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毛虫

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毛虫 04/09/13

  桜の花見と言っても通常桜など誰一人鑑賞せずに、ただひたすら酔分の摂取に勤しんでいる。

  それでも少し強めの風で散る花弁が渦でも巻けば一瞬手を止めることもあるだろうが、まず風流とは程遠い。そもそも桜は一斉に咲いてすぐに散るところから、その儚い煌きを愛でることに対して持つ少しばかりの感傷もさして悪い気分ではない。

  しかしながら散った後に葉桜と称される威風払う佇まいは、ほぼ存在を忘れられている。桜と言えば花であり、葉と言えば桜餅で見たことがあるにも関わらず素通りする有様だ。

  素通りだけならまだよいが、葉桜は嫌われることもある。花が散り、葉が拡がる頃になれば毛虫が発生するわけだ。この毛虫という奴やがては蛾となり更に嫌悪される。毒毛を持つ奴を掴んで痒みに舞った経験を持つならば毛虫に対しての憎悪は生涯消えない。

  かつて住んだ借家の庭に樹齢約三十年の妙に高い桜があった。低いところの枝は全て払われたからだろう、満開為った暁には遠く茸の如き地標となっていたが、庭からでは首を直角に仰がねばならず、しかし散った花弁はあっさり庭を越えて道に積もり、雨が降ったら流してくれるから掃除は楽なのだがと思う程度の扱いで、せっかく庭に大きな桜があっても風流とは無縁であった。散った花弁が目立たなくなると葉桜となり、庭には毛虫がぽとぽと落ちてくる。葉は上の方で茂っているので毛虫を叩き落すなり焼くなりの処置は不可能で、狭すぎるわけではない庭に道を隔てた田畑から蛇がやってくるので某かの鳥は巣を作ることもなく、次から次へと這い回る毛虫から導き出される感想は、「桜なんて見るだけで結構」といったものであった。

  そのせいか青々と茂る葉桜を見る度にどれだけの薬を散布されたのかを想像して気分が悪くなる。毛虫が如何に唾棄すべき存在であってもそれは命の秤だ。炭鉱の金糸雀が危険を知らせる物差として理解されているのだから、それに類した意識を持って、毛虫一匹寄り付かない葉桜は余りにも悲しいではないか。

 
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