それでも私は、きっとアンタに生きて欲しいんだと思う 1
―常磐台中学校・来賓室にて―
いかにも「お嬢様学校」と言わんばかりのきらびやかな装飾が施された室内。
そんな室内に似つかわしくない、いかにも「サラリーマン」な男性が一人。
彼は第七学区に存在する洋服店『セブンスミスト』を経営する企業の営業マンである。
『セブンスミスト』は以前の虚空爆破事件による一時閉店後、客足が遠のいていた。
たとえ建物や内装を一新したとしても、地球上で最も多感で繊細な生き物と称される女子中学生には、あの事件の印象が大きすぎたのである。
この状況を打破するため、男はある計画を練っていた。
まず、現在の店舗の横に別館となる新店舗を建築。
そのデザインを学園都市内の著名な若手建築家に依頼した。まず、それだけで大きな宣伝効果が期待出来る。
そして、最大の目玉は『御坂美琴デザイン』
これは、若手建築家からの強い要望(というか、これを飲めなければやめるという条件なのだが)でもあった。
主要購買層である女子中学生の憧れ、御坂美琴がデザインするとなると、女子中学生は死んだ動物に湧いてくるウジ虫の如く群がるであろう。
(後は濡れ手に粟の左団扇。私にもいよいよ重役の席が見えて来たか…?)
一人創造の妄想に励む男。
対峙する少女。
学園都市が誇る超能力者の第三位、御坂美琴その人である。
御坂は学園都市の、いや、全世界の命運を左右する様な数々の戦場をくぐり抜けた英雄(雌?)である。
幻想御手事件の解決、第三次世界大戦での核ミサイル発射の阻止、そしてハワイでの戦い…
御坂の輝かしい功績を挙げると、枚挙に暇がない。
そんな歴戦の強者たる彼女だが『一万の脳を統べる者』でも『神の如き者』でも『合衆国大統領』でもない、
ごく普通の『いかにもサラリーマン』が放つ、超音波の様なマシンガン営業トークによって完全に混乱していた。
「この度リニューアルオープンする『セブンスミスト』のデザイン・監修を担当して頂きたいのです。御坂様は学園都市を代表するレベル5でありますが現役中学生というご身分ですので、中学生としての率直な意見や感想なども伺えればと。もちろん御坂様のお好きなショップを優先して入店させることも可能ですし、内装に関してもある程度は考慮いたします。ただひとつ条件がございまして、内部の電気設備に関する監修も担当して頂きたいと考えております。以前の虚空爆破事件の反省を生かしまして、学園都市最高の電撃使いである御坂様のご意見を拝聴し、セキュリティを大幅に強化したいと考えておる所存です。今回の物件に関しましては幾分特異な点がございますので…」
男には自信があった。
レベル5とはいえ相手は所詮ただの女子中学生。
約25年間鍛え抜いた営業トークを間髪入れずに徹底的に叩き込んでいけば、詳しい内容など理解する間も与えず契約にこぎ着けることができるであろうと。
そして甘いエサで釣り、『御坂美琴』というブランドを手にいれれば用済み。
後は「監修のため」という名目で現場に送り込み、『電撃使い』としての知識と技能を『電気工事士』という形で遺憾なく発揮してもらえばいいのである。
御坂は混乱しているで、その目論みは半分は当たっていた。しかし、御坂が混乱した理由は他にあったのである。
(『セブンスミスト』っていつもの服屋よね?ってか私の意見ってことは…ビルを丸ごとゲコ太専門店にするとか?むしろビルごとゲコ太にするとか?
そんなの作るしかないじゃない!監修でもQuand Chouでもいつでもかかって来なさい!)
「…という条件などもございます。もちろん学業を優「やります」せん…え?」
「私、やります」
「い、いやしかし詳細をまだ…」
「やります」
(ゲコ太専門店、やってやろーじゃないの!)
こうなってしまっては、最早彼女を止める術はない。
試合に勝って勝負に負けた格好になり、複雑な表情を見せる営業マンを尻目に、御坂は一人息巻いていた。