1日目 突然、妹が出来ました
上条当麻は不幸な人間である。
暴食シスターがイギリスに仕事で一時的にいないことで食費は抑えられているが、ここ数日いつにも増して不幸が彼を苛んでいたからだ。
いつものように野良犬や不良に追いかけられたり、バナナの皮で頭から点灯したりすることに加え、インデックスの不在で浮いた食費分のお金を詐欺によって全額毟り取られたことが一番の要因だ。
「不幸だ……」
お決まりのセリフを呟き、今朝の朝食――食パン1/4片を思い出す。これで家にある食料は完全に底をつき、どうすることもできなくなった。財布も空っぽだ。キャッシュカードは誤って踏んづけてまっぷたつであり、上条が使えるお金は現在0円といえよう。
そんな状況の月曜日の朝だが、そこに担任である月詠小萌の持ってきた抜き打ちテストがあり、それを全くわからず白紙で提出する羽目になり、小学生以下にしか見えない先生に子供のようにぐずられる。
そして泣き止んだかと思えば、今度は上条自身が空腹で電池切れとなり、意識が落ちていく。
授業に出なければ当然追いつけなくなる。つまりまた留年に一歩近づく。つまるところもうどうしようもない状況だった。
しばらくして保健室のベッドで目を覚ました上条は保険医にありがたいお叱りの言葉を頂き、更には何をしにきたのか、土御門が冷やかしにやってくる。
「カーミやん、元気にしてたか……してないにゃー」
「なんだよ、土御門……」
身も心もズタボロで自身の不幸に沈みまくっている上条の声には全く覇気がない。よくよく上条を観察してみるとブツブツと不幸だ不幸だとエンドレスでリピートしている。
「金もなく、食料もなく、成績も危ないカミやんに、これを持ってきたぜよ」
あまりの上条の様子にさすがの土御門も若干引き気味ではあったが、一枚のプリントを上条の布団の上に置き、見るように促す。
「カミやんにお仕事だにゃー。とある実験に協力してほしいぜよ」
詳しいことは紙に書いてあるが、口頭で説明した方がわかりやすいだろうと続ける。
「……実験?」
「そうだにゃー。と言ってもとある人物のお世話をするだけの簡単なお仕事ぜよ。衣食住は保証され、謝礼金も出る。そして何より公欠扱いで開発の単位の足しになることも決まってる」
土御門のセリフの前半を虚ろな目でただぼんやり聞き流していた上条だったが、後半を聞くに従って生気がどんどんと戻ってくる。そして土御門をまるで救世主のように崇める視線を送り出す。
「さぁ、カミやん。やるぜよ?」
それに対する上条の答えは当然決まっていた。というか選択肢はそれしかなかった。
暴食シスターがイギリスに仕事で一時的にいないことで食費は抑えられているが、ここ数日いつにも増して不幸が彼を苛んでいたからだ。
いつものように野良犬や不良に追いかけられたり、バナナの皮で頭から点灯したりすることに加え、インデックスの不在で浮いた食費分のお金を詐欺によって全額毟り取られたことが一番の要因だ。
「不幸だ……」
お決まりのセリフを呟き、今朝の朝食――食パン1/4片を思い出す。これで家にある食料は完全に底をつき、どうすることもできなくなった。財布も空っぽだ。キャッシュカードは誤って踏んづけてまっぷたつであり、上条が使えるお金は現在0円といえよう。
そんな状況の月曜日の朝だが、そこに担任である月詠小萌の持ってきた抜き打ちテストがあり、それを全くわからず白紙で提出する羽目になり、小学生以下にしか見えない先生に子供のようにぐずられる。
そして泣き止んだかと思えば、今度は上条自身が空腹で電池切れとなり、意識が落ちていく。
授業に出なければ当然追いつけなくなる。つまりまた留年に一歩近づく。つまるところもうどうしようもない状況だった。
しばらくして保健室のベッドで目を覚ました上条は保険医にありがたいお叱りの言葉を頂き、更には何をしにきたのか、土御門が冷やかしにやってくる。
「カーミやん、元気にしてたか……してないにゃー」
「なんだよ、土御門……」
身も心もズタボロで自身の不幸に沈みまくっている上条の声には全く覇気がない。よくよく上条を観察してみるとブツブツと不幸だ不幸だとエンドレスでリピートしている。
「金もなく、食料もなく、成績も危ないカミやんに、これを持ってきたぜよ」
あまりの上条の様子にさすがの土御門も若干引き気味ではあったが、一枚のプリントを上条の布団の上に置き、見るように促す。
「カミやんにお仕事だにゃー。とある実験に協力してほしいぜよ」
詳しいことは紙に書いてあるが、口頭で説明した方がわかりやすいだろうと続ける。
「……実験?」
「そうだにゃー。と言ってもとある人物のお世話をするだけの簡単なお仕事ぜよ。衣食住は保証され、謝礼金も出る。そして何より公欠扱いで開発の単位の足しになることも決まってる」
土御門のセリフの前半を虚ろな目でただぼんやり聞き流していた上条だったが、後半を聞くに従って生気がどんどんと戻ってくる。そして土御門をまるで救世主のように崇める視線を送り出す。
「さぁ、カミやん。やるぜよ?」
それに対する上条の答えは当然決まっていた。というか選択肢はそれしかなかった。
レベル5である御坂美琴にとって実験協力による公欠や外泊は珍しいことではない。とはいえ最近は研究者に対する不信もあり実験協力自体が減ってきているのは事実だった。
そんななか、常盤台中学の担任からとある実験に協力してほしいという要請を受けた。当初は怪しさもあり、乗り気ではなかった美琴だったが、用紙に書いてあるある文字を見て、態度を急変させる。
(なんでアイツの名前があるのよ……)
レベル0である上条が実験協力など考えにくい。なのにそれは忽然とそこに存在している。何かあるなと思い、美琴は参加しようと決意する。
決してアイツがいるから参加するわけではないのだと心のなかで言い訳しつつ、美琴は担任に参加の旨を伝え、用紙に必要事項を記入する。
記入をすると担任はすぐにそれを受け取り、どこかへと立ち去っていった。
それが先週の金曜日のことだ。そして実験開始日である本日火曜日、美琴は何の変哲もないマンションの前に立ち尽くしていた。
「指定された住所……はここよね」
位置情報とプリントに書かれた住所を何度も見比べるが、結果は変わらない。
「あ、お姉様だってミサカはミサカはお姉さまに会えた喜びを表現するべく抱きついてみる」
不意に後ろから声がしたと同時に軽くてやわらかな衝撃が背中にかかる。
「い、いきなり何なのよ。ラ、打ち止め!?」
美琴は予期せぬ人物の登場に目を丸くする。そこにいたのは妹達の上位個体である打ち止めだった。その天真爛漫な姿にうれしさを感じつつも、実験とはもしや『絶対能力進化計画』に関するものなのではないかと美琴はにわかに警戒心を強める。
「心配しなくてもあの実験とは何も関係ないわ。実験と称しているけど今回の件はあなた達にこの娘を預かってもらうことなのよ」
「ヨシカワ!」
打ち止めの後ろから現れた妙齢の落ち着いた雰囲気の女性は、打ち止めの頭を撫でるとボストンバックを美琴のそばに置く。
「あ、あなたは……?」
「はじめまして。御坂美琴さん。打ち止めの保護者の一人、芳川桔梗よ。今はただのフリーター」
美琴は芳川から詳しい事情を聞くことになる。自分ともう一人の保護者である黄泉川愛穂が所用で1週間ほど学園都市を離れるので、打ち止めの身柄を預かって欲しいということ。普段ならリアルゲコ太こと冥土返しのところでお世話になるつもりだが、今回はとある事情により打ち止めの命が狙われる可能性があるため、妹達に関係が深くレベル5の実力者である美琴に打ち止めの身の回りを任せることにしたことが告げられた。
「というわけなのだけど、大丈夫かしら」
「はい、ここまでは……。ところでアイツ……じゃなくて上条当麻はどうして」
「多分、妹達の事情を知っていてなおかつ『幻想殺し』を持つ彼は能力者にとっては天敵だからじゃないかしら?」
芳川の言葉に納得した美琴は、表情を少しだけ硬くしつつも内心はかなり戸惑い始めていた。
「それにわたし個人としては打ち止めがお姉様と生活することがいい影響をもたらすということも期待しているんだけどね」
「このマンションの周りにいる何人かは護衛ってところですか」
「そうね。だから気にせず、打ち止めと姉妹仲良く生活してくれると嬉しいわ」
美琴は今までの心の緊張を解き、一息つくと難しい話をして暇そうにしていた打ち止めの手を握る。
「それじゃあ、お部屋に行きましょ?」
「じゃあね、打ち止め」
「バイバイ、ヨシカワ。目指せ脱ニートってミサカはミサカは就活が上手くいくように言ってみる」
美琴に告げるべきことを告げた芳川は打ち止めと美琴に別れを告げると、そのまま近くに止めていた車に乗り込み、さっさと立ち去ってしまう。
車の姿が見えなくなると二人は頷き合い、マンションの中へと入る。セキュリティがしっかりしていて清潔感のあるマンションで、なかなかいいところのようだ。
「あったあった。ここね」
指定されていた最上階の一室を見つけ、美琴はドアノブに手を伸ばす。
「あれ? 開いてる?」
「おっ邪魔しまーすってミサカはミサカは勢いよく扉を開けて飛び込んでみる」
扉が開いていることに気づいた打ち止めは荷物を放り出して、部屋の中へどっと飛び込む。美琴は慌てて打ち止めを追いかける。
「あ、アンタ……!」
「あれ、ビリビリなんでここにいるんだ?」
リビングらしき場所に到着した美琴はそこで打ち止めに抱きつかれて頭を撫でている上条の姿に気がついた。
そんななか、常盤台中学の担任からとある実験に協力してほしいという要請を受けた。当初は怪しさもあり、乗り気ではなかった美琴だったが、用紙に書いてあるある文字を見て、態度を急変させる。
(なんでアイツの名前があるのよ……)
レベル0である上条が実験協力など考えにくい。なのにそれは忽然とそこに存在している。何かあるなと思い、美琴は参加しようと決意する。
決してアイツがいるから参加するわけではないのだと心のなかで言い訳しつつ、美琴は担任に参加の旨を伝え、用紙に必要事項を記入する。
記入をすると担任はすぐにそれを受け取り、どこかへと立ち去っていった。
それが先週の金曜日のことだ。そして実験開始日である本日火曜日、美琴は何の変哲もないマンションの前に立ち尽くしていた。
「指定された住所……はここよね」
位置情報とプリントに書かれた住所を何度も見比べるが、結果は変わらない。
「あ、お姉様だってミサカはミサカはお姉さまに会えた喜びを表現するべく抱きついてみる」
不意に後ろから声がしたと同時に軽くてやわらかな衝撃が背中にかかる。
「い、いきなり何なのよ。ラ、打ち止め!?」
美琴は予期せぬ人物の登場に目を丸くする。そこにいたのは妹達の上位個体である打ち止めだった。その天真爛漫な姿にうれしさを感じつつも、実験とはもしや『絶対能力進化計画』に関するものなのではないかと美琴はにわかに警戒心を強める。
「心配しなくてもあの実験とは何も関係ないわ。実験と称しているけど今回の件はあなた達にこの娘を預かってもらうことなのよ」
「ヨシカワ!」
打ち止めの後ろから現れた妙齢の落ち着いた雰囲気の女性は、打ち止めの頭を撫でるとボストンバックを美琴のそばに置く。
「あ、あなたは……?」
「はじめまして。御坂美琴さん。打ち止めの保護者の一人、芳川桔梗よ。今はただのフリーター」
美琴は芳川から詳しい事情を聞くことになる。自分ともう一人の保護者である黄泉川愛穂が所用で1週間ほど学園都市を離れるので、打ち止めの身柄を預かって欲しいということ。普段ならリアルゲコ太こと冥土返しのところでお世話になるつもりだが、今回はとある事情により打ち止めの命が狙われる可能性があるため、妹達に関係が深くレベル5の実力者である美琴に打ち止めの身の回りを任せることにしたことが告げられた。
「というわけなのだけど、大丈夫かしら」
「はい、ここまでは……。ところでアイツ……じゃなくて上条当麻はどうして」
「多分、妹達の事情を知っていてなおかつ『幻想殺し』を持つ彼は能力者にとっては天敵だからじゃないかしら?」
芳川の言葉に納得した美琴は、表情を少しだけ硬くしつつも内心はかなり戸惑い始めていた。
「それにわたし個人としては打ち止めがお姉様と生活することがいい影響をもたらすということも期待しているんだけどね」
「このマンションの周りにいる何人かは護衛ってところですか」
「そうね。だから気にせず、打ち止めと姉妹仲良く生活してくれると嬉しいわ」
美琴は今までの心の緊張を解き、一息つくと難しい話をして暇そうにしていた打ち止めの手を握る。
「それじゃあ、お部屋に行きましょ?」
「じゃあね、打ち止め」
「バイバイ、ヨシカワ。目指せ脱ニートってミサカはミサカは就活が上手くいくように言ってみる」
美琴に告げるべきことを告げた芳川は打ち止めと美琴に別れを告げると、そのまま近くに止めていた車に乗り込み、さっさと立ち去ってしまう。
車の姿が見えなくなると二人は頷き合い、マンションの中へと入る。セキュリティがしっかりしていて清潔感のあるマンションで、なかなかいいところのようだ。
「あったあった。ここね」
指定されていた最上階の一室を見つけ、美琴はドアノブに手を伸ばす。
「あれ? 開いてる?」
「おっ邪魔しまーすってミサカはミサカは勢いよく扉を開けて飛び込んでみる」
扉が開いていることに気づいた打ち止めは荷物を放り出して、部屋の中へどっと飛び込む。美琴は慌てて打ち止めを追いかける。
「あ、アンタ……!」
「あれ、ビリビリなんでここにいるんだ?」
リビングらしき場所に到着した美琴はそこで打ち止めに抱きつかれて頭を撫でている上条の姿に気がついた。
「さぁ、アンタがどうしてここにいるか、その経緯を聞かせてもらいましょうか」
打ち止めと美琴の荷物運びを上条をこき使うことで完了させた美琴は、真新しいテーブルで上条と向かい合う。打ち止めには予めあてがわれていた部屋に行って荷物を整理するように指示を出しており、ここには上条と美琴しかいない。
「誠に恥ずかしい話ながら……」
不幸だ……とポツリと呟き一呼吸置いた後、上条はゆっくりとここ数日の不幸、それに伴う無一文なし、餓死寸前という連鎖反応を簡単に説明する。
「そこに体よく衣食住賃金付きの研究協力要請が来たから何も考えずに飛びついたと」
「おっしゃるとおりです…………」
美琴は上条の度を超えすぎた不幸体質に心のなかで歯がゆさを感じる。上条に想いを寄せる美琴としては不幸ではあっても元気な上条であって欲しいから、今回の事態はなんとなく嫌だった。
「んで、その日の午前中で高校を早退して、ここに向かったら舞夏がいて、今日まで部屋の準備の手伝いをさせられてたんだよ」
「舞夏って土御門舞夏?」
「そう、俺のダチの義妹」
意外と世の中は狭いんだなと美琴は思った。それはともかく問題は土御門だ。この実験の計画はおそらく土御門が深く関わっているはずだ。
「まぁ土御門に関しては心配することはねぇよ。嘘つきだけど間違ったことはする奴じゃねぇ」
「そう。ならいいわ」
まだ聞きたいことはあったが、美琴はここで上条との会話を終わらせ、ちょうど戻ってきた打ち止めを手招きする。
「どうしたの、お姉様ってミサカはミサカはヒーローさんとお姉様の顔を交互に見比べてみる」
「このバカも含めて、これから一週間一緒に生活することになるけど、大丈夫?」
「うん、とっても楽しみだよってミサカはミサカはテーブルの上に体を乗りあげて答えてみる!」
打ち止めの楽しそうな表情を見て、上条も美琴も表情を崩す。上条はよしっと一声かけて立ち上がる。
「昨日までの極貧生活でまだ腹が空いてるんだよな。まず何か食べようぜ」
「それもそうね。ファミレスでお昼にして、必要なもの買いに行きましょ」
上条の腹の虫が鳴きながらの提案に格好を崩しながら美琴は具体的な計画を打ち止めに伝える。
「うん、ミサカもヒーローさんと同じでお腹が空いているし、買い物にも行きたいから、ミサカはミサカはお姉さまの計画に賛成してみたり」
「よしそれじゃあ行くぞ」
薄っぺらい財布をポケットから取り出した上条は俺の奢りだぁとカッコつけてみるが、美琴にアンタ無一文なしじゃないと冷静にツッコミを入れられ、思わず不幸だ……とつぶやいてしまう。
その様子がおかしかったのか打ち止めはぷぷぷと吹き出す。
「おい、笑うなよ、打ち止め」
情けない声を出しながら、上条が打ち止めにデコピンを食らわせようとする。それを打ち止めはさっと回避すると玄関の方へとダッシュしていく。
「待ちなさいよ、アンタ達!」
打ち止めを追いかけ始めた上条の後ろ姿に、仲の良い兄妹のじゃれあいのようだなと微笑ましく思いつつ、美琴は慌てて二人を追いかけるのだった。
打ち止めと美琴の荷物運びを上条をこき使うことで完了させた美琴は、真新しいテーブルで上条と向かい合う。打ち止めには予めあてがわれていた部屋に行って荷物を整理するように指示を出しており、ここには上条と美琴しかいない。
「誠に恥ずかしい話ながら……」
不幸だ……とポツリと呟き一呼吸置いた後、上条はゆっくりとここ数日の不幸、それに伴う無一文なし、餓死寸前という連鎖反応を簡単に説明する。
「そこに体よく衣食住賃金付きの研究協力要請が来たから何も考えずに飛びついたと」
「おっしゃるとおりです…………」
美琴は上条の度を超えすぎた不幸体質に心のなかで歯がゆさを感じる。上条に想いを寄せる美琴としては不幸ではあっても元気な上条であって欲しいから、今回の事態はなんとなく嫌だった。
「んで、その日の午前中で高校を早退して、ここに向かったら舞夏がいて、今日まで部屋の準備の手伝いをさせられてたんだよ」
「舞夏って土御門舞夏?」
「そう、俺のダチの義妹」
意外と世の中は狭いんだなと美琴は思った。それはともかく問題は土御門だ。この実験の計画はおそらく土御門が深く関わっているはずだ。
「まぁ土御門に関しては心配することはねぇよ。嘘つきだけど間違ったことはする奴じゃねぇ」
「そう。ならいいわ」
まだ聞きたいことはあったが、美琴はここで上条との会話を終わらせ、ちょうど戻ってきた打ち止めを手招きする。
「どうしたの、お姉様ってミサカはミサカはヒーローさんとお姉様の顔を交互に見比べてみる」
「このバカも含めて、これから一週間一緒に生活することになるけど、大丈夫?」
「うん、とっても楽しみだよってミサカはミサカはテーブルの上に体を乗りあげて答えてみる!」
打ち止めの楽しそうな表情を見て、上条も美琴も表情を崩す。上条はよしっと一声かけて立ち上がる。
「昨日までの極貧生活でまだ腹が空いてるんだよな。まず何か食べようぜ」
「それもそうね。ファミレスでお昼にして、必要なもの買いに行きましょ」
上条の腹の虫が鳴きながらの提案に格好を崩しながら美琴は具体的な計画を打ち止めに伝える。
「うん、ミサカもヒーローさんと同じでお腹が空いているし、買い物にも行きたいから、ミサカはミサカはお姉さまの計画に賛成してみたり」
「よしそれじゃあ行くぞ」
薄っぺらい財布をポケットから取り出した上条は俺の奢りだぁとカッコつけてみるが、美琴にアンタ無一文なしじゃないと冷静にツッコミを入れられ、思わず不幸だ……とつぶやいてしまう。
その様子がおかしかったのか打ち止めはぷぷぷと吹き出す。
「おい、笑うなよ、打ち止め」
情けない声を出しながら、上条が打ち止めにデコピンを食らわせようとする。それを打ち止めはさっと回避すると玄関の方へとダッシュしていく。
「待ちなさいよ、アンタ達!」
打ち止めを追いかけ始めた上条の後ろ姿に、仲の良い兄妹のじゃれあいのようだなと微笑ましく思いつつ、美琴は慌てて二人を追いかけるのだった。
ファミレスで上条と打ち止めの食欲を満たした後、美琴たちはまず打ち止めの服や生活用品を見るため、セブンスミストを訪れていた。
平日の昼間なので、普段の客層が学生であるこの店は人が少なかった。お陰でゆっくりといろいろな店を回ることが出来る。
とはいえ、人が少なかろうが、男子にとって女の子向けの店が多いセブンスミスとは居づらいことには変わりなく上条はどこか落ち着かない様子だ。
「ねぇ、どっちがいいと思う?」
美琴は居心地悪そうにしている上条に打ち止めの分だけでなく自分の分の服まで聞いてくる。服なんてちゃんと着れて体温調整ができればいいと思っているフシがある上条にとってそれは直感で意見するもののなかなかに考えるのが難しい作業だった。
「うーん、やっぱこっちがいいかな……でもこっちのふりふりも捨てがたい」
「お姉様、これなんてどうかなってミサカはミサカはちょっとアダルティな感じのするこの黒い服を持ってきてみる」
女の買い物は長いという。上条はそれを今つくづく実感しているところだった。久しぶりにまともな食事を食ったこともあり、上条は近くの腰掛けに座りながらウトウトしてしまう。
ビリッと不意に静電気が左手に走る。はっと目を覚ますと美琴がなんでアンタは寝てんのよとでも言いたげな表情をこちらに向けてくる。
「すまねぇ。ちょっとウトウトしちまった」
「しっかりしなさいよ……。私のはともかく、打ち止めの分くらいはちゃんと見てあげなきゃダメなのよ」
美琴のいうことにうなずき、上条は立ち上がる。どうやら上条が寝ている間にさっさと会計を済ましていたらしい。
「ヒーローさんは何か買わないのってミサカはミサカは選んでもらったから今度はミサカが選びたいって思ってみる」
「でも俺、金ないし……」
「お金ならお姉様が出してくれるよってミサカはミサカは本当はヒーローさんに服を選んであげたいお姉さまの気持ちを代弁してみたり」
「ちょ、ちょっと、打ち止め! わ、私は別にこいつの服なんか…………で、でもどうしてもっていうなら……選ぶのも……やぶさかではないっていうか…………」
「いいのか、御坂?」
ゴニョゴニョと顔を急に赤くしだした美琴を不審に思いながらも上条はおずおずと尋ねる。
「いいわよ。アンタのセンスをこの美琴センセーがしっかり鍛えてあげるから、さっさと付いて来なさい!」
そう言ってズカズカと歩き出し始める美琴に引きづられる上条の姿を見て打ち止めはその後ろをゆっくりと付いて行く。引っ張る美琴と引っ張られる上条はどこか楽しげに見えた。
平日の昼間なので、普段の客層が学生であるこの店は人が少なかった。お陰でゆっくりといろいろな店を回ることが出来る。
とはいえ、人が少なかろうが、男子にとって女の子向けの店が多いセブンスミスとは居づらいことには変わりなく上条はどこか落ち着かない様子だ。
「ねぇ、どっちがいいと思う?」
美琴は居心地悪そうにしている上条に打ち止めの分だけでなく自分の分の服まで聞いてくる。服なんてちゃんと着れて体温調整ができればいいと思っているフシがある上条にとってそれは直感で意見するもののなかなかに考えるのが難しい作業だった。
「うーん、やっぱこっちがいいかな……でもこっちのふりふりも捨てがたい」
「お姉様、これなんてどうかなってミサカはミサカはちょっとアダルティな感じのするこの黒い服を持ってきてみる」
女の買い物は長いという。上条はそれを今つくづく実感しているところだった。久しぶりにまともな食事を食ったこともあり、上条は近くの腰掛けに座りながらウトウトしてしまう。
ビリッと不意に静電気が左手に走る。はっと目を覚ますと美琴がなんでアンタは寝てんのよとでも言いたげな表情をこちらに向けてくる。
「すまねぇ。ちょっとウトウトしちまった」
「しっかりしなさいよ……。私のはともかく、打ち止めの分くらいはちゃんと見てあげなきゃダメなのよ」
美琴のいうことにうなずき、上条は立ち上がる。どうやら上条が寝ている間にさっさと会計を済ましていたらしい。
「ヒーローさんは何か買わないのってミサカはミサカは選んでもらったから今度はミサカが選びたいって思ってみる」
「でも俺、金ないし……」
「お金ならお姉様が出してくれるよってミサカはミサカは本当はヒーローさんに服を選んであげたいお姉さまの気持ちを代弁してみたり」
「ちょ、ちょっと、打ち止め! わ、私は別にこいつの服なんか…………で、でもどうしてもっていうなら……選ぶのも……やぶさかではないっていうか…………」
「いいのか、御坂?」
ゴニョゴニョと顔を急に赤くしだした美琴を不審に思いながらも上条はおずおずと尋ねる。
「いいわよ。アンタのセンスをこの美琴センセーがしっかり鍛えてあげるから、さっさと付いて来なさい!」
そう言ってズカズカと歩き出し始める美琴に引きづられる上条の姿を見て打ち止めはその後ろをゆっくりと付いて行く。引っ張る美琴と引っ張られる上条はどこか楽しげに見えた。
セブンスミストの数少ないメンズを取り扱う店でたっぷり時間をかけて上条に似合う服を選んだ美琴と打ち止めは終始ご満悦な表情だ。上条も似合う似合う、かっこいいと言われれば満更でもなく、値段にこそビビりまくっていたものの買ったものに関してはすべて気に入っているようだった。
セブンスミストを出る頃には、ちょうどあちこちの学校で授業が終わり始めているのかちらほらと制服姿の学生が見え始めている。
「次は、食料品ね。打ち止めは何が食べたい?」
「ハンバーグがいいなってミサカはミサカはお姉さまの料理スキルがどれくらいかわからないから無難な提案をしてみる」
打ち止めの子供らしい提案と美琴の料理スキルへの疑念が混ざった言葉に美琴はなんとも言いがたい表情だ。
「おいおい、ハンバーグは昼にお子様ランチについてただろ?」
「そういうアンタは何が食べたいのよ」
「上条さん的にはお肉が食べたい気分でしてね」
「アンタ、昼にステーキセット頼んでたじゃない……」
打ち止めと上条の似たような提案に美琴は苦笑いを浮かべるしかない。
「料理に関しては心配しなくていいわよ。大抵のものなら作れるし」
常盤台ナメんじゃないわよと豪語する美琴であるが、実際は上条に食べてもらうべく舞夏に師事していたりする。
「とりあえずさ、スーパー行ってそこでいろいろ見て決めないか?」
「それもそうね」
この3人の中で一人暮らし経験が一番長い上条の言葉に美琴は頷く。そうこう言ってるうちに大型スーパーにたどり着いた3人はまず思い思いに別れて食べたいものを探すことにした。
案の定打ち止めはお菓子コーナーにへばりついて色々と吟味しているようだ。一方、美琴はすぐに上条と合流してしまい、いつもの特売に付き合うように一緒に回ることにした。
「今日は打ち止めといる初日だし、やっぱいいもん食わしてやりたいよな」
「そうね。いつもは一緒にいれないからこういう時は姉として頑張りたいとこかな」
美琴は上条が同じように考えていることが嬉しかった。とはいえ、二人の金銭感覚には大きな差があって、そのことで揉めて他愛のない口論があったりするがそれはご愛嬌というものだろう。
「あ、寿司にするんだってミサカはミサカはいかにも高そうなお寿司に目を輝かしてみたり」
結局、打ち止めにいいものを食べさせてなんぼでしょという美琴の意見に押し負けた上条は、手元にある高級寿司詰め合わせに戦々恐々とするしかなかった。転けてめちゃくちゃにしたら死んでも死にきれない。
「ヒーローさんが持っていたら落としそうだねってミサカはミサカはお寿司の入った袋を奪って重たい袋を押し付けてみたり」
「ちょっ、打ち止め。これ以上上条さんに重いものを押し付けたら潰されてしまいます」
「ほらそこの荷物持ってあげるから。アンタがコケたら、せっかくの服が汚れちゃうし」
山のような荷物に囲まれ情けない声を上げる上条に美琴は見かねたように少し荷物を渡すように催促する。
「いやいいよ。女の子にこれ以上荷物持たせたら悪いだろ?」
「いいから渡す。フラフラになってまで見栄張らないの」
上条からいくつか荷物をひったくるように受け取った美琴は、全く……と呆れ顔だ。
「なんかこうしてると本当の家族みたいだねってミサカはミサカは本心を吐露してみたり」
「そうだな」
「そうね」
不意に呟いた打ち止めの言葉に、いつもなら慌てる二人が心からそうだなと自然と賛同する。
「いつもならビリビリして突っかかってくるのに珍しいな」
「あんたね、一言おおいのよ…………」
軽い掛け合いをしているうちにマンションの前まで到着する。
「さて、帰りますか。我が家へ」
「そうね」
「うんってミサカはミサカは一番乗り」
「こら走らないの!」
よーいドンと駆け出した打ち止めの姿に上条と美琴は小さく笑みを交わすのだった。
セブンスミストを出る頃には、ちょうどあちこちの学校で授業が終わり始めているのかちらほらと制服姿の学生が見え始めている。
「次は、食料品ね。打ち止めは何が食べたい?」
「ハンバーグがいいなってミサカはミサカはお姉さまの料理スキルがどれくらいかわからないから無難な提案をしてみる」
打ち止めの子供らしい提案と美琴の料理スキルへの疑念が混ざった言葉に美琴はなんとも言いがたい表情だ。
「おいおい、ハンバーグは昼にお子様ランチについてただろ?」
「そういうアンタは何が食べたいのよ」
「上条さん的にはお肉が食べたい気分でしてね」
「アンタ、昼にステーキセット頼んでたじゃない……」
打ち止めと上条の似たような提案に美琴は苦笑いを浮かべるしかない。
「料理に関しては心配しなくていいわよ。大抵のものなら作れるし」
常盤台ナメんじゃないわよと豪語する美琴であるが、実際は上条に食べてもらうべく舞夏に師事していたりする。
「とりあえずさ、スーパー行ってそこでいろいろ見て決めないか?」
「それもそうね」
この3人の中で一人暮らし経験が一番長い上条の言葉に美琴は頷く。そうこう言ってるうちに大型スーパーにたどり着いた3人はまず思い思いに別れて食べたいものを探すことにした。
案の定打ち止めはお菓子コーナーにへばりついて色々と吟味しているようだ。一方、美琴はすぐに上条と合流してしまい、いつもの特売に付き合うように一緒に回ることにした。
「今日は打ち止めといる初日だし、やっぱいいもん食わしてやりたいよな」
「そうね。いつもは一緒にいれないからこういう時は姉として頑張りたいとこかな」
美琴は上条が同じように考えていることが嬉しかった。とはいえ、二人の金銭感覚には大きな差があって、そのことで揉めて他愛のない口論があったりするがそれはご愛嬌というものだろう。
「あ、寿司にするんだってミサカはミサカはいかにも高そうなお寿司に目を輝かしてみたり」
結局、打ち止めにいいものを食べさせてなんぼでしょという美琴の意見に押し負けた上条は、手元にある高級寿司詰め合わせに戦々恐々とするしかなかった。転けてめちゃくちゃにしたら死んでも死にきれない。
「ヒーローさんが持っていたら落としそうだねってミサカはミサカはお寿司の入った袋を奪って重たい袋を押し付けてみたり」
「ちょっ、打ち止め。これ以上上条さんに重いものを押し付けたら潰されてしまいます」
「ほらそこの荷物持ってあげるから。アンタがコケたら、せっかくの服が汚れちゃうし」
山のような荷物に囲まれ情けない声を上げる上条に美琴は見かねたように少し荷物を渡すように催促する。
「いやいいよ。女の子にこれ以上荷物持たせたら悪いだろ?」
「いいから渡す。フラフラになってまで見栄張らないの」
上条からいくつか荷物をひったくるように受け取った美琴は、全く……と呆れ顔だ。
「なんかこうしてると本当の家族みたいだねってミサカはミサカは本心を吐露してみたり」
「そうだな」
「そうね」
不意に呟いた打ち止めの言葉に、いつもなら慌てる二人が心からそうだなと自然と賛同する。
「いつもならビリビリして突っかかってくるのに珍しいな」
「あんたね、一言おおいのよ…………」
軽い掛け合いをしているうちにマンションの前まで到着する。
「さて、帰りますか。我が家へ」
「そうね」
「うんってミサカはミサカは一番乗り」
「こら走らないの!」
よーいドンと駆け出した打ち止めの姿に上条と美琴は小さく笑みを交わすのだった。
帰宅してしばらくすると打ち止めがソファーで寝息を立て始める。美琴の膝に頭を載せて、安心したような表情を浮かべる打ち止めを見つめる美琴の瞳はとても優しげだ。
「風邪引くといけないから毛布」
「ありがと。アンタは疲れてないの?」
気を利かせて寝室から毛布を取ってきた上条に美琴は隣に座ればとソファーを叩く。
「まぁ多少は疲れているとは思うが、御坂こそ大丈夫か? 休んでもいいんだぞ」
「そうね。この子が寝てるから動けないし、アンタが肩でも貸してくれるなら少し休もうかしら」
「ま、それくらいならお安い御用だ」
半分冗談のはずだったのに上条は打ち止めの顔に毛布が被らないようにしながら毛布を二人に掛け、美琴のすぐ隣に腰をかける。
「寒くないか? 暖房付けるか?」
「ううん、大丈夫」
上条の気遣いに心地よさを覚えながら美琴はそっと上条の肩に自身の頭を、体重を預ける。
じんわりと伝わる体温が体越しに伝わってくる。その自然な暖かさにいつまでもこうしていたい、そう思ってしまう。
上条も疲れているのかうつらうつらと船を漕ぎ始めているようだ。美琴もまぶたを閉じると嫋やかなこの時の流れに身を任せよう、そう思うのだった。
どれくらい時間が経ったのだろうか、美琴はあたりがすっかり暗くなっていることに気がついた。
「あ、お姉様、起きたんだ」
美琴が動いてしまったからだろうか、打ち止めが目をこすり眠たそうにしながら伸びをする。
「ヒーローさんは……まだ寝てるみたいだね」
「先にご飯作っておくね」
美琴は上条を起こさないようにゆっくりと立ち上がり、持参したゲコ太柄のエプロンを身に付ける。
「私も手伝うねってミサカはミサカはお姉さまのエプロンの柄に興味津々」
「ゲコ太に目がいくなんてアンタいい趣味してるじゃない。そうね、お皿出したりするの手伝ってもらえるかしら」
はーいと無邪気に返事をする打ち止めの姿に美琴は気合を入れる。上条と打ち止めのためだ、今日は腕によりをかけよう。
美琴はパンと両手で頬を叩くと袖を力強く捲った。
「風邪引くといけないから毛布」
「ありがと。アンタは疲れてないの?」
気を利かせて寝室から毛布を取ってきた上条に美琴は隣に座ればとソファーを叩く。
「まぁ多少は疲れているとは思うが、御坂こそ大丈夫か? 休んでもいいんだぞ」
「そうね。この子が寝てるから動けないし、アンタが肩でも貸してくれるなら少し休もうかしら」
「ま、それくらいならお安い御用だ」
半分冗談のはずだったのに上条は打ち止めの顔に毛布が被らないようにしながら毛布を二人に掛け、美琴のすぐ隣に腰をかける。
「寒くないか? 暖房付けるか?」
「ううん、大丈夫」
上条の気遣いに心地よさを覚えながら美琴はそっと上条の肩に自身の頭を、体重を預ける。
じんわりと伝わる体温が体越しに伝わってくる。その自然な暖かさにいつまでもこうしていたい、そう思ってしまう。
上条も疲れているのかうつらうつらと船を漕ぎ始めているようだ。美琴もまぶたを閉じると嫋やかなこの時の流れに身を任せよう、そう思うのだった。
どれくらい時間が経ったのだろうか、美琴はあたりがすっかり暗くなっていることに気がついた。
「あ、お姉様、起きたんだ」
美琴が動いてしまったからだろうか、打ち止めが目をこすり眠たそうにしながら伸びをする。
「ヒーローさんは……まだ寝てるみたいだね」
「先にご飯作っておくね」
美琴は上条を起こさないようにゆっくりと立ち上がり、持参したゲコ太柄のエプロンを身に付ける。
「私も手伝うねってミサカはミサカはお姉さまのエプロンの柄に興味津々」
「ゲコ太に目がいくなんてアンタいい趣味してるじゃない。そうね、お皿出したりするの手伝ってもらえるかしら」
はーいと無邪気に返事をする打ち止めの姿に美琴は気合を入れる。上条と打ち止めのためだ、今日は腕によりをかけよう。
美琴はパンと両手で頬を叩くと袖を力強く捲った。
上条が目を覚ましてすぐに美琴の気合と愛情のこもった夕飯が完成した。予め買ってきた寿司に打ち止めや上条の好物をそれぞれオードブルのように詰め込んだ夕飯は二人にすこぶる好評だった。
美味しいご飯によって3人の会話もすこぶる進む。普段のそれぞれの生活。特に打ち止めは上条と美琴の学校での様子が気になっているようだった。
上条がデルタフォースのお馬鹿な話をすれば、美琴は白井の変態行為や初春、佐天との日常について語る。
打ち止めも黄泉川や芳川、それに『あの人』と慕う一方通行との生活の話をとても楽しそうにしている。だが、上条は打ち止めが一方通行の話をするとき、美琴の表情がわずかに歪むのを見逃さなかった。
美琴の気持ちは理解できる。しかし上条はロシアで必死に打ち止めを守ろうとする一方通行の姿を知っていた。だからこそ複雑だった。
いつか美琴が一方通行と和解する時が来ればいい。上条はそう本気で思っていた。それにはまず打ち止めともっと絆を深めるべきだと上条は思っている。
だから提案した。
「なぁ打ち止め」
「何、ヒーローさん?」
「その『ヒーロー』さんってやめてくれないか? こっ恥ずかしいし……」
上条は打ち止めの口周りに付いたソースをティッシュで拭いながら続ける。
「一つ提案なんだが、美琴と俺のことをお兄ちゃん、お姉ちゃんって呼んでみないか? 今までの呼び方だと少し距離みたいなものを感じてしまう」
「そうね、私も打ち止めのことは本当の妹みたいに思っているし、今日一緒に過ごして本当の姉妹みたいに思ったわ」
上条の言葉に美琴は相槌を打ち、打ち止めの目をじっと見つめる。
「いいのかなってミサカはミサカはちょっと遠慮がちに答えてみる」
「良いに決まってるだろ」
「遠慮することないの」
上条がニッコリと快活な笑みを浮かべれば、美琴は穏やかな表情で打ち止めの髪を撫でる。
「それじゃあ、お兄ちゃん、お姉ちゃん。ってミサカはミサカは本当に嬉しくて舞い上がりそう」
「よし、それじゃあご馳走様だ」
3人で手を合わせごちそうさまでしたと唱える。上条が洗い物を回収し、手慣れた様子で洗剤で皿を洗っていく。
「俺が洗い物しておくから、御坂は打ち止めと風呂入ってこいよ」
「わかったわ。あ、そうだ」
「ん、なんだ?」
美琴は少し恥ずかしそうに顔を俯け、上条に聞こえるだけの小さな声で呟く。
「打ち止めにお兄ちゃん、お姉ちゃんって呼ばせるんだから、わ、私達も……その……名前で呼び合わ、ない?」
「おう、いいぞ。そうするか、御坂」
「言ってるそばから苗字で返さないでよ。お風呂入ってくるからその間に練習しときなさい」
「へいへい」
「はいは一回」
「はーい」
お互いに軽口を叩き合うと気恥ずかしさが少しだけ薄れる。着替えを取ってきた打ち止めを伴って美琴はすごすごと浴室へと向かうのだった。
美味しいご飯によって3人の会話もすこぶる進む。普段のそれぞれの生活。特に打ち止めは上条と美琴の学校での様子が気になっているようだった。
上条がデルタフォースのお馬鹿な話をすれば、美琴は白井の変態行為や初春、佐天との日常について語る。
打ち止めも黄泉川や芳川、それに『あの人』と慕う一方通行との生活の話をとても楽しそうにしている。だが、上条は打ち止めが一方通行の話をするとき、美琴の表情がわずかに歪むのを見逃さなかった。
美琴の気持ちは理解できる。しかし上条はロシアで必死に打ち止めを守ろうとする一方通行の姿を知っていた。だからこそ複雑だった。
いつか美琴が一方通行と和解する時が来ればいい。上条はそう本気で思っていた。それにはまず打ち止めともっと絆を深めるべきだと上条は思っている。
だから提案した。
「なぁ打ち止め」
「何、ヒーローさん?」
「その『ヒーロー』さんってやめてくれないか? こっ恥ずかしいし……」
上条は打ち止めの口周りに付いたソースをティッシュで拭いながら続ける。
「一つ提案なんだが、美琴と俺のことをお兄ちゃん、お姉ちゃんって呼んでみないか? 今までの呼び方だと少し距離みたいなものを感じてしまう」
「そうね、私も打ち止めのことは本当の妹みたいに思っているし、今日一緒に過ごして本当の姉妹みたいに思ったわ」
上条の言葉に美琴は相槌を打ち、打ち止めの目をじっと見つめる。
「いいのかなってミサカはミサカはちょっと遠慮がちに答えてみる」
「良いに決まってるだろ」
「遠慮することないの」
上条がニッコリと快活な笑みを浮かべれば、美琴は穏やかな表情で打ち止めの髪を撫でる。
「それじゃあ、お兄ちゃん、お姉ちゃん。ってミサカはミサカは本当に嬉しくて舞い上がりそう」
「よし、それじゃあご馳走様だ」
3人で手を合わせごちそうさまでしたと唱える。上条が洗い物を回収し、手慣れた様子で洗剤で皿を洗っていく。
「俺が洗い物しておくから、御坂は打ち止めと風呂入ってこいよ」
「わかったわ。あ、そうだ」
「ん、なんだ?」
美琴は少し恥ずかしそうに顔を俯け、上条に聞こえるだけの小さな声で呟く。
「打ち止めにお兄ちゃん、お姉ちゃんって呼ばせるんだから、わ、私達も……その……名前で呼び合わ、ない?」
「おう、いいぞ。そうするか、御坂」
「言ってるそばから苗字で返さないでよ。お風呂入ってくるからその間に練習しときなさい」
「へいへい」
「はいは一回」
「はーい」
お互いに軽口を叩き合うと気恥ずかしさが少しだけ薄れる。着替えを取ってきた打ち止めを伴って美琴はすごすごと浴室へと向かうのだった。
「ふぅ、いい湯だった」
打ち止めと美琴の姉妹が風呂から上がった後、上条もゆっくりと湯船に浸かり一日の疲れを癒した。女の風呂と違って上条の入浴時間はかなり短いほうだ。あっさり出てきた上条にもういいのと美琴が尋ねてくる。
「ああ、十分だ。美琴」
「そ、ならいいわ、当麻」
さっきまで気恥ずかしかった名前でのやり取りが自然と口から流れてくる。
「あーお姉ちゃんとお兄ちゃん、名前で呼び合ってるってミサカはミサカは二人の仲が近づいたことをからかってみたり」
「ちょっと打ち止め!」
「おー、打ち止めは嫉妬したのか、可愛い奴め」
上条は打ち止めのまだ少しだけ湿った髪をワシャワシャとすると、美琴に横からどつかれる。まだドライヤー当て終わってないのに髪に触るなと言いたいらしい。
ちなみに上条のウニ頭は現在ぺったんこで、当然のごとく自然乾燥であったりする。
美琴が打ち止めと自身の髪の毛を乾かし終わる頃には時刻は午後11時を過ぎていた。
「さてそろそろ寝るか」
「そうね」
「ねぇねぇ、今日はお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に寝ちゃダメ? ってミサカはミサカは川の字になって寝るっていうのをやってみたいと主張してみる」
打ち止めの提案に上条はあっさりOKを出すが、渋ったのは美琴だ。
(え、一緒に寝るってことはあいつとおんなじベッド? ってことはキャー)
美琴の頭のなかではあることないことが止めどなく流れており、パンク寸前である。
「おーい、美琴? 大丈夫かー」
「お姉ちゃーん、戻ってきてーってミサカはミサカは」
「ふぇ?」
二人の呼びかけにようやく現実に戻ってきた美琴は今度は顔を真っ赤にして羞恥に身を染める。
「嫌なら無理にしなくていいんだぞ?」
上条のやや的はずれな言葉に
「………………嫌じゃない」
美琴は蚊のようなか細い声で答える。
「寝る場所はダブルベッドがあったからそこでいいか」
「そうだね。あの広さなら大丈夫ってミサカはミサカはお兄ちゃんに賛同してみる」
「だ、ダブルベッド? ふにゃーーーー」
何とか持ち直そうとした美琴だったがいかんせんダブルベッドという単語が重かった。暴走したメンタルは美琴の体から電流を漏電させ、意識をフェードアウトさせてしまう。
「うぉ、やべぇ」
上条が慌てて右手を美琴に添える。すぐに電流は止まったが、上条の肝は冷えきってしまう。
「打ち止めはこうならないようにな」
上条はどこか遠い目をして目を丸くする打ち止めに語りかけるのだった。
打ち止めと美琴の姉妹が風呂から上がった後、上条もゆっくりと湯船に浸かり一日の疲れを癒した。女の風呂と違って上条の入浴時間はかなり短いほうだ。あっさり出てきた上条にもういいのと美琴が尋ねてくる。
「ああ、十分だ。美琴」
「そ、ならいいわ、当麻」
さっきまで気恥ずかしかった名前でのやり取りが自然と口から流れてくる。
「あーお姉ちゃんとお兄ちゃん、名前で呼び合ってるってミサカはミサカは二人の仲が近づいたことをからかってみたり」
「ちょっと打ち止め!」
「おー、打ち止めは嫉妬したのか、可愛い奴め」
上条は打ち止めのまだ少しだけ湿った髪をワシャワシャとすると、美琴に横からどつかれる。まだドライヤー当て終わってないのに髪に触るなと言いたいらしい。
ちなみに上条のウニ頭は現在ぺったんこで、当然のごとく自然乾燥であったりする。
美琴が打ち止めと自身の髪の毛を乾かし終わる頃には時刻は午後11時を過ぎていた。
「さてそろそろ寝るか」
「そうね」
「ねぇねぇ、今日はお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に寝ちゃダメ? ってミサカはミサカは川の字になって寝るっていうのをやってみたいと主張してみる」
打ち止めの提案に上条はあっさりOKを出すが、渋ったのは美琴だ。
(え、一緒に寝るってことはあいつとおんなじベッド? ってことはキャー)
美琴の頭のなかではあることないことが止めどなく流れており、パンク寸前である。
「おーい、美琴? 大丈夫かー」
「お姉ちゃーん、戻ってきてーってミサカはミサカは」
「ふぇ?」
二人の呼びかけにようやく現実に戻ってきた美琴は今度は顔を真っ赤にして羞恥に身を染める。
「嫌なら無理にしなくていいんだぞ?」
上条のやや的はずれな言葉に
「………………嫌じゃない」
美琴は蚊のようなか細い声で答える。
「寝る場所はダブルベッドがあったからそこでいいか」
「そうだね。あの広さなら大丈夫ってミサカはミサカはお兄ちゃんに賛同してみる」
「だ、ダブルベッド? ふにゃーーーー」
何とか持ち直そうとした美琴だったがいかんせんダブルベッドという単語が重かった。暴走したメンタルは美琴の体から電流を漏電させ、意識をフェードアウトさせてしまう。
「うぉ、やべぇ」
上条が慌てて右手を美琴に添える。すぐに電流は止まったが、上条の肝は冷えきってしまう。
「打ち止めはこうならないようにな」
上条はどこか遠い目をして目を丸くする打ち止めに語りかけるのだった。
気がつくと美琴はベッドに横たわっていた。豆球の電気だけが辺りを照らしており、どうやら気絶している間に消灯時間を過ぎていたようだ。
「あ、お姉ちゃん、起きたんだねってミサカはミサカは顔だけ向けてみる」
美琴の左側に手を握った打ち止めが美琴の顔をじっと眺めていた。
「そっか、私気絶してたのね」
美琴は打ち止めの奥ですぅすぅ寝息を立てている上条の姿を確認し、川の字で寝ていることを知った。
「呑気に寝ちゃってさ」
「でもこういうのもいいよねってミサカはミサカはあの人と一緒に寝た時のことを思い出して少ししんみりとする」
打ち止めが美琴の腕にぎゅっとしがみついてきた。甘えたいのだろう、もっと近づいていいのよと美琴は打ち止めの体を引き寄せる。
「昔、こうしてママに抱きしめてもらったのを思い出すなぁ」
一人で寝ることに慣れてしまった。孤独というものはぬくもりを知っていると耐え難きものになる。美琴は久しぶりに思い出した感触に少し戸惑いながらも、姉として妹を守ってあげようと思う。
「お姉ちゃんとお母様のこと聞きたいなってミサカはミサカは興味津々」
「そうね、それじゃあ寝るまで昔話をしよっか」
そう言って美琴は静かに語りだす。幼い妹に優し語りかける姉のように――いやそのものだ。
小声ながら楽しそうな姉妹のやり取りを目を閉じながら上条は静かに耳を傾けていた。
この日、上条と美琴にほんとうの意味で妹と呼べる存在が出来たのだった。
「あ、お姉ちゃん、起きたんだねってミサカはミサカは顔だけ向けてみる」
美琴の左側に手を握った打ち止めが美琴の顔をじっと眺めていた。
「そっか、私気絶してたのね」
美琴は打ち止めの奥ですぅすぅ寝息を立てている上条の姿を確認し、川の字で寝ていることを知った。
「呑気に寝ちゃってさ」
「でもこういうのもいいよねってミサカはミサカはあの人と一緒に寝た時のことを思い出して少ししんみりとする」
打ち止めが美琴の腕にぎゅっとしがみついてきた。甘えたいのだろう、もっと近づいていいのよと美琴は打ち止めの体を引き寄せる。
「昔、こうしてママに抱きしめてもらったのを思い出すなぁ」
一人で寝ることに慣れてしまった。孤独というものはぬくもりを知っていると耐え難きものになる。美琴は久しぶりに思い出した感触に少し戸惑いながらも、姉として妹を守ってあげようと思う。
「お姉ちゃんとお母様のこと聞きたいなってミサカはミサカは興味津々」
「そうね、それじゃあ寝るまで昔話をしよっか」
そう言って美琴は静かに語りだす。幼い妹に優し語りかける姉のように――いやそのものだ。
小声ながら楽しそうな姉妹のやり取りを目を閉じながら上条は静かに耳を傾けていた。
この日、上条と美琴にほんとうの意味で妹と呼べる存在が出来たのだった。
続く