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紛失
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紛失 04/08/25
眼鏡を紛失したと狼狽える際にまず探すべき場所は、机や棚ではなく、窓枠でもなく、洗面台付近でもなく、まず額に掛かっていないか、次に手に持っていないか、そして実は掛けたまま探しているのではないかと疑うことであり、それを心得ておれば大抵の場合時間の節約が可能だ。
絶望感に包まれたまま「眼鏡あれへん!」と悲痛な叫びをあげる時、ふと見た鏡の中の自分が眼鏡を掛けたままでいた瞬間の照れは、存在の確認からくる安心を割り引いてもなお消えない。それがサングラスであるのに何故掛けたまま探していたのかと自らの間抜けさ加減に愛想を尽かして八つ当たりする先は鏡だ。お前もっと目立つ処に居れよ。
探すのをやめた途端に見つかるのはよくある話ではなく、探すのを諦めて手遅れになり、やがてその前後一切合財を忘れた頃に見つかるのがよくある話だ。「塩あらへんがな」と気付いてはみても、少し探しただけでは見つかるわけもなく、諦めてその場を対処して、新しく塩を入手していつものように置場所を固定する決意をし、そして一切合切を忘れた頃、冷凍庫から先代の塩が発見される。ばたばたしていたから間違えて放り込んだらしい。試しに振ってみると中の塩は頑固な塊となっていてどうにもならない。解凍するのは少し怖いので取り合えずその辺に放置しておく。数日後、白かった塊は一部が透明の結晶へと成長しており、阿呆臭いのでそのまま捨てる。
紛失し易いものは特別に置場所を固定すると紛失率が限界まで下がることになる。しかし幾ら完全を求めても紛失とは人々の営みの中にあり、例えば不覚にも酔ってしまうと置場所に配する行為は省略されるのであり、目が醒めて一通り復活の儀式をこなした後に紛失が認知されるのである。普段から置場所を固定していると、あるべき物がそこに存在しなければ恐慌に陥り、「うおおおおおお。鍵!鍵ないぞ!」と全てのポケットを漁り、周辺を掻き廻し、半泣きで棚などを探り、ついには諦めて予備の複製鍵を出動させる覚悟を決め、複製の更に複製を作る為に着替え肩を落としたまま外に出て、そこで鍵穴に挿さったままの鍵を発見する。
「靴がない!」というのもかなりの衝撃であって、何故靴が玄関に存在しないのかが理解不可能だ。玄関になく、もしかすると外で脱いで入ったのではないかと外を確認してもなく、脱がずに入ってそこらで脱いだのではないかと部屋を隅々まで探してもない。まずは落ち着いて便所にでも入ってゆっくり思い出す努力をしてみようと扉を開ければ何故かそこに在る。
場所を固定することで紛失率を低下させることは相当の効果が見込まれるのだが、同時にそれは探索能力の著しい低下も招くのであって、その線を何処で引くかは個人差があるにしても、まず心掛けておくべきは「物は紛失して当然」という思想である。探し方の手順を確立するか、いつもいつも狼狽えるか、潔く諦めるかの選択をすることになるが、それは紛失した物の価値によって選択されるべきであり、常に同じ対応をしているようでは頭が固い。
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