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サクラ
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匿名ユーザー
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サクラ 04/06/25
「サクラ」のことだ。
露店詐欺技術のひとつである「サクラ」とは、胡散臭い商品を売りつける為に、集団心理を利用するべく客に成りきった売り手側の仲間のことであり、彼等が盛り上がって買うと本当の客であるカモも騙され釣られて買ってしまうもので、やがて客が冷静を取り戻した頃サクラは既に遁走しており、また次のカモを絡め取る機会を伺いつつ、買った筈の商品を補充と称して売り場に追加する。しかしこれはよほど儲けが出る商品でなければサクラに対する報酬が賄えない。
この「サクラ」の語源をよく知らないままに「一瞬咲いてぱっと散る」とはなかなかの言い回しだ思っていた。それがどうだ。「桜を只で見る」から「芝居の無料見物人」やがて「客の振りした詐欺従犯」となったらしい。当然「目的を達してぱっと散る」の意味も兼ねてあることだろうが、こちらが主ではなかったことに驚いた。
害のないサクラとしてサーカスを思い出す。バイクの檻があったから、もしかすると木下だったかもしれない。バイクで球形の檻の中を駆け巡るという観ている方が目の廻るもの、球乗りお手玉ピエロ、フラフープを逆回転させて目の前の箱に転がし込むという明らかに修行中のもの、空中ブランコ、一輪車の綱渡りは暗い中でもタイヤを外してホイールだけというのは当時の頭では歩くより簡単に見え、そのまま目隠しと盛り上げつつもそれは客から演者の目が透けて見えているから実は隠されていないことを知った。象がいたことも覚えている。
幾つかの演し物の中で、トランポリンを使ったものがあった。三人が肩の上肩の上と縦に直立するなどの後、進行役がトランポリンに乗ってみたい人を募集するわけだ。当然子供が選ばれるわけで、子供であった手前は後ろの方に座っていたから必死に手を挙げても選ばれることはなかった。二人目が終わる頃には次の演し物の準備も整っていて、「じゃあ、最後にあと一人だけ」の声に飛び上がりながら絶叫していると、進行役がこちらを向くではないか。「はーい、じゃあ、そこの、おとうさん!」小屋を満たしていた子供達の絶叫が一瞬で静寂に変わり、手前の左斜め後ろにいた誰とも知らぬ禿げた小太りのおっさんが舞台へ駆け上った。
トランポリンで何度か跳ねて、滅茶苦茶な動きであまりの下手さに場内は爆笑し、「ぽーん、ぽーん、ずぼ」最後はスプリングの間に足を突っ込んでしまって引っ張りあげられ、とどめの笑いを与えた。それが終わるとおっさんは戻って来なかった。そして次の演し物が始まり、やがて全ての演し物が終わった。サーカスを目の前で見るのはその時が初めてであったから、もう一回見たいと粘り、続いてもう一度最初から見た。トランポリンに乗ってみたかったことも理由の一つだと思う。
やがて同じ演し物が進み、トランポリンまで来て、それでもやっぱり選ばれず、三人目には「はーい、じゃあ、そこの、おとうさん!」向こうの客席から駆け下りてくるのは先刻のおっさんではないか。先刻と全く同じ動きで場内を盛り上げ、ここで降りようとして足が刺さる・・・と思ったところできちんと足が刺さり、全ては計算された動きであることを子供心に理解し、場内の歓声をよそに「みんなは騙されてる」と考えていた。
あれがサクラの概念を知った最初であった。それを六歳で知るべき事かどうかは判断出来ないが、少なくとも「知らなければよかった」とは思わず「知ってよかった」と思っている。トランポリンへ乗る中に選ばれなかったことは計算通りのことだから納得しつつ、それでもやっぱりあの時乗ってみたかったよ。
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