選択と決着 1
序章 独白
私はね、うれしいんだよ。
とうまはいつもフラフラしすぎかも。
しかも、自分はどうなってもいいって思ってる節があるし、
でも、みことがとうまを大切にしたいって思いを伝え続けたら、とうまも考えを変えると思うんだよ。
とうまがホシューの時はみことと遊んだんだよ。
とうまの事でからかったら、顔を真っ赤にしてあたふたして、とてもおもしろかったかも。
そして、本当に好きなんだなぁ、って思ったんだよ。
とうまもとうまでみことの事を聞いたら、顔を真っ赤にして、タコみたいだったんだよ。
まったくお似合いのカップルだよね。
うーん、もともとあの状態が異常だったかも。
年頃の男女が一つ屋根の下ってのは、結構危なかったんじゃないかな。
しかも、今考えればさっさと帰った方がおいしいご飯にありつけてたかも。
だから、全然、後悔なんかしてないんだよ。
選択と決着 2
第一章 不幸
「ホントに大丈夫か?」
ここは第二十三学区のとある空港。
「うん!! 大丈夫なんだよ!!」
上条とインデックスは何度もここを訪れた。
若干、上条の方が多いか。しかし、
「護衛はいないのか?」
「『自動書記』を自在に使いこなせるようになった私に、もう敵はいないかも!!」
「それは、飯が遅くなるたびに殺されかけた私がよく承知しております」
「ムッ、なんか嫌味を言われた気がするんだよ」
「言ったんだよコンチクショー。向こうに迷惑かけるなよ」
「キー!! そんなに子供じゃないかも!!」
今回旅立つのはインデックスだけだ。
そしてこれからは、ここから「旅立つ」ことは無くなる。
インデックスは皆に願い、二人だけにしてもらっていた。
その時間も、終る。
出発前のアナウンスが鳴り響いた。
「……いくね」
「……おう、いつでも遊びに来いよ!!」
「ひょうかや、こもえや、あいさに会いに来るんだよ」
「オレは~~!!?」
「ついででいいかも。……みことにもよろしく」
「……おう」
「じゃ、また!!」
「おう!!」
こうして上条とインデックスは別れた。
乗る機体が例の超音速旅客機だと知って、全力で駄々をこねたことなんてなかった。
なかったといったらなかった。
それから二週間がたっていた。
美琴に告白してからは約一カ月になる。
しかし、一人になった感傷に浸る暇はなかった。
別にそれを美琴に慰めてもらう、
ということを口実に美琴とイチャイチャしていたわけではない。
いや、そのつもり満々だったのにできなかったのだ。
「……不幸だ」
話はインデックスが去った三日後にさかのぼる。
「なんザマスか? これは?」
今まで補修等でろくに美琴と遊べていない、明日こそは。
などと考えながら帰宅した上条は、変な口癖を使っていた。
「何してるザマスか? 諸君」
彼女たちは無視して作業を続ける。
「こうすれば出力急上昇です。とミサカは学習装置の知識をさも自分の物であるかのように自慢します」
「なるほど。これで。あるてぃめっと。魔法のステッキが完成」
「これにより、『ユダの首つり』の暗号も付加されるのでございますよ」
「ほうほう、やはりそういう点では私も一歩劣っちまっているようですね」
「いえいえ、私は化粧が苦手なのでございますよ」
「五和、刃は鋭ければ良いというわけではありません。長期戦になれば、いずれ切れ味は落ちます。鈍器としても使えて、魔術的要素も失わず、自身が扱える重量を目指しなさい」
「はい!!女教皇様!!」
(……ああ、奴のせいか)
上条は隣人をぶっ殺しに行くことにした。
ドアを開け放ち叫ぶ。
「おい!! 土御門!! なんのつもりじゃ……?」
だが、すでに死んでいた。
「つっ……土御門~~!!」
「ガフッ、か、カミやん、オレは、止めたんだぜぃ。でも、さすがにあの面子は、オレにも、むりだ、ニャ~。……か、カミやん」
「なんだ!! 土御門!!」
「リア充爆発しろ。グフッ」
「土御門~~!!……って」
くだらん。とりあえず土御門を捨て置き本人たちに聞くことにした。
話しかける相手を探す。
そういえば、一番まともな、
「五w……」
一番まともな、
(なんです? あの邪気? 人が出せるの?)
一番まと……もな、オルソラに聞こう。
「あー、オルソ……」
ニコニコ
「オル……」
ニコニコ
「オ……なんでもない」
「なあ、御坂妹」
「気安く呼ばないでください。とミサカはヒャッホ~声掛けられた!! という気持ちを表面に出さず冷たく突き放します」
「……? 声掛けるなってこと??」
「なあ、アニェーゼ……」
なんか睨まれた。
「姫神~」
なんか略された。
「神崎様、どうしてこのようなことになっているのでせうか??」
「ああ、あなたがとんでもない暴力、冷酷、凶悪女に誑かされたと聞いて、助けに来たんですよ」
「……なに??」
簡単なこと、インデックスからの情報を曲解した人々が押し掛けてきたのだった。
「特に。信じられない点がある。あなたが女性の気持ちを察したという点」
「姫神、それどういうこと?」
「上条さんに限ってそれはありえません。きっと洗脳でもされたんです」
「五和……、しまいにゃ泣くぞ」
「能力というわけではないようです。とミサカはめそめそするあなたを見つめながら分析結果を伝えます」
「見世物じゃねえ!! つーか姉があんな風に言われてなんともないんかい!!」
「うるせぇってんですよ!! 彼女の発言に加えると、魔術的要因もないんで、一般的な方法だと判断できちまいますね」
「アニェーゼ、科学側の住人いるけどOK?」
「ああ、わたしは暗号解読が昔から得意なのでございますよ」
「……オルソラ、ごめん、ツッコミする気力ない」
「よってこれからあなたが正常になるまで、あなたとその悪女の接近を拒みます。大丈夫です。必ず救ってみせます」
(訳がわからん!! 不幸だー!!)
ちなみに、その日は何故かみんな上条の家に泊まった。
上条は台所で寝た。床は冷たかった。
「その人たちの気持ちよくわかるわ」
『なんでだよ!!』
もし同じ立場なら美琴も参加していただろう。つまり、
(上条病患者のみなさんか……)
とあるホテルの一室、昼食をとった美琴は上条と電話していた。
電話がかかってきたときは、飛び跳ねて喜んだ。
「そ、そこまでじゃない!!」
飛び跳ねて喜んだ。
『……もしもーし』
「あっ、ごめん。ん? 妹居るんでしょ? 電話して大丈夫??」
『ああ、三時までみんな調整だと。そしてここ公園の男子トイレ』
「なるほどー」
『そっちは?』
「……外にいるわね」
電磁レーダーに引っ掛かるいくつかの影。
心当たりがめちゃくちゃあった。
ちょうど上条の家に不法侵入者がたむろしていた日の事だ。
常盤台にて、美琴は朝の上条が送ったメールを見ていた。
すっごくニヤニヤしていた
「にゃっ、にゃんのこと!!?」
ニヤニヤしていた。
「御坂さん!!」
「ふにゃ!! ……ああ、婚后さん」
「お聞きましたわ!!」
「なんの「告白されたんでしょう?」へっ!!?」
いろいろとフラッシュバック!!
「告白されたというか、したというか、同じ気持ちだったというか、でも愛しているとかいうのにはまだはやいというか、いやでも愛し合って「それを断わってもストーキングされているとか!!」ないわけでは……はい?」
「ツンツン頭の類人猿に付きまとわれているのでしょ」
「えっ? 何のこ……黒子か!!」
邪魔をしないように釘を刺したが、その不満が愚痴となったか。だいぶ歪曲されている。
しかし、婚后さんに言うとはおもえないが?
「常盤台じゅうの噂でしてよ!!」
人気者はつらい。切実に。
「安心なさってください!! 御坂さんの親友である私が、同志とともに必ずお守りしますわ!!!」
「へ……?」
こうして、現在、常盤台生約二十人にストーキングもとい護衛されている。
『ツンツン頭の……類人猿……』
「言い得て妙よね」
『ひどい!! それでも彼女か!! 上条さんのライフはもうゼロよ!!』
「はいはい、で、どうする?」
『うーん……』
今日は絶対に会わなければならない。なぜなら、
上条当麻の生まれた日であった。
「なんとかして会わないと」
『そうなんだけどさー』
何か手は無いだろうかと頭を傾ける。
その時
「やっほー!! 御坂美琴さん!!」
急な来客。
ホテルには、自分以外誰も入れないよう伝えているのに、だ。
「なっ!! アンタは!!?」
『どうした美琴!!?』
さらに上条が潜んでいたトイレの個室が崩壊する。
「!!? お前は!!」
選択と決着 3
行間 選択
人生は選択の積み重ねだ。
右か左か、進むか退くか、何を拾い、何を捨てるか。
その積み重ねが他者を巻き込み、時間を進める。
これは、ある少年の人生で起こるべくして起こった物語。
第二章 宿敵
「婚后さん!! 御坂様がホテルを出て南の方へ向ってます!!」
「へ? なぜ急に?? と、とりあえず追いましょう!! 怪人ウニ猿にはお気をつけてくださいな」
「「「「はい!!!!」」」」
(よしっ。追ってきた!!)
常盤台中学の一団が一斉に動く。
この異様な光景を前に周囲は騒然となった。
一方こちらでは一台の車が停まっていた。
運転席の男は考える。
(なんか話しかけるべきなの?)
金髪に染めました。と主張するぼさぼさの髪、すすけたジャージ姿のチンピラである。
名を浜面仕上といった。
彼は、動くことを選ぶ。
「なあ、お前も大将や第三位に借りがあ「殺すぞ」すみません」
助手席にも人がいた。
鋭いナイフをイメージさせる、女にも見える少年。
学園都市の第一位、一方通行である。
(えーと、俺は、フレメアを迎えに行ったんだよな。そしたら、ミニ第三位もいて、こいつも迎えに来てて、そしたら電話が鳴って……)
「来たぞ」
怪訝な顔をした浜面にも騒ぎの音が聞こえる。
「待ってください!! 上条さん!!」
「なぜ逃げるのですか!!? 上条当麻!!」
あいつも大変だなーと考えていたら、後ろに誰かが飛び乗った。
見慣れてしまったツンツン頭だ。
「とりあえず北に!!」
「タクシーじゃねェンだぞ?」
「お前の運転じゃないだろ……」
ミラーを見ると、数人の女性が人間とは思えないスピードで接近していた。
「魔術か(数人だが妹達もいやがるな)」
「やれやれ、ま、借金返済ドライブ。楽しみますか」
それから数分後、ポンコツ自販機前にて、
一組のカップルが合流を果たしていた。
「美琴!!」
「当麻!!」
全力で駆けより抱擁しあう二人。
約一週間ぶりの再会であった。
しかし、この時まだカーチェイスも常盤台鬼ごっこも終わっていない。
「追いつきましたわ!! 御坂さん!! なぜ逃げたのか教えてくださ……!!?」
婚后光子は御坂と話すことを諦める。
相手が御坂美琴ではなくなっていったからだ。
「あーここまでくればいいかな?」
御坂美琴の容姿に亀裂が入り別人の顔がのぞく。
一見、少女にも見えなくない。線は細く腰まで金髪を伸ばし、黄色と黒を基調とした服を着ていた。
「俺のことはトールとでも呼んでくれ。しかし敵とはいえ、応援していた二人がくっつくとうれしいね。ちょっと手伝いたくもなるってもんだ」
「……御坂さんはどこですの??」
「ピンピンしてる……って言っても信じないだろ? そうだなあ、俺に攻撃をかすらせるぐらいできたら教えてやるよ」
婚后をはじめ、湾内、泡浮といった常盤台の面々が戦闘態勢に入る。
「ざっと二十人か。しっかし、『傷つけるな』ねえ、提案したのこっちだけど」
怪物は嬉々と続ける。
「そんなハンデじゃ経験値になりえねぇぜ。あいつの真似して右手だけでやってみっか?」
あきらかにスピード違反の運転手は呟く。
「ついてきてるな……」
ショートカットで槍を持った少女、赤毛で修道服を着た少女が鏡に映る。
周囲が平然としているのは学園都市だからであろう。
「なんとか逃げき「おい」なんだよ?」
一方通行が会話を妨げる。
「いつまでそのままなンだ?」
「海原」
上条の顔で海原と呼ばれた男が微笑む。
「そうですね、相手の目が良すぎますし、途中でやめるわけには……。土御門さんの連絡待ちですね」
「大将の敬語って気色悪いな」
「……お前、後ろのをなンとかしやがれ」
「一定の距離保てばいいんだろ? お前は?」
一方通行は屋根に登りながら答える。
「向こォも真打ち登場らしィ」
トンッ、と何かが屋根に何かが乗った音がした。
「上条当麻を返していただきます」
「どォせ、ここにはいねェっつても奪い取るつもりなンだろ」
この決断は妹達をまた悲しませるかもしれない。
しかし、
『あなた、お姉様を助けてあげてって、ミサカはミサカは無理を承知で!!……』
彼は選択した。
「こっから先は人の恋路、他人に踏み込む権利はねェンだよ!!」
話は数刻前にさかのぼる。
「というわけで、姿を借りた礼を言いに来たんだぜ」
「今の要領で変身して、大覇星祭の前日に私の姿でアイツと会ったと、……ん?」
なんかひっかかる。胸に。
忘れてはならない出来事があったような……?
「ちょうど上条ちゃんと電話中なんだろ、代わってよ」
「え!!? うん」
必死に思い出しながら電話を渡す。
『トールか?』
しかしその思考は次のトールの言葉に中断された。
「いやぁ、ファミレスでの会話や鉄橋での告白頑張ったねぇ」
『「えっ?」』
「そのあと周囲に弄られてあたふたしたり、勉強会の際に距離が近くてドギマギしたり、遠くにいても相手からのメール見て同時にニヤニヤしたり……」
『「なっなんでそれを知って!!?」』
「そりゃあ、あっちこっちにハッキングして……」
『ぎゃァァァあああああああああああああああ!! 俺の青春が再びィィィいいいいいいいいいい!!!』
「ふにぁぁあああああああああああああ!!」
もがき苦しむ上条、涙目で猫パンチする美琴。
そんな二人が落ち着き、ようやく本題に入る。
『俺が囮になってやる。そっちはなんとか抜けられるか?』
「……ああ、こっちにも助っ人が来たところだ」
それを聞き、上条と同じ顔をした人物が微笑んだ。
そんなこんなでこの状況。
あの二人は数十分経っても抱き合ったままだった。
長すぎる。
「……」「……」
情報を整理しよう。
彼らは告白した後も、補習などでろくに遊べていない。
約一週間ぶりの再会である。
勉強会等で距離が近いくらいでドギマギする。
つまり、
「恋人同士で手をつなぐ」すらまだクリアしていない、初恋カップルであった。
それが勢いで抱き合ってしまっている。そのため、
(えっ!!? この後どうすればいいの美琴いい匂い。肩を掴んでそっと離せばいいのか美琴柔らかい。それとも声をかけるべきなのか美琴かわいい)
(当麻の胸板当麻の胸板当麻の胸板当麻の胸板当麻の胸板当麻の胸板当麻の胸板当麻の胸板当麻の胸板当麻の胸板当麻の胸板当麻の胸板……)
ま~たパニックに落ちていた。
二人だけの空間の出来上がりである。
自分の親友たちがガチバトル中だというのに。
いや、正常な判断は無理だろうな、うん。
せめてもの救いは、公園どころかその周囲に人っ子一人いないことだろう。
こんな昼間に一人もいない??
「もう十分以上待っているんだ、いい加減にしてくれ」
上条はとっさに美琴を後ろにかばう。
言葉の発信者を確認すると、思わず口が動いていた。
「……ステイル?」
「ふぅ、いろいろと決着をつけにきたよ、宿敵」
選択と決着 4
行間 決壊
「だから、全然、後悔なんかしてないんだよ」
イギリスのとある教会、昼間なのに薄暗い空間、そこに二人はいた。
一人はインデックス、もう一人は
「これが本心かも、ステイル」
ステイル=マグヌス。
天才の名をほしいままにする魔術師。
「……もうやめてくれ」
ステイルの言葉にインデックスは怪訝な顔をする。
「なにをやめればいいのかな?」
ステイルはポケットに手を伸ばすが、何かを思いとどまった。
「……嘘を言うことをだ」
空気が、固まる。
「何のこ「とぼけないでくれ」!!」
ステイルは無慈悲に言葉を続ける。
「君は辛いはずだ、泣きたいはずだ、なのにそれを隠し、笑って……」
「うるさい!!!」
何かが崩れた。
「うるさいんだよ!! わかったようなこと言って!! ステイルにはわかるわけない!! これは、私の感情だから!!」
一度決壊した心の奔流は止まらない。
「とうまが、みことを選んだんだよ!! 私や他のみんなの中から、とうまが選んだんだよ!! なら、仕方ないじゃん。応援するしかないじゃん!! みことは頭もいいし、料理も上手だし、優しいし、もっと、もっと嫌な奴だったらよかったのに!! そしたら、とうまを取り返そうとも、思えるのに!!」
文章につながりすらなくなる。
「あんなに幸せそうなんだよ……。いつも不幸だと言ってるとうまが、本当に幸せそうに笑ってるんだよ。それを奪うなんて、できるわけないじゃん!! でも、忘れることは、無理なんだよ……。とうまとの生活も、とうまの戦う姿も、とうまの言葉も、とうまの笑顔も!!! 全部、忘れることができないんだよ……。この辛さを、ステイルが、わかるわけないじゃん!!!」
手にしたいものを手にできなかった者の、絶叫。
「ああ、わかるわけがない」
その絶叫は、ステイルにも覚えがあった。
「だが、耐える必要はない。辛いなら辛いと、苦しいなら苦しいと、言えばいいんだ!!」
あのバカと僕は違う。
「そうすれば、……僕でも、その叫びを聞くことくらいは、できる」
もう、我慢できなかった。
インデックスは大声で泣き喚いた。これほどの感情をあの二人の前では見せなかった。
ステイルにはまだ彼女を抱きしめる資格は無い。
だから、ある決心をした。
第三章 決着
「……ステイル?」
「ふぅ、いろいろと決着をつけにきたよ、宿敵」
おんぼろ自販機の前で、二人と一人は対峙する。
赤髪の神父が煙とともに言葉を吐く。
「しかし、往来のど真ん中でハグとは、しかも長い。僕が来てから十五分、その前からと考えると、……さすがに」
「うるさい!! だまれ!! それ以上言うな!!」
あれを見られた時点で彼女が漏電しそうだというのに。
「声をかけようとしていたこっちの身にもなってくれ。……さて、本題に入ろう」
ステイルの右手から炎剣が伸びた。
この緊張感にようやく美琴は正気に戻る。
威嚇し、帯電するが、上条がとどめた。
「いいんだ、美琴、オレだけで」
「で、でもっ!!」
「ちがうんだよ。これは、けじめなんだ」
上条は美琴から離れ、ステイルと対峙する。
「もう察したのか。本当に君は気に入らないね」
「ああ、でも加減しないぞ」
「当然だ、手を抜けば死ぬよ。じゃあ」
「いっちょやりますか!!」
上条は突っ込む。しかし、
「イノケンティウス!!!」
踏みとどまった。
「『君』がこれと対峙するのは、初めてだよね」
「ああ、オルソラを助けるときに初めて見たな」
(……あれは打ち消せない)
上条は何故か知っていた。
再び突っ込みながら尋ねる。
「もしかして、オレとお前戦ったことがあるのか?」
「(退かないのか?)……ああ、君があの子を救った時にね」
複雑な表情をしたステイルだったが、
容赦なくイノケンティウスは炎の十字架を振りおろす。
上条はそれを横にはじいて更に進んだ。
(なにっ!!?)
予想以上に接近した上条に対し、ステイルは炎剣を爆発させることで対応する。
両者をその場から吹き飛ばすことで距離をとった。
「当麻!!」
「大丈夫だ美琴!! しかし、ムチャクチャしやがる」
「はぁ、これはこっちもダメージを受ける。使用したくはなかったよ」
いつのまにかイノケンティウスはステイルに近づいていた。
再び二人は対峙する。
「ならば、イノケンティウス!! ダブル、トリプル!!!」
三体のイノケンティウスが上条を睨む。
彼はなにも十五分間ずっと上条たちを見ていたわけではない。一方、
(本当に気に入らない。だが、流石だ)
上条は微動だにしなかった。
「……あの時の記憶を失って、悪かった」
「……ふっ、関係ないね」
ステイルは煙草をふかす。
「君は僕に打ち勝ち、僕の自信を粉々にした」
美琴は固唾を飲んで見守っていた。
「僕の考え方を無理やり変えた」
浜面が急ハンドルをきっていた。
「僕とは違う方法を提示して……」
トールが八方からの攻撃をかわしていた。
「僕が救えなかったものを救ってみせた」
一方通行と神裂がビルの間を飛んでいた。
「それをしたのは『君』だよ。記憶のあるなしは関係ない。変わっていないからね。相変わらず、今も君はムカつく奴だよ」
再び両者は接近する。笑いながら。
上条が一つ目をギリギリで避ける。
同時にステイルが煙草を捨てて叫んだ。
「決着をつけるぞ!! 上条当麻!!!」
二つ目の攻撃をそらして三つ目を防いだ時、
上条も吠えた
「うぉぉおおおおおおおお!!!」
右手を振るい、炎剣を打ち消す。もちろん炎剣は消えた。
ただ、ステイルも打ち消される。
(しまっ……!!)
気付いた時には脳を揺さぶられ、地面に倒れていた。
首に炎剣が突き付けられる。
「炎剣、イノケンティウス三体、蜃気楼に右手、結局全てのカードを使ってしまったよ。まあ、たまには右手も便利でいいね、目の前の気に入らない奴を思いっきり殴れるんだから」
ちょっと卑怯だったかな? と笑うステイルに、レールガンの銃口が向けられる。
美琴は怒りに震えていた。
「それ以上、当麻に手を出すなら、許さない!!」
「……安心してくれ、これ以上は僕があの子に叱られる」
炎剣が消え、上条がたちあがった。
美琴が走り寄る。
「当麻!!」
「大丈夫だ。……みっともないとこ見られちゃったな」
ステイルはそれを眺めながら新しい煙草をくわえ、話を進めた。
「その子を、選んだんだね、その決断に後悔するなよ」
「当然だ。こいつと一緒に生きると、俺が決めたんだ」
自然と二人の手はつながれていた。
「じゃあ、あの子とその彼女の二人が危険な時、君はそっちの子を助けるんだ、いいね」
「……いや、美琴はもちろん、インデックスも助けてみせる!!」
「……気に入らないな、ホントに……」
こいつならやりかねないと思った自分が。
「でも、今日限りで、メインからは外れてもらう」
「……分かった」
「では」
美琴も何かを感じ取った。
「学園都市所属、上条当麻との戦闘終了。その結果、シスターインデックス、並びに魔道図書館『禁書目録』の保護を担うほどの力量に達していない、と認識できた。元担当者としてその点を危険だと判断。独断だが、この瞬間より、上条当麻を、その任から外すこととする!!!」
それは、一つの結末。
しばらく三人は無言だった。
最初に沈黙を破ったのは、意外にもステイルだった。
「二日前……」
静かに、ゆっくりと言葉は紡がれる。
「二日前に、彼女に、僕の気持ちを伝えた。まだ、返事はもらっていない」
「……そうか」
なにかが終っていく。
「返事は、いつでもいいと、伝えている」
「そうか、……あいつは、よく食うぞ」
「ああ、知っている」
「怒りっぽいし、常識知らずだ」
「ああ」
「……あいつを、頼む、……いくらでも、『助力』はする」
「……ああ、わかった」
ステイルが去って行ったのを確認した瞬間、美琴は上条に抱きついた。
「ぬわっ、どうした美こt……泣いてるのか?」
「……ちょっと待って!! もう少ししたらいつもの私に戻るから、だから!!」
もう少し。
上条はそっと美琴を抱き寄せ、囁きかける。
「大丈夫だ……」
美琴もなぜ泣いているのかわからなかった。
上条を失うことが怖かったのか、
なにもさせてもらえなかった怒りなのか
「大丈夫だから……」
インデックスに対してなのか
上条の涙に対してなのか
しばらく、二人は抱き合いながら涙を流していた。
その周囲に隠れている数人も、涙していることを知らずに。
「はい、こちらステイル。あいつに電話しなくていいのかい?」
『どうせ、とうまの携帯は使えないんだよ。けがしてない??』
「ああ、顔面を殴ったが、いつもに比べたらなんてことないだろ?」
『!!!……電話している、ステイルの事を聞いているんだよ』
「(全くこの子は)……ああ、たいしたことないよ。明日には帰る」
『あのね、ステイル』
「?」
『返事はまだできないけど、お礼を言うんだよ』
「なんの事かな?」
『教会で、煙草を吸うのをやめたよね、私は自分しか見えてなかったのに、そっちはずっと私の事を考えてくれてたんだよね、だから、返事はまだできないけど、……ありがとう』
「……お土産を、持って帰るよ」
こちらの決着はまだ先だ。
選択と決着 5
終章 独白と幸福
『だから、たまにはアンタからも誘えっての!!』
「美琴サン、『アンタ』に戻ってます。朝っぱらからそんなに怒鳴らなくても」
『モーニングコールいらないのね「いります、ごめんなさい」よろしい』
上条はなんだかんだ言っているが、彼女との会話にニヤニヤしている。
「しかし、しかめっ面は眉間に皺できるぞ」
『うるさいっ!!『あら、御坂さん』あ、婚后さ『なにをニヤニヤと、……ああ、あの時の殿方ですね!!』ちょっ、ちょっと!!!』
増えるのは笑い皺のようだ。
ん? 婚后さん?
「……美琴様、今何時でせう??」
『えっ『あの時は』八時の十分前だけど?『苦戦しましたが』』
「なんで!!? 交代で七時にって約束だろ!!?」
『しっ『最終的には』仕方ないじゃない、ドキドキして通話ボタン押せなかったんだから『向こうから白状しましたわ』』
「美琴かわいいなぁ。……ってちがーう!! それだと遅刻しちゃうでしょオレが!!?」
『そっそれくらい『やはり』受け入れなさいよ。かっか彼氏でしょ『この婚后光子に畏れをなしたのでしょう』』
「かわいいけど、モーニングコールやめるぞ『ごめんなさい。許してください』はぁ」
不幸だ。と呟き、どたばたと準備する。
今までとは異なる朝の風景にようやく慣れてきた。
朝食を要求するインデックスも、朝食をかすめ取る猫もいない。
あの日常が楽しかったことは否定しない。
でも、
『今日はセブンスミスとにいかない?』
「……またゲコ太か?」
『ブフゥ!! な、なんのことよ!!』
「また、ちょうどフェアがあるなんて知らなかった~だろ。わかったよ」
こちらの幸せをオレが選んだんだ。
これで周りが泣いたとしても、オレは、オレだけは後悔してはならない。
そして絶対に後悔なんてするわけがない。
『な~にだんまりしてんのよ?』
「……美琴」
『何よ?』
「好きだぞ」
『ふぇ? わっわ、たっ、しも、しゅしゅしゅきにょ!!』
「ははは……」
この道を美琴も歩いてくれているから。
左手薬指にある、キューピッドアローのタグリングが、一層輝いた気がした。