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鹿煎餅

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鹿煎餅 2003/04/21

  いいか、よく聞けよ。俺は引越が多いから出身地がどこだと明言出来ないのだが、住んでいた所は全て愛着がある。里心はないが愛着はある。奈良に住んでいたこともある。別に信用しなくてもよいが、いいか、よく聞けよ。「鹿煎餅って本当に美味しいんですか?名物に美味いものなしって言いますよね」いいか、よく聞けよ。

  鹿煎餅は鹿が喰うのだ。もう一度言うぞ。鹿煎餅は鹿が喰うのだ。

  観光地でよくあるだろう。「鳩の餌百円」「鯉の餌百円」それと同じで「鹿煎餅百円」なのだ。奈良の名物と誰に吹き込まれたか知らないが、一人二人のお馬鹿なら「そうそうあれ美味いで。有名やけどなかなか売ってなくてな、知っとる?あれ鹿の角擂り潰した粉混ぜてあってな、昔からバイアグラ並の人気やねん。買うた人は絶対そうは言わんけどな。奈良土産言うたらあれしかないで」と言いたくなるが、「奈良行ったことないけど鹿煎餅って有名ですよね。どうなんですか?」と鹿煎餅の実体を知らない人間が多過ぎる。真実を告げよう。

  よろしいか。鹿煎餅は鹿が喰うのだ。

  奈良公園には鹿がうろうろしている。そして鹿煎餅売りのおばちゃんもうろうろしている。そのおばちゃんから鹿煎餅をを百円で買う。直径およそ10 センチ厚さ2ミリ程の円盤で、まあコースターのようなものだ。それが十枚で百円だ。十枚はセロテープ幅の薄い紙で十字に止?゚てある。恐ろしく軽い。色は干涸びた豆腐のような感じだ。

  その鹿煎餅の紙を外していると鹿がわらわら寄って来る。ついでに言うと「子鹿子鹿!バンビだ!あの子にあげたい!」と考えても無駄だ。子鹿はまず寄って来ない。警戒しているのか成体に気後れしているのか知らないが、大抵人に馴れ、鹿煎餅に馴れている成体に取り囲まれてしまうので子鹿にやるのは無理だ。こちらから近付いても逃げるし、逃げなくても成体が割り込んでくる。成体と言っても角で突かれる恐れはない。なお一応言っておくが雌には角がない。

  鹿煎餅を寄って来る鹿に差し出すともしゃもしゃ食べる。あんな最中の皮みたいな物を食べ続けて喉が渇かないのか不思議に思うが、草よりは美味いのだろう。鹿煎餅を全てやってしまうとさっと離れてゆく。それはもう気持ちよく離れてゆく。鳩ならば未練がましくわざとらしく近くを歩き回る奴もいるが、鹿はもう少し賢い。もうないと判断すると素早く散会してしまう。全部やった後、実はまだ手に鹿煎餅を止めていた薄い紙が残っている筈だ。それを鹿に差し出してみようか。

  食べるぞ。お前は山羊か。鹿の誇りはないのか。紙だぞ。紙なんだ。これは紙で、君は鹿だ。喰うのか。いいのか。うまいか?一応やってはいけないことになっているが、大抵食べさせているようだ。喰うなら仕方ない。

  鹿煎餅の味か?味はだな、ソフトクリームのコーンより薄味だったな。

 
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