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開け

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開け 04/08/15

  硝子の扉や仕切には時折金属製オセロ駒サイズの物体が張り付いている。

  何故張り付いているのかと言えば、ここには硝子がありますよとの目印らしい。綺麗に磨けば磨くほど透き通り、空間を拡く感じさせる為に選ばれた筈の硝子に無骨な金具を貼り付けなければならないとは皮肉なものだ。硝子の自動ドアにもよく張り付いている。表と裏で微妙にずれているのがまた気になる。

  ところで自動で開く扉にあっては、足踏加圧式・赤外線感知式ともに時折鈍い奴がいるもので、自動で開く筈の扉の前に呆然と佇む時の侘しさと焦りは悲しみを呼ぶ。それでも開かない事には進めないから軽やかな足捌きと胡乱な手つきで踊る羽目になる。誰に見られることのない状況であっても恥かしい。

  従ってこの状況では落ち着いた対応が望ましい。まずは立ち止まって加圧式か赤外線かを冷静に見定め、加圧式ならば見苦しく飛び跳ねたりせず重心をさりげなく移して自由になった足でそのあたりを足首の捻りだけで探る。誰かにそれを見られていた時は気拙いので、平然とした顔で足を僅かに動かしつつ、大袈裟に指をぱちりと鳴らす。呼吸が合えば指を鳴らした瞬間に扉が開き、醜態を晒さずに済む。頭上にある赤外線感知の場合は鳴らす指を感知させるように動かせばよいのであって、指を鳴らして扉を開かせるこの行為は不思議に好印象を与える。

  問題は加圧も赤外線感知も非常に鈍い場合だ。何度か、せいぜい三度までだが指を鳴らし続けても静まり返っていることは結構あるもので、周囲の観衆も静まり固唾を飲んでいる。ここでまた見苦しく飛んだり跳ねたり扉の向こうに知り合いなど居ないのに手を振ったりなどの行為に走りたくなるが、更に堪えて気障を貫く。

  すなわち今度は指の関節をぺきぱきぽきぱきと鳴らすのだ。当然鳴らしながら加圧式ならば足で敏感な場所を探っているし、赤外線ならば関節を鳴らしている両手ごと感知させようと少し大きな身振りになっている。しかしそこまですれば大抵は開くツボを見つけることが出来るので、何じゃこら貴様勝負したろやないけの雰囲気を漂わせつつ関節をぺきぱき鳴らした直後に自動ドアがうよーんと開く。すれば観衆は憐憫の嘲笑ではなくて感心の微笑みで見送ってくれるのだ。唇の端に笑みを浮かべ、サングラスをくいを上げて再び歩き出すと気分はもう殺し屋だ。

  稀に赤外線感知式の鈍い奴の、扉に近付き過ぎて感知範囲が自分より背後の空間を対象としている場合もある。何をどうしても完全に無反応であるから焦るわけだが、その疑いがある際は関節を鳴らす際に少々反り返ればよい。鳴る指の関節がなくなったら首関節を鳴らしながら感知範囲を探り、それでも無理なら諦めて格好悪く逃げ出すしかない。
 
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