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伝説
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匿名ユーザー
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伝説 04/04/14
キャッチセールスに捕まった後、根性で粘り勝ちした女の伝説を聞いたことがある。
女が女に街角で声を掛けられてまず喫茶店に行き、その後品物を見るだけ見ますかとの言葉に誘い込まれると、手前よりも二階級ほど柄の悪そうな男に囲まれて契約を強要されたという。美容に関する品物で明らかに騙されたことが判った時は既に逃げ道はなく、声を掛けてきたのが同性の女であるというだけで信用した己を悔いたが、とりあえずここを契約せずに切り抜けねばならないと決意した。
机の向こうに座っているのは既に触手の女ではなくて眼鏡を掛けたちんちくりんである。そこに捕まっているのは自分一人だけで何をされるかわからないという恐怖を無理矢理忘れてまずは説明を聞く素振りで退却方法を検討する。一通り終わったとこで「サインしてください」と言われた瞬間、契約書を見せてくださいと頼み、「じゃあここにサインを」と言われると「じゃ今から契約書読みます、お茶のお代わり下さい」
こうして契約書をじっくり読み始めたらしい。怪しい契約書の慣例として細か過ぎる字がびっしり四枚に渡って書いてあり、ここで粘ろうと決めた彼女はゆっくり黙読する。「普通の事しか書いていませんよ」「さっき説明したじゃないですか」「サインしたらそれで終わりだから」これらの言葉に対して「じっくり読まれると都合が悪いんですか?」と切り返し、監視付きのトイレに行き、お茶を要求し、一時間半掛かって全て読んだという。気付けば捕獲された女がもう一人いて囲まれていたのでそっと帰ろうとしたら当然止められて「読んだでしょ。じゃサインして」
ここからが凄い。「読んだけど意味がよく判らないので契約しません」ときっぱり言い切ると、当然どこが判らないのか尋ねてくる。このままではやはり帰してくれそうもないと悟った彼女は「じゃ最初から教えてください」と条の細目一行づつ読み上げていったらしい。
しかしそれだけでは全て終わると納得したことにされてしまうから、途中で次の作戦に出たという。
・少し難しめの漢字は全て読みを聞く
・その言葉の定義を質問する
・その定義に対して討論する ・約定の矛盾をねちねち責める
契約書の文章に対して一字一句検討をしていたら日が暮れるのだが、正にそれが狙いであったらしい。携帯電話はハンドバックごと「お預かり」と称する質に取られているから頭の悪さを装って契約書を元に徹底抗戦を始めたわけだ。ちんちくりんは途中で諦めて上役らしき禿と交代し、更に定義に対する討論は深まりを見せる。その定義が矛盾していたり不明確であればどこまでも穿り返したという。
数時間後、何度も論破されて修正だらけながらもまだ二枚目の契約書を見ながら、禿が何気なく「契約する気ある?」と呟き、つられて「ないっす」と口走ってしまうと、「だよね」と疲労の色を見せた禿が溜息を吐き、「あのね、これは営業妨害ですよ」と力なく言うところへ「じゃ帰りますよ」と答えると、「ちょっと待って。うちで働かない?」
契約書の誤字脱字の指摘、抜け道の検討など、大層役に立ったらしく、論争技術に敬服したことも含めてのスカウトを丁重に断り、捕まって八時間後に解放された彼女は、無職と言った言葉に嘘はないが、さる企業の秘書を辞めて結婚して離婚し、現在三度目の行政書士試験に挑戦中だという。
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