余計に美琴を焦らせる。
カギを無くしたと上条に言っても嫌われることは絶対にないとわかっているが、『大事にしていなかった』と思われることは絶対に嫌だ。
と、すぐ側で静かにエレベーターの扉が開く音がした。
まさか、と思い振り返りエレベーターから出てくる人を確認してみると
「あれ?美琴?どうしたんだよ部屋に入らないで。」
愛しの彼、上条当麻だった。
高校3年生になった上条は2年前より体つきがしっかりとし、身長も175センチくらいまで伸びていた。
温かそうなコートを着て、昨年のクリスマスに美琴がプレゼントしたマフラーを首に巻いた上条は美琴に会えたことが余程嬉しいのか笑顔でこちらへ走ってきた。
美琴もクリスマスイヴまで会えないと思っていたので嬉しいことは嬉しいのだが、カギを無くしたとあって複雑な心境だ。
「あ、いや、その…わ、私も今来たとことなのよ。」
「そうなのか?だったらいいんだけどさ。」
そして上条はコートのポケットから自分のカギを取り出し部屋のカギをを開けた。
何気ない動作だったが、美琴にはいつもと違うと感じられた。
「んー……あ!カギってカバンに入れてたんじゃないの?なんで今日はポケット?」
「あー…実はカバンの角に穴空いちゃってさ。カギとか入れとくと俺の不幸体質で落ちそうだからポケットに入れてあるんだ。」
どうだ名案だろ、と上条にドヤ顔をされた。
美琴はポケットに入れておいたほうが落としやすいんじゃないの?と思ったが言わないことにした。
そんなことを考えている間に上条はドアを開けていた。
「ほら、早く入ろうぜ。」
「う、うん。」
2人で部屋に入るときは上条がレディーファーストを心がけているため必ず美琴が先に入っている。
そして靴を脱ぎきれいに揃え、部屋に上がり脱いだコートをたたもうとしていると
「わ…」
「会いたかったぞ、美琴。」
とか言ってる上条に後ろから抱きしめられていた。
まだ電気もつけていない真っ暗で静かな室内に2人きり、今美琴に聞こえているのは上条の呼吸音と鼓動だけだ。
「ちょっといきなり……ていうか私に会いたかったんだ…えへへ…」
「そりゃ今日会えなかったら3日目だったからな。ていうか美琴は俺に会いにきたんじゃないのか?」
「!!う、うん。私も会いたくなって…」
上条からの質問に美琴は詰まりながらそう答えた。
調理器具を取りにきた、と素直に答え『なんで?』と聞かれるとまた面倒くさいことになる可能性があるため『会いたかった』と言ったが、これは別にウソではない。
実際上条に会いたくて会いたくて仕方が無かったのだから。
「やっぱりか~……っておい美琴、お前かなり冷えてるな。よし上条さんが暖めてあげよう。」
そして美琴は上条にさらにギュッと強く抱きしめられた。
こうやって2人でいちゃいちゃすることは今となっては日常茶飯事、しかしここ2日ばかり会えていなかったためいつも以上に幸せを感じられる。
「えへへー。もっと暖めて暖めてー♪」
「まっかせない!まったくこんなに冷えちゃって…それで美琴。」
「?何、当麻?」
「お前俺に何か隠してるだろ。」
「っ!!」
美琴の体がビクッと動く。
それはほんの一瞬、ほんのわずかだったが美琴を強く抱きしめている上条にははっきりと伝わっていた。
「やっぱりな…美琴の考えてることはなんでもわかるんだから。ほら白状しなさい。」
「え、えーと…」
バレた。
せっかく今日1日みんなに協力してもらい、上条へのドッキリを仕掛けるスタートラインに立ったというのに早くもバレてしまった。
さすがにショックが大きく、美琴は黙り込んでしまった。
「言わないのか?言わないのなら上条さんがが言い当てちゃうぞ?」
そして上条は美琴の耳元で
「美琴……無くしただろ。」
「……え?」
「いやだからこの部屋の鍵無くしただろ。さっきの外で必死になってバックの中を探してる様子見てすぐわかったよ。」
美琴は思った。
先ほどバッグの中を調べているところを見られていてよかったと。
が、まだ安心はできない。
ドッキリについてはバレていないとわかったが、カギを無くしてしまったことについては早急に説明しなくれはならない。
抱きしめられている状態でなんとか後ろの上条の顔を見ようと思い、美琴は顔だけ振り向き
「そ、そうなのよ。鍵無くしちゃって…でも雑に扱ってたわけじゃないのよ!?すっごく大切に持ってたんだけどどこかで落としたみたいで…」
なんとしてでも上条に『カギを大事にしていなかった』と思われないように必死に無くしてしまった経緯を説明、美琴の心臓はバックバクだ。
問題の恋人上条の反応は―――
「そんなことくらいわかってるって。大事にしてても無くすことくらい誰にでもあるさ。」
「ほ、ほんとにそう思ってる?大事にしてなったんだなー、とか思ってない?」
「思ってない思ってない。ていうか不安そうな美琴も可愛いなー。」
「可愛い……えへへ…」
『カギを大事にしていなかった』と思われるどころか可愛いと言われ、改めて上条の優しさを感じる美琴だった。
「でもカギがないと不便だろうから明日複製しに鍵屋へ行ってくるよ。ちょうど青ピが補習の後に自転車の鍵を作りに行くからついてきてくれって言ってたしな。」
「え、いや私が無くしたんだから私が行くわよ。」
「いいよ、カギ屋にはどうせ行く予定だったんだし。まあできるのはクリスマスくらいだと思うけど…それより今日はもちろん泊まってくだろ?」
「え、今日!?今日はちょっと…」
「ダメなのか…?」
誘いは嬉しいが今日は料理の練習がしたい。
しかし料理の練習をしたいと上条に言うということはドッキリがバレる可能性がかなり高いので言うわけにはいかない。
だから美琴は泊まりたい気持ちを必死に抑えながら、何か言い訳を考える。
「その……ほら!明日も補習なんでしょ?予習とか今日の復習とかしないとダメじゃない。」
「そんなこと気にするなよ。勉強より美琴と一緒にいることのほうが大切に決まってるだろ?だから泊まってけって。」
「えーと……でも毎日泊まらせてもらうのは悪いっていうか…」
「毎日泊まらせてもらうのが悪いって、ここ数日は俺の補習が忙しくて泊まってなかったじゃないか。」
「ま、まあそうなんだけどさ…」
「じゃ、いいじゃん。明日からはまた会えないんだろうし今日くらいは2人でゆっくりしようぜ。な?」
「……えと……ぅん…」
美琴は小さくうなずいた。
上条のために料理の練習をしたかったが、後ろからギュッと抱きしめられながら説得され続けたら断れるわけがないのだ。
(うん、料理の練習も他のドッキリの準備も明日から頑張ればよし!今日は久しぶりに2人で過ごそっと♪)
最早美琴も完全に上条と一緒に過ごすモード。
美琴にとっても上条にとっても、お互い一緒にいることが最上の幸せなのだ。
こうしてこの日美琴は上条と甘く幸せな1日を過ごすこととなった。
このように上条との幸せな生活を堪能しつつ、ドッキリをどうするべきかと考えている平和な状況からは想像もできなかった。
ドッキリ決行当日にあんなことが起きるなんて―――――