ふにゃふにゃとしている美琴を可愛いなと思いつつ、上条は美琴の携帯を見る。
アホみたいな顔で寝ている自分がいる。自分の寝顔とはこうも恥ずかしいものなんだな、と上条はファイルを抹殺しようかと迷っていた。
「にゃ、にゃに見てるのよ?」
「いやな、お前が見せたかったもんが、あまりにアホな顔をした上条さんだったんでちょっとヘコんでるんですよ」
「私が見せたかったのは、当麻の寝顔なんかじゃないんだけど」
美琴はふにゃふにゃからは復活したものの、上条にもたれかかったまま携帯の右上を指差す。
「時間と日付が出てるだけだぞ?」
「そうよ。なんて書いてあるか読んで分からないの?」
「上条さんでも時計くら読めますとも!っていうか、そもそもデジタル表示じゃねぇか」
美琴の見せたかったのは普通の時刻表示。そこには無機質なデジタル表示で『12/25 00:13』と出ている。
「で、美琴せんせー。これがどうしたのか馬鹿な上条さんに教えてください」
「アンタ、自分で言ってて辛くない?」
「それ以上言うと泣きますよ?」
本当に泣きそうな顔をする上条を、だったら言うんじゃない、とたしなめる。
(泣きそうな顔も可愛いわね)
美琴が偶に泣かせてみようかな、なんて物騒な事を思っているのは内緒である。
「仕方がない。美琴せんせーがヒントをあげよう。私はこれを見せる前になんて言ったでしょう?」
「……んー」
上条は顎に手をやって考える。美琴が何を言っていたか……
『今日1日、私の言う通りにしなさい』
上条は嫌な汗を背中に感じながら、もう1度時計を確認する。表示は『00:15』。
「あのー、美琴せんせー」
「はい、当麻くん!答えは分かったかなぁ?」
やたらと甘い声で、美琴は上条の胸に頬を摺り寄せる。身体のいたるところが暴走しそうになるのを必死に堪え、上条は答える。
「えー、クリスマスを一緒に過ごそうでおーけーですか?」
「大正解っ!!」
美琴はどん、と上条を押し倒す。上条から見ると、上に圧し掛かった美琴が上条の胸元に顎を置いているようになる。
(な、なんかいろいろ当たってるんですけどぉぉぉっ!?)
さっきよりも密着し、美琴の体温やら重さやら何やらを意識してしまう。理性が吹き飛んでしまわないようにするだけで必死だ。
「というわけで、1日付き合ってもらうわよ?」
「落ち着け、美琴!だから明日はインデックスの見送りを」
「分かってるわよ。私も行くって言ってるでしょ。問題はその後、沈んでないでインデックスが羨むくらい楽しんでやんのよ」
上条は腹の上で笑う美琴を見て溜息をつく。いつもなら『不幸だぁぁ』というところだが、不思議とそんな気分にならなかった。
なんだかんだ言いつつも、上条も美琴と一緒に過ごすことを楽しみにしている。
「……そうだな。まったく、お前にゃ敵わないよ、美琴」
上条はにっ笑うと、美琴の頬をぷにぷにとつつく。
「にゃにすんにょよ」
「いや、可愛いなと思って」
上条の言葉に、美琴の顔はまた赤くなる。
(何度言ってもこれだもんな。飽きないっつーか、可愛いっつーか)
上条は美琴の頬をぷにぷにと触ったり伸ばしたり遊ぶ。そのたびに美琴はふにゃふにゃと何か抗議の目線を送ってくるが、敢えて無視しておく。
(偶にはこうやっていじってもいいだろ)
美琴としてはこうやって構ってくれる事は非常に嬉しくあるのだが、相変わらず子供扱いであることに不満を持っている。
だからこその抗議の目線なのだ。心地いいだけに口で言えないあたりが美琴のジレンマであったりする。
アホみたいな顔で寝ている自分がいる。自分の寝顔とはこうも恥ずかしいものなんだな、と上条はファイルを抹殺しようかと迷っていた。
「にゃ、にゃに見てるのよ?」
「いやな、お前が見せたかったもんが、あまりにアホな顔をした上条さんだったんでちょっとヘコんでるんですよ」
「私が見せたかったのは、当麻の寝顔なんかじゃないんだけど」
美琴はふにゃふにゃからは復活したものの、上条にもたれかかったまま携帯の右上を指差す。
「時間と日付が出てるだけだぞ?」
「そうよ。なんて書いてあるか読んで分からないの?」
「上条さんでも時計くら読めますとも!っていうか、そもそもデジタル表示じゃねぇか」
美琴の見せたかったのは普通の時刻表示。そこには無機質なデジタル表示で『12/25 00:13』と出ている。
「で、美琴せんせー。これがどうしたのか馬鹿な上条さんに教えてください」
「アンタ、自分で言ってて辛くない?」
「それ以上言うと泣きますよ?」
本当に泣きそうな顔をする上条を、だったら言うんじゃない、とたしなめる。
(泣きそうな顔も可愛いわね)
美琴が偶に泣かせてみようかな、なんて物騒な事を思っているのは内緒である。
「仕方がない。美琴せんせーがヒントをあげよう。私はこれを見せる前になんて言ったでしょう?」
「……んー」
上条は顎に手をやって考える。美琴が何を言っていたか……
『今日1日、私の言う通りにしなさい』
上条は嫌な汗を背中に感じながら、もう1度時計を確認する。表示は『00:15』。
「あのー、美琴せんせー」
「はい、当麻くん!答えは分かったかなぁ?」
やたらと甘い声で、美琴は上条の胸に頬を摺り寄せる。身体のいたるところが暴走しそうになるのを必死に堪え、上条は答える。
「えー、クリスマスを一緒に過ごそうでおーけーですか?」
「大正解っ!!」
美琴はどん、と上条を押し倒す。上条から見ると、上に圧し掛かった美琴が上条の胸元に顎を置いているようになる。
(な、なんかいろいろ当たってるんですけどぉぉぉっ!?)
さっきよりも密着し、美琴の体温やら重さやら何やらを意識してしまう。理性が吹き飛んでしまわないようにするだけで必死だ。
「というわけで、1日付き合ってもらうわよ?」
「落ち着け、美琴!だから明日はインデックスの見送りを」
「分かってるわよ。私も行くって言ってるでしょ。問題はその後、沈んでないでインデックスが羨むくらい楽しんでやんのよ」
上条は腹の上で笑う美琴を見て溜息をつく。いつもなら『不幸だぁぁ』というところだが、不思議とそんな気分にならなかった。
なんだかんだ言いつつも、上条も美琴と一緒に過ごすことを楽しみにしている。
「……そうだな。まったく、お前にゃ敵わないよ、美琴」
上条はにっ笑うと、美琴の頬をぷにぷにとつつく。
「にゃにすんにょよ」
「いや、可愛いなと思って」
上条の言葉に、美琴の顔はまた赤くなる。
(何度言ってもこれだもんな。飽きないっつーか、可愛いっつーか)
上条は美琴の頬をぷにぷにと触ったり伸ばしたり遊ぶ。そのたびに美琴はふにゃふにゃと何か抗議の目線を送ってくるが、敢えて無視しておく。
(偶にはこうやっていじってもいいだろ)
美琴としてはこうやって構ってくれる事は非常に嬉しくあるのだが、相変わらず子供扱いであることに不満を持っている。
だからこその抗議の目線なのだ。心地いいだけに口で言えないあたりが美琴のジレンマであったりする。
「で、美琴。とりあえず、この後どうするよ?」
押し倒されたまんまの上条は、この動けない状況を打破すべく美琴に判断を仰ぐ。
美琴はうーん、と頭を捻っている。上条に何を言ってやろうか迷っているようだ。
「とりあえず、風呂でも入ってみるか?」
「にょわっ!?」
美琴の頭の周りからパリパリと漏電が始まる。静電気くらいの微弱なものではあるが、ほぼゼロ距離で喰らってしまう上条にとってチクチクと地味に痛いものだった。
「て、てめぇっ!何想像して漏電してんだよぉぉぉ」
上条は慌てて『幻想殺し』で漏電を消し去り、そのまま美琴の頭の上に置く。
「なっ!?そんなやましい想像なんてしてないわよっ。誰がアンタと一緒にお風呂なんかっ」
(想像してんじゃねぇか)
自分で言っておいて真っ赤になる美琴に、上条は呆れたように息を吐く。
「言う事聞くつっても、流石にそれは無理だ。上条さんは暴走してしまいますよ」
上条は美琴と2人で入る風呂を想像する。ただでさえ狭いユニットバスだ。
(うっ!?)
自分が先に入っていて、後から美琴が入って来ようとする瞬間までを鮮明にイメージしたところで、上条はぶんぶんと首を振り煩悩を抹殺する。
こういう時に『幻想殺し』が使えれば何かと便利な気もするが、現実は得てして残酷なものだ。
上条は顔以外の部分に血が集まりそうになるのを感じると、騎士団長や聖人も真っ青な速度で美琴の下から脱出すると、脱兎のごとくバスルームに飛んで行った。
「俺が先に入るんで、美琴はテレビでも見て待ってて下さいっっっ!!」
バタバタと騒がしくなったかと思えば、上条はバスルームに飛び込んでいく。
恐らく、今頃冷たいシャワーを浴びて涙を流していることだろう。
部屋に1人残されてしまった美琴は、上条のスピードに目を丸くしたまま床に転がっていた。
「な、なんなのよ、アイツ………」
上条が何に焦っていたのか、美琴には知る由もない。不満をぶつける間もなく風呂に行ってしまったので、美琴は何をしていいのかもわからない。
テレビでも見てろ、なんて言われたが、常盤台ではテレビなんて見ないので何を見ていいのかもわからない。
そもそも、今は深夜0時過ぎである。見たこともない深夜番組なんて地雷原以外のなにものでもない。
「なにして待ってろっていうのよ」
美琴は身体を起こしてその場に座ると、周りを見回してみる。特に暇を潰せそうなものはない。
「お風呂に突撃してやろうかしら」
美琴は慌てふためく上条を想像する。一瞬本当にやろうかとも思ったが、恥ずかしすぎて死ぬかもしれないので中止。
(いつかやってやるわ)
それでも美琴は上条にとって幸か不幸か分からない決意を抱くのだった。
ともあれ、今は何かで暇をつぶすしかない。かといって部屋を漁るのも可哀想だ。
「マンガも読んじゃったし―――――ふゎあ」
美琴は大きく口を開けて欠伸をする。隣に上条がいなくて良かったな、と思いながら涙を拭う。
「眠い……」
もぞもぞとベッドの上にあがり、制服のまま横になる。ブレザーとリボンは取ってあるものの、このままではプリーツスカートに皺が寄ってしまう。
「ちょっと、だけ……」
誰に言ってるのかもわからないが、美琴はふにゅむにゃと声にならない声を発した後、眠りの世界に旅立っていった。
押し倒されたまんまの上条は、この動けない状況を打破すべく美琴に判断を仰ぐ。
美琴はうーん、と頭を捻っている。上条に何を言ってやろうか迷っているようだ。
「とりあえず、風呂でも入ってみるか?」
「にょわっ!?」
美琴の頭の周りからパリパリと漏電が始まる。静電気くらいの微弱なものではあるが、ほぼゼロ距離で喰らってしまう上条にとってチクチクと地味に痛いものだった。
「て、てめぇっ!何想像して漏電してんだよぉぉぉ」
上条は慌てて『幻想殺し』で漏電を消し去り、そのまま美琴の頭の上に置く。
「なっ!?そんなやましい想像なんてしてないわよっ。誰がアンタと一緒にお風呂なんかっ」
(想像してんじゃねぇか)
自分で言っておいて真っ赤になる美琴に、上条は呆れたように息を吐く。
「言う事聞くつっても、流石にそれは無理だ。上条さんは暴走してしまいますよ」
上条は美琴と2人で入る風呂を想像する。ただでさえ狭いユニットバスだ。
(うっ!?)
自分が先に入っていて、後から美琴が入って来ようとする瞬間までを鮮明にイメージしたところで、上条はぶんぶんと首を振り煩悩を抹殺する。
こういう時に『幻想殺し』が使えれば何かと便利な気もするが、現実は得てして残酷なものだ。
上条は顔以外の部分に血が集まりそうになるのを感じると、騎士団長や聖人も真っ青な速度で美琴の下から脱出すると、脱兎のごとくバスルームに飛んで行った。
「俺が先に入るんで、美琴はテレビでも見て待ってて下さいっっっ!!」
バタバタと騒がしくなったかと思えば、上条はバスルームに飛び込んでいく。
恐らく、今頃冷たいシャワーを浴びて涙を流していることだろう。
部屋に1人残されてしまった美琴は、上条のスピードに目を丸くしたまま床に転がっていた。
「な、なんなのよ、アイツ………」
上条が何に焦っていたのか、美琴には知る由もない。不満をぶつける間もなく風呂に行ってしまったので、美琴は何をしていいのかもわからない。
テレビでも見てろ、なんて言われたが、常盤台ではテレビなんて見ないので何を見ていいのかもわからない。
そもそも、今は深夜0時過ぎである。見たこともない深夜番組なんて地雷原以外のなにものでもない。
「なにして待ってろっていうのよ」
美琴は身体を起こしてその場に座ると、周りを見回してみる。特に暇を潰せそうなものはない。
「お風呂に突撃してやろうかしら」
美琴は慌てふためく上条を想像する。一瞬本当にやろうかとも思ったが、恥ずかしすぎて死ぬかもしれないので中止。
(いつかやってやるわ)
それでも美琴は上条にとって幸か不幸か分からない決意を抱くのだった。
ともあれ、今は何かで暇をつぶすしかない。かといって部屋を漁るのも可哀想だ。
「マンガも読んじゃったし―――――ふゎあ」
美琴は大きく口を開けて欠伸をする。隣に上条がいなくて良かったな、と思いながら涙を拭う。
「眠い……」
もぞもぞとベッドの上にあがり、制服のまま横になる。ブレザーとリボンは取ってあるものの、このままではプリーツスカートに皺が寄ってしまう。
「ちょっと、だけ……」
誰に言ってるのかもわからないが、美琴はふにゅむにゃと声にならない声を発した後、眠りの世界に旅立っていった。
「あー、さっぱりしましたよー。美琴、お先でしたって、寝てる………」
上条がわしゃわしゃと髪をタオルで拭きつつ部屋に戻ると、美琴はすやすやと寝息を立てていた。
「おーい。美琴センセー」
耳元で声をかけてみるも、起きる気配は全くない。頬をぷにぷにと突いてみる。柔らかくて張りのある程よい弾力を感じる。
「なんかクセになりそうだな」
上条は繰り返しつついてみるも、幸せそうに眠る美琴はなかなか目覚めない。良い夢でも見ているのだろうか、時折口元がゆるむ。
「男の前で無防備に寝てんじゃねぇよ」
上条はバスタオルをハンガーにかけると、ベッドの下に座り美琴の肩を揺らす。
「幸せそうに眠りやがって」
起こし辛いじゃねぇか、と上条は呟く。それでも心を鬼にして起こそうと努力する。風呂も入らずに制服のまま寝るのはあんまりだ。
「おーい、みことー。さっさと起きねぇと襲っちまうぞ?」
反応はない。上条は自分の言った言葉に身震いする。
(な、なに口走ってんだよ、俺は)
上条はぶんぶんと首を振り、大きく肩を落とす。
「このままで、俺の理性は持つんかよ」
上条が求めれば、美琴は受け入れてくれるだろう。でもそれは違う、と上条は思う。
好きだからといって、相思相愛だと言っても、盲目的に突っ走っていいところじゃない。
信頼してくれている、美琴のためにも、その親である美鈴のためにも。
上条は御坂家の父親である旅掛には会ったことはない。親同士で知り合いであったり、裏で色々と話題になっていることなどは知りもしない。
だからこそ、上条は美琴を大切にしたいと思っている。大好きで、大切だからこそ。
(でも……)
「これくらいならいいよな」
上条は唾を飲むと、眠っている美琴の顔に自分の顔を近づける。幸せそうに眠る美琴の顔にドキドキしながら。
(お姫様を眠りから起こすのは)
急に恥ずかしくなり、上条は目を瞑る。これでは見えない。美琴の顔の位置を把握するため、ゆっくりと目を開く。
怪訝な顔をした美琴が上条を見つめ返していた。
「アンタ、なにしてんの?」
「いや、ね。なかなか起きないお姫様を起こそうとしてまして」
ダラダラと流れる汗に動揺しつつ、上条は必死に言い訳をする。嘘は言ってない。
「ほぉ、それで乙女のファーストキスを奪おうとしたと?」
「あはははは、そんなわけないっっすいませんでしたぁぁぁぁっ!!」
美琴の目が笑っていないのを確認すると、上条はベッドから飛び降りそのまま土下座に入る。
「…………んのよ」
「はい?」
「な、なんで謝んのって言ってんのよ」
「もしもし、美琴さん?」
上条が顔を上げると、美琴はばっと身体を背ける。耳や首の後ろまで真っ赤だ。
「えー、美琴……確認していいか?」
「なによ」
「美琴は…………キス、されたかったってことでおーけー?」
「っ!!」
答えは返ってこない。上条はその美琴の反応を『肯定』ととり、背を向けている美琴の隣に座る。
「美琴、こっち向いてくれ」
「……んっ!?」
上条は美琴が顔を向けた瞬間に、その唇を奪い、勢いよく離れる。
「っっっ!!!」
美琴は声にならない声をあげて、バスルームに駆けて行った。
上条がわしゃわしゃと髪をタオルで拭きつつ部屋に戻ると、美琴はすやすやと寝息を立てていた。
「おーい。美琴センセー」
耳元で声をかけてみるも、起きる気配は全くない。頬をぷにぷにと突いてみる。柔らかくて張りのある程よい弾力を感じる。
「なんかクセになりそうだな」
上条は繰り返しつついてみるも、幸せそうに眠る美琴はなかなか目覚めない。良い夢でも見ているのだろうか、時折口元がゆるむ。
「男の前で無防備に寝てんじゃねぇよ」
上条はバスタオルをハンガーにかけると、ベッドの下に座り美琴の肩を揺らす。
「幸せそうに眠りやがって」
起こし辛いじゃねぇか、と上条は呟く。それでも心を鬼にして起こそうと努力する。風呂も入らずに制服のまま寝るのはあんまりだ。
「おーい、みことー。さっさと起きねぇと襲っちまうぞ?」
反応はない。上条は自分の言った言葉に身震いする。
(な、なに口走ってんだよ、俺は)
上条はぶんぶんと首を振り、大きく肩を落とす。
「このままで、俺の理性は持つんかよ」
上条が求めれば、美琴は受け入れてくれるだろう。でもそれは違う、と上条は思う。
好きだからといって、相思相愛だと言っても、盲目的に突っ走っていいところじゃない。
信頼してくれている、美琴のためにも、その親である美鈴のためにも。
上条は御坂家の父親である旅掛には会ったことはない。親同士で知り合いであったり、裏で色々と話題になっていることなどは知りもしない。
だからこそ、上条は美琴を大切にしたいと思っている。大好きで、大切だからこそ。
(でも……)
「これくらいならいいよな」
上条は唾を飲むと、眠っている美琴の顔に自分の顔を近づける。幸せそうに眠る美琴の顔にドキドキしながら。
(お姫様を眠りから起こすのは)
急に恥ずかしくなり、上条は目を瞑る。これでは見えない。美琴の顔の位置を把握するため、ゆっくりと目を開く。
怪訝な顔をした美琴が上条を見つめ返していた。
「アンタ、なにしてんの?」
「いや、ね。なかなか起きないお姫様を起こそうとしてまして」
ダラダラと流れる汗に動揺しつつ、上条は必死に言い訳をする。嘘は言ってない。
「ほぉ、それで乙女のファーストキスを奪おうとしたと?」
「あはははは、そんなわけないっっすいませんでしたぁぁぁぁっ!!」
美琴の目が笑っていないのを確認すると、上条はベッドから飛び降りそのまま土下座に入る。
「…………んのよ」
「はい?」
「な、なんで謝んのって言ってんのよ」
「もしもし、美琴さん?」
上条が顔を上げると、美琴はばっと身体を背ける。耳や首の後ろまで真っ赤だ。
「えー、美琴……確認していいか?」
「なによ」
「美琴は…………キス、されたかったってことでおーけー?」
「っ!!」
答えは返ってこない。上条はその美琴の反応を『肯定』ととり、背を向けている美琴の隣に座る。
「美琴、こっち向いてくれ」
「……んっ!?」
上条は美琴が顔を向けた瞬間に、その唇を奪い、勢いよく離れる。
「っっっ!!!」
美琴は声にならない声をあげて、バスルームに駆けて行った。
上条は美琴のいなくなったベッドで横になっていた。
ベッドに残る残り香と、バスルームから聞こえるシャワーの音で上条は心臓はバクバクとしている。
(この展開はやばいんじゃないですか。大丈夫か、俺?)
上条はさっきのキスを思い出す。一瞬触れたか触れないかのようなものだったが、その行為は上条の心に大きく響いた。
正直のところ、上条は美琴との『恋人関係』というものを良く分かっていなかった。
それが今日一日、いや、今夜だけで一気に意識してしまった。
ついさっき必死に防衛した理性にも、鉄壁と自負していたつもりだった。
鉄壁の防波堤を築いていたつもりだったが、押し寄せる波はその防波堤の高さを遥かに超える大波だったのだ。
残る最終防衛ラインを守りきることを、上条はより一層心に誓うのだった。
「とうまー、上がったわよ―」
下着にワイシャツ一枚で出てきたように見えた美琴に心臓を抉られかけ、上条は大きく息を吸う。
今誓ったところなのに揺らいでいくよわよわしい信念に呆れつつ、上条は美琴を見てしまう。
(なんだ、短パンは装備してんのかよ………って、オイ!)
上条は明らかに残念に思ってしまった自分に焦る。これでは信念が倒壊するのは案外早いかもしれない。
「なに顔赤くしてんのよ?もしかして、美琴さんのセクシーな姿に照れてんの?」
「からかってんのかよ?」
「はいはい、ごめんね。パジャマがないから代わりに着ただけよ。アンタのだけど、良かったわよね?」
異議は認めませんと顔に書いておいて何を反論しろというのか。上条は何も言わない代わりに、わざとらしく溜息をついた。
「ったく、男モノのワイシャツ着て寝るだなんて。どこの教科書に載ってんだよ」
上条は頭を掻きながら文句を言ってみる。肝心の美琴は気にもしてないようだ。
(まてよ)
上条のワイシャツは2枚である。学ランの下に着用することが推奨されている制服の一部なのだが、推奨だけでは誰も守らない。
みんな学ランの下は思い思いのシャツを着ている。ワイシャツに袖を通すのは偶にだ。
美琴が着ている者は26日の補習出来て行こうかと思って用意しておいたものだ。
となれば、どうするか。補習は普通のシャツを着て行くか……それとも。
洗濯し直せばいいのだが、美琴の着たワイシャツの魅力に飲まれる上条にとっては論外だ。
(おとこのこだもの。とうま………なんてな)
怪しい悩みの間、上条は怪しい笑みを浮かべていたのだが、本人は気付いていない。怪訝な顔で美琴が見ていることも。
置いてかれた美琴はベッドの上で胡坐をかいている上条の近くまで来ると、その胡坐の上に座り体重を預ける。
急に美琴の匂いを感じた上条はなんとか現実に帰ってくるが、今度は顔のすぐ前にシャンプーの香りだ。
「みみみみみ、美琴?」
「ん~なぁに?」
美琴は心地よさそうに喉を鳴らす。上条はそんな甘える美琴に焦っていた。
「お前って、こんなキャラだっけ?」
「別にいいでしょ?ほんとは昨日の夜にしたかったんだけど、邪魔されちゃったしね。いろいろと」
上条は昨日の事を思い出す。
(そう言えば、突然現れた白井達に邪魔されたんだっけか)
上条と美琴の唇が合わさる瞬間に現れたお邪魔虫達によって有耶無耶になっていた。
「だぁから、もう一回」
「はぁ?」
「もう一回して、って言ってんの。さっきは一瞬で分かんなかったし」
「いやいや、そんな意識してなんて無理ですよ。さっきは勢いでできましたけど」
上条はバタバタと暴れて抗議する。さっきは不意打ち気味だからできた。面と向かってなんて、出来るわけはない。
「なるほど、アンタは勢いで女の子とキスしちゃうわけ?こりゃインデックスの言ってた事も分かるわ」
美琴が敵を見るような目で見てくるのに耐えられず、上条は話を逸らそうと頭を回す。
「い、インデックスがなんて言ってたって?」
「はぁ、彼女の前で別の女の話ねぇ……やっぱり、インデックスの言う通りだわ」
流石に一緒に住んでただけあるわ、と美琴はインデックスに感心しつつ、その『言葉』言う。
「『とうまはいつまでたってもとうまなんだよ』だってさ。言いえて妙よね」
頷いて感心している美琴を見て、上条は涙するのみだった。
ベッドに残る残り香と、バスルームから聞こえるシャワーの音で上条は心臓はバクバクとしている。
(この展開はやばいんじゃないですか。大丈夫か、俺?)
上条はさっきのキスを思い出す。一瞬触れたか触れないかのようなものだったが、その行為は上条の心に大きく響いた。
正直のところ、上条は美琴との『恋人関係』というものを良く分かっていなかった。
それが今日一日、いや、今夜だけで一気に意識してしまった。
ついさっき必死に防衛した理性にも、鉄壁と自負していたつもりだった。
鉄壁の防波堤を築いていたつもりだったが、押し寄せる波はその防波堤の高さを遥かに超える大波だったのだ。
残る最終防衛ラインを守りきることを、上条はより一層心に誓うのだった。
「とうまー、上がったわよ―」
下着にワイシャツ一枚で出てきたように見えた美琴に心臓を抉られかけ、上条は大きく息を吸う。
今誓ったところなのに揺らいでいくよわよわしい信念に呆れつつ、上条は美琴を見てしまう。
(なんだ、短パンは装備してんのかよ………って、オイ!)
上条は明らかに残念に思ってしまった自分に焦る。これでは信念が倒壊するのは案外早いかもしれない。
「なに顔赤くしてんのよ?もしかして、美琴さんのセクシーな姿に照れてんの?」
「からかってんのかよ?」
「はいはい、ごめんね。パジャマがないから代わりに着ただけよ。アンタのだけど、良かったわよね?」
異議は認めませんと顔に書いておいて何を反論しろというのか。上条は何も言わない代わりに、わざとらしく溜息をついた。
「ったく、男モノのワイシャツ着て寝るだなんて。どこの教科書に載ってんだよ」
上条は頭を掻きながら文句を言ってみる。肝心の美琴は気にもしてないようだ。
(まてよ)
上条のワイシャツは2枚である。学ランの下に着用することが推奨されている制服の一部なのだが、推奨だけでは誰も守らない。
みんな学ランの下は思い思いのシャツを着ている。ワイシャツに袖を通すのは偶にだ。
美琴が着ている者は26日の補習出来て行こうかと思って用意しておいたものだ。
となれば、どうするか。補習は普通のシャツを着て行くか……それとも。
洗濯し直せばいいのだが、美琴の着たワイシャツの魅力に飲まれる上条にとっては論外だ。
(おとこのこだもの。とうま………なんてな)
怪しい悩みの間、上条は怪しい笑みを浮かべていたのだが、本人は気付いていない。怪訝な顔で美琴が見ていることも。
置いてかれた美琴はベッドの上で胡坐をかいている上条の近くまで来ると、その胡坐の上に座り体重を預ける。
急に美琴の匂いを感じた上条はなんとか現実に帰ってくるが、今度は顔のすぐ前にシャンプーの香りだ。
「みみみみみ、美琴?」
「ん~なぁに?」
美琴は心地よさそうに喉を鳴らす。上条はそんな甘える美琴に焦っていた。
「お前って、こんなキャラだっけ?」
「別にいいでしょ?ほんとは昨日の夜にしたかったんだけど、邪魔されちゃったしね。いろいろと」
上条は昨日の事を思い出す。
(そう言えば、突然現れた白井達に邪魔されたんだっけか)
上条と美琴の唇が合わさる瞬間に現れたお邪魔虫達によって有耶無耶になっていた。
「だぁから、もう一回」
「はぁ?」
「もう一回して、って言ってんの。さっきは一瞬で分かんなかったし」
「いやいや、そんな意識してなんて無理ですよ。さっきは勢いでできましたけど」
上条はバタバタと暴れて抗議する。さっきは不意打ち気味だからできた。面と向かってなんて、出来るわけはない。
「なるほど、アンタは勢いで女の子とキスしちゃうわけ?こりゃインデックスの言ってた事も分かるわ」
美琴が敵を見るような目で見てくるのに耐えられず、上条は話を逸らそうと頭を回す。
「い、インデックスがなんて言ってたって?」
「はぁ、彼女の前で別の女の話ねぇ……やっぱり、インデックスの言う通りだわ」
流石に一緒に住んでただけあるわ、と美琴はインデックスに感心しつつ、その『言葉』言う。
「『とうまはいつまでたってもとうまなんだよ』だってさ。言いえて妙よね」
頷いて感心している美琴を見て、上条は涙するのみだった。
「ほら、いつまでも泣いてないで」
美琴は上条から下りると、背中をぽんぽんと叩く。
「ううう……上条さんの心はもうボロボロですよ」
「じゃぁ、私が癒してあげるから」
いいこいいこ、と言いながら美琴は上条の頭を撫でる。
「おい、美琴。馬鹿にしてんのか?」
「顔赤くしながら言っても説得力無いわよ」
美琴の指摘通り、上条の顔は真っ赤である。普段はしている側である上条にとって、されるのは気恥かしいものだった。
「すいません、許して下さい」
「話は変わるけど、私の言う通りにするって言ったわよね?」
「…………何が望みだ?」
上条は美琴にむすっとした顔で尋ねる。美琴はそんな上条をいじるのが楽しいのか、にこにこしている。
「だから………もう一回、キス………して?」
自分で言っておいてほんのりと頬を染める。
(んんああぁっ!?)
しかし、そんな恥ずかしげな美琴の仕草は、もはや美琴専用になった上条のストライクゾーンを的確に突く。
「あぁ、みみ美琴さん?」
「アンタ、なんでそんな顔赤くしてんのよっ!そもそも女の子に言わせるような事じゃないでしょうが、このばか!」
「ばかって……仕方ねぇだろうが!お前が可愛すぎるのが悪ぃんだよ!ストライクど真ん中の表情しやがって」
「なんで、キレてんのよって、ドサクサにまぎれて凄いこと言うなぁぁぁっっ」
「やめろぉぉぉぉっ!!」
びりびりっ、飛び散る電気を右手で打ち消し、上条は美琴の頭に右手を置く。
運動をしたわけでもないのにお互いに肩で息をしている。上条はヒートアップしすぎて黒歴史にしたいような事を言っていたが気にしないことにした。
「………目、閉じろよ」
上条は顔を背け、美琴の目を見ずに言う。美琴は頷くとぐっと目を閉じる。
(力入れすぎだろ)
すっというより、ぎゅぅぅぅっと目を閉じている美琴の両頬に手をやり、少し上に向ける。
「行くぞ」
上条はゆっくりと顔を近づける。その距離がゼロになり、しばらく動かなくなる。
「んっ……」
唇が離れると、美琴の口から吐息が漏れる。その目は熱っぽく潤んでいた。
「………もう1回」
それを合図にしたかのように、もう1度口づける。甘い空気が部屋に漂う。
「美琴………」
上条の呼びかけに応じるように、美琴はその胸に飛び込む。上条の腕がその身体に回される。
「当麻…………だいすき」
「ありがとう、美琴」
永遠とも言える時間が過ぎた。
美琴は上条から下りると、背中をぽんぽんと叩く。
「ううう……上条さんの心はもうボロボロですよ」
「じゃぁ、私が癒してあげるから」
いいこいいこ、と言いながら美琴は上条の頭を撫でる。
「おい、美琴。馬鹿にしてんのか?」
「顔赤くしながら言っても説得力無いわよ」
美琴の指摘通り、上条の顔は真っ赤である。普段はしている側である上条にとって、されるのは気恥かしいものだった。
「すいません、許して下さい」
「話は変わるけど、私の言う通りにするって言ったわよね?」
「…………何が望みだ?」
上条は美琴にむすっとした顔で尋ねる。美琴はそんな上条をいじるのが楽しいのか、にこにこしている。
「だから………もう一回、キス………して?」
自分で言っておいてほんのりと頬を染める。
(んんああぁっ!?)
しかし、そんな恥ずかしげな美琴の仕草は、もはや美琴専用になった上条のストライクゾーンを的確に突く。
「あぁ、みみ美琴さん?」
「アンタ、なんでそんな顔赤くしてんのよっ!そもそも女の子に言わせるような事じゃないでしょうが、このばか!」
「ばかって……仕方ねぇだろうが!お前が可愛すぎるのが悪ぃんだよ!ストライクど真ん中の表情しやがって」
「なんで、キレてんのよって、ドサクサにまぎれて凄いこと言うなぁぁぁっっ」
「やめろぉぉぉぉっ!!」
びりびりっ、飛び散る電気を右手で打ち消し、上条は美琴の頭に右手を置く。
運動をしたわけでもないのにお互いに肩で息をしている。上条はヒートアップしすぎて黒歴史にしたいような事を言っていたが気にしないことにした。
「………目、閉じろよ」
上条は顔を背け、美琴の目を見ずに言う。美琴は頷くとぐっと目を閉じる。
(力入れすぎだろ)
すっというより、ぎゅぅぅぅっと目を閉じている美琴の両頬に手をやり、少し上に向ける。
「行くぞ」
上条はゆっくりと顔を近づける。その距離がゼロになり、しばらく動かなくなる。
「んっ……」
唇が離れると、美琴の口から吐息が漏れる。その目は熱っぽく潤んでいた。
「………もう1回」
それを合図にしたかのように、もう1度口づける。甘い空気が部屋に漂う。
「美琴………」
上条の呼びかけに応じるように、美琴はその胸に飛び込む。上条の腕がその身体に回される。
「当麻…………だいすき」
「ありがとう、美琴」
永遠とも言える時間が過ぎた。
カーテンの隙間から入る光で、美琴は目を覚ました。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。外からは爽やかな鳥の声まで聞こえる。
ぼやけた視界がはっきりとしてくる。美琴は身体の上に重いものが乗っている事に気付いた。
「にょわっ!?」
目の前に上条の寝顔。どうみても同じベッドで寝ている。
美琴の頭は一気に覚醒し、慌てて自分の姿を確認する。幸いにも服は着ていた。『てへっ♪』みたいな事は起こっていないようだ。
美琴は身体の上に乗っているのが上条の腕であると確認すると、より密着するように身体を摺り寄せる。
上条の胸元にすっぽりと収まるようにポジションをとる。
(もう少し、いいよね)
美琴はおずおずと上条の背に手を回しぎゅっと頬を寄せ、目を閉じる。
この瞬間の幸せを噛みしめるように。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。外からは爽やかな鳥の声まで聞こえる。
ぼやけた視界がはっきりとしてくる。美琴は身体の上に重いものが乗っている事に気付いた。
「にょわっ!?」
目の前に上条の寝顔。どうみても同じベッドで寝ている。
美琴の頭は一気に覚醒し、慌てて自分の姿を確認する。幸いにも服は着ていた。『てへっ♪』みたいな事は起こっていないようだ。
美琴は身体の上に乗っているのが上条の腕であると確認すると、より密着するように身体を摺り寄せる。
上条の胸元にすっぽりと収まるようにポジションをとる。
(もう少し、いいよね)
美琴はおずおずと上条の背に手を回しぎゅっと頬を寄せ、目を閉じる。
この瞬間の幸せを噛みしめるように。
どれくらいそうしていただろうか。
ガチャガチャと玄関で鍵を開ける音がし、誰かが部屋に入ってくる。
「んっ、何だ?」
上条もその音で目覚めたようで、眠そうに眼をこすっている。美琴はむくりと身体を起こすと侵入者のやってくる方向に目をやる。
ぱたぱたとした可愛らしい足音と一緒に現れたのは、インデックスだった。
「とうま、みこと、そろそ…………」
「…………」
美琴とインデックスの目が合い、お互いに固まる。何も言えない均衡状態が重い空気となって部屋に満ちる。
「…………お、おはようインデックス」
「……みこと、おはようなんだよ」
身体は指一本動かないが、口だけは妙になめらかに動いた。
「んっ………インデックス……もっと静かにっ!?」
上条は身を起こすと隣で顔を赤くしている美琴に目をやる。それからゆっくりと首を回し、同じく顔を赤くしているインデックスに目をやる。
インデックスはぷるぷると震えていた。心なしか涙目にも見える。
「やっぱりとうまはとうまなんだね」
「インデックスさん、どうしたんでせうか?」
「いつまでたってもとうまはとうまなんだね!!」
「なんか昨日も聞いたような気がしまぁぁぁぁっ!!」
上条が言いきる前にインデックスはその頭にかじりつき、美琴は顔を染めて固まったままで、噛まれた上条は『不幸だぁぁ』と叫んでいた。
上条当麻の朝は、今日も平和だ。
ガチャガチャと玄関で鍵を開ける音がし、誰かが部屋に入ってくる。
「んっ、何だ?」
上条もその音で目覚めたようで、眠そうに眼をこすっている。美琴はむくりと身体を起こすと侵入者のやってくる方向に目をやる。
ぱたぱたとした可愛らしい足音と一緒に現れたのは、インデックスだった。
「とうま、みこと、そろそ…………」
「…………」
美琴とインデックスの目が合い、お互いに固まる。何も言えない均衡状態が重い空気となって部屋に満ちる。
「…………お、おはようインデックス」
「……みこと、おはようなんだよ」
身体は指一本動かないが、口だけは妙になめらかに動いた。
「んっ………インデックス……もっと静かにっ!?」
上条は身を起こすと隣で顔を赤くしている美琴に目をやる。それからゆっくりと首を回し、同じく顔を赤くしているインデックスに目をやる。
インデックスはぷるぷると震えていた。心なしか涙目にも見える。
「やっぱりとうまはとうまなんだね」
「インデックスさん、どうしたんでせうか?」
「いつまでたってもとうまはとうまなんだね!!」
「なんか昨日も聞いたような気がしまぁぁぁぁっ!!」
上条が言いきる前にインデックスはその頭にかじりつき、美琴は顔を染めて固まったままで、噛まれた上条は『不幸だぁぁ』と叫んでいた。
上条当麻の朝は、今日も平和だ。