とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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小ネタ 生と死の間で 2 ~当麻~



上条当麻は不幸だった、いつものように。
白いシスターに噛みつかれ、クラスメイトに殴られ、補習で干されるといういつものメニューを消化しきって満身創痍の家路の途中、いつもと違うことが起きた。
不意に後ろから電撃のはじける音がした。振り向き右手をかざそうと思う間もなく、上条の意識は闇に落ちた。




「ここは……?」
何やら遠くで声が聞こえる。誰の声だろう。
「……っと、……た!…っかり……さい!」
ああ、御坂か、何やら必死だな。そうか、電撃が当たったからか。よし、起きて返事を……

そう思った時、上条は自分の体が動かないことに気付いた。目も開けられない。声も出せない。意識もぼんやりとした闇の中だ。
「俺、もしかして死んだ?」




病院に運ばれ、処置されるらしい。顔なじみのあの医者だ。最善は尽くすだろう。
そんな、どこか他人事のように考えている自分に驚きつつ、もう一度上条は闇の中に落ちて行った。



それから、どれくらい時が経っただろう、どうやら助かったらしい。坊さんは訪ねてきてないもんな。
それでも、体は動かず、暗い世界の中、独りでいた。
「独りって、さみしいんだな」
そう漏らしても、誰も聞いてくれるわけでもない。
そんななか、美琴が訪ねてきているときは、唯一、上条が孤独でない時間だった。
彼女が語ることは、学校での出来事、怖い寮監の話、変態ルームメイトの愚痴など、とりとめのないものだった。
それでも、少年の心は救われた。

だが、徐々に美琴の声が弱弱しくなっていった。
そんな美琴の声を聞くのが辛くて、何もできない自分に腹が立った。そして寂しかった。真っ暗な世界に一人取り残されるようで。

今回も、美琴が話を始めた。うれしい反面、辛くもあった。
だが、今回は違った。弱弱しくも思いのこもった言葉だった。




「よく考えてみたら、まだアンタに謝ってなかったわね。本当にゴメン。
これまでは『鈍感なアンタのせいよ』とか何とか言ってごまかしていたけど、それは違うわよね、悪いのは私。
……ほんとはね、アンタにかまってほしかったの。アンタと一緒にいたかったの。でもアンタを前にすると何を話せばいいかわからなくて。
今考えるとバカな話よね、素直に言えばよかったのに。でも、アンタが断ったらどうしようとか、くだらないこと考えて怖くなって身動きとれなくなってた。
そう、私は……アンタが好きなのよ、どうしようもないくらい。だからさ、だから……早く、目を覚ましてよ……」



上条の胸に熱いものが流れ込んできた。その時、右手に微かな、確かなぬくもりを感じた。





あいつはこんなに正直に向き合ってくれた。こんなに温かい言葉をくれた。あいつの望みをかなえたい。あいつと一緒にいたい。


心の底から願った時、右手のぬくもりが一層強くなった。
独りのさみしさから救ってくれた、そしてこんな自分を好きになってくれた。そんなあいつのいるところへ帰りたい。

そう願った時、上条の意識は暗い世界から飛び出した。



久しぶりに見た明るい世界。見慣れた病室もなんだか新鮮だ。
そしてそんな上条の前には、涙で顔をぐしゃぐしゃにした少女がいた。
必死に伝えようとする彼女は、とても痛々しくて。

「大丈夫、全部聞いてた」


気づいたらこう言っていた。

「俺さ、今まで真っ暗な世界にいる悪夢みたいなもの見てたんだ。いや、夢……じゃないな、外の声とか、ちょっとは聞こえてたし。
そこで俺はずっとひとりきりでさ、寂しかった。
御坂は何回もここにきて俺に話をしてくれたよな。あれ、すっげえ嬉しかったんだぞ。その時間だけは、なんつーか、あったかかった。独りじゃないって思えた。
今さっきだって、お前の声はちゃんと届いてたんだ。だからもういい。ありがとな、美琴」


そう言い終わると、より一層激しく泣きじゃくる美琴を抱き寄せた。腕の中にはさっきより確かで強いぬくもりがあった。


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